【美容医療の火傷事故】5つの重要判例から学ぶ責任と損害認定

美容医療・エステの施術による火傷事故は深刻な問題となっています。レーザー治療、高周波治療、冷却治療など、様々な美容施術で火傷が発生し、患者に重大な後遺症をもたらすケースが相次いでいます。

ここでは、実際に裁判で争われた火傷事故の判例5件を詳しく分析し、医療機関の責任や損害認定の基準を明らかにします。

目次

美容医療における火傷事故の判例分析

ここでは、美容医療・エステ分野で実際に起きた火傷事故の重要な判例5件について説明します。

エステティック脂肪冷却による熱傷(凍傷)事件(東京地裁令和元年6月6日判決)

事実関係

26歳女性モデルが、平成29年11月にエステサロンと脂肪冷却施術6回の契約を締結。平成30年10月6日、腹部に機器を当て脂肪をマイナス10度で1時間冷却する施術を受けたところ、腹部に第2度凍傷を負いました。

火傷の程度

  • 腹部に7センチ大の熱傷(凍傷)
  • 色素沈着、色素脱失及び炎症後紅斑が残存
  • 傷跡は数年単位で残存する見込み
  • モデル業に支障が生じたと主張

裁判所の判断

被告は過去の事故から危険性を予見できていたにもかかわらず、危険な施術を継続した過失があると認定。脂肪をマイナス10度で冷却する施術について、形成外科医は「そこまで冷やしたら、皮膚は凍傷になって腐ってしまいます」と述べており、医学的に極めて危険な施術であると判断されました。

容認された内容

損害額:64万8,376円(治療費・交通費、慰謝料50万円、弁護士費用5万円)

サーマクール熱傷事件(東京地裁平成25年2月14日判決)

事実関係

原告が美容外科クリニックでサーマクールCPT施術を受けた際、平成23年4月16日の施術中、325ショット照射時点で顔面に水泡が出現し施術中止。その後、使用されたチップに破損が確認されました。

火傷の程度

  • 額、両頬、顎に多数の小さな熱傷
  • 水疱形成、顔面熱傷後炎症性色素沈着
  • 左頬部熱傷性瘢痕
  • 約8か月の通院(通院日数48日)
  • 裁判所は法的には治癒と評価

裁判所の判断

看護師が280ショット時点で原告の痛みの訴えに対し、チップ確認義務を怠ったとして過失を認定。患者の異常な痛みの訴えがあった時点で、チップの破損を疑って確認し、破損が確認された場合には施術を中止すべき義務があったと判断しました。

容認された内容

損害額:158万881円(遅延損害金の元本組入れ後)

肝斑レーザー治療による熱傷事件(横浜地裁平成15年9月19日判決)

事実関係

42歳女性が肝斑の診断を受けていたが、平成13年6月9日に被告クリニックを受診。院長が「レーザー1回できれいになる、10歳若返る」と説明し、80万円で額・両頬のレーザー治療契約を締結。施術後、熱傷等の予想と異なる結果となりました。

火傷の程度

  • 前額部左側に色素脱出、右側に炎症性色素沈着
  • 症状固定時:5×10mmの色素沈着が複数箇所、5×5mmの瘢痕が左頬部に4箇所
  • 裁判所は写真上明らかな色素沈着や瘢痕を認めず
  • 法的には治癒と評価

裁判所の判断

肝斑に対するレーザー治療は一般に禁忌とされているにもかかわらず実施したことについて、適切な説明がなされていれば契約締結に至らなかった錯誤無効を認定。肝斑にレーザー照射を行うと炎症性色素沈着を増強することが多く、一般に禁忌とされていると判示しました。

容認された内容

  • 債務不存在確認(80万円の報酬債務なし)
  • 損害賠償56万395円(治療費、慰謝料50万円)

ポラリス施術による熱傷事件(東京地裁平成19年3月8日判決)

事実関係

40歳女性が平成16年7月17日にD医院で肝斑と診断され、レーザー治療は不適切と説明されていました。翌18日、被告美容外科クリニックでポラリス(高周波とダイオードレーザー併用)の両頬コース(5回セット)を契約。3回施術を受け、第3回目で左頬に熱傷が発生しました。

火傷の程度

  • 左頬部に発赤、腫脹(熱傷)
  • 皮膚陥凹を伴う醜状瘢痕及び色素沈着が残存
  • 大きさ:20mm×5mmを下回る軽度のもの
  • 近距離でないと識別困難
  • 自賠法14級相当と認定
  • 完治困難だが治療により改善見込みあり

裁判所の判断

ポラリスのシミに対する効果は医学的に確立されていないこと、肝斑に対するレーザー治療は禁忌であることの説明義務違反を認定。また、ポラリスには施術部位に熱傷等の傷害を負わせる危険もあることについて適切な説明がなされていなかったと判断しました。

容認された内容

損害額:208万6,913円(既払診療費26万円、治療費12万円、傷害慰謝料50万円、後遺症慰謝料100万円、弁護士費用20万円)

レーザー脱毛による熱傷事件(東京地裁平成15年11月27日判決)

事実関係

男性が平成12年4月10日に被告診療所で5年保証の医療レーザー脱毛契約(69万円)を締結。同年8月20日、医師不在・冷却装置故障の状況で看護師がアレキサンドライトレーザーによる脱毛治療を実施。術後ケアが不十分で、翌日激痛により会社を休む事態となりました。

火傷の程度

  • 左右顎下部及び右下口角部に水疱、かさぶた
  • 10か所以上の水ぶくれ、出血、色素沈着
  • 3年経過後も右下口角部に5mm×8mm大の色素沈着が残存
  • 裁判所は3年余りの色素沈着残存は受忍限度を超えると判断

裁判所の判断

レーザー照射後の適切な冷却措置義務を怠った過失を認定。レーザー照射による熱傷や毛膿炎の炎症反応に対しては、レーザー照射時及び照射後に冷却することが効果があり、照射後の冷却の有無が細胞の生死を決めることもあると判示しました。

容認された内容

損害額:15万円(慰謝料10万円、弁護士費用5万円)

火傷事故における法的責任の要点

ここでは、判例から導かれる火傷事故における法的責任の要点について説明します。

医療機関の主な注意義務

事前説明義務

美容医療では通常の医療以上に詳細な説明義務が課されます。ポラリス事件では「100症例のうち1症例もトラブルがない」との説明が問題とされたように、火傷リスクの具体的説明(発生頻度、治療期間、回復見込み)が必要です。

また、肝斑レーザー治療事件で示されたように、禁忌疾患への施術リスクを適切に説明せずに施術を行うことは重大な説明義務違反となります。医学的根拠が不十分な治療法については、代替治療法の提示も重要な義務です。

施術時の安全管理義務

サーマクール事件では、チップ破損を見逃したことが過失とされました。医療機器の事前点検は火傷の直接原因となる機器故障を防ぐ必須事項です。

患者の異常な反応への適切対応については、「280ショットで痛みを訴え始めた時点で施術を中止すべきであった」と判示されており、異常反応を見逃さず直ちに施術を中止する義務があります。

術後の適切な冷却処置は「照射後の冷却の有無が細胞の生死を決めることもある」と指摘されるように、火傷の程度を左右する重要な措置です。

火傷の程度と損害認定

軽度でも認定される後遺障害

3年以上残存する色素沈着について、レーザー脱毛事件では「受忍すべきものとは解することはできない」と判示され、美容医療の特性を考慮した重要な判断基準となっています。

客観的に確認できる瘢痕では、ポラリス事件で「20mm×5mm程度の軽度のもの」でも自賠法14級相当の後遺障害と認定されました。

慰謝料の相場

傷害慰謝料は通院期間に基づき算定され、8か月程度の通院で50万円程度が認定されています。後遺症慰謝料では、軽度の瘢痕でも14級相当として100万円程度が認定され、患者の職業特性(モデル業等)も重要な算定要素となりました。

患者・医療機関双方の対策

患者向けの注意点

  • 火傷リスクについて詳細な説明を求める
  • 施術中の異常を感じたら即座に申告
  • 事故発生時は写真等で記録を保存

医療機関向けの対策

  • 機器の定期点検と保守管理の徹底
  • スタッフの緊急時対応訓練の実施
  • 適切な医師賠償責任保険への加入

まとめ:火傷事故防止のために

美容医療における火傷事故は、適切な事前説明、施術中の安全管理、術後の適切な処置により多くが防げます。

重要なポイント

  • 過去の事故例を踏まえた予見可能性の認識
  • 患者の異常な訴えに対する迅速な対応
  • 医学的根拠に基づく適応判断

火傷事故が発生した場合は、早期の適切な治療と専門家への相談が被害の拡大防止と適切な解決につながります。美容医療に関する火傷トラブルでお困りの際は、お早めに専門の弁護士にご相談ください。

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