配偶者が病気や障害を抱え、看病や介護で疲弊して離婚を考えている人も少なくないものと思われます。離婚したいとは思うものの、離婚後の配偶者の生活も心配でしょう。

病気や障害がある配偶者との離婚問題は、このように悩み深いものです。

そこで今回は、配偶者に病気や障害がある場合にこれを理由に離婚することができるのか、離婚できる場合、養育費や財産分与、慰謝料請求はどうなるのかということについて解説していきます。

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配偶者の病気や障害を理由に離婚できるか

そもそも、配偶者の病気や障害を理由に離婚することができるのかについて、離婚の手続きの流れに沿って解説します。

協議による場合

病気や障害を持つ配偶者が離婚に合意する場合には、協議離婚が成立します。

しかし、重度の精神疾患があり、配偶者との意思疎通が困難な場合もあります。

この場合には、正常な判断ができない状況であるため、夫婦間で話し合いはできず、協議離婚はできないといわざるを得ません。

調停による場合

配偶者が離婚に合意せず協議離婚が成立しなかった場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てられます。

調停の手続きにおいて、調停委員や裁判官の仲介により、離婚に合意できれば、調停離婚が成立します。

調停が成立しなかったものの、それでも離婚したい場合には、離婚裁判の提起を検討することになります。

なお、離婚裁判を起こす前には必ず調停を行う必要があるとされています(調停前置主義)。

裁判による場合

離婚調停が不成立で終わった場合、離婚裁判を提起するという方法があります。

しかし、裁判で離婚ケースできるケースは、以下のとおり法律で限定されています。

  1. 配偶者に不貞な行為があったとき
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき(生活費をもらえず放置されるなど)
  3. 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  5. その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき

配偶者に病気か障害があるケースについては、原則的に⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるときに該当するといえるかが検討されることとなります。

一般的に、単に病気や障害があるだけでは⑤に該当するとは判断されません。

なぜなら配偶者に病気や障害があるだけでは、夫婦の絆が壊れて婚姻関係の維持が困難であるとは一般的に考えられないからです。

どのような基準を満たせば離婚できるかについて、一般的な基準があるわけではありませんが、例えば、以下のような場合には婚姻関係の維持が困難であると認められるものと考えられます。

  • 看病や介護により他方が健康を害した場合や耐え難い精神的苦痛を被った場合
  • 看病や介護の過程で病気・障害のある配偶者から暴言や暴力等を受けた場合

病気や障害のある配偶者が、そのままでは、離婚後に治療や療養を続けられる環境にない場合には、これらの環境を整える、離婚後も経済的に支援するなどの措置を採らなければ、離婚は認められにくいと考えられます。

病気や障害のある配偶者を放置して離婚することは、非人道的であまりに身勝手といわざるを得ないためです。

なお、配偶者が精神疾患を患っていたとしても、それが回復の見込みがない重いものでない限りは、④には該当しません。

仮に④に該当するような重い精神病を配偶者が患っている場合でも、療養生活を送るだけの経済的な手当がない場合には離婚できないと判断するのが裁判実務の傾向です。

配偶者が意思表示できない場合

配偶者が病気や障害のために意思表示ができない場合、そのままの状態では離婚の手続きを進められません。

この場合には、病気や障害のある配偶者について、家庭裁判所に成年後見の申立てを行って審判をしてもらい、成年後見人をつけてもらうことがまず必要です。

その上で、成年後見人を通じて離婚の協議をしたり、調停や裁判で成年後見人に対応してもらったりすることが必要となります。

養育費を請求できるか

病気や障害がある配偶者と離婚するケースで、夫婦の間に子どもがあり、離婚後相手方が子どもを養育することになった場合、養育費を請求できるかという問題があります。

病気や障害があること自体が養育費の免除の原因とはならないので、配偶者に収入がある場合には、相応の養育費を請求できます。

しかし、病気や障害の程度によっては、相手に比べて収入が著しく低い場合や、収入がない場合も少なくありません。その場合には、養育費を請求できません。

財産分与を請求できるか

病気や障害がある配偶者に対して財産分与を請求できるかという問題があります。

病気や障害があること自体は、財産分与を拒否する原因にはなりません。

そのため、婚姻中に自身の名義で取得した財産については、特有財産(相続財産など夫婦が協力して得たとはいえない財産)に該当しない限り、財産分与の対象となり、他方は財産分与の請求をすることができるのが原則となります。

ただし、病気や障害のある配偶者が、離婚後に治療や療養、介護サービスを受けるために相応の資産が必要であり、これについて他方が十分な手当をする資力がない場合には、財産分与による調整がなされ、場合によっては請求が認められないこともありうるでしょう。

慰謝料を請求できるか

病気や障害がある配偶者に対する慰謝料請求は、原則として認められないと考えられます。

いくら配偶者の病気や障害のために精神的苦痛を被ったとしても、病気や障害になったことについて配偶者には過失がないため、慰謝料請求するための要件を欠くことになるからです。

しかし、看病や介護の過程で、暴言を受けたり暴力を振るわれていたりするケースでは慰謝料請求が認められる余地があります。

この場合でも、慰謝料請求が認められるためには、配偶者の暴言・暴力の証拠が必要となります。

録音や録画をすることは困難ですが、日記病院で治療を受けた場合のカルテなど、証拠を収集しておくことが必要でしょう。

さいごに

病気や障害のある配偶者との離婚は相手が応じてくれれば問題ありませんが、そうでない場合には手続上も金銭的な面でもいくらかハードルがあることがお分かりいただけたと思います。

病気や障害が重い配偶者を相手にする場合には、その点に配慮したうえで離婚することが求められます。

病気や障害がある配偶者との離婚には法的に難しい問題があり、ご自身だけでは解決ができないことも少なくありません。弁護士に相談することが必要といえます。

ネクスパート法律事務所には、離婚事件に詳しい弁護士が多数在籍しており、配偶者に病気や障害がある場合にも対応できます。

病気や障害がある配偶者との離婚でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。お待ちしております。