熟年離婚では夫婦の財産が高額になることも多く、夫婦でどう分けるのか協議に難航したり紛争化したりと問題になることがあります。そこで、この記事では熟年離婚における財産分与をテーマに注意点などを詳しく紹介します。

熟年離婚の財産分与で対象になる財産

そもそも「財産分与」とは婚姻期間中に二人で築いた共有財産を分けることを意味するため、夫や妻の退職金や不動産、車や預貯金や年金などを分けることになります。特に数十年も暮らしを共にしてきたなら、夫婦それぞれの名義の財産であっても共有財産とみなすものばかりです。しかし、結婚前の財産や相続によって得た個別の財産は特有財産と呼ばれており、財産分与の対象にはなりません。

共有財産 特有財産
結婚してから夫婦が協力して築いた財産

・婚姻生活中に築いた貯金
・退職金
・年金
・家や土地などの不動産
・自動車
・保険解約時の払戻金
・有価証券 など

結婚前からの財産、配偶者とは全く関係なく得た財産

・結婚前の貯金
・親から相続した財産 など

若い頃に得た相続に伴う財産であっても、運用などで夫婦が協力しあっていた場合には特有財産ではなく共有財産とみなすこともあります。熟年離婚では財産分与を逃れるような特有財産が少ないことが一般的です。

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財産分与の割合とは

財産分与の割合に関しては原則として共働きか、一方が専業主婦かなどは問わずに「2分の1が原則」とされています。つまり、夫婦間できれいに半分ずつ分けるのです。

しかし、こちらはあくまでも原則のお話のため、夫婦で協議を行い、割合を変えることもできます。現金や有価証券などは分割がしやすいですが、長年住んでいた不動産や田畑など評価しにくいものは分与時に協議が難航することも多いです。

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熟年離婚の財産分与で持ち家はどう分ける?

熟年離婚で財産分与時に大きなテーマとなるのが「持ち家」の取り扱いです。持ち家はその性質上2つにカットして夫婦それぞれに分けることはできません。また、熟年離婚であってもまだ住宅ローンが残されており、オーバーローンのケースもあれば、すでにローンが終わっていても換価をするのは難しくどう分与をするのか協議が難航する場合もあります。

すでにお子様が自立しているとしても思い出の家を残してほしいというご意向があり、誰が住んで維持していくのかを決めなければいけない場合もあります。では、持ち家を実際に財産分与で分ける場合には、どんな方法が考えられるのでしょうか。

売却して現金を分ける

不動産は物理的に分けることができない以上、素早く財産分与を終えるためには「持ち家を売却し、現金化して分ける」ことが近道です。

現金ならきれいに分割をすることができ、トラブルを残しません。しかし、古くなった家は売却に時間がかかる場合もあり、下記のような方法を選択することもあります。

家の評価額の半分を現金で貰う

家を売却せずに残す場合には、現在の評価額を算出し、その半分を現金で分与するという方法もあります。この方法は夫婦のいずれかが住宅に残る場合に選択される方が多いでしょう。但し、現在の家の評価額が高く、たとえ半分であっても現金を用意することが難しい場合もあります。

住み続ける方に譲渡する

持ち家を住み続ける方に譲渡をする方法もあります。この場合は、住み続けるかわりに家の評価額の半分を相手に渡す、もしくは住宅ローンが残っている場合は、住み続ける方が払っていくというケースも多いです。

特に熟年離婚の場合、専業主婦(主夫)だった方が引っ越す際には家探しなどが難航することも多く、家に残ることを希望されることがあります。離婚後の生活のためにも家を譲渡する/されることも視野に入れてみましょう。

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熟年離婚したら年金はどうなる?

専業主婦の方は離婚したら将来年金が受け取れないのでは?と不安に思う方も多いです。年金に関しては、年金分割という制度があり、将来受け取る厚生年金を夫婦で分割して受け取ることができます。

Q1 年金分割とはどのような制度ですか。
年金分割は,離婚した場合に,お二人の婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して,それぞれ自分の年金とすることができる制度です。具体的には,離婚時の年金分割が行われると,婚姻期間中について,厚生年金の支給額の計算の基となる報酬額(標準報酬)の記録が分割されることになり,年金額をお二人で分割できます。

引用元:法務省:年金分割

年金分割により分割できるのは婚姻期間中に支払っていた厚生年金(もしくは共済年金)のみです。ですので、相手の年金総額の半分をもらえるわけではありません。また、対象は「厚生年金のみ」ですので、配偶者が個人事業主などで国民年金しか加入していない場合、年金分割はありません。

合意分割と3号分割の違い

合意分割

合意分割は夫婦間の協議、もしくは裁判手続きによって分割割合を決める方法です。合意分割は年金受給額が少ない方が得られる金額には上限が定められており、厚生年金(もしくは共済年金)の2分の1まで分割することができます。合意が得られない場合には裁判所への申立てが可能です。

合意分割制度|離婚時の年金分割|日本年金機構

3号分割

3号分割は夫婦の合意が無くても分割できる方法です。ご夫婦の一方が第3号被保険者である場合に、もう片方の第2号被保険者の保険料の納付実績を2分の1に分割できる方法です。3号分割は平成20年4月以降の実績に限られているため、それ以前の年金については合意分割を経る必要があります。

3号分割制度|離婚時の年金分割|日本年金機構

年金分割後の平均年金月額

年金分割後にもらえる年金の月額は平均どの程度なのでしょうか。厚生労働省の「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」を参考に見てみましょう。

離婚分割 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移
改定前 改定後
第1号改定者 143,162円 114,025円
第2号改定者 53,405円 84,056円

※第1号改定者は納付記録の分割をした者、第2号改定者は分割を受けた者

年金分割を受ける側の月額平均は、分割前が5万3405円、分割後が8万4056円となっています。つまり、月額約3万円増加しています。しかし、この年金だけで生活できる水準とは到底言えないため、その他の財産分与などもしっかりと交渉を行う必要があるでしょう。

熟年離婚の財産分与でよくある質問

熟年離婚時には双方が頭を悩ませる財産分与ですが、よくある質問を下記にてまとめましたのでご参考ください。

将来もらえる退職金は財産分与の対象になる?

将来もらえる予定の退職金については、支給が確実に認められている場合には、財産分与の対象になると考えられます。また、すでに受け取っている退職金についても財産分与の対象となります。

しかし、退職する予定がまだ随分と先の場合には退職金の支払いが確実とは言えないため、受け取れない可能性があります。

専業主婦でも財産分与は半分もらえる?

専業主婦の方は就労していないため財産分与に不安があるかもしれませんが、文中に触れたように専業主夫であっても原則2分の1の財産分与を受けることができます。しかし、専業主婦で家事などを怠っていた場合、2分の1の財産分与を受け取れない可能性があります。

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財産分与は拒否できますか?

大切な自分の財産を離婚で相手に渡したくない…こんな意見を耳にする機会もありますが、財産分与は請求を受けたら拒否することはできません。しかし、財産分与には「離婚の時から2年」と言う除斥期間が設けられており、この期限を超えると時効が成立してしまいます。離婚の前からしっかりと財産分与の協議を行うことが大切です。

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まとめ

この記事では熟年離婚にともなう財産分与について、さまざまな視点から解説しました。熟年離婚は親権や養育費を争う負担がほとんどない分、財産分与は大きな争点になりがちです。不安な方は早めに弁護士に相談を行い、老後の生活も見据えた財産分与を行いましょう。

熟年離婚で後悔しないために準備すべきこと