更新日:2026年2月26日 (木)
公開日:2023年8月2日 (水)
不倫の示談書の書き方と注意点【テンプレート付】
サマリー
不倫トラブルを当事者同士の話し合いで解決する際、口約束だけでは後々の認識違いや不払いのトラブルに発展するおそれがあります。合意内容を明確にし、将来的な紛争を防ぐためには適切な示談書の作成が大切です。しかし、自分で作成するにあたって「どのような項目を記載すべきか」「法的な不備がないか」と不安に感じる方も少なくありません。そこで本記事では、不倫の示談書に記載すべき基本項目や文例テンプレート、自分で作成する際の流れと注意点、支払いが滞った場合の対処法まで詳しく解説します。
不倫の示談書を作成する目的と主なメリット
示談とは、裁判所の手続きによらず、当事者同士の話し合いによってトラブルを解決することを指します。不倫(不貞行為)に関する示談書は、その話し合いによって成立した合意内容を客観的に記録し、証明するために作成される書面です。
法律上、示談は口頭の合意(口約束)のみでも成立します。しかし、口約束だけでは後日「そのような約束はしていない」「金額や期日が違う」と相手から主張された際に、合意の存在や内容を証明することが極めて困難になります。
言った・言わないの紛争を防ぎ、合意内容を確実に履行させるためにも、示談がまとまった段階で書面化しておくことが推奨されます。
不倫の示談書を作成する主なメリット
不倫トラブルにおいて示談書を作成することには、単なる記録にとどまらず、将来的なトラブルの防止や合意履行の確保など、多くの実務上のメリットが存在します。

1. 合意内容の認識違いや言った言わないのトラブルを防止できる
示談書を取り交わすことで、当事者双方が合意した内容を客観的に確認できるようになります。慰謝料の金額だけでなく、支払期日や支払方法、振込手数料の負担といった細かい条件まで明確に記録できるため、認識の齟齬による再度のトラブルを防ぎやすくなります。
2. 合意事項の履行が促されやすくなる
口頭での約束と比較して、署名押印を行った書面が存在することは、支払義務を負う側にとっても心理的な拘束力となります。合意内容が形として残ることで、期日通りの慰謝料支払いなど、約束が守られる可能性が高まります。
3. 慰謝料が支払われない場合の裁判で有力な証拠になる
万が一、相手方が示談書に記載された慰謝料を支払わない場合、最終的に裁判所で支払いを求める訴訟を提起するケースがあります。その際、示談書があれば、相手が不貞行為の事実を認め、支払いを合意していたことを客観的に立証する有力な証拠として活用できます。
4. 将来離婚を検討する際に不貞事実を証明できる
示談の時点では婚姻関係を継続する場合であっても、将来的に離婚を検討する可能性があります。配偶者の不貞行為は法律上の離婚事由に該当しますが、後から事実関係を証明するのは困難になる傾向があります。示談書を手元に残しておくことで、不貞の事実を示す資料として役立ちます。
5. 接触禁止や違約金を定めて再発を防止できる
示談書には、慰謝料の支払いだけでなく「配偶者との私的な連絡や面会を禁止する」といった誓約事項や、それに違反した場合の違約金を盛り込むことが一般的です。あらかじめペナルティを定めておくことで、不倫関係の再発を抑止する効果が期待できます。
不倫の示談書に記載すべき9つの基本項目と文例テンプレート
不倫トラブルの示談書を作成する際は、合意内容に漏れや曖昧な点が生じないよう、必要な条項を整理して記載することが大切です。一般的には、慰謝料を請求する側を「甲」、請求を受ける不倫相手を「乙」、不貞行為に関与した配偶者を「丙」と表記して関係性を明確にします。
示談書に盛り込むべき9つの基本項目と文例
不倫の示談書で記載漏れを防ぐためには、合意の前提となる事実関係から清算条項まで、標準的な基本項目を押さえておくことが重要です。
①合意の趣旨・②不貞行為の事実と謝罪
書面の冒頭では、当事者間で本件トラブルに関して合意が成立した旨を記載します。続けて、どのような不貞行為があったのかについて、期間や場所、回数の目安などを可能な範囲で具体的に記載し、相手方がその事実を認めて謝罪する文言を盛り込むことが一般的です。
- 合意の趣旨の文例:「甲と乙は、乙と丙の間の不貞行為に関して、本日以下のとおり合意した。」
- 不貞事実・謝罪の文例:「乙は、甲に対し、20〇〇年〇月ころから20〇〇年〇月ころまでの間、継続して乙の自宅等において丙と不貞行為に及んだ事実を認め、これについて深く謝罪する。」
③慰謝料の金額・支払期日・支払方法
合意した慰謝料の総額、支払期日、支払方法(一括または分割、銀行振込など)を明記します。振込送金の場合は、指定口座の情報とともに振込手数料をどちらが負担するかまで記載しておくと、支払いをめぐる細かな齟齬を防ぎやすくなります。
④慰謝料以外の誓約事項・⑤示談内容に違反した場合のペナルティ
再発防止を目的として、配偶者との私的な連絡や接触の禁止、自宅や職場への接近禁止、SNSなどへの書き込み禁止といった誓約事項を定めます。また、これらの約束に違反した場合の違約金や、分割払いが滞った場合に残額を一括請求できる期限の利益喪失条項を設けることも検討されます。
⑥求償権の放棄・⑦守秘義務(口外禁止)
夫婦が離婚しない場合、不倫相手から慰謝料全額の支払いを受けた後に、不倫相手が配偶者に対して自己の負担部分を請求(求償権の行使)すると、同一家計内でお金のやり取りが循環してしまうことがあります。これを防ぐために示談書で求償権を放棄させる条項を入れるのが一般的です。
あわせて、本件の示談内容や経緯について第三者へ口外しない旨の守秘義務を相互に定めることで、双方のプライバシーを保護しやすくなります。
⑧清算条項・⑨示談成立日および署名押印
示談書に記載された内容のほかに、当事者間に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する「清算条項」を置きます。これにより、示談成立後に新たな金銭請求などの蒸し返しがなされるリスクを抑えられます。最後に示談成立年月日を記入し、双方が住所・氏名を自署・押印します。
自分で作成する際に活用できる示談書テンプレート
以下は、不倫相手に対して慰謝料を請求し、一括払いで合意する場合の基本的な示談書テンプレートです。夫婦関係を継続し、求償権放棄や接触禁止を盛り込むケースを想定しています。

- 示談書タイトルおよび前文(甲・乙間の合意の旨)
- 第1条(不貞行為の確認と謝罪):乙が丙との不貞行為を認め甲に謝罪する条項
- 第2条(慰謝料の支払い):金額、支払期日、振込先口座、手数料負担の明記
- 第3条(接触禁止等の誓約):私的な連絡や面会を行わない約束
- 第4条(求償権の放棄):乙が丙に対する求償権を行使しない旨の確認
- 第5条(口外禁止):本件合意内容を正当な理由なく第三者に口外しない誓約
- 第6条(清算条項):本示談書に定めるもののほか相互に債権債務がないことの確認
- 末尾:作成年月日、当事者双方(甲・乙)の住所・氏名の署名押印欄
テンプレートはあくまで標準的な形式であるため、分割払いや別居・離婚を前提とする合意など、個別の事情に応じて適切な条項の追加・修正を行う必要があります。
示談書を自分で作成する際の流れと注意点
示談書を自分で作成してトラブルを解決する場合、交渉の進め方や作成手続きの手順をあらかじめ把握しておくことが大切です。適切な手順を踏まないと、後から合意内容の効力を争われる要因にもなり得ます。
示談書作成の一般的な流れ
示談書の作成は、大まかに以下の4つのステップで進められます。各段階でお互いの認識を丁寧に擦り合わせることが円滑な解決につながります。

まずは相手方に不貞行為に対する責任追及を行い、慰謝料の金額や支払期日、支払方法などの具体的な条件を話し合います。話し合いがまとまったら示談書の文面を作成し、誤りがないか当事者双方が入念に確認します。
双方が内容に同意したら、作成年月日を記入したうえで署名押印を行います。直接対面することが難しい場合は、郵送で示談書をやり取りして署名押印を取り付ける方法も選択肢となります。
署名押印を終えた示談書は原則として一方的に変更できないため、最終確認は慎重に行う必要があります。
自分で作成する際の注意点
示談書を自身でまとめる際には、記載内容が明確かつ客観的であるかを確認することが不可欠です。複数の解釈ができる曖昧な表現を用いると、将来的な解釈の相違からトラブルが再燃するおそれがあります。
また、インターネット上で入手できるテンプレートは便利ですが、そのまま流用することは避けるのが賢明です。不貞行為の期間や頻度、夫婦関係の破綻の有無など、個別の事情や具体的な取り決めに応じて条項を適宜調整する必要があります。
示談書の作成を相手方に任せきりにせず、双方が納得できる文面になっているかを主体的に確認することも大切です。
合意が無効となるリスクと配慮すべき点
示談書に記載する慰謝料額が一般的な相場から大きく乖離している場合、公序良俗に反するとして後日無効を主張されるリスクが存在します。裁判上の一般的な相場も考慮しながら金額を設定することが望まれます。
| 夫婦関係の状況 | 慰謝料額の目安 |
|---|---|
| 夫婦関係を継続する場合 | 50万〜100万円程度 |
| 不貞行為が原因で別居した場合 | 150万〜200万円程度 |
| 不貞行為が原因で離婚した場合 | 200万〜300万円程度 |
さらに、密室で多人数で取り囲む、相手の職場に押しかけて署名を迫るなど、強迫的な状況で作成された示談書は、意思表示の瑕疵を理由に取り消される可能性があります。
双方が自由な意思に基づいて冷静に合意できる環境を整えて示談を進めることが極めて重要です。
示談後に慰謝料が支払われない場合の対応と公正証書の検討
当事者間で示談書を取り交わしたにもかかわらず、約束された期日までに慰謝料が支払われないケースも存在します。支払いが確認できない場合は、放置せずに段階を踏んで対応を進めることが大切です。
慰謝料の支払いが滞った場合の対応手順
まずは電話やメール、メッセージアプリなどを通じて相手方に連絡を取り、支払いの状況を確認して催促を行います。振込先の入力間違いや期日の失念など、悪意のない理由で遅れている可能性も考えられます。
連絡がつかない場合や支払いに応じない場合は、内容証明郵便を送付して督促を行う方法が挙げられます。内容証明郵便を利用することで、いつ・どのような内容の請求を行ったかを公的に証明でき、相手方に対して心理的な履行のプレッシャーを与える効果が期待できます。
一般的な示談書を取り交わしているだけでは、相手方が任意に支払わない場合に直ちに給与や預貯金を差し押さえることはできません。
示談書のみを根拠に強制的な回収を行うには、原則として裁判所へ慰謝料請求訴訟を提起し、勝訴判決などの債務名義を取得する必要があります。そのため、回収までにさらなる時間や労力を要する点に留意が必要です。
強制執行認諾文言付公正証書の作成
将来的な不払いのリスクに備える有効な手段として、示談内容を「強制執行認諾文言付公正証書」にしておく方法があります。公正証書は公務員である公証人が作成する公文書であり、強い証拠力を持っています。
強制執行認諾文言(支払いを怠った場合は直ちに強制執行に服する旨の条項)を記載しておくことで、裁判を起こすことなく預貯金や給与などの差押え手続きへ移行できます。
公正証書の作成には、相手方の同意が必要となるほか、公証役場へ支払う手数料が発生します。手数料は請求する慰謝料の金額(目的の価額)に応じて法令で定められています。
| 目的の価額 | 公証人手数料の目安 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
公正証書を作成する際は、公証役場との事前調整や必要書類の収集などの手間がかかります。分割払いで支払期間が長期にわたる場合など、未払いリスクの大きさに応じて公正証書の作成を検討するとよいでしょう。
示談書の作成や不倫トラブルに関する弁護士への相談
不倫トラブルにおける示談書は当事者自身で作成することも可能ですが、条項の文言に曖昧さや法的な不備があると、将来的なトラブルの再発や合意の無効を招くおそれがあります。法律の専門家である弁護士に相談することで、個別の状況に応じた適切な条項が盛り込まれているか確認を受けることができます。
また、当事者同士の直接交渉では感情的な対立が生じやすく、冷静な話し合いが進まないケースも少なくありません。弁護士を代理人として立てることで、相手方と直接顔を合わせることなく法的な観点から落ち着いた交渉を進めることが期待できます。
示談書の作成や内容の妥当性に不安がある場合は、早期に弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
Q. 示談書の作成費用はどちらが負担すべきですか?
示談書の作成費用の負担者について法律上の明確な決まりはなく、当事者間の話し合いによって自由に決定できます。慰謝料を支払う側に請求して合意を得ることも考えられますが、早期の解決を優先して自身で負担することを選択する場合もあります。
Q. 一度締結した示談書の内容を後から修正することはできますか?
署名押印を終えて成立した示談書の内容は、一方の都合で勝手に変更することは原則として認められません。ただし、当事者双方が内容の変更に合意している場合には、改めて合意書を取り交わすなどの方法で修正を行うことが可能です。
Q. 示談書が無効や取り消しになるのはどのような場合ですか?
公序良俗に反する著しく過大な金額が定められている場合や、脅迫や詐欺によって無理やり署名押印させられた場合などは、示談の効力が否定されたり取り消しの対象となったりすることがあります。また、重要な前提事実に重大な勘違い(錯誤)があった場合も無効を主張される可能性があります。
Q. 示談書に記載した住所に誤りがあった場合はどうなりますか?
示談書に記載された住所に軽微な誤りがあっても、署名押印やその他の記載内容から当事者本人が特定できる状態であれば、示談書自体の効力が直ちに失われる可能性は低いと考えられます。ただし、不要な疑義を避けるためにも正確な記載を心がけることが望まれます。
まとめ
不倫トラブルの示談書は、合意した内容を明確にし、言った言わないの紛争や慰謝料の未払いといったトラブルを未然に防ぐために極めて重要な書面です。作成にあたっては、不貞事実の確認や謝罪、支払条件だけでなく、接触禁止や求償権の放棄、清算条項などを漏れなく盛り込むことが求められます。
また、分割払いなど将来の不払いリスクが懸念される場合は、強制執行認諾文言付公正証書の作成も有効な選択肢となります。条項の記載内容や妥当性、交渉の進め方に少しでも不安がある場合は、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。