婚姻関係が破綻していない証拠は?別居の場合は慰謝料請求できない?

  • 最終更新日: 2024.10.8

配偶者の不倫相手に慰謝料請求をした際、次のような反論をされることが多々あります。
「既に婚姻関係は破綻していると聞いていた。」
「もうすぐ離婚が成立する予定と聞いていた。」
このような反論を、法律用語では婚姻関係破綻の抗弁と言います。

婚姻関係破綻の抗弁がされたからといって、慰謝料請求を諦める必要はありません。

この記事では、主に次のことについて解説しています。

  • 婚姻関係の破綻とは
  • 婚姻関係の破綻が認められる可能性のあるケース
  • 婚姻関係破綻の抗弁について判断された裁判例

ぜひ参考にしてください。

「婚姻関係は破綻していると聞いていた。」と反論されたら慰謝料請求は認められない?

「婚姻関係は破綻していると聞いていた。」と反論されたら、慰謝料請求が認められないのではないかと不安に思う方もいるかもしれません。

婚姻関係破綻の抗弁は、慰謝料を請求された側から度々主張されますが、実務上、婚姻関係が破綻していたと判断されることはあまり多くありません。裁判所も、婚姻関係が破綻していたかの判断には慎重であり、客観的な証拠に基づいて判断をします。

ですから、婚姻関係破綻の抗弁を主張されたからといって、すぐに慰謝料請求を諦める必要はありません。

よほどの事情がない限り慰謝料請求は認められる

「婚姻関係は破綻していると聞いていた。」と反論された場合であっても、よほどの事情がない限り慰謝料請求は認められるでしょう。

不倫相手が、あなたの配偶者から「婚姻関係は破綻している」と聞かされていたとしても、その説明は配偶者の一方的な言い分に過ぎず、それだけで破綻状態に至っていたと認めるのは困難だからです。

そもそも婚姻関係の破綻とは、夫婦双方に婚姻関係を継続する意思がなく、婚姻関係を修復できる見込みもない状態です。
何をもって婚姻関係が破綻していたとするかについて明確な基準はなく、以下のような点を含め、あらゆる事情を総合的に考慮して判断します。

  • 別居の有無や期間
  • 夫婦関係の悪化の程度
  • 離婚に向けた準備等

例えば、3年別居をしていたからといって、必ずしも婚姻関係が破綻していたとされるわけではありません。別居に至った経緯や別居中の交流の程度、婚姻期間等によって最終的な結論は異なります。

したがって、よほどの事情がない限り慰謝料請求は認められるでしょう。

婚姻関係破綻後の不貞行為は原則慰謝料請求が認められない

婚姻関係破綻後の不貞行為は、原則慰謝料請求が認められません。

そもそも不倫の慰謝料請求が認められるには、不倫によって夫婦の平穏な婚姻生活を侵害されたことが必要です。

不貞行為以前から婚姻関係が破綻していた場合には、不貞行為によって侵害される利益がないと考えられることから、原則、慰謝料請求は認められません。

婚姻関係が完全には破綻していなかったとしても、相当程度悪化していたような場合には、慰謝料は減額される傾向にあります。

婚姻関係が破綻していると判断される可能性のある4つのケース

婚姻関係が破綻していると判断される可能性のあるケースは、次の4つです。

夫婦双方に離婚の意思がある

夫婦双方に離婚の意思があるケースです。

既に夫婦で離婚に向けた協議を行っていた場合・離婚調停を申し立てていた場合には、婚姻関係の破綻が認められやすくなります。

ただし、夫婦のどちらか一方が、単に「離婚したい。」と言っていただけでは、婚姻関係が破綻していたとは言えません。夫婦間で離婚についての具体的な協議をしていたことが必要です。

長期間別居している

長期間別居しているケースです。

長期間の別居は、夫婦の同居、扶助、協力義務に反すること、夫婦間に婚姻継続の意思がないと考えられること、第三者から見ても夫婦として共同生活をしていると判断できないことから婚姻関係の破綻が認められやすくなります。

何年別居していれば婚姻関係の破綻が認められるという明確な基準はありませんが、5年以上の別居は婚姻関係の破綻が認められやすくなるでしょう。

ただし、単に別居の年数だけで判断されるわけではありません。
単身赴任など合理的な理由のある別居は、婚姻関係の破綻は認められないでしょう。

短期間家を出ていたけれど、その間も食事を作りに家に戻っていた・夫婦間で頻繁に連絡を取り合っていたような事情があった場合にも、婚姻関係の破綻は認められにくいでしょう。

夫婦の一方にDV・モラハラがある

夫婦の一方にDV・モラハラがあるケースです。

夫婦の一方にDV・モラハラがある場合には、婚姻関係の破綻が認められやすくなるでしょう。

夫婦関係の実態がなく修復見込みもない

夫婦関係の実態がなく修復見込みもないケースです。

夫婦間の会話が全くない、長い間性交渉がないような事情がある場合であって、かつ関係の修復改善に向けた努力が見られない場合には、婚姻関係の破綻が認められやすくなるでしょう。

婚姻関係が破綻していないことを証明するための証拠とは?

「婚姻関係が破綻していないことをどうやって証明したらいいの?」
このような疑問を抱く方が多いでしょう。

婚姻関係が破綻していないことを証明するには、客観的な証拠が重要です。

婚姻関係が破綻していないことを証明する証拠には、主に次のようなものが挙げられます。

  • 同居をしていることを示す証拠
  • 家族旅行や家族で仲良く過ごしている写真
  • 夫婦で頻繁にやり取りをしているLINEのトーク履歴

以下、詳しく見ていきましょう。

同居をしていることを示す証拠

同居をしていることを示す証拠です。

夫婦が一緒に住んでいることを示す住民票が挙げられます。

同居していることは、婚姻関係の破綻を判断するうえでまず考慮される基準でもありますから、婚姻関係が破綻していないことを示す有力な証拠になります。

家族旅行や家族で仲良く過ごしている写真

家族旅行や家族で仲良く過ごしている写真です。

頻繁に家族での交流があることは、婚姻関係が破綻していないことを示す有力な証拠になります。

夫婦で頻繁にやり取りをしているLINEのトーク履歴

夫婦で頻繁にやり取りをしているLINEのトーク履歴です。

夕食のメニューに関する会話や頼みごとをする会話等、日常的な会話を頻繁にしていたことは、婚姻関係が破綻していないことを示す有力な証拠になります。

夫婦が同居していたり、別居していても頻繁に交流していたりする場合には、客観的に見て婚姻関係は破綻していないと考えられるでしょう。

婚姻関係が破綻していると判断された裁判例

婚姻関係が破綻していると判断された裁判例をご紹介します。

東京地裁平成29年3月14日判決

この裁判では、不貞行為以前に既に婚姻関係は破綻していたとして、慰謝料請求が認められませんでした。

裁判所は、婚姻関係が破綻していたと判断した事情について、次のような事柄を挙げています。

  • 婚姻生活における不満等を述べるとともに別居を求めるようになり、婚姻関係の継続が困難であることを表明するに至っていた
  • 離婚について財産分与等の具体的な協議を進めていた
  • 子どもを連れて実家に戻り、その後子どもの住民票を実家の住所に移し、小学校の転校手続を行った

以上のようなことから、婚姻関係は既に破綻していたと判断されています。

東京地裁平成28年10月28日判決

この裁判では、不貞行為以前に既に婚姻関係は破綻していたとして、慰謝料請求が認められませんでした。

裁判所は、自宅に全く宿泊しない状態が4年程度にわたって継続していた時点において、もはや修復が著しく困難な破綻状態に至っていたとみるべきであるとしています。

したがって、別居期間が4年に及ぶケースでは、婚姻関係が破綻していたと判断される可能性があるでしょう。

婚姻関係が破綻していないと判断された裁判例

婚姻関係が破綻していないと判断された裁判例を紹介します。

東京地裁令和3年6月24日判決

この裁判では、不貞行為当時、婚姻関係は破綻していなかったとして、慰謝料請求が認められています。

この裁判では、夫婦が別居していたことは認められるものの、不貞行為の約3か月前に5日間、約1か月前に3日間、自宅を訪問していたことが認められることに照らすと、婚姻関係が修復不可能な程度に破綻していたとまではいえないとしています。

単に別居の有無だけではなく、別居中の交流の程度についても考慮された事案です。

東京地裁平成30年1月23日判決

この裁判では、不貞行為当時、婚姻関係は破綻していなかったとして、慰謝料請求が認められています。

裁判所は、婚姻関係の破綻を判断するうえで、次のような事柄を考慮しています。

  • 別居期間は、2年11か月であるが、結婚してからの同居期間は10年4か月に及んでいる
  • 別居後も夫婦間で、定期的にメールのやり取りが続いており、婚姻関係の修復のための努力を払っていた
  • 離婚協議書の送付、離婚届の直接の交付、夫婦関係調整調停の申立てを行い、離婚に向けた働きかけをしていた

単に別居期間の年数だけでなく、婚姻期間の年数も考慮されていることがわかります。

離婚に向けた働きかけをしていた場合であっても、夫婦関係の修復の努力が見られる場合には、婚姻関係は破綻していなかったと判断される場合もあるでしょう。

東京地裁平成28年6月30日判決

この裁判では、不貞行為当時、婚姻関係は破綻していなかったとして、慰謝料請求が認められています。

裁判所は、婚姻関係の破綻を判断するうえで、次のような事柄を考慮しています。

  • 被告側は、婚姻関係は元々破綻していると聞かされ続けたと主張するところ、被告の陳述書以外の客観的な裏付けはない
  • 入籍の約1か月後に友人らを集めて結婚披露パーティーを開き、仲睦まじい様子を見せている
  • 双子出産後までの間にも、LINEを通じて、胎児の様子についてやり取りしたり、帰宅時刻を連絡したり、お互いの体調を気遣い合ったりしている

婚姻関係は元々破綻していると聞かされ続けたことについて客観的な証拠がなく、かつ上記のような婚姻関係が破綻していないことを示す証拠がある場合には、慰謝料請求が認められる可能性があるでしょう。

「既に婚姻関係は破綻していた。」と反論された場合には弁護士への相談を!

配偶者の不倫が発覚したことで、怒りと悲しみでいっぱいなことと思います。
さらに、不倫相手から婚姻関係破綻の反論をされたとしたら、これまで以上に怒りや悲しみが湧いてくるのは当然です。

しかし、相手側からすれば、あなたの配偶者から曖昧な話を聞かされていた場合には、素直に慰謝料請求に応じることに不満を感じる人もいるでしょう。

婚姻関係の破綻の抗弁が主張された場合には、当事者双方のこのような感情の衝突が起きやすいことから、交渉が長引いてしまう・交渉がまとまらす訴訟になってしまう傾向にあります。婚姻関係が破綻しているかどうかは、様々な事情を考慮して総合的に判断されるため、ご自身で判断することは難しいです。

早期に慰謝料を獲得するためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

不倫の慰謝料請求では、婚姻関係破綻の抗弁が主張されるケースは多々あります。

しかし、婚姻関係の破綻が認められることはあまり多くありません。ですので、相手から婚姻関係破綻の抗弁がされたからといって、過度に不安になったり、慰謝料請求を諦めたりする必要はありません。

相手の主張・立証に応じて、適切な準備をしましょう。

ご自身での対応に不安を感じている方は、ぜひ一度弁護士に相談ください。弁護士が、あなたのご事情をしっかりと聞き、適切なアドバイスをしてくれるでしょう。

ネクスパート法律事務所では、不貞問題に強い弁護士が在籍しています。
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