
協議離婚を検討されている方は、できるだけ早く、穏便に新しい生活をスタートさせたいとお考えのことでしょう。家庭裁判所での調停や裁判を経る離婚は、解決までに1年から2年かかるケースが多く、精神的にも費用的にも負担です。その点、夫婦間の話し合いで成立させる協議離婚は、コストが抑えられます。
ただし、スピードを重視するあまり決めるべきことを決めないと後悔する可能性があります。本記事では、後悔しない協議離婚を実現するためにすべきことを解説します。
目次
協議離婚とは?
協議離婚とは、夫婦間の話し合いだけで離婚に合意し、市区町村役場に離婚届を提出して成立する離婚方法です。裁判所などの公的機関の介入を必要とせず、当事者間の自由な意思に基づいて離婚が成立するため、日本の離婚件数において圧倒的多数を占めています。
協議離婚が成立するための要件は、夫婦双方に離婚の意思があり、離婚届に当事者双方の署名と成人2名の証人の署名があれば、原則として離婚が成立します。
協議離婚のメリットは?
協議離婚のメリットは、主に以下の3つです。
迅速な離婚成立が望める
夫婦双方が離婚に合意しさえすれば、迅速に離婚が成立します。夫婦で合意さえすれば、離婚理由について問われることはありません。
経済的負担を強いられない
夫婦双方で話し合いがつけば、経済的負担を強いられません。調停や裁判になった場合、裁判所に支払う申立費用等が発生しないからです。
夫婦間で柔軟な交渉ができる
夫婦間で合意ができれば、それぞれの事情を考慮に入れた柔軟な財産分与や面会交流の取り決めが可能です。夫婦が直接話し合いをすることで、互いの心情や希望を伝え合い、納得のいく形で解決できる可能性があります。
協議離婚のデメリットは?
協議離婚はメリットがある一方でいくつかのデメリットがあります。
将来的なトラブルのリスク
裁判所によるチェックや法的な強制力がないため、口約束や形式的な合意書では、養育費や慰謝料の不払いが起こるなどトラブルが起こる可能性が高いです。口頭または私的な離婚協議書による合意だけでは支払いを怠った場合、直ちに強制執行ができません。強制執行を行うためには、改めて裁判所の判決や調停調書が必要で、結局、時間と手間がかかってしまいます。
不利な条件で合意してしまうリスク
夫婦の一方が法律知識に乏しい場合、知識や交渉力のある相手に対して不利な条件で合意してしまうリスクがあります。
感情的な対立が長期化するリスク
夫婦だけで話し合うため感情的になりやすく、話し合いが膠着し、かえって時間がかかる場合があります。
協議離婚をスムーズに進めるための事前準備5ステップを解説
協議離婚を成功させるカギは、交渉を始める前にどれだけ万全な準備を整えられるかにかかっています。特にモラハラやDVが背景にある場合、安全確保と証拠収集のタイミングが重要です。
ステップ1:離婚の意思を固め条件の優先順位を決める
離婚の意思を固めて、離婚条件の優先順位を決めましょう。本当に離婚したいのか、離婚すべきかを冷静に再確認することが重要です。その上で、具体的な離婚条件について、自分なりの優先順位を明確にしましょう。
財産分与、養育費、親権など、どの条件が譲れないラインで、どこまで妥協可能かをリスト化します。例えば、離婚自体を優先させて他の条件を譲歩するのか、あるいは養育費の確保さえできれば、財産分与の割合は2分の1以下で妥協するのか、といった判断をしやすくするためです。事前に離婚後の生活の見通しを立てておくことで、交渉における戦略的な判断が可能になります。
ステップ2:財産状況の把握と離婚原因の証拠収集
交渉を有利に進めるために、夫婦の共有財産全体を正確に把握し、離婚原因の証拠収集をしましょう。
預貯金、不動産、保険の解約返戻金、退職金見込額、住宅ローン残高など、すべての財産目録を作成しましょう。特に別居後の財産分与の基準日確定のためにも、現在の財産状況の把握は必須です。
相手に不貞行為、DV(ドメスティック・バイオレンス)、モラハラ(モラルハラスメント)といった有責行為が離婚原因にある場合は、必ず客観的な証拠を集めることが求められます。証拠は交渉を有利に進めるための強力な武器となります。
DVの証拠となり得るものには、DVを受けた際の診断書、ケガの写真、DVの様子を記録した音声や動画、日記やメモ、そして警察や配偶者暴力相談支援センター等への相談記録などが挙げられます。客観的な証拠をできるだけ多く集めておくことが、裁判になった場合でも自身の主張を裏付けるために必要です。
ステップ3:安全な交渉方法の選択と別居の検討
相手からDVやモラハラを受けている場合、安全な交渉方法の選択と別居を検討しましょう。
相手が暴力的であったり、モラハラ傾向があったりする場合、直接口頭で離婚条件について伝えることは危険を伴います。まずはご自身の身の安全を最優先し、別居を検討しましょう。モラハラやDVから逃げるためには別居を最優先に考えるべきですが、安全かつ有利に離婚を進めるためには、別居を切り出す前に、必ず証拠収集を終えておくことが鉄則です。一度離婚を切り出して別居すると、相手のガードが固くなり、証拠を集める機会が限られてしまうためです。別居先や別居日を決め、離婚後の生活を計画し、戦略的に行動しなければなりません。
ステップ4:別居中の生活設計と婚姻費用の請求
別居中の生活設計と婚姻費用の請求をしましょう。
法律上の婚姻関係が継続している限り、夫婦は互いに生活費を分担する義務(婚姻費用分担義務)があります。離婚を前提に別居したとしても、婚姻費用の支払い義務は離婚が成立するまで続きます。
別居後、相手方が生活費を入れない場合には、婚姻費用の分担請求を行うことが考えられます。まずは夫婦間で話し合い、まとまらない場合は家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てられます。申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者間で決めた家庭裁判所です。
婚姻費用の請求は、経済的に自立できていない側の生活を守るだけでなく、相手方が婚姻費用の支払いを嫌がる場合、早期に協議離婚に応じさせたり、条件を譲歩させたりする強力な動機付けにもなります。
ステップ5:話し合いが困難な場合は早期に弁護士へ相談する
相手との話し合いが困難な場合、早い段階で弁護士に相談をしましょう。有利な離婚を求めるなら、弁護士への相談タイミングは早ければ早いほどよいとされています。特に、離婚の意思が固まった段階で、まだ相手に切り出していない時に一度弁護士に相談し、法的な観点からのアドバイスを得ておくことは非常に有益です。
モラハラやDV、または感情的な対立から相手との直接交渉を避けたい場合、弁護士を代理人に立てることですべてのやり取りを任せられます。精神的な負担から解放され、弁護士が冷静に協議離婚の話し合いを進めることが可能です。
協議離婚の成立が見込めず難航し、長期化する可能性がある場合、弁護士に相談し、適切な法的手段を選択することが、結果的に離婚成立への近道となります 。
協議離婚で必ず決めるべき重要事項|子どもの問題
未成年の子どもがいる場合、親権者、養育費、面会交流の3つについて、離婚届を提出する前に必ず合意し、取り決めておく必要があります。特に親権者が決まっていない場合、離婚届は受理されません。
親権者を決定する
父親と母親のどちらが親権者になるか必ず決めましょう。親権者を夫婦のどちらにするか話し合いで決まらなかった場合、最終的には家庭裁判所が審判や判決で決定します。この際、家庭裁判所が最も重視するのは、子どもの福祉に適うようにという観点です。裁判所が親権者を判断する際の主要な要素には、以下のようなものが含まれます。
- 監護実績
これまで子どもを主に育ててきた実績や、親の監護能力(年齢、健康状態、愛情の度合い、経済的・精神的環境)が重要視されます。 - 子どもの意思の尊重
子どもの年齢が15歳以上であれば、裁判手続き上、子どもの意思を聞く機会があり、その意思が尊重されます 。 - 面会交流の寛容性
親権者となった場合に、他方の親との面会交流に対してどれだけ寛容になれるかという点も重要な判断要素です。子どもは両親双方と交流することで人格的成長を遂げるという観点から、自分の感情よりも子どもの利益を優先できる親が適格と判断されます。
協議離婚の交渉においてもこれらの判断要素を意識し、子の福祉を最優先した養育計画を提示することが、親権確保や交渉をスムーズに進める上で重要です。
養育費の金額を決める
適切な養育費の金額を決めましょう。養育費は、子どもが経済的、社会的に自立するまでに必要とされる生活費であり、親の義務です。支払期間(通常は成人まで)と金額を定めます。
養育費の金額を決定するにあたっては、家庭裁判所が作成した養育費算定表を使用するのが、最も公平で客観的な基準となります。裁判所での調停や裁判においても算定表が活用されるのが一般的です。算定表の利用手順は以下の通りです。
- 子どもの人数と年齢を確認する
子どもが1人か2人か、また、0〜14歳か15歳以上かによって、使用する表が異なります 。 - 親の年収を確認する
養育費を支払う側(義務者)と受け取る側(権利者)双方の年収を確認します。給与所得者の場合は源泉徴収票を基に、自営業者の場合は確定申告書の課税される所得金額を年収として計算します。 - 算定表から金額の目安を決定する
双方の年収を算定表に当てはめ、標準的な養育費の金額の幅を確認します。
特別な事情がない限り、算定表で示された金額の幅を超えるような高額または低額な金額は著しく不公平と判断され、認められにくい傾向にあります。協議離婚の交渉では、この算定表に基づく金額を基準として話し合いを進めることが早期合意への道筋となります。
面会交流の具体的なルールを決める
面会交流の具体的なルールを決めましょう。面会交流は、親権を持たない親と子どもが定期的に交流し、情報交換を行うことで、子どもの健やかな成長を支えるために重要なものです。親権者となった側も可能な限り面会交流に協力する義務があります。協議離婚では、後々のトラブルを防ぐために、面会交流の具体的なルールを細かく設定しておくことが重要です。話し合って決めるべき具体的な項目には、以下のようなものがあります。
- 頻度と時期
面会交流の頻度と時期をきましょう。月に1回以上2回未満が最も多く、長期休暇中の交流を別途定めることもあります。 - 方法
面会交流の方法を具体的に決めましょう。宿泊の有無、場所(自宅、公共施設など)、子どもの引き渡し方法等です。 - 連絡方法
面会交流に関する連絡方法を具体的に決めましょう。監護親と非監護親のLINEで行うか、あるいは弁護士を介して行うかなどを決めます。
協議離婚で必ず決めるべき重要事項|お金と財産の問題
子どもの問題と並んで、お金と財産に関わる取り決めは、協議離婚を成立させるにあたって重要なポイントとなります。
財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦の協力によって築いた共有財産を、離婚時に原則として2分の1ずつ公平に分けることです。対象となるのは、預貯金、不動産、生命保険の解約返戻金、株式、退職金(算定可能額)、車など、名義がどちらであるかに関わらず、結婚生活中に形成されたすべての共有財産です。ただし、婚姻前から所有していた特有財産や、夫婦の協力とは無関係に得られた財産(相続財産など)は対象外です。
財産分与の対象となる財産を確定させる基準日は、原則として別居を開始した時点とするケースが多いです。ただし、離婚前に別居が開始されていない協議離婚のケースでは、夫婦関係の協力が無くなった日を特定することが難しいため、離婚時点が基準日となることが多いです。
慰謝料
相手方の不貞行為、DV・モラハラ、悪意の遺棄など、有責行為によって精神的苦痛を受けた場合に、その苦痛に対する損害賠償として請求が可能です。慰謝料の金額は、離婚原因、婚姻期間の長さ、精神的苦痛の程度、子どもの有無など、さまざまな事情を総合的に考慮して決められます。裁判例を基にした慰謝料の相場は、以下の通りです。
- 不貞行為を原因とする場合|100万円~300万円前後
- 暴力(DV)を原因とする場合|50万円~300万円前後
例えば、不貞期間が長期に及び婚姻期間が20年以上と長く精神的な診断を受けた事例では、相場の中でも高めの200万円が認定された判例があります。一方で、暴言や暴力の程度が軽微で婚姻期間が短期間である場合は、100万円に留まった事例も存在します。
協議離婚の交渉では、これらの裁判所の相場を知っておくことで、自分が不当に低い金額で合意してしまうことを防げます。
年金分割
年金分割制度は、夫婦のどちらか一方または双方が加入していた厚生年金(共済年金を含む)の記録を離婚時に分割し、将来受け取る年金額を公平にするための制度です。年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。
- 合意分割|婚姻期間中の厚生年金記録を、夫婦の合意または裁判所の決定により分割します。
- 3号分割|2008年4月以降の国民年金の第3号被保険者(専業主婦等)であった期間については、相手の合意がなくても自動的に分割されます。
年金分割の手続きを進めるためには、まず年金事務所(または共済組合)に対し年金分割のための情報通知書を請求します。この情報通知書には、夫婦双方の氏名、基礎年金番号、婚姻期間、そして分割対象期間の標準報酬総額などが記載されています。情報通知書を請求するには、年金分割のための情報提供請求書、戸籍謄本、年金手帳またはマイナンバーカードなどが必要です。この通知書を取得し、具体的な分割割合について合意した内容を、公正証書や調停調書に記載します。
協議内容を確実に守る!公正証書の作成手順と効果
協議離婚のデメリットで述べた将来的なトラブルのリスクを避けるには、公正証書の作成が不可欠です。協議離婚で早期に再出発できたとしても、養育費や慰謝料の支払いが滞ってしまえば、生活が困難になるからです。
公正証書を作成すべき理由
協議離婚における最大の不安要因である養育費の不払いリスクを解消するのが、公正証書です。公正証書とは、公証役場において、公証人が作成する公文書です。公正証書を作成し、養育費や慰謝料などの金銭の支払いについて、強制執行認諾文言を付記します。そうすることで相手方が約束の支払いを怠った場合、裁判の手続きを経ることなく、直ちに強制執行が可能になります。
口頭での約束や夫婦間で作成した私的な合意書には、強制執行力は原則としてありません。公正証書は、将来のトラブルを回避するための保険と位置づけられます。
公正証書作成の流れ
公正証書には、親権、養育費、財産分与、慰謝料、年金分割など、夫婦で合意した離婚条件のすべてを記載します。以下の流れで作成します。
- 合意内容の確定|夫婦間で離婚条件について合意し、文書化します。
- 公証役場への相談・予約する|公証役場に連絡し、作成したい公正証書の内容を伝え、必要書類を確認して予約を入れます。
- 案文を確認する|公証人が案文を作成し、当事者が内容を確認します。
- 署名・捺印する|予約した日に公証役場に行き、公証人が読み聞かせた内容に問題がなければ、夫婦双方が署名捺印をして公正証書が完成します。
公正証書作成の費用
公正証書の作成手数料は、取り決めた金銭の目的の価額(養育費や慰謝料の合計額など)によって、法律で以下のように定められています。例えば、養育費や慰謝料の取り決め総額が500万円の場合、手数料は11,000円です。
| 目的の価額(慰謝料・養育費の合計額) | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円を超え1000万円以下 | 17,000円 |
| 1000万円を超え3000万円以下 | 23,000円 |
離婚届を提出する際に注意するポイントは?
すべての離婚条件について合意し、必要に応じて公正証書を作成したら、いよいよ役所へ離婚届を提出する最終段階に入ります。その際の注意点について解説します。
離婚届を正確に記入する
離婚届は、各市区町村役場やウェブサイトから入手できます。記入を間違えると受理されないため以下の点に注意しましょう。
- 住所・世帯主欄|住民票に記載されている通りに記載します。すでに別居していても住民票を移していなければ、同居していた当時の住所を記載します。
- 本籍欄|現在の夫婦の戸籍に記載されている本籍と筆頭者の氏名を正確に記載します。
- 未成年の子の氏名欄|親権を行う側の子どもの氏名を夫が親権を行う子、妻が親権を行う子に分けて記載します。この欄に記載漏れがあると、離婚届は受理されません。
2名の証人に署名・捺印をもらう
協議離婚の成立には、成人2名の証人による署名捺印が法律上必須の要件です。証人欄の記載がない場合、役所は離婚届を受理してくれません。証人の役割は、当事者以外の第三者として、夫婦間に離婚の意思があったことを最終的に確認し、当事者の離婚意思を表明させる点にあります。
実際には、証人が見つからないというよりも、証人を頼みにくいという悩みを抱える方が多くいらっしゃいます。特に、離婚することを周囲に知られたくない、家族や友人には頼みづらいという状況です。そのような場合は、弁護士に相談して解決方法をアドバイスしてもらいましょう。
離婚届の提出先に気を付ける
離婚届は、夫婦の本籍地または住所地の市区町村役場に提出します。本籍地以外の役所に提出する場合、夫婦の戸籍謄本の提出が必須です。本籍地の役所であれば、戸籍謄本は原則として不要です。
まとめ
協議離婚は、時間と費用を節約しあなたの新しい人生を早期にスタートさせるための、最も実用的で優れた方法です。
日本の離婚件数の多くを占めるのが協議離婚であるという事実からも、多くの人々がこの方法を選択し再出発を果たしています。協議離婚が成立し役所に離婚届を提出したら、役所は形式的要件を満たしているか(親権者の記載があるか、証人の署名があるか)を審査し、問題がなければ受理されます。言い変えれば取り決めた内容の公平性や適正さについては介入しないため、離婚前の準備が離婚後の生活安定のために重要なことがわかります。
交渉が困難であったり、相手が非協力的であったり、モラハラやDVが背景にある場合は、感情的にならず、安全確保と証拠収集を最優先してください。そして弁護士のサポートを早期に受けることが、結果的に長期的なストレスを回避し、円満な協議離婚への近道となります。
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