近年、SNSやテレビドラマ等でも話題になっている托卵
托卵とは、一部の鳥類の習性ですが、これになぞらえて、女性が夫以外の男性との間にできた子どもを夫の子どもとして出産し、夫の子どもであると信じ込ませて養育させることを指します。托卵を最近知った、言葉だけは知っているという人がいる一方で、托卵を選択し、子どもを産み育てている女性も存在します。
「なぜ托卵を選択するのか?」「托卵がバレた場合のリスクは?」
この記事では、最近托卵を知ったばかりの人が知りたい托卵に関する基礎的な知識のほかに、法的な視点から見た托卵のリスクや問題点についても解説しています。
ぜひ参考にしてください。
目次
托卵とは?
托卵(たくらん)とは、女性が夫以外の男性との間にできた子どもを夫の子どもとして出産し、夫の子どもであると信じ込ませて養育させることです。
そもそも、托卵は動物の習性のひとつで、カッコウ等の鳥が他の鳥の巣に自分の卵を産み付け、その巣の鳥に育てさせる行為を指します。このような動物の習性を人間に置き換えて、夫以外の男性との子どもを産んで夫に育てさせる女性を托卵女子(たくらんじょし)・托卵妻(たくらんづま)と呼ぶようになりました。
なぜ托卵をするのか?托卵女子・托卵妻を選択する4つの理由
托卵は倫理に反する・非道徳的であると感じる人も多いでしょう。托卵は人を騙す行為であり、バレた場合には多くのリスクを伴います。
それなのに、なぜ托卵を選択する女性がいるのでしょう?
托卵女子・托卵妻を選択する理由として、次の4つが考えられます。
- 不倫の末に子どもができてしまった
- 優秀なDNAを持つ子どもが欲しい
- 好きな人との子どもが欲しい
- 夫の経済力を失いたくない
以下、詳しく見ていきましょう。
不倫の末に子どもができてしまった
不倫の末に子どもができてしまったケースです。
不倫相手とは遊びの関係で、夫とは離婚する気がない場合には、正直に話して不倫がバレることは避けたいでしょう。不倫相手との子どもを妊娠したことが夫に知られた場合、夫から離婚を迫られたり、慰謝料を請求されたりする可能性があり、今までの生活が崩れることは避けられません。
その反面、妊娠が発覚すると、子どもを産みたいと考える女性もいるでしょう。自分のお腹の中に宿った子どもを産みたいと考えるのは自然なことです。
不倫の事実を隠したまま子どもを産むために、托卵を選択することが考えられるでしょう。
優秀なDNAを持つ子どもが欲しい
優秀なDNAを持つ子どもが欲しいケースです。
SNSの発展に伴い、学歴至上主義や外見至上主義が激化する中で、自分の子どもには頭が良くなって欲しい、可愛く生まれてきて欲しいと願う声を聞くこともあります。
「性格の良い夫のことは好きだけれど、夫に似た子どもが生まれてきてしまったら、子どもが自分のルックスに悩むだろう。」
このような考えから、優秀なDNAを持つ男性との子どもを産むために、托卵を選択することが考えられるでしょう。
好きな人との子どもが欲しい
好きな人との子どもが欲しいケースです。
結婚は世間体や経済面を考えてしたけれど、子どもは好きな人との子どもを産みたいと考える人もいます。好きな人には既に家庭があるため結婚はできないけれど、せめて好きな人との子どもだけでも欲しいと考える人もいます。
こういったケースでは、はじめから結婚と子どもを分けて考え、計画的に托卵することが考えられます。
好きな人との子どもを産むために、托卵を選択することが考えられるでしょう。
夫の経済力を失いたくない
夫の経済力を失いたくないケースです。
好きな人には経済力がなく、子どもが生まれることで経済的に困窮することが目に見えているケースが考えられるでしょう。夫の経済力であれば、何不自由ない生活が送れるのに、その生活を捨てる選択はできない女性は多くいます。
子どもは裕福な家庭で育てたいことを理由に、托卵を選択することが考えられるでしょう。
托卵がバレるのはどんな時?
托卵女子・托卵妻を選択する女性の中には、バレないから大丈夫だろうと考える人もいるかもしれません。
では、托卵がバレるのはどんな時なのでしょう?
子どもの血液型が判明した時
子どもの血液型が判明した時です。
例えば、夫がA型で妻もA型の場合、子どもの血液型はA型かO型にしかなりません。しかし、生まれてきた子どもの血液型はB型だったというケースです。夫婦の子どもではありえない血液型であると判明した時に、托卵がバレる可能性が考えられるでしょう。
夫が違和感を覚えDNA鑑定をした時
夫が違和感を覚えDNA鑑定をした時です。
子どもが成長するにつれて、夫が自分に似ていないなと違和感を覚え、DNA鑑定をする可能性も考えられます。DNA鑑定をすれば、夫の子どもでないことが明らかになりますから、托卵がバレてしまうでしょう。
托卵がバレた場合のリスクは?
では、托卵がバレた場合には、どんなリスクがあるのでしょう?
托卵がバレた場合に考えられるリスクとして、主に次の3つが挙げられます。
- 離婚問題になる
- 慰謝料請求される
- シングルマザーとして子どもを一人で育てる
以下、詳しく見ていきましょう。
離婚問題になる
離婚問題になる可能性があるでしょう。
子どもが自分の子ではないこと、そしてそのことを騙されてと知った夫は、当然裏切られたと感じるでしょう。このまま夫婦関係を続けられないと考え、離婚を切り出される可能性があります。
基本的に、離婚は、夫婦の合意がなければ成立しません。夫婦が話し合いのうえ双方が離婚に合意し、役所に離婚届を提出することで離婚を成立させることを協議離婚と言います。妻が離婚に合意しない場合には、協議離婚による離婚は難しいでしょう。
しかし、民法には、裁判上の離婚事由が規定されており(法定離婚事由・民法770条)、法定離婚事由に当てはまる事情がある場合には、妻が離婚を拒否しても、夫が裁判所の手続きを利用して離婚請求をすれば、原則として離婚が認められます。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。引用元:民法 | e-Gov法令検索
では、托卵は法定離婚事由に該当するのかについて見ていきましょう。
夫と結婚後に夫以外の男性と性交渉をした場合
夫と結婚した後に、夫以外の男性と性交渉をして子どもが生まれた場合には、民法770条1号の配偶者に不貞な行為があったときに該当します。
したがって、原則として裁判で離婚が認められるでしょう。
夫との結婚前に夫以外の男性と性交渉をした場合
夫と結婚する前に、夫以外の男性と性交渉をした場合には、不貞行為には該当しません。
不貞行為とは、配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことを言うためです。
しかし、夫の子どもでないことを知りながら、夫を騙し、夫の子であると信じ込ませて養育させる行為は、民法770条5号のその他婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当するでしょう。
したがって、夫以外の男性と関係を持ったのが離婚前・離婚後どちらであっても、原則として裁判で離婚が認められるでしょう。
慰謝料請求される
慰謝料請求される可能性があるでしょう。
婚姻中の夫以外の男性との性交渉は不貞行為に当てはまることから、不法行為が成立します。夫の子どもでないことを知りながら、夫を騙し、夫の子であると信じ込ませて養育させる行為それ自体も、不法行為が成立するでしょう。
したがって、托卵がバレたことで慰謝料を請求される可能性は高いでしょう。
托卵で相手を騙す行為それ自体悪質性が高いと評価され、慰謝料が高額になる可能性もあるでしょう。
シングルマザーとして子どもを一人で育てる
シングルマザーとして子どもを一人で育てることになる可能性があるでしょう。
夫から離婚を迫られた場合、離婚を回避するのは難しいでしょう。離婚と合わせて慰謝料も請求された場合には、経済的に困窮する可能性もあります。
托卵が判明したら親子関係はどうなる?
托卵が判明したことで、子どもの実の父親でないことが明らかになります。では、そのまま親子関係もなくなるのでしょう?
血縁関係がなくても法律上の親子関係は否定されない
血縁関係がなくても法律上の親子関係は否定されません。
托卵が判明したことで、子どもの実の父親でないことが明らかになりますが、当然に親子関係が否定されるわけではありません。結婚している男女の間に生まれた子どもは夫の子であると推定され(推定される嫡出子・民法772条)、法律上は夫の子であるとされます。
つまり、托卵が判明したことで血縁関係がないことが明らかになっても、法律上は親子として扱われます。
親子関係を否定する場合には嫡出否認の訴えが必要
親子関係を否定する場合には、嫡出否認の訴えが必要です。
法律上の親子関係を否定するためには、裁判所の法的手続きである嫡出否認の訴えを行う必要があります。
嫡出否認の訴えとは
嫡出否認の訴えとは、推定される嫡出子との法律上の父子関係を否認するための裁判手続きです。
托卵により婚姻中に生まれた子どもは、推定される嫡出子に当たります。嫡出否認の訴えには、調停前置主義の適用があることから、まずは家庭裁判所に嫡出否認調停を申し立てる必要があります。
参照:嫡出否認調停 | 裁判所 (courts.go.jp)
調停は、裁判とは異なり、当事者間の話し合いで解決を目指す手続きです。
嫡出否認調停の中で、当事者間で夫の子ではないと合意できた場合には、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行い、その合意が正当であると認められた場合には、合意に相当する審判がされます。当事者間で合意ができない場合には、嫡出否認の訴えで争うことになります。
嫡出否認の訴えにより嫡出否認を認める審判が確定した場合には、法律上の父子関係は否定され、戸籍が訂正されることになります。
子の出生を知ってから3年以内に限られる
嫡出否認の訴えは、子の出生を知ってから3年以内にしなければなりません。したがって、子の出生から3年以上経っている場合には、嫡出否認の訴えはできません。
なお、従前は子の出生を知ってから1年以内であったものが、民法改正により令和6年4月1日から3年以内に変更になりました。
親子関係不存在確認の訴えは難しい
父子関係を否定する手続きとして、嫡出否認の訴えのほかに、親子関係不存在確認の訴えがあります。
嫡出否認の訴えは、子の出生を知ってから3年以内(子や母が申し立てる場合は、子の出生の時から3年)と申立期間に制限がありますが、親子関係不存在確認の訴えには、このような制限はありません。したがって、子の出生から3年以上経って托卵が発覚した場合には、親子関係不存在確認の訴えを検討する人もいるでしょう。
しかし、托卵の場合、親子関係不存在確認の訴えを認めてもらうのは難しいでしょう。
親子関係不存在確認の訴えの対象は、推定されない嫡出子・非嫡出子です。
嫡出否認の訴え | 親子関係不存在確認の訴え | |
申立期限 | 夫が子の出生を知った時から3年
(子や母が申し立てる場合は、子の出生の時から3年) |
なし |
対象 | 推定される嫡出子 | ① 推定されない嫡出子
② 非嫡出子 |
托卵の場合には、通常婚姻中に子どもを産んでいることが考えられ、さらに夫を騙して産んでいるということは夫との間に性交渉があったことが伺えることから、推定される嫡出子に該当します。
したがって、托卵の場合には、親子関係不存在確認の訴えは原則認められないでしょう。
托卵発覚後に親子関係が否定されたら戸籍はどうなる?
托卵発覚後、嫡出否認の訴えにより嫡出否認を認める審判が確定した場合には、法律上の親子関係も解消されます。
この場合、従前父親の戸籍に記載されていた子どもの戸籍はどのようになるのでしょう?
離婚する場合
夫婦が離婚する場合、妻は夫の戸籍から除籍されます。嫡出否認が認められた子どもも、夫の戸籍から除籍され、妻の戸籍に入籍します。
この場合、子は母の氏を称し、父親の氏名が消除されます。
離婚しない場合
夫婦が離婚しない場合には、従前のとおり夫婦の戸籍に記載されたままになりますが、父親の欄は空欄になります。
托卵を理由に離婚した場合の養育費はどうなる?
托卵を理由に離婚した場合、子どもの養育費はどうなるのでしょう?
離婚した場合でも元夫に養育費の支払い義務がある
離婚した場合でも元夫に養育費の支払い義務があります。
離婚した場合であっても、嫡出否認の訴えにより親子関係が否定されない限り、法律上の親子関係はなくなりません。
したがって、離婚した場合であっても、法律上の父親である元夫には、子どもを扶養する義務があり、原則として子どもの養育費を支払う必要があります。
親子関係が否定されたら養育費の支払い義務はなくなる
親子関係が否定されたら養育費の支払い義務はなくなります。
嫡出否認の訴えにより、法律上の親子関係が否定された場合には、養育費の支払い義務はなくなります。
嫡出否認の出訴期間を過ぎた子の養育費に関する判例
妻が、元夫に対し、元夫との間に法律上の親子関係はあるが、妻が婚姻中に元夫以外の男性との間にもうけた子につき、離婚後の養育費を求めることが権利の濫用に当たるとして、法律上の父親である元夫に対する養育費の支払い請求を認めなかった事例です(最高裁平成23年3月18日判決)。
この事案では、元夫が自分の子ではないと知った時には嫡出否認の訴えができる期限が過ぎていたことから、嫡出否認による親子関係の否認ができず、親子関係不存在確認の訴えも却下されました。
裁判では、次のような事情から、養育費の請求が権利濫用に当たるとされました。
- 妻が、出産後程なく当該子と夫との間に自然的血縁関係がないことを知ったのに、そのことを夫に告げなかったため、夫は当該子との親子関係を否定する法的手段を失った。
- 夫は、婚姻中、相当に高額な生活費を妻に交付するなどして、当該子の養育・監護のための費用を十分に分担してきた。
- 離婚後の当該子の監護費用を専ら妻において分担することができないような事情はうかがわれない。
したがって、嫡出否認の訴えができず、法律上の親子関係が否定されない以上、原則として養育費を支払う必要がありますが、事案によっては養育費の支払い義務を課すことが権利の乱用に当たると判断され、例外的に養育費の支払い義務がなくなる場合もあるでしょう。
まとめ
托卵という言葉の認知度が広がることで、托卵を選択肢のひとつと考える女性も増えるかもしれません。托卵は、夫にバレなければ普通の親子・普通の家族として生活できることもあるでしょう。
しかし、バレた場合には、騙されていた夫はもちろんのこと、生まれてきた子どもにも大きな負担を強いることになるでしょう。
「托卵がバレたから離婚する。」
托卵がバレた場合には、離婚だけでは片づけられない父子関係や養育費・戸籍の問題も発生しますから、安易に托卵を選択することはおすすめしません。
生まれてきた子どもと血縁関係がないことが判明した場合には、早めに弁護士に相談することがおすすめです。特に親子関係を否定する手続きである嫡出否認の訴えには期限がありますから、早めに行動しましょう。
ネクスパート法律事務所では、不貞問題や離婚問題に強い弁護士が在籍しています。初回の相談は30分無料ですので、ぜひ一度ご相談ください。