ギフティングとステルスマーケティングの法律関係

インフルエンサーに商品を無償で提供して、良かったら口コミを書いてもらうという、いわゆる「ギフティング」が、大手企業も取り入れるマーケティング手法として確立されつつあります。

しかし、ギフティングはステルスマーケティングなのではないか、景品表示法や薬機法に反する内容もあるのではないか、多々、問題になりえる手法です。

そこで、ギフティングに関する法律関係について整理してみたいと思います。

目次

ギフティングとは

ある商品や役務について、影響力のあるインフルエンサーに体験してもらい、その感想等をinstagram、twitter、YouTube、TikTokなどのsnsに投稿してもらうことにより、宣伝したい商品や役務の内容を消費者に広く認知してもらい、ひいては販売売上に繋げていくためにとられる手法です。

その多くは商品や役務が無償で提供され、逆に報酬についても無償という形式で行われるものです。

また、いわゆるメガインフルエンサーではなく、フォロワーが1000人から3万人程度のマイクロインフルエンサーを対象として行われることが多いといわれています。

ギフティングが通常の広告と異なる点は以下です。

  • 広告費や報酬がないこと
  • 投稿内容はインフルエンサーに委ねられていること
  • 良い感想が書かれる可能性もあれば、感想を書いてもらえないことや、悪い感想が書かれる可能性もあること

例えば、街頭で無償で試供品が配られているのを目にすることがあると思います。

試供品を受け取った消費者が、SNSでその口コミを書いたとします。

試供品を配った事業者としては、口コミを書いてもらうことを期待して配ったのだとすると、宣伝がうまくいったということになります。

しかし、事業者は、あくまで消費者に試供品を無償で譲渡しただけで、広告に関する契約をしているわけではないので、街頭で無作為に配った消費者が、どんな投稿をするのか、しないのか、良い口コミを書くのか悪い口コミを書くのかということには関与できないのです。

ギフティングはそれに近いものであり、果たしてこれが「広告」といえるのか、というのが問題となります。

広告に該当するとしたら、広告である旨・PR表示をしないとステルスマーケティングだということで社会的に避難されるでしょう。

また、広告に該当するとしたら、掲載面については景品表示法や薬機法・医療法などに留意する必要が出てきます。

広告とは

広告該当性の3要件

広告の定義について、消費者庁や厚生労働省では、以下のように整理されています。

  1. 顧客を誘引する意図があること(商品・役務を宣伝しようとすること)
  2. 事業者名や、商品・役務の特定がされていること
  3. 一般人に向けて公開されるものであること

ギフティングの場合

ギフティングによるSNSへの投稿について、②③の要件を満たすことは明らかです。

問題は、①だということになります。

ポイントは、広告主とインフルエンサーとの間に、広告に関する契約や何らかの合意があるか否か、ということになります。

例えば、口コミを書いてもらうことを条件に無償で商品を提供する、ということであれば、広告に関する合意があるということになります。

そうすると、広告主とインフルエンサーとが共同で商品・役務を宣伝して顧客を誘引しようとする意図があるということになります。

他方で、広告に関する何らの合意がなく、単に広告主からインフルエンサーに商品・役務を無償で譲渡した、という場合は、インフルエンサーは、口コミを書くも書かないも自由、悪い口コミを書いてもOKということになり、広告主とインフルエンサーに共同性がなく、顧客を誘引する意図が認められないということになるでしょう。

では、広告主が、インフルエンサーに対して「よかったら投稿内容にこの文章を入れてください。」「ハッシュタグはこれでお願いします。」というような要望を出す場合はどうでしょうか。

ここでは、景品表示法に関する東京高等裁判所の判例(平成20年5月23日審決取消請求事件)が参考になります。

つまり、景品表示法上の優良誤認表示や有利誤認表示が禁止される「事業者」とは、「表示内容の決定に関与した事業者」をいうとされています。

また、「表示内容の決定に関与した事業者」には以下の3パターンが含まれます。

  1. 自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者
  1. 他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者

→他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了解した事業者

  1. 他の事業者にその決定を委ねた事業者

→自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者

「よかったら投稿内容にこの文章を入れてください。」「ハッシュタグはこれでお願いします。」という広告主の要望にインフルエンサーが応じた時点で、インフルエンサーは上記②に当てはまり、景品表示法の規制の対象となるでしょう。

また、広告主は、上記③に当てはまることになるでしょう。但し、広告主については、インフルエンサーが実際にどのような投稿をするかはコントロールしきれないところがりますので、インフルエンサーに対して警告した等のエビデンスを残しておけば、責任を回避することができる可能性は残ると思います。

投稿内容を指定する場合

「文章はこれでお願いします。」とお願いした内容について、景品表示法や薬機法に違反する内容があったとします。

そうすると、広告主とインフルエンサーは共同して積極的に法律に違反する内容を世に広めたわけで、その責任は問われることになります。

現に、インフルエンサーによるinstagramの投稿内容について、広告主が消費者庁から措置命令を受けた事案は出てきています。

今後はさらに課徴金や刑事罰など厳しい措置が取られる可能性もありますので、投稿内容については十分注意が必要です。

広告に該当しないために

広告に該当しないようにするためには、投稿内容やハッシュタグについての要望は避けて、純然たる口コミに期待して商品を提供するのが良い、ということになります。

ステルスマーケティングになるか、PR表示の必要性

定義

ステルスマーケティングとは、消費者に対して広告であることを表示せず、広告であることを隠す形で商品や役務について宣伝しようとするものです。

現在は法律で規制されていませんが、今後は規制される可能性があります。

また、ステルスマーケティングであることが消費者にバレると社会的に避難を浴びますし、理解力のある消費者は、ステルスマーケティングである疑いのある投稿を信用しなくなってきています。

ギフティングの場合

ギフティングがステルスマーケティングになるのは、広告であるにもかかわらず、投稿内容に広告であることやPR表示等をしない場合です。

広告であるかどうかは、上記で述べた通り、広告主とインフルエンサーとの間に広告に関する合意があるかどうか、口コミを書くか書かないか、投稿内容について裁量があるか、などがポイントになってきます。

結果として、試供品の提供など、ただの無償での商品や役務の提供であり、口コミを書くか書かないか、書くとしても内容が自由ということであれば、それは広告ではなくただの口コミであり、広告であることやPR表示をしなくてもステルスマーケティングには該当しないということになるでしょう。

景品表示法や薬機法、医療法などとの関係

投稿内容を指定する場合

個別のギフティングが広告に該当するかどうかとは別に、景品表示法や薬機法の関係で表示してはいけない内容を、広告主がインフルエンサーに投稿依頼をして、インフルエンサーがこれに応じたとします。

そうすると、少なくとも広告主には景品表示法違反、薬機法違反などで措置命令や課徴金、刑事罰が下される可能性があります。

したがって、広告主は単に無償で商品・役務を提供するにしても、投稿内容について景品表示法や薬機法に違反するような内容を依頼しないように十分注意しましょう。

投稿内容を指定しない場合

投稿内容を指定せず、広告ではなく純然たる口コミではあるけれども、インフルエンサーが任意に投稿した内容が景品表示法や薬機法に違反するという場合、広告主やインフルエンサーに責任は生じるでしょうか。

ポイントは、広告主の故意(=知っていたかどうか)になります。

ギフティングの効果測定のために掲載面をチェックすることは多いと思います。そこで景品表示法や薬機法に違反するような内容を見つけた場合は、インフルエンサーに投稿内容の変更をお願いしましょう。

これに対して、インフルエンサーはというと、商品・役務を無償で提供されただけであり、どんな投稿をするのかは自由ですから、広告主から言われて変更する義務はありません。

したがって、広告主としては、変更をお願いしたけれども変更してもらえなかったという場合でも、他に取り得る措置はないということになります。

広告主としては、行政や警察から指摘を受けた際に、インフルエンサーに変更をお願いしたことを証明できるようにしておくことが重要となってきます。

ギフティングをうまく運用する方法

投稿内容を指定する場合の注意

  • 投稿の依頼時に、景品表示法や薬機法に違反するような内容を投稿しないように、インフルエンサーに注意喚起しましょう。
  • 投稿内容には必ず広告であることを明らかにすること、PR表示等をするようにしましょう。
  • 投稿完了後も、景品表示法や薬機法に違反するような内容がないかチェックをして、問題があれば変更を求めましょう。

投稿内容を指定しない場合

  • 商品や役務の提供時に、投稿をしてもしなくてもいいこと、投稿内容についてもインフルエンサーの自由であることを明らかにしましょう。
  • 効果測定時に掲載面をチェックして、景品表示法や薬機法に違反するような内容があった場合は変更を求めて、変更を求めたことを証拠として残しておきましょう。

ネクスパート法律事務所には、ギフティングに限らず、インフルエンサーマーケティングなどの広告法務を専門とするチームがあります。

景品表示法、薬機法、医療法などは、弁護士にとってはニッチな分野ですが、あえてそれを強みとして、リーズナブルに対応させていただいています。

企業様向けに、初回無料相談を受け付けていますので、よろしければ以下よりお問合せください。

代表弁護士 寺垣俊介 (第二東京弁護士会所属)

〒104-0031
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