離婚協議において、子どもの親権をどちらが持つか揉めたり、離婚後に親権を獲得できなかった親が子どもを諦めきれなかったりして、トラブルになるケースがあります。
この記事では、子どもの連れ去りについて、親権獲得への影響や子どもを連れ去られた場合の対処法を解説します。
目次
子どもの連れ去りは違法なのか?
子どもの連れ去りは、必ずしも違法となるわけではありません。
非親権者が親権者のもとから未成年の子を連れ出す行為は、人身保護法上、原則として違法となることは判例上確立しています。
しかし、日本には、親権者による子の連れ去りを、一律に違法とする法律がありません。
ただし、連れ去りの手段・態様や、別居に至る経緯やその後の監護のあり方等によっては、連れ去り行為が問題視されることがあります。
違法と判断される可能性があるケース
違法な連れ去りと判断される可能性があるケースは、以下のとおりです。
親権者ではない親が連れ去った場合
離婚後、親権者ではない親が子どもを連れ去った場合、違法と判断される可能性が高いです。
元妻が、親権者である元夫のもとから2人の子どもを連れ去ったことが、不法行為法上違法となると判断した判例があります(東京地裁令和4年3月25日)。
元妻は、以下のように述べて、不法行為は成立しないと主張しました。
- してもいない浮気を疑われて責めたてられ、元夫の離婚請求に応じざるをえなかったから、そもそも親権者を元夫とする離婚自体が無効である
- 元夫による自身への精神的・性的・経済的暴力があり、子どもにも虐待が及ぶ可能性があった
- 離婚後も復縁を予定した内縁関係であり、実質的には共同親権の状態と同じだった
しかし、裁判所はこれらの元妻の主張を裏付ける根拠はないとし、単独親権者である元夫のもとから子を連れ去る行為は、単独の監護が明らかに子らの幸福に反する事情が存在しない限り、不法行為上違法となるとして、不法行為の成立を認めました。
有形力を用いて連れ去った場合
一方の親権者が、他方の親権者のもとで監護養育されていた子どもを有形力を用いて連れ去った場合、その連れ去り行為に違法性があると判断される可能性があります。
過去に、離婚係争中の夫が、妻のもとで養育されていた子どもを連れ去ったとして、未成年者略取罪が成立するとされた判例があります(最高裁平成 17 年 12 月 6 日決定)。
夫婦が別居中、子どもは妻のもとで養育されていたところ、妻の母が子どもを保育園に迎えに行き、車に乗せる準備をしていた隙に、別居中の夫が背後から子どもを持ち上げて自分の車に乗せ、妻の母の制止を振り切って走り去った行為が未成年者略取罪にあたるとされました。
この事例で、裁判所は、夫の連れ去り行為は、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものとは評価し難いと判断しています。
- 子ども、妻の実家において妻とその両親に監護養育されて平穏に生活していた
- 妻による子どもの養育状況に特段の問題はなかった
- 夫による連れ去り行為の態様が粗暴で強引なものだった
- 子どもは当時2歳で自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていなかった
- 連れ去り後の監護養育について確たる見通しがあったとは認め難い
なお、この裁判では、複数の裁判官が判断に関与していますが、そのうち1人は反対意見を述べています。
反対意見を示した裁判官は、親権の行使とみなされる行為である限り、一時的には多少行き過ぎた面があるように見えたとしても、その評価は子の福祉を重視する家庭裁判所の判断に委ねるべきだと主張しています。さらに、その領域に刑事手続きが介入することには慎重であるべきだとし、本件についても社会的に許容される範囲内であるとの見解を示しました。
違法な連れ去りとはいえないケース
違法な連れ去りとはいえないケースは、以下の2つです。
合意の上で子どもを連れて別居する場合
どちらか一方の親の合意のもとで子どもを連れて別居した場合は、違法な連れ去りとはいえません。
離婚前であれば、父親と母親の双方に親権があります。夫婦間で合意があるならば、子どもを連れて家を出ることは違法・不当とはいえません。
配偶者のDVから子どもを守る場合
配偶者のDVが原因で子どもを連れて家を出る場合、違法な連れ去りとはいえません。
配偶者が子どもに暴力をふるって虐待している場合、子どもの身を守るために連れ去るのは正当な理由があると考えられるからです。
子どもの連れ去親権獲得に影響するか?
子どもを連れ去ったからといって、親権を認められないとは限りません。
親権者を決めるにあたって、家庭裁判所は子どもの心理的安定という配慮から、監護の継続性を重視しています。
そのため、連れ去った親のもとで子どもが安定した生活を送っている場合、元の環境に戻すことがかえって子どもの福祉に反すると判断されることもあります。
このような考え方から、「子どもを連れ去り、一方の親が監護を続ければ、監護の実績が積めるので親権獲得に有利になるのでは…?」と考える方もいるかもしれません。
しかし、子どもを連れ去った経緯や状況によっては、かえって親権獲得に不利になる場合があります。
例えば、以下のようなケースが当てはまります。
- 子どもが自分の意思を主張できる年齢なのに意思を確認せずに実家に連れていく
- 育児に積極的ではなかったのに連れていく
- 子どもが自宅を離れたくないと言っているのに連れていく
子どもを連れ去られたときの対処法は?
子どもを連れ去られた場合、以下2つの対処法があります。
警察に届け出る
子どもが連れ去られた旨を警察に届け出ましょう。
子どもに危害が加わる可能性がある場合や悪質性がある場合は、すみやかに警察に届け出たほうがよいです。状況によっては未成年者略取誘拐事件として扱われるかもしれません。
ただし、離婚前の夫婦であれば、父親にも母親にも親権があるため、子どもと一緒にいるのが親であると確認ができれば、それ以上警察が介入してこない場合がほとんどです。
この場合は弁護士に相談をして、子どもを取り戻す別の手段を考えたほうがよいでしょう。
家庭裁判所に調停・審判を申立てる
家庭裁判所に子の引渡しの審判・調停と子の仮の引渡しを求める審判前の保全処分をセットで申立てましょう。
子の仮の引渡しを求める審判前の保全処分が認められれば、子の引渡しの審判の確定前に子どもの引渡しが求められます。
それでも相手が子どもの引渡しをしない場合は、強制執行が可能です。
裁判所の執行官とともに子どもを連れて帰る方法(直接強制)や家庭裁判所が、子どもを引き渡さない期間に金銭の支払い義務を課して、相手に子どもの引渡しを促す方法(間接強制)があります。
まとめ
子どもと二度と会えなくなるかもしれないという恐怖心から、連れ去りを考える方がいらっしゃいます。相手方と激しく親権争いをした結果、親権を獲得した方は、子どもの連れ去りを心配するのも無理もありません。
例えば面会交流を行っている中、相手方が約束を守ってくれないなど、子どもの連れ去りの可能性を考えている方は、早い段階で弁護士に相談したほうがよいでしょう。
弁護士が間に入ることで、相手方が無謀な手段に出る可能性は低くなりますし、万が一連れ去りが起こったら迅速な対応が可能です。
ネクスパート法律事務所には、離婚全般に強い弁護士が在籍しています。
親権問題をはじめとしてお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は30分無料となりますので、お気軽にお問い合わせください。