更新日:2026年7月30日 (木)

公開日:2026年7月30日 (木)

緊急避難とは?成立要件や正当防衛との違い、具体例をわかりやすく解説

緊急避難とは?成立要件や正当防衛との違い、具体例をわかりやすく解説 緊急避難とは?成立要件や正当防衛との違い、具体例をわかりやすく解説

サマリー

緊急避難とは、自分や他人の生命・身体・自由・財産などに差し迫った危険が生じている場合に、その危険を避けるため、やむを得ず第三者の権利や利益を侵害する行為をいいます。

刑法37条に定められている制度であり、一定の要件を満たす場合には、本来であれば犯罪となる行為であっても違法ではないものとして扱われ、刑事責任を問われません。

例えば、火災から逃れるために他人の建物に立ち入った場合や、暴走車を避けるために他人の物を壊してしまった場合などが、緊急避難に該当するか問題となることがあります。

もっとも、どのような場合でも認められるわけではなく、「現在の危難が存在すること」や「避難行為がやむを得ないこと」などの成立要件を満たす必要があります。

この記事では、緊急避難の成立要件や正当防衛との違い、認められた事例、さらに民事上の損害賠償責任との関係についてわかりやすく解説します。

緊急避難とは?|自分や他者を守るためのやむを得ない最終手段

緊急避難とは、自分自身または他人の生命、身体、自由、財産などに対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為を指します。

例えば、津波から避難するために他人の家へ立ち入る場合や、火災から逃れるために他人の所有物を利用する場合などが典型例として挙げられます。

緊急避難では、危険の原因を作った者ではなく、第三者の権利や利益がやむを得ず侵害される場合もあります。

もっとも、他に危険を回避する方法がないこと(補充性)や、守ろうとする利益が侵害する利益を上回ること(利益衡量)などの要件を満たす場合にのみ認められる制度であり、あくまで最終手段として位置付けられています。

刑法37条で定められた違法性阻却事由

緊急避難は、刑法第37条1項に定められている制度です。

形式的には住居侵入罪や器物損壊罪などの犯罪に該当する行為であっても、緊急避難の成立要件を満たす場合には、その行為の違法性が否定されます。

このような事情を法律用語では「違法性阻却事由」と呼び、違法性阻却が認められた場合には、その行為について刑事責任を問われません。

つまり、より重要な法益を守るためにやむを得ず行われた行為については、違法性を否定することで社会的な相当性を認めるための制度といえます。

緊急避難が成立した場合の刑事責任と民事責任への影響

緊急避難が成立した場合には、違法性阻却事由として刑事責任を問われません。

また、民法720条では、緊急避難によって他人に損害を与えた場合には、一定の場合に損害賠償責任を負わないことが定められています。

もっとも、被害者は危難の原因を生じさせた者に対して損害賠償を請求できる場合があります。

このように、緊急避難は刑事責任だけでなく民事上の責任判断にも影響を及ぼす重要な制度であり、実際の事件では「現在の危難」の有無や補充性、利益衡量といった成立要件が慎重に検討されます。

緊急避難として認められるための4つの具体的な要件

緊急避難が法律上認められるためには、刑法第37条や判例・実務上認められている要件を満たす必要があります。

以下では、実務上重要となる4つの要件について解説します。
これらの要件は、その行為が本当にやむを得ない状況で行われたものであるかを判断するための重要な基準です。

いずれか一つでも欠ける場合には、緊急避難の成立が否定され、刑事責任を問われる可能性があります。

要件①:差し迫った危険(現在の危難)が存在すること

緊急避難が成立するためには、まず「現在の危難」が存在していることが必要です。

これは、生命、身体、自由または財産に対する危険が現に発生している、または目前に差し迫っている状態をいいます。

過去に発生した危難や、将来起こるかもしれないという抽象的な危険だけでは、この要件を満たしません。

例えば、津波が押し寄せている場合や、猛犬に襲われそうになっている場合など、客観的に見て切迫した危険が存在することが必要です。

要件②:危険を回避する目的(避難の意思)があること

行為者に、差し迫った危険を回避する目的、すなわち「避難の意思」が認められることも必要です。

結果として危険を回避できたとしても、本人に避難の意思がなかった場合には、原則として緊急避難は成立しません。

例えば、単なる興味本位で他人の敷地に立ち入った結果として偶然危険を回避できたとしても、避難の意思が認められないため緊急避難は成立しないと考えられます。

要件③:他に危険を回避する手段がないこと(補充性)

緊急避難が認められるためには、他に危険を回避する方法がないこと、すなわち最後の手段であることが必要です。

この考え方を「補充性」といいます。

他人の権利を侵害しない方法や、より軽微な侵害で危険を回避できたにもかかわらず、あえて大きな侵害を伴う手段を選択した場合には、緊急避難は認められない可能性があります。

そのため、危険回避のための行為が本当に必要不可欠であったかが重要な判断要素となります。

要件④:守られる利益と侵害される利益の均衡が保たれていること(法益衡量)

緊急避難が成立するためには、その行為によって守ろうとした利益が、侵害した利益と比較して同程度またはそれ以上であることが必要です。

この考え方を「法益衡量(法益権衡)」といいます。

例えば、人命を救うために他人の車の窓ガラスを割る行為は、法益衡量の要件を満たす可能性が高いと考えられます。

一方で、軽微な財産的利益を守るために他人に重大な損害を与えるような行為は、法益衡量を欠くとして緊急避難が否定される可能性があります。

【比較】正当防衛と緊急避難の違い

緊急避難と混同されやすい制度に「正当防衛」があります。

どちらも刑法上の違法性阻却事由であり、一定の要件を満たした場合には犯罪の成立が否定される点で共通しています。

もっとも、危険の原因や制度の趣旨には重要な違いがあります。

ここでは、正当防衛と緊急避難の違いについて解説します。

違い①:危険の原因が「不正な攻撃」か「現在の危難」か

正当防衛と緊急避難の大きな違いは、危険の原因にあります。

正当防衛は、相手からの「急迫不正の侵害」に対して行われる防御行為です。

例えば、暴行や傷害などの違法な攻撃を受けた際に、自分や他人を守るために反撃する場合がこれに当たります。

これに対し、緊急避難は、自然災害や事故、動物の襲撃などによる「現在の危難」を避けるための行為です。

そのため、避難行為によって権利を侵害される相手が、危険の発生とは無関係な第三者となる場合もあります。

このように、正当防衛が「不正な攻撃への対抗」であるのに対し、緊急避難は「危険を回避するための利益と利益の調整」という性質を持つ点が大きく異なります。

違い②:緊急避難では補充性や法益衡量が特に重視される

緊急避難では、危難の原因とは無関係な第三者の権利や利益を侵害する場合があります。

そのため、その行為が本当にやむを得なかったのか、また侵害した利益と守ろうとした利益との均衡が保たれているのかが重要な判断要素となります。

具体的には、

  • 他に危険を回避する手段がなかったか(補充性)
  • 守ろうとした利益が侵害した利益と比較して同程度またはそれ以上であるか(法益衡量)

といった点が慎重に検討されます。

一方、正当防衛では、不正な攻撃を行っている相手に対する防御行為であることから、補充性や法益衡量よりも、「急迫不正の侵害」が存在したかや、防御行為が相当な範囲内であったかが主な問題となります。

このように、両者は共に違法性阻却事由でありながら、その成立要件や判断のポイントには違いがあります。

正当防衛については、以下の記事で詳しく解説しています。
正当防衛の要件は?認められるための条件

どのようなケースで成立する?緊急避難の具体例

緊急避難がどのような場面で認められるのかを理解するために、具体例を見ていきましょう。

緊急避難の説明では、海難事故で1人しかつかまれない舟板を奪い合う「カルネアデスの板」が有名です。

この事例は、生命を守るために他者の利益を犠牲にすることが許されるかという法益衡量の問題を考えるための例として知られています。

もっとも、実際の事件では、裁判所が個別の事情を踏まえて緊急避難の成立を判断します。

緊急避難が認められやすいケース

緊急避難が認められる可能性がある事例として、次のようなケースが挙げられます。

  • 暴走車との衝突を避けるため、やむを得ず他人の敷地内に進入し、塀を損壊した場合
  • 熊や凶暴な犬に襲われそうになり、近くの建物や住宅へ避難した場合
  • 火災から逃れるため、隣家の窓を割って避難した場合
  • 津波や洪水から逃れるため、他人の建物に立ち入った場合

これらの行為は、形式的には住居侵入罪や器物損壊罪などに該当する可能性があります。

しかし、差し迫った危険が存在し、他に回避手段がなく、守ろうとした利益が侵害した利益と比較して同程度またはそれ以上であると認められる場合には、緊急避難が成立する可能性があります。

もっとも、緊急避難が認められるかどうかは、危険の切迫性や行為の必要性などを踏まえ、個別具体的な事情に基づいて判断されます。

緊急避難の主張が認められなかったケース

緊急避難は、差し迫った危険を避けるためのやむを得ない行為に限って認められる制度です。

そのため、他に危険を回避する方法があった場合や、侵害した利益が守ろうとした利益を上回る場合には、緊急避難の成立は否定される可能性があります。

実際の裁判例でも、行為者が「危険を避けるためだった」と主張したものの、警察への通報や第三者への救助要請など、他の手段によって危険を回避できたと判断され、緊急避難が認められなかったケースがあります。

このように、裁判所は「現在の危難があったか」「他に回避手段はなかったか」「法益の均衡が保たれているか」といった点を総合的に検討して、緊急避難の成立を判断します。

行為が度を超えてしまった場合の「過剰避難」とは

緊急避難として行われた行為であっても、危険を避けるために必要な範囲を著しく超えた場合には、「過剰避難」と評価されることがあります。

刑法第37条1項ただし書では、避難行為がその程度を超えた場合について、情状により刑を減軽または免除することができると定めています。

例えば、比較的小さな危険を回避するために、第三者の財産や権利に著しく大きな損害を与えた場合には、守ろうとした利益と侵害した利益との均衡を欠くとして、緊急避難の成立が否定される可能性があります。

また、他に危険を回避する手段が存在したにもかかわらず、あえて第三者の権利を大きく侵害する方法を選択した場合にも、過剰避難と判断されることがあります。

もっとも、実際に危険が差し迫った状況では、行為者が冷静な判断をすることが困難な場合も少なくありません。
そのため、裁判所は危険の切迫性や行為当時の心理状態、避難行為に至った経緯などを総合的に考慮し、過剰避難に当たると判断した場合であっても、刑を減軽または免除することがあります

過剰避難は、正当防衛における「過剰防衛」と同様に、避難行為が必要な限度を超えた場合に問題となる制度です。

緊急避難が認められるかどうかはもちろん、その行為が相当な範囲内にとどまっていたかどうかも重要な判断ポイントとなります。

緊急避難に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、緊急避難について多くの方が疑問に感じるポイントをQ&A形式で解説します。

緊急避難によって他人に損害を与えた場合、損害賠償責任は誰が負いますか?

緊急避難が成立する場合には、刑事責任が問われないだけでなく、民事上も原則として損害賠償責任を負わないとされています。

民法720条では、緊急避難によって第三者に損害が生じた場合、被害者は危難の原因を生じさせた者に対して損害賠償を請求できると定められています。

もっとも、損害賠償責任の有無や負担割合は、危難の発生原因や当事者の関与の程度などによって異なるため、実際には個別の事情に応じた判断が必要となります。

ペットを救うための行動も緊急避難として認められますか?

ペットを救うための行動についても、状況によっては緊急避難が認められる可能性があります。

もっとも、緊急避難が成立するかどうかは、守ろうとした利益と侵害した利益との比較衡量(法益衡量)によって判断されます。

例えば、火災現場からペットを救出するためにやむを得ず他人の敷地へ立ち入った場合などには、緊急避難が問題となることがあります。

一方で、ペットを救うために第三者の財産へ過度な損害を与えた場合には、侵害された利益との均衡を欠くとして、緊急避難の成立が否定される可能性もあります。

そのため、ペットに関するケースでも、「現在の危難が存在したか」「他に回避手段はなかったか」「侵害した利益との均衡が保たれているか」といった点が重要な判断要素となります。

緊急避難と正当防衛はどちらが認められやすいですか?

一般的には、緊急避難の方が成立要件が厳格に判断される傾向があります。

正当防衛は、不正な攻撃を行っている相手に対して防御行為を行う制度です。

これに対し、緊急避難では危難の発生原因とは無関係な第三者の権利や利益を侵害する場合があるため、その正当化にはより慎重な判断が求められます。

そのため、緊急避難では「他に回避手段がなかったか」「守られる利益と侵害される利益の均衡が取れているか」といった点が厳しく検討されます。

緊急避難が認められた場合でも前科は付きますか?

緊急避難が成立した場合には、その行為の違法性が阻却されるため、犯罪は成立しません。

そのため、刑事責任を問われることはなく、有罪判決を受けることもないため、前科が付くことはありません。

もっとも、捜査機関による捜査の結果として緊急避難の成立が争点となる場合もあるため、事件化した場合には早期に弁護士へ相談することが重要です。

災害時に他人の建物へ避難した場合も緊急避難になりますか?

地震や津波、洪水、土砂災害などによって生命や身体に対する危険が差し迫っている場合には、他人の建物へ避難する行為が緊急避難として認められる可能性があります。

例えば、津波から逃れるために近くの建物へ立ち入った場合や、火災から避難するために隣家へ逃げ込んだ場合などが考えられます。

もっとも、実際に緊急避難が成立するかどうかは、その時点で危険が切迫していたか、他に避難手段がなかったかなどの事情を踏まえて個別に判断されます。

まとめ

緊急避難とは、自分自身や他人の生命、身体、財産などに対する現在の危難を避けるため、やむを得ず第三者の権利や利益を侵害する行為をいいます。

刑法第37条では、一定の要件を満たす場合に緊急避難が認められており、その場合には違法性が阻却されるため、原則として刑事責任を問われません。

緊急避難の成否は、当時の状況や危険の切迫性、行為の必要性などを踏まえて個別具体的に判断されます。

そのため、自身の行為が緊急避難に当たるか判断に迷う場合や、刑事責任を問われる可能性がある場合には、早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。

ネクスパート法律事務所では、刑事事件に強い弁護士が多数在籍しています。
初回相談は30分無料です。
ぜひ一度ご相談ください。

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:代表(東京オフィス)

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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