離婚後の金銭支払いに関するトラブルを防ぐためには、公正証書を作成するのが有効です。
公正証書は、離婚時の取り決めの離婚時の取り決めを残す公文書で、公証役場で作成することができます。
特に養育費や慰謝料の分割払いなどはトラブルが起こりやすいですが、公正証書を作成することで、未払い時に裁判を経ずに、強制執行が可能になります。
ここでは、法的な強制力のある離婚公正証書の作り方や、記載すべき内容について解説します。
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目次
離婚公正証書は必ず必要?
離婚公正証書は必ずしも必要ではありませんが、作成することで多くのメリットがあります。
特に、養育費や財産分与、慰謝料などの金銭的な取り決めを確実に履行させるために有効です。
公正証書があると、相手が支払いを怠った際に、裁判を経ずに給与や財産の差し押さえを申し立てることができます。
仮に公正証書を作成せず、口約束や離婚協議書の作成のみだった場合、相手が約束を守らなかった場合には、裁判を起こさなければいけません。
離婚公正証書のテンプレート
離婚公正証書がどんなものなのか、まずは見本を見てみましょう。
見本を参考にしながら公正証書を作成することも可能ですが、完成したものは弁護士などの専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。
【離婚公正証書】 本公正証書は、夫(以下「甲」)と妻(以下「乙」)が協議離婚に合意し、離婚後の条件について取り決めた内容を明確にするために作成する。 第1条(離婚の合意) 甲および乙は、協議離婚することに合意し、本公正証書作成後、遅滞なく離婚届を提出する。 第2条(親権者) 甲および乙は、未成年の子(氏名:○○、生年月日:○○)の親権者を乙とする。 第3条(養育費) 甲は乙に対し、子の養育費として毎月○万円を支払う。 支払期限は毎月○日とし、乙の指定する銀行口座に振り込む。 養育費の支払期間は、子が満20歳に達する月までとする。 第4条(面会交流) 甲は乙の同意を得たうえで、月に○回、子と面会できる。 面会の具体的な日時・方法は、甲乙が誠実に協議して決定する。 第5条(財産分与) 甲は乙に対し、財産分与として○○(具体的な財産内容)を譲渡する。 手続きは、本公正証書作成後○日以内に完了するものとする。 第6条(慰謝料) 甲は乙に対し、慰謝料として○万円を支払うものとし、支払方法は○○とする。 第7条(年金分割) 甲および乙は、年金分割について合意し、按分割合を○%とする。 第8条(強制執行認諾条項) 甲は、本公正証書に基づく支払いを怠った場合、乙が裁判を経ることなく強制執行できることを認める。 本公正証書の作成に際し、甲および乙はその内容を十分理解し、署名・押印した。 令和○年○月○日 甲:______(署名・押印) 乙:______(署名・押印) 公証人:______(署名・押印) |
離婚公正証書の作り方の流れ
次に、離婚公正証書の作り方の流れを具体的に紹介します。
離婚に合意し離婚条件を取り決める
公正証書を作成する前に、離婚条件の取り決めを行いましょう。離婚時に決める内容は主に、以下の通りです。
- 親権
- 養育費
- 面会交流
- 慰謝料
- 年金分割 など
これらが決まったら、公正証書の作成に移ります。この段階では、まだ離婚届を出さないでください。
公正証書が受理されてから、離婚届を提出するのが一般的です。
離婚協議については「協議離婚とは|協議離婚の進め方や流れ・決めること」も参考にしてください。
離婚公正証書の下書きを作成する
離婚条件が決まったら、それをもとに離婚公正証書の下書き(草案)を作成します。草案は、以下の方法で作成してください。
- 自分で作成する:ネット上のテンプレートや公的機関の資料などを参考にする
- 弁護士に依頼する:夫婦の希望をもとに弁護士が公正証書を作成する
弁護士に依頼する場合、作成手間が省けるだけでなく、法的に有効な書類を確実に作成することができます。
公証役場に事前連絡をする
公証役場では、公正証書の作成には予約が必要です。事前に連絡し、以下の点を確認しましょう。
- 手続き方法や詳細
- 必要な書類
- 作成費用
- 公証人との面談日程
作成予定の下書きを事前にFAXやメールで送付すると、修正すべき点を指摘してもらえるため、当日の手続きがスムーズになります。
公正証書以外の必要書類を準備する
公正証書を作成する場合、以下のような書類が必要になります。
必要書類 | |
必ず必要 | ・それぞれの身分証 ・住民票 ・印鑑(認印可) |
財産分与がある場合 | ・不動産の登記簿謄本 ・預貯金の残高証明書や口座情報 ・株式や保険の契約書の写し |
年金分割を行う場合 | ・年金分割のための情報通知書 |
公証役場によっては、追加で必要となる書類があるため、事前相談の際に確認することをおすすめします。
公証役場で公正証書を作成する
必要な書類を準備したら、予約した公証役場で公正証書を作成します。
作成当日は、夫婦で公証役場へ行き、公証人の面前で書類の内容を確認し、署名・押印を行います。
当日の流れは以下の通りです。
- 公証人が公正証書の内容を読み上げる
- 夫婦双方が内容を確認し、署名・押印する
- 公証人が最終確認し、公正証書が正式に完成する
- 手数料を支払う
- 公正証書の正本・謄本を受け取る
作成は、双方が内容に合意していることが前提となります。もし一方が納得していない場合、作成はできません。
公正証書の受け取り・支払い開始
公正証書が完成したら、夫婦それぞれが謄本(写し)を受け取ります。原本は公証役場に保管されます。
公正証書が完成したら、取り決めに従いながら養育費や財産分与などを支払っていきます。
支払いは、銀行振込など、証拠が残る形で行ってください。
受け取る側は、支払いが滞った場合、公正証書をもとに強制執行を行います。
「離婚慰謝料を払わないとどうなる?リスクと対処法を解説」の記事も参考にしてください。
離婚公正証書に記載すべき内容
次は、証書に記載すべき内容について、詳しく説明します。
子どもがいる場合は養育費を決めたり、片方に離婚の原因がある場合には慰謝料を決めたりなど、夫婦によって記載すべき内容が変わります。
当事者の基本情報
まず、離婚する当事者の基本情報を記載します。具体的には、以下の内容が必要です。
- 氏名
- 生年月日
- 住所
- 本籍地
- 離婚する日付
- 婚姻期間(結婚日と離婚日)
これらの情報を明確に記載することで、法的効力を持つ文書としての正確性が保たれます。
子どもに関する決めごと
未成年の子どもがいる場合は、親権者や養育費、面会交流のルールを詳細に記載します。
【① 親権者の決定】
親権者は法律でどちらか一方が持つ必要があります。公正証書には、[○○(子どもの氏名)の親権者を○○(親の氏名)とする]と明記します。
【② 養育費】
養育費の支払いについて、以下の内容を詳細に記載します。
- 支払額(例:毎月○万円)
- 支払方法(銀行振込、手渡しなど)
- 支払日(毎月○日まで)
- 支払期間(例:子どもが満20歳になるまで)
養育費の未払いが発生した場合には強制執行が可能、といった条項を入れることで、支払いが滞った際の対応を明確にしておくことが重要です。
【③ 面会交流】
子どもと非親権者の親がどのように会うかを決めます。
- 頻度(例:月1回、第2土曜日)
- 方法(直接面会、オンライン通話など)
- 場所(親権者の自宅、公共の場など)
面会交流の取り決めがないと、離婚後にトラブルが生じやすいため、明確に記載しておくと安心です。
養育費については「法定養育費とは|民法改正で養育費の取り決めが不要に?」の記事も参考にしてください。
財産分与
財産分与では、婚姻期間中に形成された財産をどのように分けるかを決めます。記載する内容の例は以下の通りです。
- 預貯金(○○銀行○○支店の口座にある○万円を○○に譲渡)
- 不動産(○○市○○町○○の持ち家を○○に譲渡)
- 車・貴金属(○○車の所有権を○○が取得)
- 借金(住宅ローンやクレジットカードの債務をどちらが負担するか)
財産分与の内容が曖昧だと、後々争いになる可能性があります。認識のずれが発生しないよう、明確に記載しましょう。
財産分与については「財産分与で争点になりそうなことは?【弁護士が解説】」も参考にしてください。
慰謝料
慰謝料を支払う場合、その金額や支払方法を記載します。
- 支払額(○○万円)
- 支払方法(一括 or 分割)
- 支払期限(○年○月○日まで)
支払いが滞った場合は強制執行を認める、と記載することで、未払いリスクを防ぐことができます。
慰謝料については「離婚で慰謝料請求できる条件や理由」も参考にしてください。
年金分割
年金分割は、婚姻期間中に支払った厚生年金を夫婦で分ける制度です。公正証書には以下の内容を記載します。
- 年金分割を行うことの合意
- 分割割合(例:50%)
- 手続き期限(通常は離婚成立後2年以内)
年金分割をする場合、年金分割のための情報通知書を取得し、事前に内容を確認しておくことが重要です。
強制執行の承認
公正証書に、強制執行認諾条項を記載すると、支払い義務が履行されなかった場合に裁判をせずに相手の財産を差し押さえることが可能になります。
以下、記載例です。
[甲(支払義務者)が本公正証書に基づく養育費・慰謝料・財産分与の支払いを怠った場合、乙(受取人)は直ちに強制執行の申し立てができる。]
この条項があることで、支払いを確実に履行させることができます。
公正証書の作成日と署名
公正証書には、作成日を明記し、当事者と公証人が署名・押印する必要があります。
- 作成日(令和○年○月○日)
- 夫婦それぞれの署名と押印
- 公証人の署名と押印
これにより、文書の真正性が担保され、法的効力を持つことになります。
その他記載してもよい内容
以下のような内容も公正証書に記載することが可能です。
【離婚後の氏の変更について】
婚姻時の姓をそのまま使うか、旧姓に戻すか
【住宅ローンの処理】
離婚後にどちらが返済を続けるのか
【生命保険の受取人変更】
生命保険の受取人を元配偶者から子どもに変更する
次の見出しで説明しますが、公正証書には記載できる内容とできない内容があります。もし、作成中に悩んだ場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
離婚公正証書に書けないこと
次に、離婚公正証書に記載できないことを紹介します。
公正証書は法的効力を持つ重要な文書ですが、記載内容によっては無効になったり、強制執行の対象にならなかったりする場合があるので注意しましょう。
違法・公序良俗に反すること
法律に違反したり、公序良俗(社会的な道徳観念)に反する内容は、公正証書に記載できません。例えば、以下のような条項は無効とされます。
- 一方が再婚した場合、違約金を支払う
- 離婚後も相手の許可なく仕事をしてはいけない
- 取り決めを破ったら1億円を払う(高額すぎる取り決め)
このように、個人の自由を過度に制限する取り決めは、公正証書に記載しても法的効力を持ちません。
親権者の変更に関する取り決め
離婚時に親権者を決定しますが、将来的な親権者の変更を自由に決めることはできません。
例えば、子どもが10歳になったら親権を父親に変更する、などの取り決めです。
親権の変更には家庭裁判所の許可が必要であり、法的効力を持ちません。
親権を変更する場合は、離婚後に家庭裁判所で正式な手続きを踏む必要があります。
親権者の変更については「離婚後に親権を取り返すにはどうすればいいのか?手続きを解説」の記事も参考にしてください。
養育費の免除に関する合意
養育費は子どもの権利ですので、親が勝手に放棄することはできません。例えば、以下の内容は公正証書に記載できません。
- 養育費は一切支払わない
- 親権者が再婚したら養育費の支払いを免除する
養育費の取り決めは、子どもの利益を最優先に考える必要があり、公正証書でも法律に反する内容は認められません。
強制執行の対象にならない請求
公正証書には強制執行認諾条項を記載することで、支払い義務を履行しない場合に強制執行が可能になります。
しかし、金銭の支払い以外の約束は強制執行の対象外となります。例えば、以下のような約束です。
- 離婚後も毎月1回連絡を取ること
- 毎年誕生日にプレゼントを贈ること
このような条項は公正証書に記載できても、法的に強制することはできません。
感情的・あいまいな約束
感情的な内容や、あいまいな約束は、公正証書に記載するべきではありません。例えば、以下のような内容です。
- 離婚後も仲良くすること
- お互いの悪口を言わないこと
- 子どもを第一で考えること
公正証書にこのような内容を記載しても法的効力を持ちません。具体的な金額などの条件を記載するようにしましょう。
離婚公正証書は自分で作成できる?
自分で作成することは可能
離婚公正証書は、自分で作成することが可能です。
ただし、公正証書は公証人の関与のもとで作成されるため、最終的には公証役場で正式な手続きを行う必要があります。
自分で作成する場合、離婚条件を整理し、文書の草案を準備し、公証役場に相談することでスムーズに進められます。
自分で作るメリットデメリット
自分で公正証書を作成するメリット、デメリットは以下の通りです。
【メリット】
- 費用を抑えられる(弁護士・行政書士の報酬が不要)
- 自分のペースで作成できる
- 公証役場と直接相談しながら進められる
【デメリット】
- 法律的に適切な文言を考える必要がある
- 記載内容に不備があると修正が必要
- 強制執行認諾条項の書き方に注意が必要
公正証書は法的拘束力が強いため、不安がある場合は弁護士や行政書士に相談するのがおすすめです。
離婚公正証書の作成費用は?誰が払う?
離婚公正証書の作成には、公証役場の手数料や弁護士費用がかかる場合があります。
費用は、財産分与や養育費の金額によって変動し、誰が負担するかは夫婦の話し合いで決めるのが一般的です。
公証役場の手数料:5万円前後
公正証書の作成には、公証役場での手数料が発生します。
この手数料は、公正証書に記載する金銭の総額によって決まります。一般的な目安として、以下のように費用が設定されています。
公正証書の記載金額 | 公証役場の手数料 |
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超~200万円以下 | 7,000円 |
200万円超~500万円以下 | 11,000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超~3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超~1億円以下 | 43,000円 |
例えば、養育費が総額500万円、財産分与が300万円の場合は、手数料は17,000円と11,000円を合計した28,000円になります。
上記の手数料のほかに、正本・謄本の発行手数料もかかり、1,000円~3,000円程度が追加で必要です。
公証役場によって細かい計算方法が異なることもあるため、事前に確認しておきましょう。
弁護士に作成を依頼する場合:5~15万円程度
弁護士に依頼すると、作成の手間を省き、法的に確実な内容にできます。
特に、財産分与が複雑な場合や養育費のトラブルを防ぎたい場合は、弁護士に依頼するのがおすすめです。
以下、 費用の目安です。
- 公正証書の作成のみ:5~10万円程度
- 離婚協議や公証人役場への同席:3~5万円程度
行政書士に依頼する場合は、3~7万円程度が相場となります。
費用の負担は夫婦で話し合って決める
離婚公正証書の作成費用は、法律上どちらが負担すべきかは決まっていません。
一般的な負担方法を紹介します。
- 夫婦で折半する
- 養育費を受け取る側が負担(公正証書の作成を希望する側が支払う)
- 財産分与を受け取る側が負担(分与された資産の一部を使って支払う)
双方が納得できるのであれば、どのような形でも問題ありません。
離婚公正証書に関するよくある質問
公正証書と離婚届はどちらが先?
公正証書を作成してから離婚届を提出するのが一般的です。
離婚後に条件を決めるのは難しくなるため、公正証書で養育費や財産分与を明確にしてから離婚届を提出しましょう。
離婚協議書の作り方は?
離婚協議書は夫婦の取り決めを文書にするものですので、書式にこれといった決まりはありません。
離婚時の取り決めを文書にし、双方の署名と押印があれば問題ありません。
離婚協議書の作り方は「離婚協議書を自分で作成するときのポイントを解説」を参考にしてください。
離婚公正証書はどこで作る?
全国の公証役場で作成できます。事前に公証役場へ相談し、必要書類を準備して予約を取るのがスムーズな進め方です。
まとめ
離婚公正証書は、離婚後の養育費や財産分与、慰謝料の支払いを確実にするための公的な文書です。
公証役場で作成することで、支払いが滞った場合に裁判を経ずに強制執行が可能になります。
特に金銭トラブルを防ぐため、公正証書の作成をおすすめします。
公正証書の作成方法や、離婚条件でお悩みがある場合には、弁護士に相談してください。