不倫の示談書が無効になる場合はある?示談書作成の6つの注意点

  • 最終更新日: 2024.08.29

不倫慰謝料請求を示談で解決する場合、当事者間で合意した内容を示談書という形で書面に残すことが一般的です。
必ずしも示談書を作成する必要はありませんが、口約束だけで合意してしまうと、後にトラブルが生じる可能性が高くなります。
したがって、示談書を作成しておく方がよいでしょう。

ご自身で示談書を作成した場合、「そんな合意はしていない!示談書は無効だ!」と相手側が主張してくるケースも多々あります
せっかく交渉がまとまったにもかかわらず、示談書を巡って再度紛争が生じることは避けたいですよね。

この記事では主に、示談書が無効や取り消しになるケース示談書を作成する際の注意点について解説しています。ぜひ参考にしてください。

示談書が無効や取り消しになる場合は?

署名押印のある示談書は、原則有効です。

しかし、次の5つの場合には示談書が無効や取り消しになることがあります。

相手が示談書の無効に合意した場合

1つめは、相手が示談書の無効に合意した場合です。

示談書の内容は当事者双方の合意があれば変更も可能です。

例えば、慰謝料の分割払いを合意したにもかかわらず、あなたがやはり一括払いにしてほしいと考えたとします。
相手が分割払いから一括払いに変更することに合意してくれた場合には、最初に定めた分割払いの定めは無効になります。

したがって、相手が示談書の無効に合意した場合には無効になります。

公序良俗に反した内容の場合

2つめは、公序良俗に反した内容の場合です。

民法では、公序良俗に反する行為は無効であると規定されています(民法90条)。

例えば、慰謝料額が5000万円といったように、相場から法外にかけ離れた慰謝料額の場合は、その内容が公序良俗に反するとして無効になる場合があります。
そのほかにも、接触を禁止する条項に違反した場合には退職をしなければならないといったように、職業の選択の事由に反する内容も無効になる可能性が高いです。

したがって、公序良俗に反した内容の場合には無効になります。

法律の強行規定に反した内容の場合

3つめは、法律の強行規定に反した内容の場合です。

法律の規定は、任意規定強行規定の2つに分けられます。

任意規定とは、法律に一定の定めはあるものの、その規定と異なる定めを当事者間で合意した場合には、当事者間の合意が優先される規定です。
強行規定とは、契約の定めにかかわらず強制的に適用される規定です。

つまり、強行規定に定めのある内容は、当事者の合意があっても変更が許されません。
なぜなら、強行規定は公の秩序に関する定めだからです。公の秩序を維持するために最低限守るべきルールが定められています。

例えば、利息制限法では、利息について一定の制限が設けられており、それを超える利息については、たとえ当事者間で合意していても無効になります。

したがって、法律の強行規定に反した内容の場合には無効になります。

詐欺や強迫によって合意した場合

4つめは、詐欺や強迫によって合意した場合です。

詐欺や強迫によって無理やり示談書に合意した場合には、取り消しが可能です。民法上も、詐欺または強迫による意思表示の取り消しを認めています(96条)。

例えば、「示談書に署名押印しなければ家族や職場に不倫の内容をすべてバラす。」と相手を脅して示談書に合意させたような場合が挙げられます。

したがって、詐欺や強迫によって合意した場合には取り消される可能性があるでしょう。

示談の前提となる事項に錯誤があった場合

5つめは、示談の前提となる事項に錯誤があった場合です。

示談の前提となる事項に錯誤があった場合には、取り消しが可能です。民法上も、錯誤による意思表示の取り消しを認めています(95条)。

したがって、示談の前提となる事項に錯誤があった場合には取り消される可能性があるでしょう。

示談書の無効や取り消しに関する裁判例

示談書の無効取り消しに関して判断がされた裁判例をご紹介します。

強迫による取り消しを認めた裁判例:東京地裁平成29年3月15日判決

被告は、原告から本件和解契約に応じなければ不利益を被る可能性があるとの恐怖心を抱き、本件和解契約に応じたと認められるのであって、本件和解契約は強迫により取り消し得るものと認めるのが相当であるとしています。

この事案では、以下のような行動が相当性を欠いていると判断されました。

  • 原告が被告の見知らぬ男性4人を同行させており、被告が恐怖心を抱く状況にあったこと
  • 携帯電話を被告から手の届かないところに置いたこと
  • 被告を解雇させることもできるが、本件和解契約に応じれば更なる攻撃はしない旨告げていること

さらに、和解契約で合意した600万円という金額について、以下のような事情を考慮してもやや高額であると判断されました。

  • 被告とAの不貞行為の期間が約半年であること
  • 被告とAは週に4、5回は会っており、その関係は性的関係も伴うものであったこと
  • 原告とAは離婚には至っていないが、婚姻関係が回復する見込みはないこと

したがって、慰謝料の合意に至る過程において相当性を欠いた行動がある場合には、慰謝料の金額の妥当性も考慮したうえで取り消しされる可能性があるでしょう。

強迫による取り消しを否定した裁判例:東京地裁平成28年 1月13日判決

被告が原告に畏怖して本件和解に応じたとは認められないとして、本件和解の強迫による取り消しを否定しました。

この事案では、以下のような行動が、慰謝料の支払交渉において社会的にみて許容される限度を超えるものとまではいえないと判断されました。

  • 和解の状況は、原告側が原告と男性の2人であるのに対し被告は1人だったが、話合いが行われたのは一般人も出入りするオープンカフェであったこと
  • 原告側に次のような発言があったこと
    「僕らもやはり出るとこに出て行かなきゃいけないし」
    「御実家のほうに伺わせていただきます。」
    「お嬢さんも私立の学校に行ってらっしゃいますよね。」
    「やっぱり出るところ出ますよ。」

さらに、和解契約で合意した500万円という金額について、被告とAとの不貞行為の態様・期間等の一切の事情、Aが原告との復縁をする意思はない旨述べていること等に照らせば相当な金額になるとしています。

示談書が無効や取り消しになった場合はどうなる?

示談書が無効や取り消しになった場合はどうなるのでしょうか?

示談書が無効になった場合と取り消しになった場合について、それぞれ見ていきましょう。

示談書が無効になった場合

公序良俗に反する内容や強行規定に反する内容がある場合には、当該条項は最初から効力が発生していなかったことになります。

したがって、当該条項に定めた内容の請求はできなくなります。

示談書が取り消しになった場合

詐欺・強迫・錯誤などにより合意した内容がある場合には、当該条項は相手が取り消しの意思表示をするまでは有効です。

したがって、相手が取り消しの意思表示をした場合には、当該条項に定めた内容の請求はできなくなります。

示談書を作成する際に気を付けるべき6つのポイント

示談書を作成する際に気を付けるべきポイントは、次の6つです。

お互いの意思確認をしっかりと行う

お互いの意思確認をしっかりと行いましょう。

示談書には、当事者双方が合意した内容を記載します。不倫をされた側は怒りのあまり、強気な態度で交渉してしまうこともあるでしょう。

しかし、感情的になってしまい、相手に無理に示談を迫ってしまうと、後日、示談書の無効や取り消しを主張される可能性が高くなります。その場合には、紛争が蒸し返されてしまうことにもなるでしょう。

示談書を作成する際には、お互いが記載内容に合意しているかをしっかりと確認しましょう。

法的に無効な内容がないか確認する

法的に無効な内容がないか確認しましょう。

公序良俗に反する内容や法律の強行規定に反する内容がある場合は無効になります。

あらかじめ公序良俗に反する内容や法律の強行規定に反する内容について調べておくのがよいでしょう。

明確かつ簡潔に記載する

明確かつ簡潔に記載しましょう。

示談書の内容は、誰が読んでもひとつの解釈しかできないことが大切です。

二通りの解釈ができてしまうようなあいまいな表現を用いると、後日その解釈を巡るトラブルが生じたり、場合によっては示談書が無効になったりする可能性もあります。

示談書の作成に慣れていない人は、話し合った内容すべてを盛り込んでおけば安心だと考えて、示談書の内容が長くなりがちです。しかし、必要のないことまで記載してしまうと重要な部分が不明確になってしまいます。

示談書の内容は、明確かつ簡潔な記載を心がけましょう。

相場からかけ離れた慰謝料額を設定しない

相場からかけ離れた慰謝料額を設定しないようにしましょう。

相場からかけ離れた慰謝料で合意した場合、後日何かと理由を付けて示談書の無効や取り消しを主張される可能性が高くなります。2章で紹介した裁判例においても、示談書の取り消しを判断するうえで、慰謝料額の相当性が考慮されています。

不倫慰謝料の相場は、夫婦の離婚の有無で次のように分けられます。

  • 夫婦が離婚しない場合は50〜100万円程度
  • 不貞行為が原因で夫婦が別居した場合は150〜200万円程度
  • 不貞行為が原因で夫婦が離婚した場合は200〜300万円程度

したがって、相場からかけ離れた慰謝料額を設定しないようにしましょう。

テンプレートをそのまま使わない

テンプレートをそのまま使わないようにしましょう。

ネットを検索すると、不倫慰謝料に関する示談書のテンプレートを見つけられるでしょう。もちろん、それらを参考にすることは問題ありません。ですが、前提の事実(不倫の状況等)や示談の条件は個々のケースで異なります。

したがって、テンプレートを参考にしながら、ご自身の事情や条件を加味して、適宜修正・加筆して示談書を作成しましょう。

自由な意思で判断できる環境を整える

自由な意思で判断できる環境を整えましょう。

有効な示談書を作成するためには、当事者双方が自由な意思で行う必要があります。

例えば、閉鎖された空間かつあなたの知人を何人も引き連れて示談書を作成したケースやや、相手の職場に押しかけて示談書に署名押印を迫ったケースでは相手の意思が抑圧されていたと判断される可能性が高いでしょう。

お互いに自由な意思で判断できる環境で作成するようにしましょう。

示談書が無効になるのを回避するには弁護士へ相談を!

弁護士に示談交渉を依頼することで、法的に問題がなく不備のない示談書を作成してもらえます。後日無効を主張される不安を少なくできるでしょう。

弁護士に依頼することで、交渉自体もすべて任せられます。相手と直接顔を合わせる必要がなくなるだけでなく、あなたに有利な解決を目指してもらえるでしょう。

示談での解決を目指している場合には、一度弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

示談交渉をスムーズに解決するためには、示談書の作成も大切です。
示談書に不備があると、せっかく合意がまとまったにもかかわらず、再度の紛争が生じることにもなりかねません。

示談書が無効や取り消しになることはできるだけ避けたいですよね。ご自身で作成する場合には、この記事で紹介した示談書作成の際に気を付けるべき6つのポイントをよく読み、事前にしっかりと準備しておきましょう。

ご自身での作成に不安がある場合には、相手との交渉を含め弁護士に依頼することで不備のない示談書を作成してもらえます。

ネクスパート法律事務所では、不貞問題に強い弁護士が在籍しています。仕事が忙しくて相談に行けない人や遠方にお住まいの方のためにオンライン法律相談サービスも実施しています。初回の相談は30分無料ですので、ぜひ一度ご相談ください。

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