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【新担保法制】登録が必要な場合とは?拡大された所有権留保の対抗要件

分割払いで購入した商品について、代金債務だけでなく他の債務も一緒に担保する所有権留保があります。
これが「拡大された所有権留保」です。

前回は、商品の代金債務のみを担保する狭義の所有権留保について説明しました。この場合は対抗要件が不要でした。
しかし、代金債務に加えて手数料などの他の債務も担保する拡大された所有権留保については、原則どおり対抗要件が必要とされます。

特に自動車のように登録制度がある動産については、登録が対抗要件となります。
信販会社が代金を立て替えた場合、信販会社名義で登録していなければ、第三者に対して所有権留保を主張できません。

ここでは、拡大された所有権留保の対抗要件について、従来の判例と新法での規定を説明します。

前回の記事はこちら↓

目次

前回までのおさらい:所有権留保の二つの類型

ここでは、所有権留保の二つの類型について振り返ります。

狭義の所有権留保

商品の代金債務のみを担保する所有権留保です。

二者間取引の場合、家電量販店で冷蔵庫を店舗独自の分割払いで購入し、冷蔵庫の代金債務だけを担保する場合が該当します。

拡大された所有権留保

商品の代金債務だけでなく、他の債務も担保する所有権留保です。

三者間取引の場合、信販会社の償還債権に加えて、手数料債権や既存の債務も一緒に担保する場合が該当します。
自動車をオートローンで購入する際、立替金だけでなく手数料なども担保に含める場合が典型例です。

拡大された所有権留保の対抗要件

ここでは、拡大された所有権留保における対抗要件について説明します。

従前の判例

自動車の所有権留保について、登録名義が重要な意味を持つことを示した判例があります。

最高裁平成22年6月4日判決

信販会社が代金を立て替えた場合の対抗要件について判断した事例です。

購入者が自動車を購入する際、信販会社に代金の立替払を委託しました。購入者、信販会社、販売会社の三者間で、販売会社に留保されている自動車の所有権を、立替払により信販会社に移転する旨の合意がありました。

その後、購入者について再生手続が開始されました。この時点で、自動車の登録名義は信販会社ではなく、販売会社のままでした。

最高裁は、購入者に再生手続が開始した時点で信販会社を所有者とする登録がされていない限り、販売会社を所有者とする登録があっても、信販会社は留保所有権を別除権として行使できないと判断しました。

最高裁平成29年12月7日判決

保証人が保証債務を履行した場合の別除権行使について判断した事例です。

購入者と販売会社の間で、売買代金債権を担保するために自動車の所有権を販売会社に留保する旨の合意がありました。購入者が売買代金の支払を怠ったため、保証人が保証債務の履行として売買代金残額を支払いました。

その後、購入者の破産手続が開始されました。破産開始の時点で、販売会社を自動車の所有者とする登録がありました。

最高裁は、販売会社を所有者とする登録がある場合、保証人は留保所有権を別除権として行使できると判断しました。保証人は、販売会社の留保所有権を代位行使できるという理論構成です。

判例の解釈

これらの判例から、自動車のような登録制度がある動産については、登録名義が対抗要件として重要な意味を持つことが明らかになりました。

平成22年判決は、信販会社自身の名義で登録していない場合、信販会社は留保所有権を主張できないとしました。
一方、平成29年判決は、販売会社名義の登録があれば、保証人が販売会社の留保所有権を代位行使できるとしました。

両判決の違いは、誰の名義で登録がされているかという点にあります。
信販会社が独自の留保所有権を主張するには信販会社名義の登録が必要ですが、販売会社の留保所有権を代位行使する場合は販売会社名義の登録で足りるということです。

新法での規定

譲渡担保新法により、所有権留保の対抗要件が明確に規定されました。

原則的な対抗要件(第109条第1項)

所有権留保契約に基づく所有権留保は、留保買主から留保売主への引渡しがなければ、第三者に対抗できません

ただし、登記や登録が必要な動産については、留保売主を所有者とする登記や登録が必要となります。

自動車の場合、道路運送車両法により登録制度が設けられています。したがって、自動車の所有権留保については、留保売主を所有者とする登録が対抗要件となります。

特則(第109条第2項)

前項の規定にかかわらず、次の債務のみを担保する所有権留保契約については、動産の引渡しがなくても第三者に対抗できます。

  • 二者間取引における所有権留保動産の代金の支払債務
  • 三者間取引における償還債務(所有権留保動産の代金の支払債務を履行したことによって生じるものに限る)

なお、対象となる債務には、利息、違約金、実行費用及び損害賠償も含まれます。

ただし、この特則は、登記や登録が必要な動産には適用されません。

したがって、自動車の場合は、狭義の所有権留保であっても登録が必要です。

拡大された所有権留保の取扱い

代金の支払債務や償還債務以外の債務も担保する場合、商品と債権の間に密接な関係(牽連性)があるとはいえません。このような場合にまで対抗要件を不要とする理由はありません。

したがって、拡大された所有権留保のうち、109条2項に規定する以外の債務については、原則どおり引渡しや登録などの対抗要件が必要となります。

二者間取引でも三者間取引でも、代金債務や償還債務以外の債務(手数料、既存の債務など)を担保に含める場合は、拡大された所有権留保として対抗要件が必要です。

判例との関係

新法の規定は、判例の結論と整合するものです。

平成22年判決は、信販会社が独自の留保所有権を主張するには信販会社名義の登録が必要としました。
新法でも、留保売主を所有者とする登録が対抗要件とされています。

平成29年判決は、販売会社名義の登録があれば保証人が販売会社の留保所有権を代位行使できるとしました。
新法でも、留保売主である販売会社の名義で登録がされていれば、対抗要件を具備したことになります。

このように、新法は判例の考え方を明文化したものといえます。

まとめ

拡大された所有権留保については、原則どおり対抗要件が必要です。

狭義の所有権留保は、商品の代金債務や償還債務のみを担保するため、対抗要件なく第三者に対抗できます。一方、拡大された所有権留保は、代金債務や償還債務に加えて手数料などの他の債務も担保するため、原則どおり対抗要件が必要とされます。

この区別は、担保する債務の範囲によって決まります。

特に自動車のような登録制度がある動産については、登録が対抗要件となります。
最高裁平成22年6月4日判決は、信販会社が独自の留保所有権を主張するには信販会社名義の登録が必要としました。
最高裁平成29年12月7日判決は、販売会社名義の登録があれば保証人が販売会社の留保所有権を代位行使できるとしました。

新法では、これらの判例の考え方を明文化しています。
登記や登録が必要な動産については、留保売主を所有者とする登記や登録が対抗要件となります。
この規定により、拡大された所有権留保の法的な位置づけが明確になり、取引の安全が確保されることになります。

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