NFT・FTに関するマーケティング支援の適法性―Web3時代の広告・プロモーションに潜む法規制リスク

近年、NFT(Non-Fungible Token)やFT(Fungible Token)、さらにはDeFi(分散型金融)等、いわゆるWeb3関連プロジェクトの急拡大に伴い、KOL(Key Opinion Leader)や広告代理店、PR会社、Webメディア等がこれらプロジェクトのマーケティング支援を依頼される機会が増えています。

しかし一方で、これらのプロジェクトには資金決済法や景品表示法等、複数の法令が密接に関わっており、違反すれば刑事罰を含む厳しい法的リスクを負う可能性があります。

特に、「暗号資産の媒介」と評価される行為を無登録で行うと、広告主ではなく広告支援側(PR会社やKOL)であっても規制対象となる可能性があります。

本記事では、NFTやトークン等のWeb3プロジェクトを対象とした広告・プロモーションを行う際に、違法行為とならないために注意すべきポイントを、弁護士の視点から解説します。

目次

暗号資産の売買等の媒介に該当するか:判断基準と実務的な境界線

マーケティングを行うにあたり、マーケティング行為が「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」(資金決済法第2条第15項第2号)の「媒介」(同項第3号。以下「暗号資産の売買等の媒介」といいます。)に該当するかが大きな問題となります。

この点、金融庁の事務ガイドライン1によれば、暗号資産の売買等の媒介に該当するか否かは、暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換を内容とする契約の成立に向けた一連の行為における当該行為の位置づけを踏まえた上で総合的に判断する必要があるものとされています。

具体的には、以下のような行為については原則として「媒介」に該当するものとされています。

  • 契約の勧誘
    暗号資産の購入や交換を直接的に促す行為。
  • 商品説明
    契約の締結を目的として、暗号資産の特徴やメリット等を説明する行為。
  • 条件交渉
    契約の条件について、顧客と交換業者の間で交渉を仲介する行為。

これらの行為は、インターネット上で行われた場合でも、特定の人物に対して誘引行為を行ったと評価されれば、一連の行為全体が媒介とみなされる可能性があります。

一方で、以下の行為は、それ単体では媒介に該当しない場合があります。2
ただし、内容や方法によっては媒介と判断される可能性があるため注意が必要です。

  • 単なる資料の配布
    チラシやパンフレットを配ったり、ウェブサイトに掲載したりする行為。
    ただし、その内容を詳細に説明する場合は媒介に当たる可能性があります。
  • 比較サイトでの掲載
    暗号資産交換業者から提供された情報をそのまま転載すること。
    ただし、特定の銘柄を推奨するように加工したり、順位付けしたりする場合は媒介に当たる可能性があります。
  • 契約書類の受け渡し
    契約申込書や添付書類を受け取ったり、記入漏れを指摘したりする行為。
    ただし、記載内容の確認まで踏み込むと媒介に該当する可能性があります。
  • 一般的なセミナー
    暗号資産の仕組みや活用法について、一般的な説明を行うこと。
  • 顧客の紹介
    顧客を暗号資産交換業者に紹介するだけの行為。これには、店頭に宣伝物を置くこと、ウェブサイトに交換業者へのリンクを貼ること等が含まれます。
    ただし、当該業者独自の見解として当該商品等を推奨・説明する場合には、暗号資産の売買等の媒介に当たることがあり得ます。

NFTは暗号資産に該当する?―制度設計により変わる法的評価

NFTはその制度設計・機能によっては暗号資産として扱われる可能性があります。

一方で仮にNFTが暗号資産に該当しないとすれば、かかるNFTのマーケティングは、暗号資産の売買等の媒介には該当しないものといえます。

NFTが暗号資産に該当するかどうかは、以下の点を総合的に考慮して判断されます(事務ガイドラインⅠ-1-1)。

発行者等が不特定の者に対して、物品等の代価の弁済のために使用されない意図を明確にしていること

例えば、発行者や取扱事業者の規約、商品説明等で決済手段としての使用を明確に禁止しているか、システム上決済手段として使用できない仕様になっているか、といった点が挙げられます。

当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること

具体的には、以下のいずれかの性質を有するかどうかが考慮されます。

  1. 最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること

金融庁のパブリックコメントでは、目安として「1,000円以上」が想定されています。

  1. 発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること

上記パブリックコメントでは、目安として「100万個以下」が想定されています。

【チェックポイントまとめ】

評価要素検討内容
決済機能購入者がNFTを通じて他の商品・サービスと交換できないか
単価最小単位が1,000円未満の場合、通貨性が高いと判断されやすい
発行数流通量が多いと、代替性・通貨性があるとみなされる可能性あり

上記のような設計要件を満たしていれば、NFTは「暗号資産に該当しない」とされる可能性が高く、マーケティング支援も媒介とは評価されにくくなります。

ポイント付与・報酬制度と景品表示法の適用

NFTやトークンの販売に際して、「購入者特典」としてポイントやボーナス、NFTエアドロップ等を付与するキャンペーンを展開するケースがあります。

このような経済的利益の提供行為は、景品表示法における「景品類」に該当する可能性があるため、法的上限に注意する必要があります。

景品類に該当する3要件(全て該当で適用)

  1. 顧客を誘引するための手段であること
  2. 自社が提供する商品・サービスの取引に付随していること
  3. 物品・金銭・ポイント等の経済的利益であること

景品表示法に基づく提供上限(総付景品)

取引金額景品上限額
1,000円未満200円まで
1,000円以上取引額の20%まで

また、懸賞型の場合(抽選による付与等)は、以下の上限が適用されます。

取引金額1人あたりの上限総額の上限
5,000円未満取引額の20倍まで総売上の2%以内
5,000円以上最大10万円まで総売上の2%以内

表現にも注意!限定性・利回りの表示は優良誤認のおそれ

広告において、次のようなキャッチコピーを使用する場合は、不当表示(優良誤認表示)とみなされるおそれがあります。

  • 「国内唯一」「他社に比べて圧倒的No.1」
  • 「最大年利30%保証」「早期参加者限定8倍報酬」
  • 「今だけ特典付き」「期間限定」

これらの表現を使用する場合は、出典・データの提示・根拠となる条件等の明記が必要です。

また2024年10月施行の改正景品表示法により、これまで事業者(NFT・トークンの発行元等)に向けられていた法的責任が、以下のような広告代理店やKOL・インフルエンサー等の広告関係者にも及ぶこととなりました。

Web3広告支援は「知らなかった」では済まされない

NFTやトークン、DeFi等のWeb3領域におけるマーケティング活動は、新たな事業機会であると同時に、非常に高い法的リスクも伴います。

暗号資産関連の広告支援を行う場合、その行為が媒介に該当するかどうかは、広告主だけでなく支援側(KOL、代理店、メディア)にとっても極めて重要な判断ポイントです。

「形式」ではなく「実質」を見て判断される領域だからこそ、事前の法的チェックが欠かせません。

プロモーション内容が適法かどうかの判断には、事業モデルの詳細把握と法的観点からの分析が不可欠です。

【法律相談のご案内】

当事務所では、以下のようなWeb3領域に関するご相談を承っております。

  • NFT・トークンの制度設計に関する法的評価
  • 暗号資産交換業・金融商品取引業の登録要否診断
  • マーケティング・プロモーション支援に関する契約書レビュー
  • 景品表示法・金融規制に関する広告適法性チェック

初回相談は無料です。Web3関連のマーケティング活動で不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。


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弁護士 尾又比呂人 (第一東京弁護士会所属)

  1. 金融庁事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係(16.暗号資産交換業者関係) ↩︎
  2. 令和6年9月6日
    「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(案)の公表に対するパブリックコメントの結果等について
    (別紙1)コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 ↩︎
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