ダークパターンという言葉をご存じでしょうか。これは、消費者を特定の意思決定に誘導するために設計されたウェブサイトの表示やデザインのことを指します。
近年、オンラインショッピングやサブスクリプションサービスの普及に伴い、消費者庁が「いわゆる『ダークパターン』に関する取引の実態調査」を発表するなど、その問題が注目されています。
これらの表示は消費者の誤解を招いたり、誘導することで、自主的な意思決定や選択を阻害し、消費者の利益を害するものです。本記事では、弁護士の視点からダークパターンの実態と対策について詳しく解説します。
ダークパターンの規制状況について
ここでは、ダークパターンに関する国内の法規制状況について説明します。
現在、ダークパターンに関連する国内での法執行として、主に2つの法律が適用されています。
特定商取引法による規制
特定商取引法では、令和3年の改正により、通信販売における特定申込みに係る手続きが表示される確認画面における一定の表示義務等に関する規制が導入されています。特に定期購入商法に対する執行事例が多く見られます。
景品表示法による規制
景品表示法第5条第3号の規定に基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示が告示により指定されています。ステルスマーケティング規制として、令和5年10月1日に施行され、その後行政処分が行われています。
ダークパターンの15の分類について
参考:消費者庁|事例イラスト集
ここでは、消費者庁が分類した15種類のダークパターンについて詳しく説明します。
- 強制登録
会員登録(アカウントの作成を含む)を強制されるか、登録が必要だと思い込まされてしまうものです。• 商品購入に必ずしも会員登録は必要ないが、スクロールしなければ会員登録せずに購入するボタンが表示されないため分かりにくい
• 「ご注文手続き」のボタンが「登録はこちらから」や「ログイン」ボタンよりも視視覚的に目立ちにくく、会員登録が必須ではないことが認識しづらい - 強制的情報開示
だまされて又は強制されて、商品の購入やサービス利用で必要と考えられる範囲を超えて個人情報を共有してしまうものです。• クッキーバナーに、クッキー情報の取扱いに「同意しない」等の拒否のボタンがない
• クッキーバナーを「×」で閉じてウェブサイトの閲覧を続けた場合であっても、クッキー情報の管理画面では既に同意が設定されている - 隠された情報
重要な情報が不明瞭にされているものです。• 「全額保証」と強調表示がある一方で、「詳細」ボタン(アコーディオンパネル)の中に返金条件が隠されている
• 返金条件等の重要な情報の文字が小さく不明瞭である - 事前選択
事業者の望む選択肢がデフォルトで事前選択されているものです。• 価格が高い「お徳用サイズ」と「定期お届けコース」の選択肢が事前に選択されている - 不当参照価格
誤解を招く又は虚偽の参照価格からの割引価格という形で価格が表示されているものです。• 初回、期間又は数量の限定の価格を通常の価格よりも大幅に割り引いているかのように強調している
• 大幅な値下げを強調しているが、これまで通常料金で販売していたかの実績が不明である - ひっかけ問題
質問が二重否定であるなど、消費者が誤解しやすい表現になっているものです。• チェックボックスの文章が「事業者からのお知らせを希望しません」となっており、希望しない場合はチェックを入れることになっている - 感情の揺さぶり
消費者に特定の選択肢を選ばせるため、感情を利用して人を操る言い回しになっているものです。• オプションを選択せずに進もうとすると「本当に加入しなくて大丈夫!?」というポップアップが現れ、消費者を引きとめようとする - 執拗な繰り返し
事業者が望むことを消費者に行うよう繰り返し求めるものです。• 画面をスクロールしても、商品等の購入ボタンが継続して表示され続け、消費者に購入ボタンを押すよう繰り返し求める - キャンセル困難
商品等の購入や会員登録等、事業者への申込みの手続きの難易度と、解約・退会の難易度が釣り合わないものです。• 解約をしようとすると解約のデメリットを表示させ、消費者を引き留めようとする
• 解約前に他のプラン等の選択肢を紹介し、消費者を引き留めようとする
• 多数の画面を遷移したり、何度もスクロールをしたりしないと最終的な解約ボタンまで行きつかず、手順が煩雑である - 価格比較妨害
価格等を比較しづらくしているものです。• 複数のプランのうち、料金が一番高いプランだけが表示されており、「すべてのプランを見る」というボタンを押さないと他のプランを確認できず、価格の比較を妨害される - 隠れたコスト
費用が複数の形式で表示されるなど不明瞭になっている、又は契約締結プロセスの終盤で明らかにされるものです。• 税込み価格か税抜き価格か、画面によって価格の表示が異なるため、支払価格が一見して分かりにくい
• それまで案内のなかった送料・手数料が最終確認画面で初めて表示される - お客様の声①(虚偽の口コミ)
商品等を購入した他の消費者の評価や口コミに関する表示であって、誤解を招くものや虚偽の可能性があるものです。• 同一の商品に対し、PC及びスマートフォンそれぞれのウェブサイトにおいて、別の人物による口コミとして同じ内容が書かれているため、虚偽の口コミである可能性がある - お客様の声②(イメージ写真の悪用)
商品等を購入した他の消費者の評価や口コミに関する表示であって、誤解を招くものや虚偽の可能性があるものです。• 美容や健康に関する商品・サービスについて、写真の人物による感想であるかのように、性能・効果への高評価を強調した表示をしているが、写真には小さく「イメージです」とただし書がある - No.1表示/高満足度
商品等の売上や性能に関するランキング1位の表示や、高い満足度の表示があるものです。• 「シミに期待できる美容液No.1」と記載しつつ、ただし書として「ブランドのイメージ調査による」という表示をしており、実際の使用感ではなくイメージ調査に基づく結果である - カウントダウンタイマー/期間限定
商品・サービスや割引の提供期限のカウントダウンや、間もなく終了する旨の表示であって、消費者を急かすものや虚偽の可能性があるものです。• 受付終了までの残り時間や商品の在庫、セール価格を確保しておく残り時間をカウントダウン方式で表示している
• カウントダウン終了後や期間経過後でも価格が変わらない等、契約する上で特段の変化が見られない場合もある
消費者の皆様への注意点
ここでは、ダークパターンから身を守るための消費者の注意点について説明します。
オンラインで商品を購入したりサービスを利用したりする際は、以下の点に注意しましょう。
- 商品の購入回数や契約の継続期間を確認する
- 支払い金額を確認する
- 解約条件や解約方法を確認する
- 利用規約を確認する
- 最終確認画面のスクリーンショットを撮る
特に、定期購入や継続課金のサービスについては、契約内容を十分に理解してから申し込むことが重要です。
事業者の皆様への注意点
ここでは、事業者がダークパターンによる法的リスクを避けるための注意点について説明します。
上記のような表示は景品表示法等に違反し、場合によっては刑事罰も課されます。
事業者は以下の点に十分注意してウェブサイトの設計・運営を行う必要があります。
- 消費者にとって分かりやすい表示にする
- 重要な情報を隠さず明確に表示する
- 虚偽や誇大な表示を避ける
- 消費者の自主的な判断を妨げない設計にする
- 解約や退会の手続きを簡便にする
違反した場合、行政処分や刑事処分を受ける可能性があるため、適切なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。
まとめ
ダークパターンは、消費者の合理的な判断を妨げる悪質な手法です。消費者庁の調査により15の類型が示され、特定商取引法や景品表示法による規制も強化されています。
消費者の皆様は、オンラインでの取引において契約内容を十分に確認し、疑問に感じた場合は専門家に相談することをお勧めします。また、事業者の皆様は、法令遵守はもちろん、消費者との信頼関係を築くためにも、透明で公正な取引を心がけることが重要です。