夫婦関係がうまくいかなくなったとき、すぐに離婚せず、まず別居を選ぶケースは珍しくありません。
物理的に距離を置くことで冷静になりたい場合や、離婚すべきか悩んでいるときにも、有効な選択肢のひとつです。
離婚と別居では、法律上の扱いが異なります。別居をしても婚姻関係は続くため、配偶者としての権利を維持できますが、それに伴う義務も生じます。
ここでは、離婚せずに別居をするメリット・デメリット、法的な違い、別居時に決めておくべきことを解説します。
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目次
離婚しないで別居をするのは問題ない?
離婚せずに別居することは法律上問題ありません。夫婦には同居義務(民法752条)がありますが、別居しただけで違法になるわけではないからです。
日本でも別居中の夫婦は珍しくありません。
ただし、正当な理由(DVなど)がないのに 一方的に家を出ると、悪意の遺棄(民法770条)とみなされる可能性があります。
悪意の遺棄と判断された側には以下のようなデメリットがあります。
- 離婚を求めても認められにくくなる
- 相手から慰謝料を請求される可能性がある
別居を考える場合は、事前に夫婦で話し合い、合意を得ることが重要です。
離婚しないで別居するメリット
夫婦関係がうまくいかなくなったとき、すぐに離婚せずに別居を選ぶことには、様々なメリットがあります。
ここでは、離婚せずに別居する主なメリットを解説します。
冷却期間を設けて関係を見直せる
別居によって物理的な距離をおくことで、一度頭を冷やすことができます。離婚の必要性を冷静に判断できます。
別居中に気持ちが整理できれば、関係修復のための努力をすることも可能です。
カウンセリングを受けたり、手紙やメールで気持ちを伝えたりすることで、適切な距離を保ちながら関係改善のきっかけを作れます。
別居を経て「やはり離婚したい」と結論が出た場合も、感情的にならずに冷静に話し合いができます。
離婚に伴うリスクや手続きの負担が生じない
離婚には財産分与、親権問題、戸籍の変更、名字の変更、社会保険の切り替えなど、多くの手続きが必要です。
離婚後の生活設計も考える必要があり、経済的な不安も伴います。
別居ならば夫婦関係を維持したまま、個々の生活を確立できるため、面倒な手続きを回避できます。
離婚を迷っているケースや経済的な理由で別れづらいケースでは、別居が適した選択肢になることもあります。
社会的・経済的な影響を減らせる
離婚すると、戸籍や名字が変わることで、職場や親族関係に影響が出ることがあります。
離婚に伴い、周囲の反応や経済的な変化が気になる場合は、精神的な負担が大きくなるかもしれません。
健康保険の扶養や税制上の優遇(配偶者控除など)も、離婚すると受けられなくなる可能性があります。
別居であれば、社会保険の扶養や税制上のメリットを維持したまま生活できるため、経済的な影響を最小限に抑えることができます。
子どもへの影響を考慮できる
突然の離婚は子どもにとってストレスになるため、別居を選ぶことで、ゆっくりと変化に適応させることができます。
別居であれば親権は夫婦双方に残るため、子どもと両親の関係を維持しやすいメリットもあります。
子どもの進学や教育のタイミングを考慮しながら、最適な選択をすることができるでしょう。
親権が気になる場合は「親権者とは|親権者になれる人や意味をわかりやすく解説」もご覧ください。
離婚しないで別居するデメリット
離婚せずに別居を選ぶことで、関係の見直しや経済的メリットを受けられる一方で、いくつかのデメリットもあります。
ここでは、離婚しないで別居するデメリットを紹介します。
法的には婚姻関係が続く
別居をしていても、法律上は夫婦のままです。そのため、戸籍上の変更はなく、配偶者としての義務や責任も継続します。
例えば、他の異性と交際した場合、不貞行為(不倫)とみなされ、慰謝料を請求される可能性があります。
夫婦としての相続権も継続するため、配偶者が亡くなった際には財産相続の問題が発生することもあります。
別居期間が長引くと不利になることも
別居が長期間続くと、婚姻関係の破綻とみなされ、裁判で相手が離婚を求めた際に認められやすくなります。
特に5年以上の別居は裁判で離婚が認められるケースが多く、離婚を望んでいない場合でも、強制的に離婚へと進む可能性があります。
長期間別居している間に、夫婦間の関係がさらに冷え込み、修復が難しくなる可能性も少なからずあります。
「何年別居すれば離婚できる?別居のメリットと注意すべき点を解説」の記事も参考にしてください。
経済的負担が増える
別居をすると、夫婦がそれぞれ別の生活を送ることになるため、住居費や生活費が二重にかかります。
特に、収入の多い側は婚姻費用(生活費)も支払う義務があるため、事前に計算しておくことが重要です。
他にも、別居によって扶養から外れると、健康保険や税制上の優遇措置を受けられなくなるなどもあるため、慎重に検討すべきです。
「婚姻費用とは|別居中の生活費を分担する義務や養育費との違い」も参考にしてください。
離婚と別居の法的な違い
離婚と別居は、男女が物理的に離れて暮らすという点では共通していますが、法律上の意味や影響が大きく異なります。
ここでは、離婚と別居でどのような違いがあるのか、順番に紹介します。
姓(戸籍)
別居をしても、夫婦の戸籍に変化はありません。法律上は婚姻関係が続いているため、住民票を移しても戸籍自体はそのままです。
離婚をすると夫婦の戸籍は分かれ、結婚時に姓を変更していた場合は、旧姓に戻すか、そのままの姓を使い続けるかを選択することになります。
離婚後も元の姓を使い続けたい場合は、3か月以内に役所で手続きをしなければなりません。
相続権
別居をしていても、法律上は夫婦であるため、配偶者としての相続権を持ち続けます。配偶者がなくなった場合には、相続財産を受け取れるでしょう。
一方、離婚をすると法定相続人ではなくなるため、元配偶者の財産を受け取ることはできません。
もし、離婚後も財産を渡したい、または受け取りたい場合は、遺言書にその旨を明記する必要があります。
財産分与
離婚をする場合は、結婚期間中に夫婦が築いた財産を公平に分ける必要があります。
これは財産分与と呼ばれ、預貯金や不動産、年金などが対象になります。原則として、夫婦で築いた財産は半分ずつ分与されることが一般的です。
離婚をせずに別居をした場合、財産分与は発生しませんが、別居中にどちらかが勝手に財産を使い込むと、後にトラブルになることがあります。
夫婦で築いた財産の管理ルールなどを決める必要があるでしょう。
財産分与については「財産分与で争点になりそうなことは?【弁護士が解説】」も参考にしてください。
社会保険や税制
別居をしても婚姻関係が続いているため、健康保険の扶養や配偶者控除を継続することができます。
離婚をすると健康保険の扶養から外れるため、自分で国民健康保険に加入する必要が出てきます。配偶者控除も適用されなくなるため、税負担が増える可能性があります。
特に、専業主婦(夫)やパート収入で扶養に入っている場合は、別居か離婚かによって経済的な影響が大きく変わるため、慎重に判断する必要があります。
生活費(養育費)の分担
別居をしている場合、収入の多い側が収入の少ない側に対して婚姻費用(生活費)を支払う義務があります。
婚姻費用には、食費や住居費、医療費、子どもの教育費などが含まれます。これを支払わない場合は、家庭裁判所に申し立てて請求することも可能です。
一方、離婚をすると、婚姻費用の支払い義務はなくなり、それぞれが独立した経済状況になります。
子どもがいる場合は例外で、離婚後も養育費の支払いが継続します。
親権
別居中は、夫婦双方が親権を持ち続けるため、子どもの教育や進学などの決定権も夫婦で共有されます。しかし、離婚後はどちらか一方が親権を失うことになります。
具体的には、以下のような権利です。
- 子どもの住む場所を指定する権利
- 子どもに対してしつけをする権利
- 子どもが働くことについて許可する権利
- 子どもの財産を管理する権利 など
親権が気になる場合は「親権者とは|親権者になれる人や意味をわかりやすく解説」もご覧ください。
浮気の慰謝料
別居をしても婚姻関係が続いているため、他の異性と交際すると、不貞行為とみなされ、慰謝料請求の対象になる可能性があります。
たとえ長期間別居していたとしても、正式に離婚していない限り、法律上は夫婦関係が続いているため、注意しなければなりません。
一方、離婚後はすでに婚姻関係が解消されているため、新しい恋愛をしても不貞行為とはなりません。
浮気の慰謝料については「不貞行為に基づく離婚慰謝料の相場の金額はどれぐらい?」もご覧ください。
離婚しないで別居する際の住民票の扱いについて
別居をする際、住民票を移すべきかどうかは慎重に判断すべきです。原則、実際に生活の拠点が変わる場合は住民票を移すことが求められます。
しかし、別居の目的や事情によっては、住民票を移さないほうがいい場合もあります。
移した方がいいケースと移さない方がいいケースをそれぞれ紹介します。
住民票を移した方がいいケース
住民票を移すべきなのは、新しい住居での生活が本格的に始まり、自治体の行政サービスを利用する必要がある場合です。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 長期間住む予定がある場合(郵便物や公共料金の手続きが楽になる)
- 児童手当や医療費助成など、自治体のサービスを利用する場合
- 賃貸契約や住宅ローンの手続きで、新しい住所が必要な場合
- 離婚を視野に入れ、別居を法的に明確にしたい場合
自治体によっては住民票がないと受けられないサービスもあるため、子どもがいる場合などは住民票の移動を検討する必要があります。
住民票を移さない方がいいケース
一方、住民票を移すことで不都合が生じることもあります。次のような場合は、移さない方がよいでしょう。
- 一時的な別居で、関係修復の可能性がある場合
- 住民票を変えると、配偶者控除や健康保険の扶養から外れる可能性がある場合
- DVなどの事情で、相手に新住所を知られたくない場合
- 住宅ローン控除など、税制上のメリットを維持したい場合
住民票を移さないことで、夫婦関係を継続していると見なされ、税制や社会保険の恩恵を受けられる場合もあります。
離婚しないで別居する際にすべきこと
別居の目的を共有する
別居の目的を夫婦で共有することが大切です。
一時的に距離を置いて関係を見直したいのか、それとも離婚を前提に生活を分けるのかによって、別居の形が変わります。
目的を明確にしないまま別居を始めると、夫婦の考えにズレが生じ、別居が逆効果になる可能性があります。
婚姻費・養育費を請求する
婚姻費用や養育費は、別居を始めたからといって自動的に支払われるものではありません。請求した時点から発生し、支払われるのが原則です。
たとえば、夫婦間で婚姻費用や養育費の取り決めをしていなかった場合、その期間の分を後から請求することはできません。
なので、別居が始まる前に婚姻費用や養育費の取り決めをし、請求することが大切です。
子どもに関する取り決めをする
子どもがいる場合は、別居後の養育方針を決めておく必要があります。
どちらが監護者として子どもを育てるのか、もう一方の親はどのように関与するのかを具体的に取り決めておきましょう。
特に、面会交流のルールを明確にしておくことが重要です。
- 月に会う回数や時間
- 学校行事への関わり方
- 連絡の取り方 など
具体的に決めたうえで、書面やメッセージなどに残しておくことで、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
別居の意思を文書に残す
別居をする際は、取り決めを書面に残してください。
例えば、「別居合意書」や「覚書」を作成し、夫婦双方が納得した内容を書面にしておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
文書には、以下の内容を記載するとよいでしょう。
- 別居の目的
- 婚姻費用や養育費の負担
- 子どもの監護権や面会交流のルール
- 財産管理の方法 など
婚姻費用や養育費の支払いについては、公正証書を作成すると、支払いが滞った際に強制執行が可能になるため、より確実です。
別居の末の離婚で弁護士に相談すべきケース
別居の末に離婚をする場合、離婚条件の交渉が必要になります。
弁護士がいることで、不利な条件での離婚を防げたり、交渉がスムーズになったりします。
以下のようなケースでは、早めに弁護士に相談すべきです。
- 相手が離婚を拒否している(調停や裁判が必要になる可能性がある)
- 婚姻費用や養育費を支払ってもらえない(法的手続きを通じて請求できる)
- 財産分与や借金の扱いでもめている(不公平な取り決めを避ける)
- 相手の浮気やDVが原因で離婚を考えている場合(証拠を集め、慰謝料を請求する)
弁護士に依頼をすると、自分の代理人となって配偶者と離婚の交渉をしてくれます。
もう配偶者と関わりたくないケースでは弁護士が間に入ることで円滑に進められる可能性があります。
「離婚に強い弁護士の特徴と弁護士に依頼するメリットとは?」の記事も参考にしてください。
離婚しないで別居に関するよくある質問
「離婚はしたくないけど別居したい」は法的にOK?
離婚をせずに別居すること自体は問題ありません。
ただし、一方的な別居が悪意の遺棄とみなされると、離婚請求時に不利になったり、慰謝料請求の対象になることがあります。
離婚が5年以上など長期化すると、夫婦関係が破綻しているとみなされ、裁判で離婚が認められやすくなる点にも注意すべきです。
離婚せずに別居する夫婦の目的は?
関係修復のための冷却期間として距離を置く場合や、子どもの成長を見守りながら将来を決めるケースなど様々な理由や目的があります。
本当は離婚したいけど、経済的な理由で難しい場合にも、別居を選択することがあります。
離婚しないで10年別居は問題ない?
長期間の別居は、婚姻関係の破綻とみなされ、相手が離婚を求めた場合、裁判で認められやすくなります。
特に5年以上別居が続いていると、離婚請求が認められる可能性が高くなるため、意図的に婚姻関係を続ける場合は注意しましょう。
まとめ
離婚せずに別居をすることで、冷却期間を設けたり、経済的・社会的な影響を抑えたりすることができます。
一方で、婚姻関係が続くことによる法的な責任や、長期別居による離婚リスクなどのデメリットもあります。
別居を考える際は、婚姻費用や養育費の請求、住民票の扱い、子どもの養育など、事前に決めておくべきポイントが多くあります。
トラブルを防ぐためにも、別居の目的を明確にし、書面で取り決めを残すことが大切です。
別居や離婚に関してもめたり、困ったりした場合には弁護士に相談しましょう。法的な観点から、個々の状況に応じたアドバイスが得られます。