
妊娠中に夫婦関係の危機に直面し離婚の選択肢が頭をよぎったら、心身にかかる負担は計り知れません。
この記事は、妊娠中の離婚がもたらすさまざまなリスクと、離婚を選択するなら協議すべき6つの事項について解説します。
目次
妊娠中に離婚する3つのリスクとは?
妊娠中の離婚は、夫婦関係の解消に留まらない困難が伴います。その中でも特に重大な3つのリスクについて解説します。
身体的・精神的な健康へのリスク
妊娠中の離婚は、身体的・精神的な健康へ影響する可能性があります。
妊娠中の女性は、ホルモンバランスの急激な変化や、つわりなどの体調不良によって心身ともに不安定な状態にあります。デリケートな時期に配偶者と離婚交渉を行うのは、計り知れないストレスを伴います。
身体的な消耗は流産のリスクを高める可能性があり、精神的な消耗はマタニティブルーになり、うつ症状に陥るおそれがあります。
経済的な事情で出産後の生活を脅かすリスク
妊娠中の離婚は、経済的な事情で出産後の生活を脅かすリスクがあります。
特に、婚姻中に専業主婦だった場合、経済的な自立が課題です。
出産後、身体を回復させるための産褥期は、安静が推奨されています。原則として、産後8週間は就業できません(労働基準法65条2項)。0歳児を預けられる保育所の不足や、残業が難しい子育て中の女性への職場からの理解が十分でない現状も、再就職を一層困難にします。
ひとり親家庭は、女性の労働賃金の低さや子育てに伴う長時間労働の困難さから、一般的に貧困率が高くなる傾向にあります。経済的な基盤が不安定なままでは、子どもへの愛情があっても、安定した生活環境の確保が難しくなります。
子どもの親権等の法的な問題に対するリスク
妊娠中の離婚は、子どもの親権等の法的な問題に対するリスクがあります。親権、養育費、子どもの戸籍等の重要事項について、適切な知識がないまま進めると取り返しのつかない事態に発展します。特に離婚後300日問題は、子どもの法的地位に関わる重大な課題であり、これらに関する知識を正確に理解しなければいけません。
妊娠中の離婚を後悔しないために協議すべき6つの事項は?
妊娠中の離婚を考える際、配偶者と協議すべき6つの重要事項を解説します。これらを事前に把握して適切に準備を進め、ご自身とお子様の権利を守りましょう。
親権者を決定する
離婚届を子どもが生まれる前に提出した場合、生まれてくる子どもの親権は、原則として母親が取得します。子どもの出生と同時に、母親が単独で親権を持つからです(出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることもできます)。
離婚調停などが長引き、離婚成立前に出産した場合は、父母双方が親権者となります。そのため、親権者をどちらにするか決定しなければいけません。
乳幼児の親権者について、日本の裁判所は、母親が子どもの養育を担う監護者となるのが子どもの健全な成長に資するとする考えがあります。
そのため、母親を親権者と判断するケースが多いです。
養育費の取り決めをする
離婚をする際に必ず養育費の取り決めをしましょう。
養育費の取り決めを口約束だけで済ませてしまうと、将来不払いのリスクが高まります。
万が一の不払いに備え、公正証書を作成して、強制執行認諾文言を盛り込んでおくと、給与や預貯金の差し押さえを可能にします。
養育費は、離婚後も親が子どもを扶養する義務を負うことから生じる費用です。金額は、夫婦双方の収入や子どもの年齢、人数を考慮して決定され、裁判所が公表している養育費算定表が広く用いられます。
養育費の請求は、法的な親子関係の確立が不可欠です。もし離婚後300日を過ぎてから出産した場合は、子どもは元夫の子とは推定されないため、元夫が子どもを認知して初めて法的な父子関係が確立し、養育費を請求する権利が生じます。
子の戸籍と氏の知識に関して正しく理解する
妊娠中に離婚をするにあたり、子の戸籍と氏に関する正しい知識を理解しましょう。
2024年4月1日に施行された改正民法では、婚姻の解消等の日から300日以内に子が生まれた場合でも、母親が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定することとしました。
しかし、民法改正後も、母親が子の出生までの間に再婚しない場合、離婚後300日以内に生まれた子どもは元夫の子とする扱いは変わりません。
母親が子の出生までに再婚していない場合、嫡出推定の原則により、子は自動的に元夫の戸籍に入り、元夫の氏(名字)を名乗ります。この問題を解決するには、子の氏の変更許可審判を家庭裁判所に申し立てなければいけません。
夫の戸籍に入れたくないからといって出生届を提出しなかった場合、子は無戸籍児になります。無戸籍児になると教育・医療・社会生活等において、脆弱な立場に置かれますので、重大な問題に発展します。
離婚後300日が過ぎたあとに出産した場合は、子どもは非嫡出子として、母親の戸籍に入ります。
面会交流の取り決めをする
子どもの健全な成長のために面会交流の取り決めをしましょう。
面会交流は、離婚後も子どもが親権者ではない親と交流するために必要です。母親の個人的な感情だけで、正当な理由なく面会交流を拒否するのは基本的に認められません。
財産分与の取り決めをする
財産分与の取り決めをしましょう。
財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して築き上げた財産を、離婚時に公平に分配する制度です。離婚原因に関わらず、原則として財産を2分の1ずつ分与します。
財産分与は、原則として離婚後2年以内であれば請求ができます。
慰謝料の請求ができるか確認する
離婚をするにあたり、慰謝料の請求ができるかどうか確認をしましょう。
慰謝料は、夫婦関係を破綻させた原因が相手の有責行為にある場合に発生します。妊娠中の離婚のみを理由にした慰謝料の請求は、原則として認められません。
慰謝料を請求できる可能性があるのは、主に以下のケースです。
- 配偶者の不貞行為(不倫・浮気)
- 配偶者によるDV・モラハラ行為
- 配偶者からの悪意の遺棄(生活費を入れずに家を出て行くなど)
特に妊娠中の不貞行為は、悪質性が高いと判断され、慰謝料が比較的高額になる可能性があります。
妊娠中に離婚を考えたら弁護士に相談・依頼を
妊娠中に離婚を考えたら、弁護士に相談・依頼をおすすめします。
弁護士に依頼すれば、相手との交渉をすべて任せられ、身体的・精神的ストレスから解放されます。
複雑な離婚後300日問題や、公正証書の作成、家庭裁判所への書類提出など煩雑で専門的な手続きのすべてを任せられるのも安心です。
まとめ
妊娠中の離婚は、心身に負担をかけるだけでなく、生まれてくる子どもの戸籍、養育費、将来の生活基盤にまで影響を及ぼします。通常とは異なる法的・経済的なリスクが存在するので、一人で乗り越えるのは困難です。後悔のない決断のためにも弁護士への相談・依頼をおすすめします。
ネクスパート法律事務所には、離婚案件を多数手掛けた経験のある弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料ですので、お悩みの方は一度お問合せください。


