更新日:2023年11月14日 (火)
公開日:2023年11月14日 (火)
自賠責保険の請求には時効がある!注意点について解説
サマリー
交通事故の被害に遭われた際、治療や示談交渉が長引くと、自賠責保険への請求期限がいつまでなのか不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。自賠責保険の請求権には消滅時効が定められており、原則として3年が経過すると請求できなくなる可能性があります。また、損害の種類によって時効の起算点が異なる点にも注意が必要です。この記事では、自賠責保険における時効の仕組みや起算点、時効の完成を防ぐための更新手続き、任意保険との関係について分かりやすく解説します。
自賠責保険における請求権の消滅時効と起算点

自動車や原動機付自転車の保有者に加入が義務付けられている自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、交通事故による人的損害を補償するための重要な制度です。
自賠責保険に対する保険金や損害賠償額の請求権には消滅時効が定められており、原則として3年を経過すると請求権が消滅します(法改正前の平成22年3月31日以前に発生した事故については2年)。
請求権の時効期間は原則として3年ですが、請求の種類や損害の内容によって時効が進行し始める「起算点」が異なります。
被害者請求における損害項目別の起算点
被害者請求とは、交通事故の被害者が加害者側の自賠責保険会社に対して直接損害賠償額を請求する手続きです。自賠責保険では損害が傷害・後遺障害・死亡に区分されており、それぞれ起算点が異なります。
| 損害項目 | 時効の起算点 |
|---|---|
| 傷害による損害 | 事故発生日の翌日 |
| 後遺障害による損害 | 症状固定日の翌日 |
| 死亡による損害 | 死亡日の翌日 |
傷害分の損害は事故日の翌日から時効が進行しますが、後遺障害分については医師から「これ以上の改善が見込めない」と判断された症状固定日の翌日から進行します。損害ごとに時効完成のタイミングが異なる点に注意が必要です。
仮渡金請求権の時効と起算点
仮渡金請求とは、損害額の確定前に当面の治療費や生活費、葬儀費用等にあてるため、一定額を事前に自賠責保険会社へ請求できる制度です。
死亡の場合は290万円、傷害の場合は程度に応じて5万円・20万円・40万円が支給されます。この仮渡金請求権の時効期間は事故日の翌日から3年と定められています。
仮渡金は後日確定する損害賠償額から差し引かれるものであり、迅速な救済を目的とした制度ですが、請求期限を過ぎると利用できなくなります。
加害者請求権の時効と起算点
加害者請求とは、加害者が被害者に対して損害賠償金を支払った後に、自賠責保険会社へ自己が負担した金額の填補を求める手続きです。
加害者請求権の消滅時効は、事故日ではなく加害者が被害者に賠償金を実際に支払った日の翌日から起算して3年となります。領収証など支払いを証明する資料をもとに請求を行います。
自賠責保険の時効を更新(中断)する方法
治療や損害賠償に関する話し合いが長引き、所定の期限内に自賠責保険への請求を完了できない可能性がある場合は、時効の更新(旧法における中断)手続きを検討する必要があります。
時効更新申請書の提出手続き
自賠責保険の請求権の時効を更新する一般的な方法は、自賠責保険会社へ「時効更新申請書(時効中断申請書)」を提出することです。
自賠責保険の請求にあたっては、交通事故証明書や事故発生状況報告書、医師が作成する診断書など多くの書類を揃える必要があり、準備に時間がかかるケースも珍しくありません。
手続きとしては、対象の自賠責保険会社に連絡して定型の申請書を取り寄せ、必要事項を記入して提出します。特別な立証資料や申請理由は原則として不要であり、提出時点で消滅時効が完成していなければ保険会社により承認されます。
時効更新の申請が承認されると、承認された日から3年間時効期間が延長されます。
申請時に注意すべきケース
事故に関与した当事者の数や請求の形態によっては、申請書の提出先や申請者に注意が必要です。状況に応じた対応を行わないと、一部の請求権について時効が進行してしまうおそれがあります。
| 状況 | 注意点 |
|---|---|
| 加害者が複数いる場合(玉突き事故など) | 加害車両ごとに加入している自賠責保険会社へ、それぞれ個別に時効更新申請を行う必要があります。 |
| 被害者が複数いる場合 | 被害者ごとにそれぞれ個別の時効更新申請手続きを行う必要があります。 |
| 医療機関が受任請求をしている場合 | 医療機関が被害者の委任を受けて直接治療費等を請求している場合、医療機関自身も時効更新申請を行う必要があります。 |
自動的に時効が更新される事由と起算日
時効更新申請書を提出していない場合であっても、自賠責保険の手続き過程において特定の事由が発生した際には、自動的に時効が更新されます。
| 時効更新事由 | 新たな時効の起算日 |
|---|---|
| 請求書類の不備により保険会社から返却された場合 | 書類が返却された日の翌日 |
| 無責・対象外・非該当などの理由で「支払いできない」と回答された場合 | その回答日 |
| 仮渡金が支払われた場合 | 仮渡金の支払日 |
| 通知された支払額に不服があり異議申立てを行った場合 | 異議申立てに対する回答日 |
上記のような事由が生じた場合は、それぞれの事由に対応する日を新たな起算日として時効が進行します。
任意一括払いが時効の進行に与える影響
交通事故の人身損害では、加害者側の任意保険会社が自賠責保険の支払分も含めて窓口となり、治療費の支払いや賠償金の提示を一括して行う対応が一般的です。この実務上の仕組みを自動車保険・自賠責保険の「任意一括払い」と呼びます。
任意一括払い中における自賠責保険への請求権の時効
任意保険会社による一括払いで手続きが進められている期間中は、自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効は進行しないと扱われています。
自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効は、任意保険会社による一括払いが解除または中止された時点から進行を開始します。
一括払いを解除して直接請求を行う場合の実務上の留意点
任意一括払いによって手続きが進んでいる最中に、被害者本人や加害者が自賠責保険会社へ直接請求を行うと、任意保険会社による一括払いが途中で解除される可能性があります。
後遺障害等級認定の手続きなどを被害者自身で進めるために被害者請求を行いたい場合は、事前に加害者側の任意保険会社へ一括払いの解除を申し入れたうえで手続きを進めるのが実務上の一般的な流れです。
交渉継続中における加害者への損害賠償請求権の消滅時効
任意一括払いが適用されている事案において、保険会社との間で示談交渉が継続している限りは、任意保険会社が被害者に対して加害者への損害賠償請求権の消滅時効を主張しないことが多い傾向にあります。
交渉中に被害者へ時効管理や時効更新の手続きを強いることは、被害者保護の観点から適切とは言い難いと考えられているためです。ただし、治療継続の要否や症状固定時期について見解が対立している場合には、時効の起算点等について争いが生じる可能性も否定できません。
なお、加害者が任意保険に加入していない事案では任意一括払いの取り扱い自体が存在しないため、民法で定められた消滅時効期間が主張される点に留意が必要です。
加害者への損害賠償請求権と自賠責保険請求権の時効の違い
自賠責保険請求権と加害者への損害賠償請求権は別個の権利
交通事故の被害に遭った場合、加害者本人に対して損害賠償を求める権利と、自賠責保険に対して保険金や損害賠償額を直接請求する権利の双方が発生します。これらは法的に独立した別個の権利として扱われます。
権利が別個であるため、消滅時効の進行や時効の更新についてもそれぞれ独立して判断されます。自賠責保険の手続きを進めている場合であっても、加害者に対する請求権の時効管理を別途意識しておくことが大切です。
自賠責保険側の手続きによる影響と注意点
自賠責保険から仮渡金の支払いを受けた場合、自賠責保険に対する請求権の時効は更新され、支払日の翌日から新たに時効期間が進行します。しかし、これにより加害者に対する損害賠償請求権の時効が更新されるわけではありません。
また、自賠責保険会社に時効更新申請書を提出して承認を受けた場合も同様です。更新されるのは自賠責保険に対する請求権に限られ、加害者本人に対する損害賠償請求権の時効期間が延びることはありません。
自賠責保険への請求手続きや時効更新を行っていても、加害者への損害賠償請求権の時効は別途進行している点に注意が必要です。
加害者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅するのを防ぐためには、自賠責保険への対応とは別に、加害者側に対する時効の更新措置(債務の承認の確認や裁判上の請求など)を個別に講じる必要があります。
被害者請求の時効完成後に自賠責保険へ請求する例外的手続き
自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効が完成してしまい、直接の請求が行使できなくなった場合でも、例外的に自賠責保険から回収を図る手続きが認められることがあります。
具体的には、加害者に対する損害賠償請求権についての確定判決などの債務名義を取得し、加害者が自賠責保険会社に対して有している自賠責保険金請求権を差し押さえ、転付命令を得るという手法です(最高裁昭和56年3月24日判決)。
ただし、この方法は加害者が任意保険に加入しておらず、かつ加害者の資力や資産状況が不明であるような場面に限って検討されるものであり、実務上頻繁に利用される手段ではない点に留意しておく必要があります。
自賠責保険の請求や時効管理に関する弁護士への相談
書類収集や起算点判断における相談の意義
自賠責保険に対する請求手続きはご自身で行うことも可能ですが、提出書類には交通事故証明書や事故発生状況報告書、医師が作成する診断書など多岐にわたる資料が含まれます。必要書類を過不足なく収集し、適切に提出しなければ、本来受けられるはずの補償の判断に影響を及ぼす可能性があります。
また、傷害や後遺障害、死亡といった損害項目ごとに時効の起算点が異なるため、ご自身の状況において時効がいつ完成するのかを正確に把握しておく必要があります。弁護士に相談することで、起算点の法的な判断や必要書類の収集について適切な助言を受けることが期待できます。
時効更新手続きや被害者請求への切り替えの検討
治療が長引いている場合や相手方との話し合いが進まない場合には、時効の完成を防ぐために自賠責保険会社へ時効更新申請書を提出すべきかどうかの判断が必要になります。申請手続きの要否や適切な時期を見極める上でも、法的な観点からの助言が役立ちます。
さらに、相手方の任意保険会社による任意一括払いから被害者請求への切り替えを検討している場合、一括払いの解除申し入れや自賠責保険への直接請求など、実務上の手続きを円滑に進めるための配慮が求められます。
請求期限の管理や手続きの進行に関して確認したい点がある場合は、弁護士へ相談することが選択肢の一つとなります。
手続きの不安を解消するための弁護士相談
交通事故の発生から相当の期間が経過している場合や、加害者に対する損害賠償請求権と自賠責保険への請求権の時効管理が複雑になっている場合など、当事者だけで判断するのが難しい場面は少なくありません。
弁護士に相談することで、時効の進行状況を法的に整理し、状況に応じた手続きの流れを確認することができます。自賠責保険の請求手続きや時効に関して不明点があるときは、早めに弁護士への相談を検討してみるとよいでしょう。
コラム監修者
JUNICHI TASHIRO
所属:福岡オフィス 支店長
福岡県北九州市出身。小倉高校、岡山大学法学部、神戸大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所福岡オフィス所長として、依頼者にとって何が大事かを第一に考え、スピード感をもって解決することを信条とし、どこの事務所よりもネクスパート法律事務所に依頼したいと思ってもらえるよう日夜奮闘中。