2025年8月1日、消費者庁は、P&Gジャパン合同会社(以下「P&G」といいます。)が販売する「ファブリーズお風呂用防カビ剤」(以下「本件商品」といいます。)の広告表示に、景品表示法違反(優良誤認)があったとして、措置命令を出しました。
テレビCMや商品パッケージで大々的に宣伝されていたこの商品。私たちの生活に身近な製品に、一体どのような問題があったのでしょうか。今回の措置命令を読み解きながら、その背景と、私たち消費者が広告を見る際に気をつけたいポイントを解説します。
何が問題とされたのか?
今回の措置命令の核心は、P&Gが「浴室に置くだけで、約6週間にわたり浴室全体のカビの繁殖を防止する効果」があるかのように表示していた点にあります。
具体的な表示内容
P&Gは、商品パッケージや自社ウェブサイト、テレビCM、YouTube広告などで、以下のような表示を行っていました。
- 「お風呂に置くだけで黒カビを防ぐ」
- 「防カビ効果は約6週間持続します」
- 「自然発想成分“BIOコート”テクノロジーがお風呂場の隅々にまで広がり、天井や床や掃除しにくい場所などを有効成分でコーティングし、黒カビの成長を防ぎ続ける」
これらの文言に加え、テレビCMなどでは、浴室全体が有効成分(BIOコート)でコーティングされるイメージ映像が使用されていました。
消費者はこれらの表示を見れば、「この商品を浴室に置いておくだけで、面倒なカビ掃除をしなくても、浴室全体の黒カビの発生を約6週間も防げるんだ」と期待するでしょう。
「実際は…」⇒裏付けとなる根拠がなかった
景品表示法には、事業者が商品の効果をうたう広告(表示)をする場合、その表示内容を裏付ける「合理的な根拠」をあらかじめ持っていなければならない、というルールがあります。
消費者庁は、P&Gに対し、上記の表示の裏付けとなる資料の提出を求めました。
P&Gは資料を提出しましたが、消費者庁は、その資料が「表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められない」と判断しました。
つまり、「浴室に置くだけで浴室全体のカビの繁殖を6週間防ぐ」という、消費者が広告から受け取る効果を客観的に実証できなかった、ということです。
実際のものよりも著しく優れた効果があるかのように見せかける表示は、消費者が商品を正しく選ぶことを妨げる「優良誤認表示」として、景品表示法で禁止されています。
どのような命令が出されたのか?
今回の措置命令で、P&Gは消費者庁から以下の3点を命じられました。
- 違反の事実を消費者に周知徹底すること
今回の広告表示が景品表示法に違反するものであったことを、一般の消費者に広く知らせなければなりません。周知の方法は、あらかじめ消費者庁の承認を受ける必要があります。
- 再発防止策を講じ、社内で徹底すること
今後同様の違反行為が起きないよう、具体的な再発防止策を立て、それを役員や従業員に徹底することが求められます。
- 今後、同様の表示を行わないこと
合理的な根拠がないまま、今回問題となった表示と同じような表示を、今後行ってはならないと命じられました。
私たちが学ぶべきこと
今回の事例は、私たち消費者にとっても、広告との向き合い方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
- 「置くだけ」「飲むだけ」には期待しすぎない
「〇〇するだけ」という手軽さをうたう商品は魅力的ですが、その効果には必ず条件や限界があります。
広告のイメージ映像やキャッチコピーだけを鵜呑みにせず、小さな文字で書かれている注意書き(※個人の感想です、使用状況によります、など)にも目を通す冷静さが必要です。
- 「画期的な新技術」も冷静に見る
「自然発想BIOコートテクノロジー」のような、科学的で画期的に聞こえる言葉が使われていると、つい効果を信じてしまいがちです。しかし、その技術が実際の使用環境で広告どおりの効果を発揮するかは別問題です。
- 体験談は「個人の感想」
ウェブサイトには「家事代行No.1のベアーズも実感した防カビ効果!」といった推薦コメントや、「カビが気にならなくなった」「掃除の頻度が減った」などの愛用者の声が掲載されていました。
これらはあくまで個人の感想であり、全ての人に同じ効果を保証するものではありません。
今回の措置命令は、たとえ大手企業の有名ブランドであっても、広告表示には厳しい目が向けられていることを改めて示しました。