更新日:2026年7月20日 (月)
公開日:2026年7月20日 (月)
既遂とは?未遂との違い、意味、成立時期をわかりやすく解説
サマリー
既遂(きすい)とは、刑法上、犯罪の構成要件が充足し、犯罪が成立した状態を指す法律用語です。
一般的には、犯罪結果が発生した段階(結果犯)、または予定された実行行為が完了した段階(挙動犯)で既遂として成立するとされています。
犯罪の実行に着手したものの、結果が発生せず犯罪が完成しなかった状態を指す「未遂」と対比して用いられます。
この記事では、既遂の基本的な意味や刑法上の定義をはじめ、未遂との違いや処罰範囲、成立時期などについてわかりやすく解説します。
また、殺人罪や窃盗罪などを例に挙げながら、犯罪がどの時点で既遂となるのかという「既遂時期」について、具体例を交えてわかりやすく説明します。
個別具体的な刑事事件における既遂・未遂の法的判断や実務上の見通しについては、事案によって異なるため、弁護士などの専門家へ相談することが推奨されます。
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既遂の基本的な意味と正しい読み方【刑法上の定義】
「既遂」という言葉は、日常会話ではあまり馴染みがないかもしれませんが、刑法や刑事事件の分野では、犯罪が完成したかどうかを判断するうえで重要な概念です。
まずは、「既遂」という言葉の正しい読み方や一般的な意味、さらに刑法上の専門的な定義や位置づけについて、それぞれ整理して確認していきましょう。
これらの基本を理解することで、後述する未遂罪との実務的な違いや、裁判所で重視される「既遂時期」の判例基準も理解しやすくなります。
既遂の正しい読み方
「既遂」の正しい読み方は「きすい」です。
「既に遂げた(なしとげた)」という字の通り、ある目的や計画が達成された状態を意味します。
法律以外の文脈で用いられることもありますが、一般的には刑法における「犯罪既遂」の概念として知られています。
刑法における「既遂」の定義

刑法における「既遂」とは、構成要件で定められた犯罪結果が発生するか、あるいは特定の実行行為が完了し、犯罪が完全に成立した状態を指す法律用語です。
実務上は、該当する犯罪の構成要件該当性が満たされた段階で既遂となります。
構成要件とは、どのような行為や結果、および主観的意図が特定の犯罪に該当するのか定めた、刑法上の客観的・主観的な要件を指します。
例えば、刑法第199条の殺人罪を例に挙げると、故意に基づく実行行為によって「人が死亡した」という重大な結果が現実にもたらされること(死亡結果との因果関係が認められること)により、実務上、殺人既遂罪が成立します。
一方で、犯罪の実行に着手したものの、何らかの事情で目的とした結果が発生しなかった(犯罪が完成しなかった)場合には、既遂とは明確に区別され「未遂」として扱われます。
犯罪の既遂と未遂の明確な違い

一般的に、既遂と未遂は、いずれも犯罪の実行に着手している点で共通していますが、法的には重要な違いがあります。
この違いを理解することは、刑事事件における量刑判断や処罰範囲を理解するうえで重要です。
既遂と未遂の違いは、実務上、主に以下の2つの観点から整理することができます。
- 法益侵害という結果が発生しているか
- 科される刑罰の重さ
ここでは、刑事上の既遂と未遂の具体的な違いについて、判例や刑事実務の基本的な考え方を踏まえながら分かりやすく解説します。
違い①:犯罪結果(法益侵害)が発生しているかどうか
既遂と未遂を区別する本質的なポイントは、犯罪行為によって構成要件上の結果、すなわち法益侵害が発生したかどうかにあります。
既遂とは、実行行為によって構成要件で予定された結果が現実に発生する、あるいはすべての要件を満して犯罪が完成した状態を指します。
一方、未遂とは、犯罪の実行に着手したにもかかわらず、外部的な障害など何らかの事情によって、目的とした犯罪結果を遂げなかった(犯罪が完成しなかった)状態をいいます。
例えば、殺意を持ってナイフで相手の胸を刺し、その結果として被害者を死亡させた場合には殺人既遂罪刑法第199条)が成立しますが、同様に刺したものの救急搬送などの医療措置や急所が外れたことによって死亡という結果が生じなかった(生存した)場合には、原則として殺人未遂罪(刑法第203条)として扱われます。
違い②:科される刑罰の重さ(量刑)の違い
既遂と未遂では、法定刑や量刑判断に違いが生じる点も重要なポイントです。
刑法第43条本文では、未遂犯について「その刑を減軽することができる」と規定されています。
これは「任意的減軽(にんいてきげんけい)」と呼ばれ、必ず刑が下がるわけではなく、裁判所の裁量によって「刑を減軽するかどうか」を判断できる制度です。
具体的な量刑は、犯行の悪質性・態様、被害の程度、社会的影響、反省の情状といった個別具体的な事情を踏まえて総合的に判断されます。
実務上の傾向としては、犯罪が完成した既遂犯に比べると、未遂犯のほうが相対的に軽い刑罰が選択されるケースが多いと言えます。
これは、既遂犯と比較して法益侵害の程度が小さく、刑事責任の重さも相対的に低いと評価される傾向があるためです。
犯罪が既遂になるタイミングを具体例で解説
犯罪が「既遂」と判断されるタイミングは、犯罪類型ごとに異なります。
これは、法律で保護しようとしている利益(保護法益)や、各犯罪の構成要件・行為態様によって、どの時点で犯罪が成立したと評価するかが異なるためです。
ここでは、代表的な犯罪である殺人罪・窃盗罪・詐欺罪を例に、それぞれの既遂時期がいつになるのかを具体例で解説します。
| 犯罪の種類 | 法律上の既遂の基準 | 【具体例】既遂になる瞬間 |
|---|---|---|
| 殺人罪 | 被害者の「死亡」という結果が発生した時点 | ナイフで刺された被害者が死亡した時点 |
| 窃盗罪 | 財物の占有が犯人の「自己の支配下」に移転した時点 | 万引きの場合、商品をカバンやポケットへ隠し、事実上支配したと評価される時点 |
| 詐欺罪 | 騙された被害者が財物を「交付(手放す行為)」した時点 | 振込詐欺では、犯人側口座へ振込データが記帳され、財産的処分行為が完了した時点 |
以下で、それぞれの犯罪についてさらに詳しく見ていきましょう。
【殺人罪の例】被害者が死亡した時点で既遂となる
殺人罪(刑法第199条)では、客観的に被害者が死亡した時点で既遂となります。
殺人罪は、人の生命という重要な法益を保護する犯罪であり、「死亡結果」が発生した時点で犯罪が完成したと評価されます。
例えば、犯人が被害者をナイフで刺し、その行為との因果関係に基づいて被害者が死亡した場合、その時点で殺人罪は既遂となります。
一方で、刺したものの死亡結果が発生しなかった場合には、一般的には殺人未遂として扱われます。
(※ただし、実務上、当初から「殺意」が認められるかどうかについては、傷口の深さや動機などの個別事情をもとに総合的に判断されます)。
【窃盗罪の例】他人の財物を自分の支配下に移した時点で既遂となる
窃盗罪(刑法第235条)は、他人が事実上管理・占有している財物を、占有者の意思に反して自己または第三者の支配下へ移転させた時点で既遂となります。
例えば、店舗の商品をポケットへ隠した場合、その商品が店側の占有を離れ、自己または第三者の事実上の支配下へ移ったと評価されれば、窃盗罪は既遂となります。
判例実務上、窃盗罪の完成(既遂)は必ずしも「店舗の外へ商品を持ち出した時点」である必要はなく、対象物品の性質や大きさ、隠匿の行為態様、店内の状況などを踏まえて総合的に判断されます。
【詐欺罪の例】被害者が財物を交付した時点で既遂となる
詐欺罪(刑法第246条)は、相手を欺く行為(欺罔行為)によって相手を錯誤に陥らせ、その錯誤に基づいて、自ら財物や財産上の利益を「交付」する財産的処分行為を行った時点で既遂となります。
重要なのは、犯人側が現実に利益を取得した時点ではなく、被害者による財産的処分行為(交付)が行われた時点であるという点です。
例えば、虚偽の投資話によって被害者を騙し、指定口座へ送金させた場合には、金融機関での振込処理を経て、犯人側口座に振込情報が記帳された時点で、詐欺罪の既遂が認められると考えられています。
このように詐欺罪の成否においては、「①欺罔行為→②錯誤→③処分行為(交付)→④財産移転」という一連の因果関係が証拠によって厳格に証明されているかどうかが、実務上の重要なポイントとなります。
既遂と混同しやすい犯罪の段階|未遂犯・中止犯・不能犯

犯罪は、計画や準備の段階から、実行、結果発生に至るまで、刑法上いくつかの発展段階に分類されます。
その中で「既遂」は、すべての構成要件が満たされ犯罪が成立した段階を指しますが、実務上は、未遂犯や中止犯、不能犯など、混同されやすい概念も存在します。
ここでは、実務上どのように区別され、処罰範囲や量刑に影響するのか、それぞれの犯罪段階の違いについて解説します。
未遂犯|実行に着手したものの結果が発生しなかった
未遂犯とは、特定の犯罪を実行する故意をもって実行に着手したものの、外部的障害などの事情によって、目的とした犯罪結果を遂げなかった(発生しなかった)場合を指します。
例えば、人を殺害する目的で拳銃を発射した場合には実行の着手が認められますが、弾が外れるなどして死亡結果が発生しなかった場合には、殺人未遂罪が成立します。
なお、すべての犯罪で未遂が処罰されるわけではなく、未遂犯が刑事責任を問われるのは、「未遂罪を処罰する」という明文の未遂処罰規定が設けられている犯罪に限られます。
中止犯(中止未遂)|自らの意思で犯罪を中止した
中止犯(中止未遂)とは、未遂犯の一種であり、犯罪の実行に着手した後、自らの意思によって、犯罪行為を途中で中止したり、現実に結果が発生するのを防止したりした場合を指します。
中止犯は刑法第43条ただし書きで規定されており、その刑は必要的に減軽または免除されます(必要的減免)。
例えば、強盗目的で住宅へ侵入したものの、被害者の姿を見て思い直し、自らの意思で犯行を中止して立ち去った場合などが中止犯に該当し得ます。
外部的な障害(警察が来た、人に発見されたなど)によってやむを得ず犯行を断念した場合には、任意性が否定されるため、中止犯ではなく通常の未遂犯(障害未遂)として扱われます。
不能犯|そもそも結果発生が不可能だった
不能犯(ふのうはん)とは、行為者(本人)に犯罪の故意があったとしても、その用いた手段や具体的な状況から客観的にみて、目的とした犯罪結果が発生する現実的な危険性が認められず、最初から結果発生が法的に不可能であった状態を指します。
このような場合には、客観的危険性がないと判断されるため、法律上「不可罰」となり、犯罪は成立せず処罰の対象外となります。
例えば、呪術によって人を殺害しようとする行為や、毒薬だと誤信して実際には無害な砂糖を飲ませる行為などが、不能犯の典型例とされています。
不能犯は、「犯罪結果が発生していない」という点においては未遂犯と共通していますが、行為そのものに法益侵害をもたらす現実的な危険性が認められないという点で明確に区別されます。
そのため、不能犯であると最終的に判断された場合には処罰対象とはなりません。
このように、未遂犯では犯罪結果を発生させる現実的危険性が認められるのに対し、不能犯ではその危険性自体が否定される点に重要な違いがあります。
既遂に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、既遂や未遂について、法律知識がない方からよく寄せられる質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q. 未遂でも逮捕や処罰の対象になることはありますか?
はい、未遂であっても逮捕や処罰の対象となる場合があります。
「未遂罪を処罰する」旨の未遂処罰規定が設けられている犯罪については、意図した結果が発生していなくても、法律上「実行の着手」が認められる限り、刑事責任を問われる可能性があります。
例えば、殺人罪や窃盗罪には未遂犯を処罰する規定があります。
もっとも、刑法第43条本文により、未遂犯については裁判所の裁量で刑が減軽される可能性があります。
Q. すべての犯罪に未遂罪は存在しますか?
いいえ、すべての犯罪に未遂罪があるわけではありません。
日本の刑法では「既遂処罰」が基本原則であり、未遂が処罰されるのは例外的な位置づけとなります。
未遂犯が処罰されるのは、刑法などの法律に未遂処罰規定が設けられている犯罪に限られます。
例えば、公然わいせつ罪や名誉毀損罪などには未遂処罰規定が存在しないため、実行途中の段階では原則として未遂犯として処罰されません。
Q. 共犯者がいる場合、既遂と未遂はどのように判断されますか?
原則として、共同正犯などの共犯関係が認められる場合には、共犯者のうち誰か1人が犯罪を既遂に至らせれば、他の共犯者についても共同正犯として既遂犯の責任を負う可能性があります。
これは、共同正犯における「一部実行全部責任」の原則によるものです。
たとえ自らが直接結果を発生させていなくても、共犯関係や役割分担が認められれば、その一員として既遂犯の責任を問われる可能性があります。
まとめ
既遂とは、犯罪の構成要件を満たし、法益侵害という結果が発生した状態を指す刑法上の概念です。
一方、犯罪の実行に着手したにもかかわらず結果が発生しなかった場合は未遂として扱われ、結果発生の有無や量刑面で区別されます。
また、既遂となるタイミング(既遂時期)は、殺人罪・窃盗罪・詐欺罪など、犯罪類型ごとに異なる点も重要です。
刑事事件では、「既遂なのか未遂なのか」「どの段階で犯罪が成立したと判断されるのか」によって、適用される罪名や処分、量刑判断が大きく変わる可能性があります。
特に、共犯関係や故意の有無、実行行為との因果関係などは、個別事情によって法的評価が異なるケースも少なくありません。
そのため、自身や家族が刑事事件に関わり、「既遂として扱われるのか」「未遂や中止犯にあたる余地はないのか」など不安がある場合は、できるだけ早い段階で刑事事件に詳しい弁護士へ相談することが重要です。
早期に専門家へ相談することで、事実関係の整理や適切な対応方針について具体的なアドバイスを受けられる可能性があります。
ネクスパート法律事務所では、刑事事件に強い弁護士が多数在籍しています。
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ぜひ一度ご相談ください。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。