暗号資産(仮想通貨)を使って不動産を購入する動きが、世界的に注目を集めています。
ビットコイン(BTC)などで住宅や商業物件の決済が可能となる事例は、2010年代から現れ始めました。2013年には、約1億6,000万円相当の未開発不動産がビットコインで売却されるなど、当時最大規模の取引が成立しました。
こうした先行事例に続き、現在では暗号資産による不動産取引は着実に広がりを見せています。
例えばトルコの企業TEKCE社は暗号資産決済による不動産売買を提供し、これまでに2,500件以上の取引を完了した実績があります。
暗号資産で土地や建物を購入することは、もはや一部の好事家だけの夢物語ではなく、新たな市場トレンドとして現実味を帯びてきています。
日本でも、2025年に大手不動産会社オープンハウスグループがビットコインとイーサリアム(ETH)での決済受付を開始すると発表し、大きな注目を集めました。
暗号資産決済の導入背景として、2024年のビットコイン取引額が19兆ドルを超え価格も史上初めて10万ドルを突破するなど市場が拡大し、日本国内の暗号資産口座数も1150万口座に達するなど決済手段としての存在感が高まっていることが挙げられています。
国内外でのこうした動きを受け、不動産投資家の間でも、暗号資産で物件を買うという選択肢が現実的なものとして認識され始めています。

暗号資産決済が注目される理由
暗号資産での不動産購入が注目される背景には、従来の不動産取引にはない数々のメリットが存在します。
決済の迅速さと手続きの簡素化
第一に、決済の迅速さと手続き簡素化です。
銀行送金に比べて暗号資産による支払いは国境を越えても数分で完了し、紙の書類に頼る手続きをデジタル化できます。実際、ある不動産会社では、暗号資産決済の導入により従来の3分の1の時間で契約が完了した事例も報告されています。
海外への高額送金でも、中継銀行を経由する煩雑さや為替手数料が不要になり、買い手・売り手双方にとってスムーズです。
特に日本の不動産を取得したい海外投資家にとって、暗号資産決済は円やドルへの両替を省ける利便性から魅力的な手段となっています。
資産分散と価値移転の容易さ
第二に、資産分散と価値移転の容易さも理由に挙げられます。
暗号資産で大きな利益を得た投資家が、その価値を不動産という実物資産に移し替えるケースが増えています。
例えば、価格変動の激しいビットコインを利益確定して不動産に換えることで、デジタル資産を安定した現物資産に変え、ポートフォリオのリスク分散を図れます。
暗号資産市場が好調な時期には、値上がり益を新たな投資に充当したいニーズが高まりますが、不動産という大型資産を暗号資産で直接購入できれば、現金化の手間を経ずに迅速に資金を移動可能です。
ブロックチェーンの信頼性
根底にあるブロックチェーン技術の信頼性も後押し要因です。
暗号資産の取引履歴はブロックチェーン上に記録され、一度記録されたデータは改ざんが困難で高い透明性があります。
資金の流れを誰もが検証できるため、不動産取引において資金受け渡しの信頼性が飛躍的に高まります。スマートコントラクト(ブロックチェーン上で動作する自動契約)の活用により、契約条件の履行と同時に支払いを実行するといった取引の自動化も可能になります。
これにより、人為的ミスの減少や契約履行の確実性が期待でき、不動産売買プロセスの効率化に寄与します。
例えば、買主が暗号資産を送金すると同時にデジタル契約が締結され、所有権移転の手続きが自動的に開始される、といった将来像も描かれています。
ブロックチェーンによる情報の一元管理と共有によって、不動産取引に関わる多くの関係者間で最新情報を参照しやすくなり、不動産業界の長年の課題である情報の非対称性(売り手と買い手・仲介業者との情報量の差)を解消する効果も期待されています。
さらに、不動産業界でも暗号資産対応の新サービスが登場し始めています。国内では2017年にJITホールディングスが物件代金や仲介手数料をビットコイン等で支払える決済サービスを開始し最近ではスタートアップ企業の株式会社Zofukuがブロックチェーンと暗号資産を活用してペーパーレスかつ安全に不動産取引を完了できるプラットフォームを提供しています。
このように、大手企業から新興企業まで暗号資産決済のメリットに注目し、不動産ビジネスへの導入を進めているのです。
暗号資産で不動産を買う具体的プロセス
では、実際に暗号資産で不動産を購入する場合、どのようなプロセスを踏むのでしょうか。
その流れや利用通貨・決済手段と法務チェックポイントを具体的に見てみましょう。
①物件と支払い通貨の選定
まず暗号資産決済に対応した不動産会社や売主を見つけ、購入したい物件について売買契約条件を詰めます。
価格は通常、その時点の法定通貨(円やドルなど)で合意し、それに相当する暗号資産量を支払う形になります。
利用される暗号資産は、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)が代表的ですが、価格変動リスクを抑える目的で、ステーブルコイン(USDTやUSDCなど米ドル連動の通貨)が使われるケースもあります。
例えば1億円の物件を購入する場合、契約時に1BTC=〇〇円とレートを確定させ、必要なBTC量を算出します。
市場変動による影響を避けたい場合、USDTなど価格が安定した通貨で支払額を用意し、関係者全員が納得できる方法を選択します。
②ウォレット・エスクローを用いた決済
支払いは、買主の暗号資産ウォレットから、売主の指定ウォレットアドレスへ直接送金する方法が一般的です。
高額な取引だけに、エスクロー(第三者預託)サービスを利用して安全性を高めることもあります。
エスクローとは、日本ではあまりなじみがありませんが、世界的には広く用いられている方法です。買主が一旦第三者(信頼できる取引所やエスクロー事業者)のウォレットに暗号資産を預け、物件の権利移転手続き完了後にその暗号資産が売主へ引き渡される仕組みです。
これにより、支払ったのに権利移転が行われない、登記が完了する前に代金を受け渡すなどのリスクを軽減できます。
最近ではスマートコントラクトを利用したエスクローも登場しており、プログラムによって権利移転の完了(例えば登記情報の更新やデジタル証書の発行)が確認され次第、自動的に支払いが実行されるような仕組みも実現しつつあります。
なお、日本では、エスクロー取引は、信託業法や資金決済法の規制対象となります。ただし、弁護士が弁護士業務に付随する形で資金を預かる場合には、これらの規制を受けずにエスクロー類似のサービスを提供することが認められています。
③契約締結と所有権移転
暗号資産で支払う場合でも、不動産売買契約自体は基本的に従来と同様に行われます。
売買契約書を取り交わし、公証人による認証(必要に応じて)や重要事項説明など、法律上求められる手続きを経たて、所有権移転登記の申請を行います。
日本では、不動産の権利移転は必ず法務局への登記が必要です。
これは現行法上ブロックチェーン上の記録だけでは代替できないため、司法書士等の専門家が通常の登記申請を行います。
暗号資産で支払いをしても登記簿上は円建てで取引額を記載する形となり、最終的な公的記録は従来の仕組みに従います。そのため、契約から登記完了までのプロセス自体は暗号資産決済でも大筋で同じですが、決済手段がデジタルに置き換わることでスピードと利便性が向上している点が異なります。
不動産の売主が暗号資産での決済を嫌がるケースも多く見られますが、専門家の協力を得ることで、売主の想像するリスクを回避することも可能となる可能性は高いです。
売主が暗号資産での決済を拒絶するような場合には、暗号資産に詳しい専門家に相談をしましょう。
暗号資産を用いた不動産購入における法務・税務上の留意点
暗号資産を用いた不動産購入では、従来の現金取引にはない法務・税務面の検討も欠かせません。
法務上の注意点
資金決済法の位置づけですが、日本では暗号資産は同法で電子的に記録された価値であり支払手段として認められているため、暗号資産で代金決済すること自体は合法です。
しかし、不動産業者にとっては犯罪収益移転防止法(いわゆるマネロン対策法)に基づき、暗号資産でも高額取引時の本人確認や資金源の確認が求められます。取引額が大きい不動産売買では、現金取引と同様にKYC(顧客確認)手続きが厳格に行われ、場合によっては暗号資産の来歴を示す書類提出が求められることもあります。
税務上の注意点
暗号資産を使用した時点で譲渡があったとみなされる
税務面では、暗号資産を使用した時点で譲渡があったとみなされる点に注意しましょう。
例えば、1BTC=1000万円の時に購入したビットコインを、価値が上昇して1BTC=3000万円になった時に不動産購入に充てた場合、その差額2000万円が暗号資産を譲渡したことによる利益(譲渡益)とみなされ課税対象となります。
日本の税制ではこの利益は原則「雑所得」に分類され、確定申告で総合課税の対象となります。したがって暗号資産で支払ったことによる含み益への税額分を別途現金で用意する必要があります。逆に暗号資産の値下がり局面で支払いに使った場合は譲渡損が発生し得ますが、損失は他の所得と相殺できず繰越控除もできない点にも留意が必要です。
不動産の売買に伴う税金も発生する
不動産そのものに関わる税金についても確認しましょう。
売買に伴い発生する不動産取得税や登録免許税、印紙税といった各種税金は、暗号資産決済でも免除されるものではありません。例えば課税業者から建物を購入する際に課される消費税は、売主(業者)が暗号資産で受領した代金の中から所定額を納税することになります。
なお、日本では2017年より暗号資産そのものの売買について消費税非課税となりましたが、これは交換業者での取引に関する取扱いであり、不動産の売買代金に含まれる消費税とは別の論点です。結局のところ、暗号資産で支払うことで税金面の優遇が得られるわけではなく、通常の不動産取引と同様の税コストがかかる点は心得ておく必要があります。
以上のステップと注意点を踏まえれば、暗号資産による不動産購入は技術的にも制度的にも十分可能であり、あとは買い手と売り手双方の合意と信頼関係を構築することが鍵となります。
実際、海外では暗号資産長者が高級住宅を購入したり、日本国内でも暗号資産で投資用物件を取得するケースが現れ始めています。例えば米国フロリダ州ではビットコイン決済で数億円規模の住宅売買が報じられました。
こうした成功事例が積み重なるにつれ、市場の信頼も高まりつつあります。
暗号資産×不動産が拓く未来|メリットとリスクを踏まえて一歩先の投資へ
暗号資産で不動産を購入することは、メリットとリスクの両面がありますが、そのバランスを理解すれば新時代の投資手法として大きな可能性を秘めています。
メリットとしては、国際間でもスピーディーに大口決済ができる利便性、暗号資産を実物資産に変えることで得られる安定性、ブロックチェーンによる透明性の高さなどが挙げられます。
一方で価格変動リスクや税務処理の煩雑さ、セキュリティ管理の責任といった課題も無視できません。
しかし、これらのリスクは事前の準備と専門家の協力によって十分対処可能です。信頼できる不動産会社や法律・税務の専門家と連携し、リスクを回避するための契約書の作成、エスクローやスマートコントラクトの活用などをすることで、安全性を確保しつつ暗号資産決済の恩恵を享受できるでしょう。
暗号資産と不動産の融合は、今後さらに進展すると見込まれています。世界各国の政府機関も不動産登記へのブロックチェーン活用を模索しており、スウェーデンやジョージアでは土地台帳システムにブロックチェーンを導入する試験が進行中です。
こうしたインフラ面の整備が実現すれば、暗号資産での決済から権利移転登記まで一貫してブロックチェーン上で完結する未来も現実味を帯びてきます。不動産という伝統的な資産クラスに暗号資産の革新性が加わることで、投資の在り方はより自由でグローバルなものへと変貌していくでしょう。
さいごに
最後に重要なのは、投資家がこの新たな潮流にどう向き合うかです。
暗号資産で不動産を買うことは一見ハードルが高いように感じられるかもしれません。
しかし、本稿で述べたように市場環境は整いつつあり、既に数多くの成功例が生まれています。従来の銀行融資や送金に縛られないスピーディーな取引、そしてデジタル世代ならではの資産運用の妙味を味わえるのが暗号資産×不動産の魅力です。
もちろん投資には変わりありませんから、リスク管理と情報収集は怠らずに行う必要があります。それでも、もしあなたが暗号資産を活用した新しい投資の一歩を踏み出したいと考えるなら、不動産という安定資産への暗号資産による投資は十分に検討に値するでしょう。
今、不動産業界は静かに変革の時を迎えています。その変革の原動力の一つが暗号資産であり、ブロックチェーン技術です。暗号資産で不動産を買う——かつては奇抜に聞こえたこの選択肢も、数年後には当たり前の光景となっているかもしれません。未来の不動産投資の形を先取りし、ぜひその可能性を感じてみてください。あなたの次なる不動産購入が、デジタル通貨で実現する日もそう遠くはないでしょう。
いずれにせよ、暗号資産で不動産を購入する場合は、専門家の協力が重要です。
リスクが現実化する前にまずはお気軽にご相談ください。