美容クリニックのウェブサイトやSNSで、劇的な変化を示す施術前後の写真、いわゆる「ビフォーアフター写真」は、患者様の関心を引きつけ、来院を促す非常に効果的なマーケティング手法です。 しかし、その掲載には詳細なルールがあり、これを遵守しない場合は「医療広告ガイドライン」に違反し、行政指導や罰則の対象となるリスクがあります。
この記事では、企業法務を専門とする弁護士が、美容医療におけるビフォーアフター写真の広告規制について、医療広告ガイドラインに基づき、詳細な要件や注意点をわかりやすく解説します。
ビフォーアフター写真広告の基本的な考え方
医療広告ガイドラインでは、「患者等を誤認させるおそれがある」ビフォーアフター写真の広告を禁止しています。
医療における治療結果は、個々の患者様の体質や状態によって大きく異なるものです。
そのため、特定の個人の成功例であるビフォーアフター写真だけを提示することで、すべての患者が同様の効果を得られるかのような誤解を与えてしまうことが問題とされています 。
つまり、ビフォーアフター写真の掲載が一律に禁止されているわけではなく、患者に誤認を与えないための厳格な要件を満たした場合にのみ、掲載が認められるというのが基本的な考え方です。
ビフォーアフター写真の掲載が認められるための要件
ビフォーアフター写真を広告に用いるには、まず、チラシや看板のような媒体ではなく、患者様が自ら情報を求めて閲覧するウェブサイトやSNSなどであることが前提となります 。
その上で、患者が誤認することのないよう、以下の情報を写真に併記する必要があります 。
- 通常必要とされる治療内容(例:〇〇施術、使用する医療機器名など)
- 治療にかかる標準的な費用(例:「〇〇円~〇〇円」、自由診療である旨も明記)
- 治療に伴う主なリスク(例:腫れ、内出血、感染症の可能性など)
- 副作用(例:痛み、痺れ、左右差が生じる可能性など)
これらの情報を併記することにより、患者様が治療の良い面だけでなく、リスクや副作用も十分に理解した上で、適切な選択ができるようにすることが求められています。
掲載時に遵守すべき3つの注意点
写真の加工・修正は「虚偽広告」
ビフォーアフター写真の効果をより良く見せるために、写真に加工や修正を加えることは絶対にできません。
これは、事実と異なる情報を示す「虚偽広告」に該当し、罰則付きで厳しく禁じられています 。
意図的な撮影条件の変更は「誇大広告」
写真の加工だけでなく、撮影時の条件を意図的に変えて効果を誇張することも問題です。
例えば、施術後だけ明るい照明を当てる、メイクをする、アングルを変えるといった行為は、事実を不当に誇張する「誇大広告」とみなされるおそれがあります 。
リスク等の記載を見えにくくしてはならない
掲載要件であるリスクや費用などの詳細な説明を、意図的に見えにくく表示することは認められません 。
具体的には、以下のような表示方法は不適切です。
- リンクをクリックしないと詳細が見られないようにする
- 他の情報と比べて極端に小さな文字で記載する
- 背景色と似た色の文字で記載し、判読しにくくする
これらの情報は、患者様にとって分かりやすい場所に、明確に認識できる形で記載する必要があります 。
ガイドラインに違反した場合のリスク
医療広告ガイドラインへの違反が発覚した場合、まずは都道府県や保健所から是正を求める行政指導が行われます 。
この行政指導に従わない場合や、違反が繰り返されるなど悪質と判断された場合には、広告の中止や是正を命じる行政命令が出されます 。
さらに、この命令にも違反した場合は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります 。
また、特に悪質なケースでは、病院・診療所の開設許可が取り消されたり、閉鎖を命じられたりすることもあり得ます 。
まとめ:広告表現の不安は弁護士にご相談を
ビフォーアフター写真は、使い方を誤れば法的なリスクを伴う非常にデリケートな広告手法です。
ルールを知らずに掲載を続けることは、クリニックの信頼を損ない、経営に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
自院のウェブサイトや広告表現が医療広告ガイドラインに適合しているか不安な場合や、コンプライアンス体制の構築をお考えのクリニック経営者・ご担当者様は、広告規制に詳しい弁護士へご相談ください。
専門家によるリーガルチェックを受けることで、法的なリスクを回避し、患者様からの信頼に基づいた健全なクリニック経営を目指しましょう。

