離婚後も、夫または共同名義の家に妻が住み続けたいと考えるケースは少なくありません。
しかし、名義変更や住宅ローンの借り換え、財産分与の取り決めなど、気をつけるべきポイントは数多くあります。
トラブルを起こさないためには、法的・金銭的な手続きへの理解が必要です。
ここでは、妻が持ち家に住み続けるための方法や注意点をわかりやすく解説します。
目次
離婚後も夫の持ち家に妻が住み続ける方法
夫名義の家に妻が家賃を払って住む
夫が家の所有者である状態のまま、妻が家賃を支払って住み続ける形です。賃貸借契約または使用貸借契約として明文化することで、一定期間住む権利を得られます。
ただし、住宅ローンの名義人が家に住まないのは、契約違反となる可能性があります。ローン会社に確認を取るようにしましょう。
妻が住宅ローンを引き継ぎ、名義変更する
妻が住宅ローンを引き継ぎ、家の名義も自分に変更する方法です。これには金融機関の審査を通過しなければならないハードルがあります。
名実ともに妻の家として住み続けられるメリットがある一方で、経済的な負担も大きくなります。
「オーバーローンの家は財産分与できるか?|ペアローンについても解説」の記事も参考にしてください。
妻が住宅ローンの借り換えを行って妻が住む
夫名義の住宅ローンを、妻が別の金融機関から新たにローンを組んで一括返済し、自分の名義に切り替える方法です。
いわゆる借り換えによって、妻が家を取得し、今後の返済も自分で行う形になります。
住宅ローンを引き継ぐのと同じように、妻が借入審査に通過しなければなりません。住宅ローンの引継ぎ(名義変更)ができなかった場合に、有効な手段です。
財産分与で住宅ローンを一括返済して妻が住む
離婚時の財産分与によって、妻が現金を受け取り、そのお金で住宅ローンを一括返済し、家の名義を自分にする方法です。
例えば夫婦で共有財産が2,000万円あり、妻が1,000万円を受け取った場合、その1,000万円でローンを完済すれば、妻はローンのない家に住むことができます。
名義も自分に移すことで、将来のトラブルを避けられます。財産分与とローン返済をセットで考える、比較的整理しやすい方法です。
「住宅ローンが残っている家の財産分与はどうなる?」の記事も参考にしてください。
夫名義の家に離婚後も妻が住む場合の注意点
名義が夫のままで、離婚後も妻が住み続ける場合には、いくつかのリスクがあります。
場合によっては突然家を失う可能性もあるので、注意しましょう。
妻には家の所有権がないこと
夫の名義のまま家に住み続ける場合、妻にはその家に対する所有権がありません。
つまり、家を売る・貸す・修繕するといった判断はすべて名義人である夫の権限になります。
住み続けることはできても、自分の家ではないという立場に変わりはなく、法的にも不安定です。
家賃が発生する、しないなどの細かい違いはありますが、賃貸物件に住んでいるのと近いイメージになります。
夫がローン返済を滞納するとトラブルになること
住宅ローンが残っている場合、名義人である夫が返済を滞納すると、家は競売にかけられる可能性があります。
夫が名義人である限り、住宅ローン滞納のリスクがつきまといます。
滞納リスクに備えて、自分でも貯金をしたり、返済状況を確認したりなどする必要があります。
夫の意向で家から追い出される可能性がある
夫の名義の家に住み続ける場合、誰が住むかの最終的な判断も夫にゆだねられます。
離婚後に明確な取り決めがないまま居住を続けていると、「そろそろ出ていってほしい」と言われてしまう可能性もゼロではありません。
加えて、家に住み続けるには夫の理解が必要なため、離婚後もある程度の関係維持が望まれます。
将来のトラブルを避けるためにも、住み続けることについては事前に書面で合意しておくと安心です。
夫が家を売却する可能性がある
家が夫の名義であれば、たとえ妻が住んでいても、夫の判断で売却されてしまう可能性があります。
特に、夫の収入減や生活環境の変化などで、住宅を手放す決断に至るケースもあります。
妻に所有権がない以上、売却を止めることは基本的にできません。こうした事態に備え、あらかじめ居住継続に関する合意を文書で残しておくことが大切です。
離婚後、共同名義の家に妻が住む場合の選択肢
持ち家が夫単独の名義か、夫婦の共同名義かによって、離婚後に妻が住み続ける際の対応は少し異なります。
ここでは、家が共同名義の場合に、妻がそのまま住むための選択肢と注意点を紹介します。
「離婚の際、持ち家はどうなる?|ケース別に解説」の記事も参考にしてください。
持分を変更せずに妻が住み続ける
離婚後も名義を変えず、夫婦の共有名義のままで妻が住み続ける方法です。
具体的には、夫は住んでいないものの、住宅ローンを折半するなどが考えられます。
手続きが不要な一方で、所有権は夫にも残るため、家を売却・担保設定する際には夫の同意が必要になります。
固定資産税などの支払いも持分に応じて夫婦で負担する形になるため、トラブルを避けるためには費用分担や将来の対応を事前に話し合っておくことが大切です。
夫の持分を妻が取得して単独名義にする
夫の持分を妻に譲渡し、家の名義を妻単独にする方法です。譲渡は財産分与の一環として行われることが多く、贈与税はかからないケースが一般的です。
ただし、不動産の名義変更には登記手続きが必要で、登録免許税や司法書士費用などのコストがかかります。
名義を一本化することで、家の管理や処分がしやすくなり、妻が安心して住み続けられる環境が整います。
「離婚時の家の財産分与で確認すべきことは?手続きの流れを解説」の記事も参考にしてください。
夫の持分を妻が買い取って単独名義にする
夫の持分を妻が金銭で買い取る方法です。
売買契約として扱われるため、売買代金の支払いが必要となり、場合によっては不動産取得税や譲渡所得税が発生する可能性もあります。
費用負担は大きくなりますが、名義が完全に妻に移るので、その後のトラブルを回避しやすくなります。
「ペアローンは離婚時にどうなる?名義変更やおすすめの処理方法を紹介」の記事も参考にしてください。
離婚後に夫名義の家に夫が住み続ける場合にすべきこと
離婚後に、夫名義の家に夫が住み続ける場合、「そのまま住みづければいいだけでは?」と思う人も多いでしょう。
ですが、トラブルを回避するためには、知っておかなければいけないこともあるので、紹介します。
持ち家に相当する財産を分与しなければいけない
家が夫の名義でも、婚姻中に購入・ローン返済したのであれば、家は共有財産とみなされます。
夫がその家に住み続ける場合は、妻に対して家の持分相当分の財産(現金など)を分与するのが原則です。
例えば2,000万円の価値の家なら、1,000万円分の財産を妻に渡すなど、公平な分与が求められます。
「財産分与で争点になりそうなことは?【弁護士が解説】」の記事も参考にしてください。
妻が連帯保証人なら解除しなければいけない
住宅ローンの契約内容によっては、妻が連帯保証人や連帯債務者になっている場合があります。
離婚後もそのままにしておくと、夫が返済を滞納した場合に妻に迷惑がかかります。
そのため、離婚時は金融機関と相談し、妻を保証人から外す手続きを行いましょう。
新たに保証人を立てる、もしくは、夫単独でローンを組むなどの手続きも必要です。
妻と子どもの退去のタイミングを話し合う
夫が住むことになっても、離婚後すぐに妻や子どもが退去できるとは限りません。
特に子どもがいる場合は、転校や引っ越しのタイミングなどを考慮する必要があります。
トラブルを避けるためには、退去時期や一時的な居住継続について事前に取り決めておくのが理想です。
離婚後に住宅ローンが残る家で妻に名義変更をする際の注意点
妻に返済能力がないとローン審査を通過できない
名義変更するには、住宅ローンの契約も妻名義に切り替える必要があります。
そのためには、金融機関の審査を通ることが必須です。
もし妻の収入が少ない、あるいは信用情報に問題がある場合、審査に通らず名義変更ができない可能性もあります。
ペアローンを組んだり、親族に連帯保証人をお願いしたりなどの対策が必要になるかもしれません。
名義変更時に手続き費用や贈与税がかかることも
家の名義を変更するには登記手続きが必要で、登録免許税や司法書士費用がかかります。
無償で夫から名義を移す場合、形式上は贈与とみなされて贈与税の対象になることがあります。
ただし、離婚に伴う財産分与であることを明記すれば、贈与税が非課税扱いになるケースが多いです。
登記や税金の問題は、司法書士や税理士などの専門家に相談するのが安心です。
「離婚時の財産分与に税金はかかる?知っておきたい控除や税金の仕組み」の記事も参考にしてください。
団信(団体信用生命保険)の再加入が必要
住宅ローンを借りる際は、多くの場合、団体信用生命保険(団信)への加入が求められます。
これは契約者が死亡または高度障害になった場合にローン残高がゼロになる制度です。
名義変更して妻が新たにローン契約を結ぶ場合、団信に加入し直す必要がありますが、健康状態によっては加入できないケースもあります。
加入できない場合には、以下の方法を検討してみましょう。
- 団信なしで契約可能な住宅ローンを選ぶ
- 民間の生命保険で代替する
- 親族に保証人になってもらう など
新たな保証人が必要となる
妻が住宅ローンを引き継ぐ際、金融機関から新たに保証人を求められることがあります。
特に、妻単独の信用力だけでは不安な場合になどに、保証人を求められます。
保証人が見つからなければ、名義変更そのものが認められないこともあるため、事前に誰を保証人にするのかを検討しておく必要があります。
離婚後の住宅ローンや名義変更に関するよくある質問
旦那名義の家に妻が住むのはOK?
法律上は禁止されていないため、妻が住み続けることは可能です。
住宅ローンが残っている場合、妻が単独で住み続けることは、ローン契約に違反する可能性もあるため、事前に金融機関や夫との協議が必要です。
ローンなしの家に離婚後に妻が住む場合の注意点は?
名義が夫のままなら、妻に所有権はなく、退去を求められる可能性があります。
居住継続の合意を離婚協議書などに明記しておきましょう。
夫の家に妻が住んでも固定資産税はかかる?
固定資産税はあくまで名義人である夫が支払う義務を負います。妻が住んでいても、支払い義務は発生しませんが、話し合って分担するケースもあります。
まとめ
離婚後も夫名義や共同名義の家に妻が住み続けるためには、住宅ローンの名義変更、財産分与など、様々な対応が求められます。
夫名義のまま、妻が住み続ける方法もありますが、所有権や住宅ローン契約の内容によっては、将来のリスクも少なくありません。
例えば、夫が家を売却してしまったり、退去を命じられたりなどです。
安心して住み続けるためにも、各パターンのメリット・デメリットを理解し、離婚協議の段階でしっかりと話し合いと合意をしておくことが大切です。