特商法違反で業務停止命令が出た事例を弁護士が解説
令和8年1月、消費者庁は痩身エステを提供する事業者に対し、特定商取引法違反を理由として3か月間の業務停止命令を発出しました。
違反の内容は、エステ契約に付随して販売した健康食品について「クーリング・オフはできない」「4回届くまで解約できない」と虚偽の説明をしたこと、そして契約を断った消費者に対し執拗に勧誘を続けたことです。
本記事では、この処分事例をもとに、エステ契約における関連商品のクーリング・オフの仕組みを解説します。エステ契約でトラブルを抱えている消費者の方、また特定商取引法のコンプライアンスに関心のある事業者の方の参考になれば幸いです。
行政処分の概要
ここでは、今回の行政処分の概要を説明します。
令和8年1月29日、消費者庁は痩身エステを提供するS社に対し、特定商取引法第47条第1項に基づく 業務停止命令(3か月間) を発出しました。停止を命じられた業務は、特定継続的役務提供に関する勧誘、申込受付、契約締結です。
あわせて、同法第46条第1項に基づき、法令遵守体制の整備その他の再発防止策を講じるよう 指示 がなされました。
S社の代表取締役個人に対しても、同法第47条の2第1項に基づき、同期間中、停止を命じられた範囲の業務を新たに開始することを禁止する 業務禁止命令 が発出されています。
S社は、1か月を超える期間にわたり痩身施術を提供し、消費者が5万円を超える金銭を支払う契約を締結していました。この取引形態は、特定商取引法が規制する 特定継続的役務提供 に該当します。
違反行為の内容
ここでは、S社が行った違反行為の具体的な内容を説明します。
不実告知(特定商取引法第44条第1項違反)
S社は、痩身エステの契約に際し健康食品の定期購入を勧めていました。
従業員は消費者に対し、次のように説明していました。
- 「エンザイムのクーリング・オフはできません」
- 「定期購入は通信販売なので、4回届くまで解約できません」
- 「通販の商品なので、途中での解約はできません」
しかし、これらの説明は虚偽です。
この健康食品は、エステ契約の 関連商品 に該当します。関連商品であれば、エステ契約(役務提供契約)をクーリング・オフした場合には健康食品の売買契約もクーリング・オフでき、エステ契約を中途解約した場合には健康食品の売買契約も中途解約できます。
S社の説明は、契約の解除に関する重要事項について不実のことを告げる行為であり、特定商取引法第44条第1項に違反します。
迷惑勧誘(施行規則第106条第1号違反)
S社の従業員は、消費者が契約を断る意思を明確に示した後も、執拗に勧誘を続けていました。
消費者庁が認定した事例では、次のようなやり取りがありました。
消費者が「仕事を辞めたばかりで、お金がないんです」「契約できません」と断ったにもかかわらず、従業員は「月にどのくらいの収入があるんですか」「失業手当が入るのはいつですか」「契約できるのはあと数日だけですよ」と勧誘を続けました。
別の事例では、消費者が「エステを契約するつもりはないです」と断った後も、「そんなこと言わないでくださいよ」「骨盤を治したら、身体は変わってくるので」と勧誘を続けています。
このような行為は、契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘する行為に該当し、特定商取引法第46条第1項第4号・施行規則第106条第1号に違反します。
関連商品のクーリング・オフ・中途解約に関する正しい知識
ここでは、特定継続的役務提供における関連商品の解約ルールを説明します。
関連商品とは
関連商品 とは、特定継続的役務の提供に際し消費者が購入する必要のある商品として、政令で定められたものです。
痩身エステの場合、次の商品が関連商品に指定されています。
- 健康食品(人の健康の保持増進の効果等を標榜するもの)
- 化粧品、石けん、浴用剤
- 下着類
- 美顔器等の器具
S社が販売していた健康食品は、エステの効果を高めるために購入させていたものであり、関連商品に該当します。
関連商品のクーリング・オフ
特定継続的役務提供契約を締結した消費者は、契約書面を受領した日から 8日以内 であれば、無条件でクーリング・オフできます(特定商取引法第48条第1項)。
役務提供契約をクーリング・オフした場合、関連商品の売買契約も同様にクーリング・オフできます(同条第2項)。関連商品が別の販売形態(通信販売など)で購入されていても、この規定が適用されます。
関連商品の中途解約
クーリング・オフ期間経過後であっても、消費者は将来に向かって契約を 中途解約 できます(特定商取引法第49条第1項)。
役務提供契約を中途解約した場合、関連商品の売買契約も中途解約できます(同条第5項)。ただし、関連商品を使用または消費していた場合、その対価を支払う必要があります。
消費者の方へ:被害に遭った場合の対処法
ここでは、エステ契約でトラブルに遭った消費者の方が取るべき対応を説明します。
クーリング・オフの行使
契約書面を受け取ってから8日以内であれば、理由を問わずクーリング・オフできます。書面またはメール等の電磁的方法で、クーリング・オフする旨を事業者に通知してください。
関連商品として購入した健康食品等も、役務提供契約と併せてクーリング・オフできます。 「通信販売だからできない」「定期購入だからできない」という説明は誤りです。
中途解約の行使
クーリング・オフ期間を過ぎていても、中途解約は可能です。事業者が請求できる違約金には上限があり、役務提供開始前であれば2万円、開始後であれば提供済み役務の対価と2万円または未提供役務対価の10%のいずれか低い額の合計額が上限です。
事業者との交渉が難航する場合や、支払った金銭の返還を求める場合は、弁護士への相談も有効です。
事業者の方へ:コンプライアンス上の留意点
ここでは、特定継続的役務提供を行う事業者が留意すべき点を説明します。
関連商品の解約に関する正確な説明
関連商品の販売形態が通信販売であっても、役務提供契約と併せて購入させた場合は、特定商取引法の関連商品に関する規定が適用されます。
「通販だから解約できない」「定期購入だから途中解約できない」という説明は不実告知に該当し、行政処分の対象です。 従業員への教育を徹底し、正確な説明を行う体制を整備してください。
勧誘方法の見直し
消費者が契約を締結しない意思を表示した場合、執拗に勧誘を続けることは迷惑勧誘に該当します。
本件では、消費者が「お金がない」「契約しない」と明確に断った後も勧誘を続けた行為が違反と認定されました。断られた場合に勧誘を終了するルールを明確化し、従業員に周知することが必要です。
代表者個人への処分リスク
本件では、法人への業務停止命令に加え、代表取締役個人に対しても業務禁止命令が発出されました。
業務禁止命令を受けると、禁止期間中、同種の業務を新たに開始することができず、同種業務を行う法人の役員に就任することもできません。 法令違反は法人だけでなく経営者個人にも重大な影響を及ぼすことの認識も必要です。
まとめ
消費者の方へ
エステ契約に付随して購入した健康食品等の関連商品は、「通信販売だから」「定期購入だから」という理由でクーリング・オフや中途解約を拒否されることはありません。事業者から解約を拒否された場合は、弁護士に相談してください。
事業者の方へ
関連商品の解約に関する不正確な説明は、特定商取引法違反として行政処分の対象です。法令遵守体制を整備し、従業員教育の徹底が必要です。
エステ契約のトラブルでお困りの方は、お早めに弁護士にご相談ください。

