自己破産後に、不倫相手の配偶者から慰謝料を請求され、対応に戸惑っている方もいらっしゃるでしょう。
自己破産後に慰謝料を請求された場合、その慰謝料の支払い義務はあるのでしょうか?
この記事では、主に次のことについて解説しています。
- 自己破産後に慰謝料請求された場合の支払い義務
- 自己破産後でも支払い義務が生じうる3つのケース
- 自己破産後の裁判や強制執行のリスク
ぜひ参考にしてください。
自己破産後に慰謝料を請求されたら支払わなければいけない?
慰謝料の支払い義務があるかどうかは、慰謝料請求の原因となる不貞行為が自己破産前か後かによって異なります。
自己破産前の不貞行為による慰謝料請求|原則支払わなくてよい
破産手続き開始決定前の不貞を理由とした慰謝料は、原則として支払う必要がありません。
破産手続きが開始され、免責許可決定が確定すると、自己破産をしても免責されない債権(非免責債権)を除き、破産手続き開始決定前の債務は免除されます。
基本的に、不倫慰謝料は免責の対象です。
例えば、自己破産前に不倫相手の配偶者に不貞がばれ、慰謝料の支払いを約束したものの、途中で支払えなくなり、自己破産を申し立てるケースもあるでしょう。
このような場合、破産裁判所に不倫相手の配偶者を債権者の1人として申告(債権者名簿に記載)していれば、免責許可の確定により、原則として慰謝料を支払う義務は免れます。
ただし、慰謝料請求権が次章で解説する非免責債権に該当する場合には、支払い義務が生じる可能性があります。
自己破産後の不貞行為による慰謝料請求|原則支払い義務がある
破産手続き開始決定後に不貞を開始した場合は、原則として支払い義務が生じます。
破産手続きにより支払い義務が免除されるのは、破産手続き開始決定前に生じたもののみです。
破産手続き開始決定後に発生した債務については、免責の効力は及びません。
破産手続きが開始した後に不貞が始まった場合だけでなく、手続きが開始する前から現在まで不貞関係が継続していれば、少なくとも手続き開始後の不貞について慰謝料の支払い義務が生じる可能性が高いでしょう。
破産手続き開始後も不貞があれば、原則として慰謝料の支払い義務が生じます。
自己破産前の不貞でも後に慰謝料請求されたら支払い義務が生じうるケース
破産手続き開始決定前の不貞の場合は、原則として慰謝料の支払いは免れます。
しかし、次の3つのケースに該当する場合には、【非免責債権】として慰謝料の支払い義務が生じる可能性があります。
- 債務の存在を知りながら請求者を債権者名簿に記載しなかった
- 不貞のほか暴力などの加害行為も含む慰謝料を請求されている
- 請求者を傷つける目的で不貞行為に及んだ
なお、非免責債権に該当するかどうかは、破産手続き内ではなく、別途民事訴訟手続きで判断されます。
債務の存在を知りながら請求者を債権者名簿に記載しなかった
自己破産の手続きにおいて、請求者(不倫相手の配偶者)を債権者名簿に記載しなかった場合は、自己破産後も慰謝料の支払い義務が生じる可能性があります。
破産手続きでは、すべての債権者を平等に扱うことが原則です。一部の債権者が手続きに参加できず、免責について意見を述べる機会を与えられないまま免責が確定してしまえば、それは手続きの公正を著しく害することになります。
例えば、次のような事情があるのに、不倫相手の配偶者を債権者名簿に記載しなかった場合は、後の民事訴訟において、非免責債権に該当すると判断される可能性があります。
- 自己破産前に不倫相手の配偶者に不貞がバレて慰謝料を請求されていた
- 自己破産前にすでに不倫相手の配偶者に慰謝料を支払う約束をしていた
民事訴訟手続きの中で、非免責債権に該当すると判断された場合には、慰謝料の支払い義務が生じます。
もっとも、以下のようなケースでは、他の事情も踏まえて、慰謝料請求権が免責されたもの(非免責債権には該当しない)と認められる可能性もあります。
- 債権者名簿に記載しなかったことについて過失がない場合
- 債権者名簿に記載しなかったことについての過失が小さい場合(裁判所が過失が小さいと判断した場合)
- 債権者名簿に記載しなかったものの請求者が破産手続きの開始を知っていた場合
このような場合、民事訴訟手続きの中で、非免責債権には当たらないと判断されれば、慰謝料の支払いを免れます。
不貞のほか暴力などの加害行為も含む慰謝料を請求されている
不貞だけでなく傷害等の加害行為を含めて慰謝料を請求されている場合は、自己破産後も慰謝料の支払い義務が生じる可能性があります。
故意または重過失により、人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権は、非免責債権に該当し、免責の対象となりません(破産法第253条1項3号)。
例えば、不倫相手の配偶者と慰謝料の話で口論になり、暴力をふるって怪我をさせたり、死亡させたりした場合などが挙げられます。
不貞行為に加えて、故意の暴力行為によりケガをさせたことを理由として慰謝料を請求された場合には、自己破産後も慰謝料の支払い義務が残る可能性があるでしょう。
請求者を傷つける目的で不貞行為に及んだ
請求者(不倫相手の配偶者)に精神的苦痛を与える目的で不貞行為に及んだ場合は、自己破産後も慰謝料の支払い義務が生じる可能性があります。
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は、非免責債権に該当し、免責の対象となりません(破産法第253条1項2号)。
例えば、不貞行為自体が、不倫相手の配偶者Aに直接向けられた加害行為と評価される場合(Aに精神的苦痛を与えるために、Aの配偶者に近づき、不貞行為に及んだ場合)などには、その慰謝料請求権が免責されない可能性があります。
ただし、破産法253条1項2号所定の[悪意]は、[故意を超えた積極的な害意]を指すとするのが通説であり、不貞行為による慰謝料請求権が、これに該当する可能性は低いでしょう。裁判実務においても、不貞行為に基づく慰謝料請求権がこれに該当するとした裁判例はほとんどありません。
支払い義務が免除されても自己破産後にトラブルが生じうるケース
自己破産によって支払い義務が免除されても、自己破産後に不倫相手の配偶者とトラブルが生じうるケースとして、次の3つが挙げられます。
- 慰謝料請求を無視して適切な対応をとらなかった
- 請求者が納得せず訴訟を提起した
- 請求者が債務名義に基づいて強制執行を申立てた
以下、詳しく説明します。
慰謝料請求を無視して適切な対応をとらなかった
慰謝料請求を無視して適切な対応をとらなかった場合です。
「自己破産したから支払い義務はない。」と考え、不倫相手の配偶者からの請求を無視するのはおすすめしません。
不倫相手の配偶者は、あなたが自己破産をしたことを知らずに請求しているかもしれません。適切な対応をとらないと、いつまでも請求が続く可能性があります。
例えば、自己破産前は、まだ不倫相手の配偶者に不貞がバレておらず、不倫相手の配偶者を債権者名簿にも記載しなかったケースもあるでしょう。
この場合、請求を無視・放置するのではなく、不倫相手の配偶者に対して、まずは自己破産を申し立てて、免責許可決定が確定したことを伝えるのが賢明です。
自己破産をしたことを伝えると、不倫相手の配偶者は、「訴訟で非免責債権該当性を争っても結局慰謝料を回収できないだろう」と、慰謝料請求を諦める可能性があります。
逆に、慰謝料請求を無視し続けると、裁判を起こされる可能性があります。
裁判を起こされると、何らかの対応が必要です。
裁判を避けるためにも、無視はせずに、自己破産した旨を伝えることをおすすめします。
請求者が納得せず訴訟を提起した
請求者(不倫相手の配偶者)が納得せず訴訟を提起した場合です。
自己破産したから支払い義務はないといっても、不倫相手の配偶者が納得せずに訴訟を提起する場合もあります。
訴訟を提起された場合は、応訴が必要です。
破産手続き内では、一つ一つの債権が非免責債権に該当するかどうかの判断はしないため、民事訴訟手続きの中で慰謝料請求権が非免責債権に該当するかを争う必要があります。
訴訟を提起された場合は、無視するわけにはいかず、あなたも訴訟に対応する必要があります。
請求者が債務名義に基づいて強制執行を申立てた
請求者(不倫相手の配偶者)が債務名義に基づいて強制執行を申立てた場合です。
債務名義に基づいて強制執行を申立てられた場合は、請求異議の訴えなどの対応が必要です。
例えば、不倫相手の配偶者が慰謝料請求権を非免責債権と主張している場合で、かつ公正証書等の債務名義を有している場合は、それに基づいて強制執行をすることが考えられます。
非免責債権かどうかは、破産裁判所が判断してくれないため、強制執行が申し立てられたら、破産者側は請求異議の訴え(および執行停止の申立て)をして、その中で非免責債権に該当するかを判断してもらう必要があります。
まとめ
自己破産後に慰謝料請求された場合、慰謝料の支払い義務があるかどうかは、慰謝料請求の原因となる不貞が自己破産前か後かによって異なります。
慰謝料の支払い義務が生じない場合でも、慰謝料請求された場合には、無視するのではなく、自己破産した旨を説明し、誠実な対応を行いましょう。













