2024年5月、離婚後の共同親権導入を柱とする民法改正案が可決されました。

この記事では、離婚後の共同親権制度の概要や本制度が導入された経緯、今回の改正で離婚する夫婦にどのような影響があるのかなどについて解説します。

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共同親権とは|単独親権との違いは?

共同親権とは、父母双方が子どもの親権を持つことです。

親権とは、子どもと一緒に生活をして身の回りの世話をしたり、子どもの財産を管理したりするために、父母に認められる権利と義務です。

親権は、財産管理権身上監護権2つで構成されています。
具体的な内容は下表のとおりです。

財産管理権

身上監護権

・子どもの財産を管理する権利義務

・子どもの財産に関する法律行為を子どもに代わって行う権利義務

 

・子どもを監護・教育する権利義務

・子どもが住む場所を指定する権利義務

・子どもが職業を営むことを許可・取消・制限する権利義務

・子どもが行う身分行為について代理したり、同意したりする権利義務

共同親権とは父母双方が子どもの親権を持つこと

未成年の子どもの父母が婚姻している間は、父母の一方が親権を行使できない事情がある場合を除き、原則として父母が共同して親権を行使します。

言い換えると、子どもに代わって法律行為をしたり、子どもの法律行為に対して同意を与えたりする行為は、父母が共同して行う必要があります。

そのため、父母の一方に親権を行使できない事情(法律上・事実上の障害)がないにもかかわらず、共同親権者の一方が他方に無断で、未成年の子どもの法律行為に単独で同意を与えた場合は、他方の親権者によって取消・追認が可能であると解されています。

もっとも、共同親権者の一方が、本当は他方の了解を得ていないにもかかわらず、共同の名義で親権を行使して、子どもに代わって法律行為をした場合に、これをすべて無効にすると、法律行為の相手方に不測の事態が生じる可能性があります。

そのため、共同親権者の一方が、共同の名義で親権を行使した場合は、それが他方の親権者の意思に反していたとしても、有効なものと取り扱われます(法律行為の相手方が他方の親権者の了解なしに無断で行われたものと知っていた場合を除く)。

なお、この扱いは、相手方のある法律行為のみの場合に適用され、相手方のない単独行為や身分行為には適用されません。

単独親権とは父母の一方が子どもの親権を持つこと

単独親権とは、父母の一方が子どもの親権を持つことです。

現行の日本の法律では、婚姻中の父母には共同親権が認められていますが、離婚後単独親権となり、父母の一方を親権者に指定しなければなりません。

婚姻中でも、父母の一方が親権を行使できない事情がある場合には、例外的に、他方の親権者が単独で親権を行使できます。例えば、以下のような場合です。

  • 親権者の一方が成年後見開始の審判を受けた場合
  • 親権者の一方が行方不明になった場合
  • 親権者の一方が服役中である場合 など

単独親権のもとでは、子どもに代わって法律行為をしたり、子どもの法律行為に対して同意を与えたりする際に、他方の親の了解を得る必要はありません。

子供の養育方針についての意見の不一致や対立を避けられる点がメリットともいえるでしょう。

日本における離婚後の共同親権の導入を巡る動き

日本で離婚後の共同親権導入が検討された背景と、共同親権と単独親権がいつから選択できるようになる予定なのかを以下で解説します。

共同親権の導入が検討された背景

共同親権の導入が検討された背景には、離婚後の共同親権が認められていない国は日本を含めてわずかであること、国際離婚をした際の子どもの連れ去りが問題になっていることが挙げられます。

海外では多くの国で共同親権を認めている

2020年に法務省が発表した父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査によると、離婚後の共同親権を認めていない国は、以下のとおり、日本を含めてごくわずかの国であると分かりました。

共同親権を認めていない国

共同親権を認めている国

日本、インド、トルコ アメリカ(ニューヨーク州・ワシントンDC)、カナダ(ケベック州・ブリティッシュコロンビア州)、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、インドネシア、韓国、タイ、中国、フィリピン、イタリア、イギリス(イングランドおよびウェールズ)、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、ドイツ、フランス、ロシア、オーストラリア、サウジアラビア、南アフリカ

同調査は、法務省が外務省に依頼してG20を含む海外24か国に法制度や運用状況の基本的調査を行ったものです。この調査によって、24か国中22か国で単独親権だけでなく共同親権が認められていると分かりました。今回調査の対象となったほとんどの国で共同親権が認められていますが、その内容はさまざまです。

裁判所の判断がない限りは原則として共同親権としているのが、イタリア、オーストラリア、ドイツ、フィリピン、フランスなどです。カナダ(ブリティッシュコロンビア州)やスペインなどは、父母の協議で単独親権の選択もできます。インドネシアでは共同親権が認められているものの選択されるのはまれであること、またイギリスと南アフリカは、父母両方が単独で親権を行使ができます。

共同親権を認めていない国がごく少数であることは、国際結婚をして離婚をする際に問題となるおそれがあると指摘されているため、こうした事情が今回の共同親権導入のきっかけになったと思われます。

子どもの連れ去りに関する問題

昨今、国際離婚した際の子どもの連れ去りが問題となっている点も共同親権導入に深く関係しています。

2014年に締結したハーグ条約によって、16歳未満の子どもを無断で居住国外へ連れ去った場合は、原則もとの居住国へ返すことを義務づけられました。ところが2020年に開催された欧州連合(EU)の欧州議会本会議で、ハーグ条約に基づく子どもの返還率が低いことが問題視されました。

そのため国内で共同親権を認めるように改正が求められたことが、共同親権導入を検討するきっかけとなったと考えられます。

共同親権法案の可決と施行日

2024年4月に共同親権導入を含めた民法改正案が衆議院本会議で可決され、同年5月に参議院本会議で可決・成立しました。

施行は公布日(2024524日)から2年以内に予定されているため、20265月までに共同親権が導入されるとみられています。

共同親権になった場合に変わることは?

改正民法が施行され、共同親権が認められると、どのような点が変わるのか以下で解説します。

離婚の際に父母の協議で共同親権か単独親権かを選択できる

父母が離婚する際、協議によって共同親権もしくは単独親権のいずれかが選択できるようになります

これまで日本では父母が婚姻中は共同親権ですが、離婚したら単独親権となり、離婚する際にどちらが親権を持つか決めなければいけませんでした。共同親権を含む改正民法が施行されると、離婚の際に共同親権もしくは単独親権のいずれかが選択でき、共同親権を選択すれば、子どもと離れて暮らす親が引き続き子どもに関われるようになれます。

父母の協議が調わない場合は家庭裁判所が決定する

離婚時に夫婦の間で共同親権もしくは単独親権のどちらを選択するか協議が整わない場合は、家庭裁判所が共同親権とするか単独親権とするか決定します。

その際に家庭裁判所は子どもの利益を考慮して判断しなければいけません。父母の両方を親権者にする共同親権にすることで子どもの利益を害する可能性があるなら、父もしくは母の単独親権にしなければいけません。

具体的には子どもに対して身体的・精神的虐待が考えられるケースが該当します。

共同親権のメリットは?

離婚時に共同親権が選択できるようになれば、どのようなメリットが考えられるか、以下で紹介します。

離婚時の親権争いが回避できる可能性がある

離婚時に共同親権が選択できれば、親権争いが回避できる可能性があります。

現行法では、未成年の子どもがいる夫婦が離婚する際、親権者を決めなければ離婚が成立しません。父親も母親も親権を譲らなければ話し合いがまとまらず、最終的には調停や裁判になって離婚成立まで時間がかかってしまいます。

さらに親権を巡って父母の間で対立が続くと、子どもに悪影響を及ぼします。

共同親権が選択できるようになれば、こうした親権争いが避けられる可能性があります。

離婚後も両親が共に子育てに関われる

離婚時に共同親権が選択できれば、離婚後も両親が共に子育てに関われます

単独親権の場合、子どもと離れて暮らす親は子どもとの関係が希薄になってしまう傾向がありますが、共同親権の選択が可能になれば、こうした問題が解消できる可能性があります。

子どもと同居している親だけが子どもに対して責任を負うのではなく、別居している親も同様に子どもに対する責任を持ち、離婚後も共同で子育てに関われます。

離婚後も子どもが両親と関われる

離婚時に共同親権が選択できれば、離婚後も子どもが両親と関われる機会が増える可能性があります。

父母の離婚後も、子どもには離れて暮らす親と定期的に会う面会交流といった権利が保証されていますが、共同親権が選択できれば、離れて暮らす親とより活発に交流できる可能性があります。

離婚後の子どもの連れ去りが抑止できる可能性がある

離婚時に共同親権が選択できれば、離婚後に子どもを連れ去るトラブルを抑止できる可能性があります。

実際に離婚後、子どもと離れて暮らす親が、以下のような手段で子どもを連れ去ってしまうトラブルがあります。

  • 面会交流の際に子どもを返さない
  • 子どもの通学路で待ち伏せして連れ去る
  • 自宅に押し掛けて子どもを強引に連れ去る

子どもに定期的に会えない寂しさがあったとしても、このような行為は許されませんし、実の親でも最悪の場合、犯罪に問われる可能性があります。

共同親権が選択できれば、子どもに二度と会えなくなってしまうかもしれないという悲壮感が軽減され、こうした連れ去りが抑止できるのではないかと期待されています。

離婚後の養育費の未払いが減る可能性がある

離婚時に共同親権が選択できれば、養育費の未払いが減る可能性があります。

養育費とは、子どもの監護や教育のために必要な費用で、衣食住に必要な費用の他に教育費や医療費が該当します。子どもを監護する親は、もう一方の親から子どもが経済的・社会的に自立するまで養育費が受け取れますが、養育費がきちんと支払われないトラブルは少なくありません。

親権者でなくとも、親である以上は子どもを扶養する義務はありますし、子どもとなかなか会えないことを理由に養育費の支払いを拒否できません。しかし、子どもと会えなくなり、養育費を支払う意欲がなくなるケースが少なからずあります。

共同親権が選択できるようになれば、養育費の問題がすべて解決するという単純なものではないかもしれませんが、子どもと離れて暮らす親も同居している親と同じように子どもに対して責任を負うことが明確になるため、ある程度の改善が期待されています。

共同親権のデメリットは?

離婚後の共同親権にはメリットがある一方でデメリットもいくつかありますので、以下で紹介します。

DVやモラハラをする配偶者から逃れにくくなる

離婚時に共同親権が選択できるようになると、DVやモラハラをする配偶者から逃れにくくなる可能性があります。

DVやモラハラが原因で離婚した夫婦が共同親権を選択した場合、親権を行使する際に子どもに関する情報のやり取りが不可欠となるため、完全に関係を断ち切れません。その結果、夫婦間のDVやモラハラ、子どもに対する虐待が継続する可能性が大きいです。

DVやモラハラが原因で離婚する夫婦は、相手と二度と関わりたくないと考えるのがほとんどですが、共同親権はそれを不可能にするため、デメリットになるといえるでしょう。

共同親権が離婚に応じる条件に利用される可能性がある

共同親権への同意が、離婚に応じる条件に利用される可能性があります。

離婚になかなか合意しない側が共同親権に同意することを強制し、早く離婚を成立させたいがためにやむを得ず了承してしまう人がいるかもしれません。共同親権か単独親権かの選択は、子どもの利益になるかどうかで選択しなければいけませんので、離婚の条件に利用するのは適切ではありません。

父母間で対立した場合に子どもに不利益を与える可能性がある

共同親権を選択したものの、父母間で連携がうまくいかずに対立すれば、子どもに不利益を与える可能性があります。

離婚した時点で父母の間には分かり合えない何かが存在するといえるため、子どもの教育に関してぶつかる可能性が高いといえます。子どもにとって早急に決めなければいけない事例であっても、父母双方の意見が合わないために決定が遅れてしまうケースが考えられます。

さらに子どもが父親と母親の間に立って板挟みとなり、精神的に負担に感じるかもしれません。

共同親権に関するQ&A

共同親権が導入されるにあたり、離婚を考えている夫婦やすでに離婚した夫婦が疑問に思う事例と回答について紹介します。

すでに離婚している場合に共同親権にできるか?

すでに離婚している夫婦であっても、家庭裁判所が認めれば共同親権に変更ができます

家庭裁判所に親権者変更の申立てをして、裁判所が子どもの利益のために共同親権が必要だと認めた場合に変更が可能となります。施行前なので、どのような条件であれば共同親権が認められるかは分からないため、注視する必要がありそうです。

父母のどちらかが再婚した場合に子どもを養子縁組できるか?

離婚後、父母のどちらかが再婚し、再婚相手が子どもと養子縁組をする場合、子どもが15歳未満であれば法定代理人である親権者の同意が必要です。

そのため、離婚時に共同親権を選択した場合には、他方の共同親権者の承諾を得る必要があります。

では、他方の共同親権者が反対したら、どうなるのでしょうか?

この点につき、改正法は、養子縁組をすることが子どもの利益のため特に必要であるにもかかわらず、共同親権者である父母の一方が縁組に同意しないときは、家庭裁判所は、養子となる子どもの法定代理人の請求により、その同意に代わる許可を与えられるとしています(改正民法7973項)。

さらに、特定の事項にかかる親権の行使について父母の間で協議できない場合、家庭裁判所が当該特定の事項について単独親権とすることを許可できるとしています(改正民法824条の23項)。

したがって、共同親権者の一方が再婚相手との養子縁組に反対した場合は、家庭裁判所にその同意に代わる許可を得るか、養子縁組の同意に関する親権を単独で行うことの許可を得る必要があると考えられます。

まとめ

共同親権と単独親権が選択できるようになれば、離婚する夫婦やその子どもにとって大きな影響があるのは間違いありません。離婚した夫婦に単独親権の選択肢しか認められていない日本は、世界的に見て珍しいといえます。父母の離婚が子どもに与える影響や子どもの養育に対する在り方の多様化を考えると、今回の法改正は必要なのかもしれません。

その一方で、共同親権と単独親権が選択できるようになることでメリットやデメリットがあり、あらゆる問題に対して慎重に検討していかなければいけません。

最も大切なのは、子どもにとってどちらの選択が一番良いかという点です。