美容クリニックは要注意!再生医療等安全性確保法の基本と届出義務

近年、PRP(多血小板血漿)療法をはじめ、ご自身の細胞を活用したエイジングケアや肌質改善が美容医療の分野で注目されています。

これらは「再生医療」と呼ばれ、新たな可能性を秘めていますが、その提供には「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(以下「再生医療等安全性確保法」)を遵守しなくてはなりません。

令和7年5月31日には改正法が施行され、規制対象が拡大されるなど、医療機関が遵守すべきルールがより明確化されます。 本記事では、美容クリニックの経営者や法務担当者が知っておくべき、再生医療等安全性確保法の基本と、求められる法的手続きについて分かりやすく解説します。

目次

美容医療で広がる「再生医療」の正しい理解

再生医療等安全性確保法における「再生医療等」とは、単に新しい医療技術というだけではありません。

法律上は、人の細胞に培養などの加工を施した「特定細胞加工物等」を用いて、身体の構造・機能の再建や修復、疾病の治療や予防を行う医療技術と定義されています。

美容クリニックで提供される医療がこれに該当するかどうかは、この定義に当てはまるかで判断します。

例えば、患者様から採取した血液を遠心分離機にかけ、特定の成分(血小板)を濃縮して作製するPRPも「特定細胞加工物等」にあたります。

したがって、PRP療法を提供することは、再生医療等安全性確保法上の「再生医療等」を提供することになるのです。

再生医療の提供に不可欠な法的手続きとは?

再生医療技術は、そのリスクに応じて3つのカテゴリーに分類され、それぞれ必要な手続きが異なります。

  • 第一種再生医療等
    • iPS細胞やES細胞など、未確立でリスクが高い技術。
  • 第二種再生医療等
    • 体性幹細胞を用いる治療など、中程度のリスクがある技術。
  • 第三種再生医療等
    • 体細胞を加工するものなど、リスクが比較的低い技術。

美容クリニックで提供されるPRP療法や、脂肪由来幹細胞を用いた治療の多くは、この第三種再生医療等に分類されます。

第三種再生医療等を提供するためには、まず治療計画である「再生医療等提供計画」を作成しなくてはなりません。

そして、その計画書を厚生労働大臣の認定を受けた「特定認定再生医療等委員会」で審査してもらい、その意見を添えて管轄の地方厚生局長に提出する必要があります。

さらに、重要な点として、細胞の加工(PRPの作製など)を外部の施設に委託せず、自院のクリニック内で行う場合は、別途「特定細胞加工物等製造届出」を地方厚生局長に提出する必要があります。

これらの手続きは、再生医療を提供する上で必須の法的義務です。

手続き違反の重大なリスク

もし、必要な再生医療等提供計画や特定細胞加工物等製造届出を提出せずに再生医療を提供した場合、それは法律違反となります。

再生医療等安全性確保法には罰則規定が設けられており、違反した場合は拘禁刑や罰金刑などの刑事罰が科されるおそれがあります。

また、刑事罰だけでなく、厚生労働大臣による治療提供の一時停止命令や改善命令などの行政処分の対象にもなります。

このような事態になれば、罰則による直接的なダメージに加え、クリニックの社会的信用は大きく損なわれ、経営に深刻な影響を及ぼすことは避けられません。

まとめ:法改正に対応し、安全な医療提供体制を

再生医療は、美容医療に新たな価値を提供する魅力的な技術です。

しかし、その提供には再生医療等安全性確保法に基づく複雑な手続きを正確に履行することが大前提となります。

法改正により、医療機関が遵守すべきルールは常に更新されていきます。

これから再生医療の導入を検討している、あるいは現在の手続きに不安があるクリニック経営者やご担当者様は、必ず事前に法律の専門家である弁護士に相談しましょう。

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