親権と監護権はどのような違いがあるのでしょうか?
今回の記事では、親権と監護権の違いや権利を分けるメリットとデメリットについて解説します。
目次
親権とは
ここでは、親権について解説します。
親権とは、未成年の子の利益のため、監護・教育をしたり、子の財産を管理したりする権利であり義務です。未成年の子は未熟で社会的に独立していないため、誰かが守らなくてはいけません。子の財産を守り、代理人として法律行為をするのが親権者の権利であり義務です。
身上監護権
身上監護権とは、子の心身の成長のための教育および養育を中心とする権利義務の総称です。民法820条は、以下のとおり、身上監護は、子の利益のために行わなければならないと規定しています。
(監護及び教育の権利義務)
第八百二十条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
引用:民法 | e-Gov法令検索
身上監護権には以下の権利および義務が含まれています。
子の人格の尊重等
身上監護にあたっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければなりません。体罰や虐待など、子の心身の健やか発達に悪影響を及ぼす言動もしてはいけません。
従来は、子を適切にしつける権利として懲戒権の規定がありましたが、親による子への虐待や体罰を正当化する口実になっているとの指摘を踏まえ、民法等の一部を改正する法律案(令和4年12月公布・施行)により懲戒権の規定が削除されました。
居所指定権
居所指定権とは、子の居所(生活の拠点)を指定する権利、つまり子と一緒に暮らせる権利です。子は、親権を行う者が指定した場所に住まなければなりません。
居所指定権は子の監護・教育のために認められる権利であるため、子の居所として指定した場所が子の利益に反する場合には、権利の濫用として親権喪失事由に該当することがあります。
職業許可権
職業許可権とは、子が就業することを許可・取消し・制限ができる権利および義務です。未成年の子は親権者の許可がなければ、就職して働いたり、事業を営んだりできません。
近年、中学生や高校生が起業する事例がありますが、この場合も親権者の許可が必要ですし、アルバイトをする際にも許可が必要です。
子が仕事をすることに耐えられない事由がある場合は、親権者はこの許可を取り消したり、制限したりできます。
一定の身分上の行為についての代理権
身上監護権には、子の一定の身分上の行為に関して子を代理したり、子に同意を与えたりする権利も含まれています。身分上の行為とは、婚姻、離婚、養子縁組、認知など身分に影響を与える法律上の行為です。
未成年の子の身分行為に対する代理権・同意権として代表的なものは、以下のとおりです。
- 15歳未満の子の氏の変更
- 15歳未満の子の養子縁組
- 15歳未満の子の離縁の代諾
- 15歳未満の子の離縁の訴え
- 15歳未満の子の認知の訴え
- 監護権者に対する助言・指導
- 相続の承認や放棄
財産管理権
財産管理権とは、子の財産を管理し、財産に関する法律行為を子に代わって行う権利および義務です。子の財産を守るためのものであり、子がした法律行為に同意する権利も含まれています。
民法上、未成年の子は制限行為能力者とされ、単独で契約などの法律行為を行うことが制限されています。そのため、親権者は、未成年の子に代わって法律行為を行ったり、同意を与えて子自身に法律行為をさせたりする必要があります。
財産管理権には、以下の権利および義務が含まれています。
包括的な財産の管理権
親権者には、子の財産について包括的な財産の管理権が認められています。子の名義の預貯金やお年玉の管理から祖父母から子に贈与された不動産などの管理まで、広範かつ包括的な権限があります。
財産管理権には、狭義の管理行為のみならず、保存行為、利用行為、処分行為も含むものとされ、親権者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、子の財産を管理しなければなりません。
財産的法律行為の代表権
財産的法律行為の代表権とは、子の財産に関する法律行為をする際に、子を代表して行える権利および義務です。子の財産に関する法律行為とは、未成年の子の財産上の地位に変動を及ぼすような一切の法律行為です。
親権者は、子の財産に関して契約や訴訟などの法律行為を法定代理人として行うことや、子が自ら法律行為を行うことに同意を与える包括的な代表権限を有します。
子の名義で携帯電話を契約する際に、親権者の同伴または同意書の提出を求められたことがあるでしょう。これらの行為も未成年の子の財産的法律行為の代表権に基づいて行います。なお、労務提供など、子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければなりません。
監護権とは|親権との違いは?
ここでは、監護権について解説します。
監護権とは、親権の中にある身上監護権のことです。
離婚後は、親権を取得した父母の一方が、身上監護権も財産管理権も担うのが原則ですが、例外的に親権と監護権を分離することがあります。
父母の一方が監護権者となる場合、子と一緒に生活をして日常的な世話や教育ができます。
もっとも、実務上は、親権と監護権を分離することは望ましくないとする意見が多いです。
親権と監護権の分離が認められるのは、次のような場合と言われています。
- 父母による形を変えた共同監護として、両者が協力し積極的に評価できる場合
- 子を現実に監護する父母の一方を直ちに親権者に指定・変更するには不安があり、暫時、その監護の実績を見る必要があるとき
- 親の受け入れ態勢や子の転校などの事情により、子が直ちに親権者の親の下で生活できず、しばらく他方の親の下で生活する必要がある場合
親権と監護権はどちらが強い権利か?
ここでは、親権と監護権はどちらが強い権利なのかについて解説します。
親権と監護権のどちらが強いとは、一概には言えません。
離婚した父母の一方が、子を引き取り一緒に暮らしていくには監護権が必要です。「子と共に生活し、自分の手で教育をして成長を見守りたい」という視点で考えると、監護権が強いと評価できるでしょう。
しかし、親権から監護権を分属した場合、監護権者は親権者ではないため、身上監護権のうち、一定の身分上の行為についての代理権を有しません。
親権から監護権を分属した場合、監護権のない親権者には、子の財産管理権や法律上の行為の代理権・同意権などが認められますが、一緒に暮らす親に比べて子の成長を側で見守る機会は少なくなります。
とはいえ、子が大きくなるにつれて、財産の管理や契約をする機会が増えていくのが一般的であるため、親権者として定期的・継続的に交流を保てるでしょう。
親権者と監護権者を決める手続き方法は?
ここでは、親権者と監護権者を決める手続き方法について解説します。
親権者
離婚をする際に、夫婦の間の話し合いでどちらが親権者となるか合意できれば、離婚届の親権を行う側の欄に未成年の子の氏名を記入して届出をすれば他に手続きは必要ありません。
話し合いで決着がつかない場合は、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てて(その中で、親権者指定を申し立てて)話し合いをします。それでも決まらなければ、離婚訴訟を提起して、離婚とともに親権者の指定を求めます。
当事者双方が離婚に合意している場合、離婚のみを調停で成立させて、親権者については家庭裁判所の審判で定めてもらう方法もあります。
審判や離婚訴訟では、親権者を決めるにあたって下記のような条件が検討されます。
- 子の監護養育の実績があるかどうか
- 子を養育していく環境が整っているか(現在の状況に問題がないか)
- 子を育てる経済力があるか
- 子を育てるにあたり、親権者が心身ともに健康であるかどうか
なお、子が満15歳以上であれば、家庭裁判所は子がどのような考えを持っているか、子の意見を聞いて、総合的に判断します。
監護権者
親権をめぐる対立が激しく、話し合いが収束しそうもない場合には、父母が互いに譲歩する形で、父親が親権を持ち、母親が監護権を持つ(またはその逆の)解決方法をとることがあります。
監護権者は父母の協議のみで指定でき、戸籍の届け出も不要です。合意できなければ、調停・審判の手続きをとります。
監護権者の指定の基準は、親権者指定の基準に準じますが、親権者とは別に監護権者を指定することが子の利益に適うかどうかという点が配慮されます。
親権者とは異なり、監護権者は離婚と同時に決めなくても差し支えありません。監護権者を定める手続きは、離婚成立後でもできます。
親権と監護権を分けるメリット・デメリット
ここでは、親権と監護権を分けるメリットとデメリットを解説します。
親権と監護権を分けるメリット
親権と監護権を分けるメリットは、離婚に関する話し合いを早期に解決できる点です。どちらが子を引き取るのか、夫婦間で話し合いがまとまらない場合は、離婚調停や離婚裁判となり、解決するまで年単位の時間がかかることがあります。
早く離婚して新しい生活を始めたいと考えるなら、互いに譲歩して親権と監護権を分ければ、話し合いが早期にまとまる可能性があります。
親権と監護権を分けるデメリット
親権者は戸籍に記載されますが、監護権者は戸籍に記載されません。調停または審判で監護権者を定めた場合には、調停調書や審判書謄本の交付を受けられますが、父母間の協議で監護者を定めた場合、書面化していなければ親権と監護権を分けていることを対外的に証明できません。
離婚後、親権を持つ親が子の引き渡しを要求してきたら、公に証明するものがないため子を奪われる可能性もゼロではありません。こうしたことを避けるために、夫婦間の協議で親権と監護権を分けることにしたら、口約束ではなく合意書を作成することが重要です。
親権と監護権を分けると、離婚後も別れた夫・妻と連絡を取らなければならないデメリットもあります。子が法律行為を行う場合には、親権権者の同意が必要ですが、子とともに生活している監護権者には法律行為の代理権がないため親権者に連絡しなければならないからです。
親権と監護権について、話し合いがまとまらなければ弁護士に相談を!
未成年の子がいる夫婦が離婚する場合は、夫婦の一方を親権者として指定しなければなりません。協議によって親権者を指定できないときは、調停や訴訟での解決を図らなければなりません。
親権をめぐる対立が激しい場合、親権と監護権を分けるべきか、分けることが子の利益に適うのかの判断は、容易に解決できる問題ではありません。
夫婦間で話し合いがまとまらなければ、離婚問題に強い弁護士に相談するのをおすすめします。親権と監護権を分けることのメリット、デメリットを的確に説明し、どのような選択をすればベストなのかアドバイスが可能です。
まとめ
離婚をする際、未成年の子がいれば父母のどちらが親権を持つか、必ず決めなければいけません。子を想う気持ちは同じで「親権を譲りたくない!」と離婚の話し合いがまとまらないことが多いです。
調停や裁判にしたくないなら、親権と監護権を分けることも一つの方法です。しかしその場合は、将来トラブルにならないように対策を講じておくことが重要です。
親権と監護権について困っていることがあれば、ぜひ弁護士にご相談ください。