DAOと法律

株式会社に代わる新しい組織形態として注目されているDAO。

日本では、DAOについて定めた法律がまだありません。そのため、DAOで事業やプロジェクトを運営しようとすると、様々な問題が生じてしまいます。

このコラムでは、DAOと法律について、弁護士が解説します。

目次

DAOとは?

ここでは、DAOとは何か解説します。

web3の世界では重要な概念?DAO(自律分散型組織)とは?

DAOとは、Decentralized Autonomous Organizationの頭文字をとったもので、日本語では、「自律分散型組織」などと訳されます。

日本語に訳しても、全く何を意味するのかわからないこの単語ですが、Web3の世界では、重要な概念になっています。

DAOは、自由民主党デジタル推進本部NFT制作検討PTによるホワイトペーパー(案)では、「特定の中央管理者や階層構造を持たず、構成員・参加者によって、ブロックチェーン等の分散台帳に記録されたコード等に基づき自律的に運営されるガバナンスシステムを持つ新しい組織ガバナンスの形態」と定義されています。

DAOは、株式会社に代わる新しい組織形態として、あるいは、組織内の各プロジェクトの管理手段として、現在注目されています。

DAOの特徴

DAOについては、日本では、法律が定められていないため、定義が人によって様々ですが、一般的に共通認識とされている特徴は、

  1. 中央集権的な管理者やリーダーが存在しないこと
  2. コミュニティメンバーなどで決めたルールに従って、自律的に運営されること
  3. 意思決定などの運営がブロックチェーンのスマートコントラクトによってなされること

です。

DAOには、株式会社でいう「株式」がありませんが、似たような概念として、組織の運営方針に対して参加者一人ひとりが投票を行うことができるガバナンストークンによって意思決定がされることがあります。これによって、会社代表者による突然のルール変更などもなく、株式会社と比較すると、より民主的な運営方法とも言われています。

ただし、日本においては、③をのぞいた、①+②の意味合いで使われることも多いです。この場合は、組織内のプロジェクトやコミュニティの管理手段としての意味合いが強く、国産NFTなどで「●● DAO」という場合には、そのような意味合いで使われています。

DAOの具体例

DAOのもっとも典型的な例は、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)です。

ビットコイン(BTC)は、サトシナカモトによって作られた、もっとも有名な暗号資産ですが、これは、ブロックチェーン上で決められたルールに従い、発行や取引承認などの管理運営がされており(③)、株式会社でいう代表取締役や株主総会などの機関による意思決定がなくても、自動的に管理運営がされていきます(①+②)。ビットコイン(BTC)を保有する人は、ビットコイン(BTC)のDAOのコミュニティメンバーとなります。

DAOの法規制と問題点

ここでは、DAOの法規制と問題点について解説します。

日本の法規制と問題点

日本では、DAOを定めた法規制はありません。

そのため、DAO自体には株式会社のように法人格が認められず、また、コミュニティメンバーのDAO内での責任の有無も不明確であることなどから、多くの問題が生じてしまいます。

具体的には、

  • DAO自体が契約当事者になることができない
  • 許認可が必要な事業をDAOが主体となって行うことができない
  • 税務上、資産や損益の帰属主体となることができない
  • コミュニティメンバー間の責任の所在が明らかでない
  • コミュニティメンバーの第三者に対する責任の有無が明らかでない

などが考えられます。

例えば、DAOで運営するプロジェクトで、エンジニアにシステム開発を依頼するとしましょう。

この場合、DAO自身に法人格はないため、エンジニアとの業務委託契約の契約主体となることができず、DAOのコミュニティメンバー(ファウンダーとなるのが一般的でしょうか)と当該システム開発業者が業務委託契約を締結することにならざるを得ません。

そうすると、権利義務の帰属主体は、基本的にDAOのコミュニティメンバー個人となり、DAO自身及び他のメンバーは契約に拘束されない(責任を負わない)ことになります。

業務委託料の不払いがある場合でも、当該契約主体となった個人のみが訴訟や強制執行の対象となり、DAOに対して訴訟提起をしたり、DAOに保管されている資産や他のメンバーの資産等を強制執行の対象とすることができないおそれがあります。

また、DAOの資産や損益を税務上、どのように判断するのかも問題です。

本来であれば、DAOの資産や損益は、DAOそのものに帰属するのがシンプルであり、実態には合致しています。これは、株式会社と同じように考えるのが分かりやすいと思います。

しかし、現時点では法規制もなく、株式会社のように権利利益の帰属主体となれないため、メンバー個人(または法人)にそれらの資産や損益が紐づくといった形とならざるを得ません。

そうすると、コミュニティメンバー個人が、納税などをすることになりかねず、他のコミュニティメンバーとの関係で、不平等な状態を生み出すことにもなりかねません。

なお、現時点では、DAOのメンバー間で正確に契約書等を取り交わすといったことがなされていないのが現状で(そもそも匿名でDAOに参加するメンバーも多く、文化としてそのような手法が適していないかもしれません。)、リスクは極めて高いといえます。

以上のように、日本でDAOを運営する場合には、日本の各法規制が誰にどのように適用されるのか、あるいは、税務上どのような扱いを受けるのかなど、慎重に判断する必要があります。

海外の法規制

米国では、ワイオミング州で初めて、DAOの法人化を認める法案が承認されました。

この法律によって、ワイオミング州のDAOは、ワイオミング州の有限責任会社として2022年7月から登記できるようになりました。

「American CryptoFed DAO」が適用第1号となりました。

まとめ

DAOは、今までの株式会社のあり方を根本から変える革新的なものではありますが、まだ日本においては、法規制も整っておらず、既存の法律に照らした個別具体的な検討が必要となります。

したがって、そのメリット・デメリットや法的リスク・税務リスクなどを一つ一つ精査したうえで、DAOを利用する必要があります。

日本においては、複雑な仕組みにならざるを得ないのが現状ですので、DAOによって、組織を運営しようとする方は、まずは弁護士にご相談ください。

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