
夫婦関係の破綻に直面し別居を考えた場合、多くの方が経済的な不安を抱くと思います。
民法に基づいて、夫婦は互いに協力し扶助する義務を負っています。そのため、原則として、収入の多い側は収入の少ない側に対して、生活費である婚姻費用を支払わなければなりません。
ただし、場合によっては婚姻費用をもらえなかったり減額されたりするケースがあります。この記事では、婚姻費用をもらえない6つのケースや、婚姻費用が払われない場合の対処法などについて解説します。
目次
婚姻費用をもらえない6つのケースは?
婚姻費用がもらえない可能性がある6つのケースについて解説します。
あなたが有責配偶者の場合
あなたが別居(婚姻破綻)の原因を作った有責配偶者の場合、婚姻費用をもらえない可能性があります。
自ら夫婦関係を壊したにもかかわらず、婚姻費用を請求するのは、あまりにも身勝手な行為だと判断される場合があるからです。
正当な理由なく別居をした場合
正当な理由なく無断で別居をした場合、婚姻費用をもらえない可能性があります。
夫婦は互いに協力し扶助する義務を負っている以上、相手に相談もなく勝手に別居する行為は、同居義務違反に当たる可能性があるからです。
別居後も生計を共にしている場合
別居後も夫婦で生計を共にしている場合、婚姻費用をもらえない可能性があります。
支払われるべき婚姻費用の全額に相当する額、もしくはそれ以上の額を相手から受け取っていたら、別途婚姻費用の請求は認められません。婚姻費用を支払う側が受け取る側の生活費の一部を負担していることを考慮して婚姻費用を算出した判例があります(神戸家裁平成27年11月27日審判)。
相手が子どもを養育している場合
相手が子どもを養育している場合、婚姻費用をもらえない、もしくは減額される可能性があります。
婚姻費用には、子どもの養育費も含まれているからです。
相手よりも収入が多い場合
相手よりもあなたの収入が多い場合、婚姻費用をもらえない可能性があります。
婚姻費用は、原則として収入の多い側が少ない側に支払うものだからです。
ただし、あなたが相手より収入が多くても、子どもを引き取って監護している場合は、婚姻費用に含まれる子どもの養育費部分について、一定程度の分担を請求できるケースがあります。
すでに離婚が成立している場合
すでに離婚が成立している場合、婚姻費用はもらえません。
婚姻費用は、婚姻関係にある夫婦間の扶助義務に基づいているからです。
離婚が成立し、婚姻関係が法的に解消されれば、それに伴い婚姻費用の支払義務は消滅します。
婚姻費用の減額が認められやすい4つのケースは?
婚姻費用は、一度決めても支払う側の生活環境に変化があれば減額が認められます。
ここでは、減額が認められやすい4つのケースについて解説します。
婚姻費用を支払う側の収入が大幅に減少した場合
婚姻費用を支払う側の収入が大幅に減少した場合は、減額が認められる可能性があります。リストラや会社の倒産、支払う側の病気や災害など、やむを得ない理由による収入減は、減額が認められる可能性があります。
婚姻費用を受け取る側の収入が大幅に増加した場合
婚姻費用を受け取る側の収入が大幅に増加した場合、減額が認められる可能性があります。別居後に再就職したり、昇進したりして収入が増えた場合、扶養の必要性が減少したと判断され、相手方からの減額請求が認められる可能性があります。
婚姻費用を受け取る側が浪費した場合
婚姻費用を受け取る側が浪費した場合、減額が認められる可能性があります。
婚姻費用がギャンブルなど、家庭の維持とは無関係な浪費に使われていると証明できた場合、婚姻費用の趣旨に反するため、減額が認められる場合があります。
婚姻費用を受け取る側の住居費を相手が負担している場合
婚姻費用を受け取る側の住居費を相手が負担している場合、減額が認められる可能性があります。例えば、相手が別居先の賃貸物件の家賃や自宅の住宅ローンを支払っているなら、その分が婚姻費用として既に支払われていると評価されるからです。
婚姻費用の減額が認められにくい2つのケースは?
婚姻費用の減額は、単に生活が苦しいだけでは認められません。
ここでは、婚姻費用の減額が認められにくい2つのケースを紹介します。
自己都合で収入を減らした場合
自己都合で収入を減らした場合は、婚姻費用の減額が認められにくい可能性があります。
収入を意図的に減らす目的で退職や転職、あるいは勤務時間を減らすケースが該当します。
面会交流に応じてもらえないことを減額の理由にした場合
子どもの面会交流に応じて応じてもらえないことを理由に婚姻費用の減額を求めた場合は、認められにくい可能性があります。
面会交流の実施と婚姻費用の支払いは、法律上別個の問題です。相手が面会交流に応じないことを理由に婚姻費用の支払いを拒否できません。
婚姻費用が認められなかった具体的な判例は?
ここでは、過去に婚姻費用が認められなかった2つの判例を紹介します。
有責配偶者からの婚姻費用請求が却下された事例
有責配偶者の妻からの婚姻費用請求に対し、夫が権利濫用・信義則違反に当たると主張し認められた事例です(東京高裁平成29年9月4日決定)。
妻からの婚姻費用分担請求に対し、妻は不倫(不貞行為)によって夫婦の責任を放棄した有責配偶者であり、婚姻費用の請求は権利濫用・信義則違反に当たると夫が主張しました。
原審で、不貞行為の有無を詳細に審理することは適切ではないとし、夫に婚姻費用の支払いを命じたものの、控訴審では、複数の証拠から妻が不貞関係にあったことを推認されました。
配偶者以外の者と男女関係を持つことは夫婦間の信頼を壊す背信的行為であり、そのような行為をした者が自分の生活費を含む婚姻費用を請求することは、信義に反し、権利濫用にあたると判断しました。妻自身の生活費に相当する部分の請求は認められず、夫は子どもを監護養育する費用部分に限り支払うべきであると判断されました。
妻から子に対する暴力行為が原因で別居に至り却下された事例
夫婦関係の悪化と別居の原因が妻から子どもに対する暴力行為にあり、妻の責任が大きいと認められた事例です(東京高裁平成31年1月31日)。
裁判所は、別居及び婚姻関係の悪化について極めて大きな責在(責任)があると認められる妻が、夫に対し、その生活水準を夫と同程度に保持することを求めて婚姻費用の分担を請求することは、信義に反し、又は権利の濫用として許されないと判断しました。これにより妻自身の生活費に相当する部分の婚姻費用請求は認められませんでした。
これらの判例から読み取れるのは、自ら夫婦関係を破綻させた有責配偶者が、その状況を利用して相手に経済的負担を求めることは身勝手だということです。ただし、子どもがいる場合は、親の責任と子どもの福祉は切り離して考えられるため、子どもの養育費に相当する部分は認められるのが一般的です。
婚姻費用が払われない場合の対処法は?
婚姻費用を払ってもらえない場合にどのような対処法があるか、以下のステップで対応しましょう。
ステップ①相手と話し合いをする
相手と直接話し合いをして、婚姻費用の支払いをお願いしましょう。
ステップ②内容証明郵便による正式な請求をする
相手との話し合いで解決しなかったり、話し合いに応じてもらえなかったりする場合、内容証明郵便による正式な請求をしましょう。相手に婚姻費用の支払いを求めるあなたの意思を明確に伝えなければならないからです。
内容証明郵便は、いつ、誰に、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれるものです。相手に強い心理的プレッシャーを与える効果があり、内容証明郵便は、後々の法的手続きを取る場合に、あなたが正式に請求した事実を示す重要な証拠となります。
ステップ③家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申立てる
内容証明郵便を送付しても相手が支払いに応じない場合、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。調停では、調停委員が夫婦の間に入り、双方の収入や事情を考慮しながら婚姻費用の金額や支払方法について話し合いを進めます。
この調停で夫婦が合意に至れば、合意内容が調停調書にまとめられ、法的な効力を持ちます。合意に至らない場合は調停不成立となり、手続きは自動的に審判へ移行します。審判では、裁判官が、双方の主張や提出された証拠に基づいて最終的な判断を下します。
ステップ④強制執行で婚姻費用を回収する
調停や審判で支払いが決定したにもかかわらず、相手が支払いを拒否する場合、最終手段として裁判所に強制執行を申し立てます。
強制執行の申し立てをすれば、相手の財産を差し押さえ、未払い分を強制的に回収できます。婚姻費用の場合、給料の手取り額の2分の1まで差し押さえが認められるのが一般的です。
まとめ
婚姻費用がもらえないかもしれない不安は、一人で抱え込むべき問題ではありません。夫婦には互いに扶助する義務があり、その権利は法律で守られています。不利な状況に置かれていると感じても、適切な主張と客観的な証拠を提示すれば、有利な結果を引き出せる可能性があります。あなたの抱える不安や状況を弁護士に相談し、どのような解決策が現実的か考えましょう。
ネクスパート法律事務所には、離婚全般を数多く手掛けた経験のある弁護士が在籍しています。婚姻費用についてお悩みがある方は、初回相談は30分無料ですので、ぜひ一度お問合せください。


