離婚の際には財産分与を行い、夫婦で作り上げた財産を公平に分けることになります。財産分与の対象には現金や住宅、自動車などが該当しますが夫婦の預貯金に関してはどのように財産分与をすべきでしょうか。今回の記事では財産分与の中でも「預貯金」の取り扱い方について詳しく解説します。

預貯金は財産分与の対象である

財産分与では夫婦が婚姻中に一緒に築いてきた財産を分けることになります。財産分与は原則として「2分の1ルール」によって分けられるので、預貯金も等しく分けることになります。婚姻中に一生懸命貯めてきた預貯金については夫婦共有の財産とみなすので、夫婦のどちらかの名義であっても財産分与の対象としています。

よくある例としては、専業主婦の妻とサラリーマンの夫の場合、夫の名義の預貯金口座に貯金をしているケースです。給与が振り込まれる口座で生活費をやりくりしていることは多く、妻が自分の口座にほとんど財産を持っていない場合もあるでしょう。

この場合、夫名義の預貯金口座であっても夫だけの財産ではありません。妻も家計のやりくりを行い預貯金ができるように協力していたので、財産分与を受けることができます。もちろん、専業主夫と収入のある妻のケースでも同様です。しかし、すべての預貯金が財産分与の対象となるわけではありません。

離婚時の財産分与で対象とならない預貯金とは

財産分与の対象とならない預貯金には次のような例が挙げられます。

結婚前の預貯金

結婚前にご自身が尽力して貯めていた預貯金は対象となりません。独身時代に貯めていたお金に関しては「特有財産」とみなすので財産分与の対象から除外されています。しかし結婚後に夫婦の財産を形成するために預貯金口座を新設している方ばかりではありません。

結婚前からの通帳を引き続き使っている方も多いでしょう。その場合は、結婚後に増えた預貯金を対象とします。古い通帳や金融機関で一定期間保管されている取引履歴を元にして算出しています。

相続や贈与された預貯金

婚姻中であっても親族から贈与や相続した財産は、夫婦が協力して取得した財産ではないため特有財産であり財産分与の対象にはなりません。贈与や相続の証明となる契約書や納税関係の書類、遺産分割協議書や遺言状などで事実を証明すれば財産分与から除外できます。

熟年離婚における特有財産は共有財産とみなすケースも

本来なら結婚前の預貯金は特有財産であり、離婚時には財産分与の対象になりません。しかし熟年離婚のケースでは結婚前、と言ってもすでに数十年経過しています。長期間の婚姻生活が継続した後に離婚する場合、預貯金の特有性の判断が難しいため裁判官が共有財産と判断する事例もあります。

例えば結婚前から定期預貯金にしてあった場合には通帳上に履歴も残り、特有性を主張することができます。しかし、普通預貯金で取引数も多く結婚前に使っていた通帳も残っていない場合には特有性の主張が難しいのです。

口座開設後数十年経過している場合には、すでに金融機関にも過去の取引履歴は保管されていないでしょう。(一般的に金融機関は7年~10年を超えると取引履歴の保管を破棄します)すると、特有性の主張が出来ないため共有財産として財産分与をすべき、と裁判所にて判断される可能性があります。

共働き夫婦の預貯金口座はどうやって財産分与するの?

共働きの家庭も多い現代においては、預貯金をどうやって財産分与しているのでしょうか。夫婦ともに収入が多い場合であっても、財産分与の考え方が変わるわけではありません。婚姻生活の中で共に築いてきた財産は分けることになります。

財産分与は専業主婦の妻が夫に財産を請求する事案が様々なサイトで紹介されていますが、共働きで妻名義の財産が多い場合も財産分与の対象となるので2分の1ルールは適用され、夫側から請求を受けることもあります。

共働きで収入格差がある場合は?

共働きでも収入格差があるご夫婦もたくさんおられます。よくあるのは正社員として働く夫と、パートタイマーの妻のケースです。この場合共働きであっても妻の収入は扶養内の範囲であるため収入格差があります。

しかし、この場合も夫婦が共に築いた財産であることは変わりがないため、預貯金についても基本的な財産分与である2分の1ルールに沿って行われます。

収入格差が著しい場合は2分の1ルールが適用されない場合も

財産分与は「2分の1ルール」が適用されていますが、すべての財産分与でこのルールが適用されているわけではありません。特に、ご夫婦のうちどちらかが特殊な才能で高額の財産を形成している場合には2分の1ではなく、一方に渡す財産が少なくなる傾向があります

例えば医師、会社経営者、士業や芸術家の方などご自身の才能で収入を得ているケースでは、片方に高額の預貯金がある場合が多いのです。こうした特殊なケースは弁護士に相談をし、財産分与をどうするべきか早めに相談をすることがおすすめです。

【関連】離婚時の財産分与は相談すべき?

共働きの夫婦がそれぞれお財布を分けている場合

共働きでそれぞれが安定して収入を得ている場合には、夫婦のお財布をきっちり分けて必要な生活費や養育費を共同で支出するケースがあります。この場合も原則は2分の1ルールに沿って財産分与をするため、今まで知らなかった双方の財産状況をオープンにする必要があります

一方で、東京家庭裁判所平成6年5月31日の判例では、芸術家の夫婦の財産分与において婚姻後も夫婦それぞれが個別に預貯金や著作権などの財産を管理し、必要時に応じて生活費を双方から支出していたことから預貯金と著作権は各自に帰属すると判断しています。(この判例では別途不動産は財産分与を行っています)

このように基本的には「2分の1ルール」であっても、事案によっては預貯金の財産分与を行わない場合もあります。

財産分与で子どもの預貯金口座はどう扱うの?

婚姻生活の中で子どもを授かり、子ども名義の預貯金に将来を見据えて貯金しているご夫婦も多いでしょう。では、子どもの預貯金口座は離婚時の財産分与ではどう扱うのでしょうか。この場合2つのパターンが考えられます。

お年玉など子どもが贈与を受けたものは財産分与の対象外

子ども名義の預貯金はお年玉やお小遣い、贈与を受けた際に貯蓄している場合があります。この場合は子ども自身の財産とみなすため、夫婦の離婚時の財産分与対象にはしません

夫婦が子どもの預貯金口座に貯蓄をしていた場合は対象

夫婦の婚姻生活中に子ども名義の預貯金口座を使って貯蓄に励んでいる場合もあります。この場合は財産分与の対象です。但し、こうした子どもの預貯金は進学費用や子供の将来に向けて蓄えているため、厳密に2分の1で分けるのではなく養育費などの視点で捉えて協議をすることが大切でしょう。

特殊な職業や高額の財産がある場合は2分の1ルールの対象外となりやすい

財産分与については2分の1ルールが適用されているため厳密には預貯金も半分に分けることになりますが、医師や士業、会社経営者の方など特殊な職業のケースや高額の財産を夫婦それぞれが形成しているケースでは、必ずしも2分の1ルールが適用されているわけではありません

著作権や不動産など預貯金以外の高額財産もあるケースでは、財産隠しにあってしまい協議が難航するケースもあります。離婚を決めた段階で弁護士に法律相談を行いご自身の利益をどう主張するべきか、調停や審判も見据えて慎重に話し合いを進めていくことが大切です。

まとめ

この記事では財産分与時における預貯金の取り扱いについて多角的に解説しました。結婚後に夫婦で共に築いた財産をきれいに清算するためにも、早めの法律相談がおすすめです。預貯金について特有財産を主張するケースや、隠されてしまった預貯金を調査するなど、様々な財産分与のケースに弁護士なら対応が可能です。是非お気軽にご相談ください。