企業が販売促進や関係強化を目的としてリベートの供与を検討する際、独占禁止法上の規制に注意が必要です。リベートは適切に運用すれば有効なビジネス手法ですが、一歩間違えると排他的取引として違法行為となる可能性があります。
特に市場シェアが高い企業や、取引先への影響力が大きい企業では、リベートの供与方法によって競争者を市場から排除する効果が生じ、独占禁止法違反となるリスクが高まります。本記事では、リベート供与における法的規制の内容と、適法な運用のための判断要素について詳しく解説します。
リベートとは何か
ここでは、リベートの基本的な定義と具体例について説明します。
リベートとは、商品購入後に受け取る部分的な払い戻しや割引のことです。一般的には、メーカーが販売店や消費者に対して売上に応じて支払う奨励金として使用されます。
具体的な例として、以下のようなケースがあります。
- 年間売上目標達成で3%のリベートを支給
- 四半期ごとの仕入数量に応じた段階的リベート
- 新商品の販売実績に基づく特別リベート
企業がリベートを供与する主な目的は次のとおりです。
販売促進・関係強化
- 販売店の売上意欲を高める
- 長期的な取引関係を構築する
- 市場シェアの拡大を図る
在庫管理・流通効率化
- 大量購入を促進して製造コストを下げる
- 流通在庫の適正化を図る
- 季節商品の早期販売を促す
顧客満足度向上
- 消費者への実質的な価格メリット提供
- ブランドロイヤルティの向上
- リピート購入の促進
しかし、これらの目的でリベートを供与する場合でも、独占禁止法上の規制に抵触する可能性があります。
独占禁止法上の位置づけ
ここでは、リベート供与が独占禁止法でどのように規制されているかについて説明します。
独占禁止法では、排他的取引・排他条件付取引として、自己の競争者と取引をしないようにさせることを禁止しています。これは明示的な取引制限だけでなく、事実上、自己の競争者との取引を禁止したり制限することも含まれます。
具体的には、以下のような行為が問題となります。
- 自己の競争者以外と取引をした場合に何らかの不利益を課す
- 自己とのみ取引をする場合に経済的利益を与える
- 実質的に競争者と取引させないようにする
これらの行為により競争者との取引を制限した場合、独占禁止法2条9項1号および不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)2項、11項に違反する可能性があります。
リベートについても、その供与方法によっては排他的取引と同様の機能を有すると判断され、独占禁止法違反となる場合があります。
独占禁止法違反となる判断要素
ここでは、リベートが独占禁止法違反となるかの判断要素について説明します。
リベートが排他的取引と同様の機能を有するか否かを判断する際の考慮要素として、排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針第2-3(3)では、以下の4点が挙げられています。
リベートの水準
金額や供与率の水準が高いと排除行為と判断されやすくなります。
- 競合他社との取引を困難にするほど高額なリベート
- 市場価格に大きな影響を与える水準のリベート
リベートを供与する基準
取引先の達成可能な範囲内で高い水準に設定されている場合や、取引先ごとに基準が設定されている場合は排除行為と判断されやすくなります。
- 特定の取引先の規模に応じた基準設定
- 競合他社との取引継続を困難にする基準設定
リベートの累進度
一定期間における取引数量等に応じて累進的に水準が設定されている場合は排除行為と判断されやすくなります。
- 取引量に応じて飛躍的に増加するリベート率
- 競合他社との併用取引を経済的に不利にする累進構造
リベートの遡及性
基準を超えた場合にそれまでの取引数量等の全体に対してリベートが供与される場合は排除行為と判断されやすくなります。
- 年間目標達成時に全取引に対して遡及適用されるリベート
- 月次目標達成で当月全体の取引にリベートが適用される制度
排除効果の判断要素
排他的取引と同様の機能を有すると判断された場合、その排他的リベートの供与が排除行為に該当するかは、以下の点を考慮して判断されます。
市場環境に関する要素
- 市場集中度
- 商品の特性
- 規模の経済
- 商品差別化の程度
- 流通経路
- 市場の動向
- 参入の困難性
当事者の地位に関する要素
- 行為者の商品のシェア、その順位
- ブランド力
- 供給余力
- 事業規模
競争者の状況
- 競争者の商品のシェア、その順位
- ブランド力
- 供給余力
- 事業規模
行為の態様
- 行為の期間および相手方の数・シェア
- 取引の条件・内容
- 行為者の意図・目的
これらの考慮要素のうち、最も排除効果に結び付くのがシェアです。
市場シェアが高い企業ほど、リベート供与による排除効果が認められやすくなります。
まとめ
リベートの供与は適切に行えば有効なビジネス手法ですが、独占禁止法上の規制に十分注意する必要があります。
特に以下の点に留意することが重要です。
- リベートの水準、基準、累進度、遡及性を慎重に設定する
- 自社の市場シェアと競争者への影響を考慮する
- 排他的取引と同様の機能を有しない制度設計を心がける
- 定期的に制度の運用状況を見直し、必要に応じて修正する