近年、海外の医薬品をインターネット経由で手軽に購入できる、医薬品の個人輸入代行ビジネスが注目されています。
しかし、その手軽さの裏には、「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」違反という重大な法的リスクが潜んでいます。
本記事では、医薬品の個人輸入代行ビジネスを検討している、あるいは既に運営している事業者様に向けて、薬機法上の規制、広告の可否、そして事業者が負うリスクについて詳しく解説します。
そもそも医薬品の個人輸入は認められているのか
結論から言うと、個人が自分自身で使用する目的で海外の医薬品を輸入すること(いわゆる個人輸入)は、一定の数量内であれば、厚生労働大臣の許可なく認められています。
これは、海外で受けた治療を継続するために必要な場合や、海外滞在中に使用していた医薬品を帰国後も使用したいといった、個人の需要に応えるための例外的な措置です。
しかし、これはあくまで個人使用が目的の場合に限られます。
なぜ「代行」ビジネスが薬機法違反になるのか
個人輸入を代行するビジネスモデル自体が、直ちに違法というわけではありません。
しかし、その事業形態によっては、実質的に国内で未承認の医薬品を販売・授与する行為とみなされ、薬機法に抵触する可能性が非常に高いです。
薬機法では、医薬品を販売・授与する目的で輸入し、国内で販売・授与するには、医薬品製造販売業許可や医薬品販売業許可が必要です 。
形式的に「代行」を謳っていても、以下のような実態がある場合、無許可販売と判断されるリスクがあります。
- 事業者が医薬品をあらかじめ輸入し、国内に在庫を保管している
- 注文を受けてから輸入する場合でも、事業者が購入代金を立て替えている
- ウェブサイト上で特定の商品を推奨したり、効果効能をうたったりして購入を誘引している
- 事業者が医薬品の代金を回収し、手数料を差し引いて海外の販売業者に送金している
これらの行為は、単なる手続きの代行ではなく、事業者が主体的に医薬品の流通に関与する「販売」行為そのものと評価される可能性が高いです。
薬機法違反となる「広告」の具体例
日本国内で承認されていない医薬品について、その名称や製造方法、効果効能に関する広告をすることは、薬機法第68条によって固く禁止されています。
個人輸入代行サイトも、日本の居住者向けに運営されている限り、この規制の対象です。
したがって、ウェブサイトやSNSなどで、以下のような宣伝文句を使用することはできません。
- 「〇〇(症状)に効果があります」
- 「〇〇(病名)が治ります」
- 「最新のがん治療薬」
- 「副作用がなく安全です」
これらの表現は、消費者に誤った認識を与え、適切な医療を受ける機会を失わせるおそれがあるため、厳しく規制されています。
事業者が負うことになる具体的なリスク
ここでは、薬機法に違反した場合に事業者が直面するリスクを解説します。
万が一、事業が薬機法違反と判断された場合、事業者には重いペナルティが科される可能性があります。
- 刑事罰
 無許可で医薬品を販売・授与した場合、「5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方」が科される可能性があります。また、未承認医薬品の広告を行った場合は、「2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその両方」が科される可能性があります。
- 行政処分
 厚生労働大臣や都道府県知事から、業務停止命令やウェブサイトの閉鎖命令などの行政処分を受ける可能性があります。
- 課徴金納付命令
 虚偽・誇大な広告によって医薬品を販売していた場合、違反期間中の対象商品の売上額の4.5%にあたる課徴金の納付を命じられる制度もあります。
これらの法的な制裁に加え、健康被害が発生した場合には、損害賠償請求を受けるリスクも負うことになります。
まとめ:薬機法違反を回避するために
医薬品の個人輸入代行ビジネスは、一見すると参入しやすいように思えるかもしれません。 しかし、その実態は薬機法による厳しい規制下にあり、安易な参入は極めて危険です。
事業の適法性について少しでも不安がある場合や、これから事業を始めようと検討している場合は、必ず薬機法に詳しい弁護士などの専門家に相談してください。
自社のビジネスモデルが薬機法に抵触しないか、事前にリーガルチェックを受けることが、将来の深刻なトラブルを回避するために不可欠です。

