離婚時に取り決めた養育費は、定められた期日までに支払わなければいけません。
ある日突然、勝手に減額された養育費が振り込まれたらどのように対処すればいいでしょうか?
この記事では、養育費を勝手に減額された場合に取るべき方法と相手に養育費減額調停を申し立てられた場合の対処法について解説します。
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目次
養育費を勝手に減額されたらどうすればいい?
離婚時に養育費の金額について夫婦間の協議で合意している場合、勝手に金額を減額するのは許されません。
この章では、裁判所の手続きを経ずに夫婦間の協議で養育費を取り決めたケースで、養育費の支払い義務がある人が勝手に養育費を減額した場合、取るべき対処法について解説します。
相手と話し合う
直接相手と話し合って、減額された分の支払いを求めましょう。
その際に相手が正式に養育費の減額交渉をしてくる可能性があります。勝手に減額をされていた場合、相手の言い分に従うのは心情的に難しいでしょう。後悔しないためにも粘り強く話し合いを続け、話し合いが並行線になるなら弁護士に交渉を依頼しましょう。
もちろん双方の話し合いで養育費減額に合意できたら、今後の養育費の金額は自由に決められます。
トラブルを避けるために、強制執行認諾文書付きの公正証書で合意書を作成することをおすすめします。
減額分の支払いを内容証明郵便で求める
メールやLINEをしても返事がこないなど、無視されて相手と連絡が取れない場合は、内容証明郵便で減額分の支払いを求めましょう。
内容証明郵便に法的効力はありませんが、支払いを督促した事実が証明できますし、相手も受け取っていないと無視はできません。
債務名義を取得し強制執行する
相手が話し合いに応じず、内容証明郵便にも反応しなければ強制執行を検討しましょう。
強制執行とは、相手の財産を差し押さえて養育費を回収する方法です。そのためには養育費の存在を明らかにした公の文書となる債務名義が必要です。
離婚時に、養育費の支払いについて定めた離婚合意書等を強制執行認諾文書付きの公正証書で作成していれば、これが債務名義となります。
強制執行認諾文書付きの公正証書をもとに強制執行を行う場合には、これに先立ち、当該公正証書の原本を保管する公証人に対して、手数料1700円を添えて、執行文付与の申立てをします。
強制執行認諾文書付きの公正証書で作成した離婚合意書等がない場合でも、当事者間で養育費の支払いについて合意が存在する場合は、その合意は有効です。
民事訴訟で判決等を経て強制執行を行う
養育費の支払いについて合意したにも関わらず、勝手に減額されたり、支払われなくなったりした場合は、民事訴訟を経て、判決等を得たうえで強制執行を申し立てる方法があります。
ただし、通常の民事訴訟を得て強制執行を行う場合は、合意締結後の未払い分(不足分)しか回収できない(将来の養育費を継続的に差し押さえられない)可能性があります。
養育費請求調停を申立てる
改めて家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てる方法もあります。
調停が成立すれば家庭裁判所が調停証書を作成し、調停が不成立になれば自動的に審判に移行し、家庭裁判所が養育費の額を決めて相手に支払いを命じる審判書を作成します。
調停調書や審判書も債務名義となります。
養育費請求調停を申し立てるなら、その場で過去に減額された養育費の支払いを求められるのでは…と思うかもしれません。
多くの場合、過去の未払いの養育費は、養育費の請求調停や審判では認められないケースが多いです。家庭裁判所は、養育費の未払いがあったにも関わらず、きちんと生活できていたと判断するからです。
ただし、前述の民事訴訟手続を経て強制執行をする場合と異なり、調停や審判で養育費の支払いについて定めた場合には、相手が支払いを滞らせた場合、未払い分だけでなく将来分も差押えができます。
2020年4月に民事執行法が改正され、相手の財産調査が容易になったことにより、従来よりも強制執行がやりやすくなりました。しかし、離婚時に、家庭裁判所の手続きや公正証書で養育費の取り決めをしていない場合は、強制執行をするまでの準備に大変な労力が必要となります。
相手の住所が分からなければ申立てができず、相手が生活に困窮していたりすると未払い分の養育費を回収できないケースもあります。
こうしたさまざまな事情を考えて、強制執行の手続きを考えるなら、弁護士に依頼することをおすすめします。
勝手に減額された養育費を回収する法的手続きはある?
離婚時に、調停・審判・訴訟等で養育費の金額や支払いについて決めたにも関わらず、勝手に減額するのは許されないことです。
その場合どのように回収すればよいか、取るべき3つの方法について解説します。
履行勧告
調停・審判・訴訟等で養育費の金額や支払いを決めた場合、家庭裁判所に履行勧告をお願いしましょう。
履行勧告とは家庭裁判所が書面や電話で相手に対して取り決めた内容を守るように説得するものです。この場合、養育費の支払いを強制する力はありませんが、裁判所が直接約束を守るように言ってきたら、相手としては心理的なプレッシャーがかかるでしょうし、なんらかの行動を起こす可能性があります。
履行勧告の申し立てに費用はかかりません。
履行命令
履行勧告しても支払いがない場合は、家庭裁判所に履行命令の申立てをしましょう。
履行命令とは、家庭裁判所が義務者に対して期限内に約束ごとを守るように命じることです。裁判所は、義務者の陳述を聞いて、履行勧告をするかどうか判断し、義務の履行を命令する判断をした場合は、養育費を支払うよう義務者に命令をします。
履行勧告とは違う点は、申立て手数料として500円(収入印紙で納付)がかかること、相手が正当な理由なく従わなければ10万円以下の過料に処せる点です。
強制執行
履行勧告・履行命令を申し立てても相手が養育費を全額支払いしてくれない場合は、強制執行を検討しましょう。
強制執行に必要な債務名義は、調停調書・審判書・確定判決・和解調書などが該当します。
これらの債務名義に基づいて強制執行をする場合は、強制執行の申立てに先立ち、執行文や確定証明書等の取得が必要です。それぞれの要否は下表をご参照ください。
主な債務名義の種類 |
執行文付与の要否 |
確定証明書の要否 |
(家事)調停調書 |
× |
× |
(家事)審判書 |
× |
〇 |
確定判決 |
〇 |
〇 |
和解調書 |
〇 |
× |
強制執行で差押えができるものの代表例は、以下のとおりです。
- 土地や建物の不動産
- 車・貴金属などの動産
- 給与、預貯金などの債権
先述したように、強制執行をしても相手の生活状況によってはすべて回収できるとは限りませんが、最終的にできる手段として頭の片隅に入れておきましょう。
相手から養育費減額調停を申し立てられた場合の対処法は?
養育費を勝手に減額するぐらいですから、相手から養育費減額調停が申し立てられる可能性は十分にあります。その際の対処法について解説します。
養育費の減額が認められるケースに該当するか検討する
養育費を請求する側が知っておかなければいけないのは、一定の理由があると養育費の減額が認められる場合がある点です。
主に認められる3つのケースについて解説します。
相手が再婚し子どもができた
相手が再婚して子どもができた場合、養育費の減額理由となります。
理由は再婚に伴って扶養義務が生じるからで、再婚相手に連れ子がいて、その子どもと養子縁組をした場合も該当します。
養育費を支払う人の収入が増えていない限りは養育費の減額が認められる場合が多いです。
相手の責任外の理由で収入が減った
合意当時予測しえなかった理由などにより、養育費を支払う側の収入が減った場合、養育費の減額が認められる可能性があります。
例えば、以下のような場合です。
- 勤務していた会社が倒産した
- 会社の業績が悪くリストラされた
- 健康上の理由で休職・退職を余儀なくされて収入が減った
養育費の請求者が再婚して子どもが再婚相手と養子縁組した
養育費を請求する側が再婚して、子どもが再婚相手と養子縁組した際も養育費の減額が認められる場合があります。
養育費を請求する人が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組をしたなら、再婚相手に扶養義務が生じるからです。
養育費の減額が認められないケースを探る
養育費を請求する側としては、できることなら減額されたくないと思うことでしょう。
養育費の減額認められない主な3つのケースについて解説します。
相手が勝手に仕事を辞めて収入が減った
相手が勝手に仕事を辞めて収入が減った場合は、養育費の減額が認められないケースが多いです。
面会交流が思うようにできないのを理由にしている
面会交流に不満を持って、それを理由に養育費の減額を要求している場合は認められないケースが多いです。
養育費と面会交流は別々の問題ですので、思うように面会交流ができないことを理由に養育費の減額請求はできません。
住宅ローンの支払いを理由にしている
養育費を払う人が住んでいる家の住宅ローンの支払いを理由に、養育費の減額に考慮されません。
ただし、養育費をもらう側の人が住んでいる家の住宅ローンを支払っている場合は、もらう側にメリットが生じているので、養育費の減額が考慮される場合があります。
養育費を減額されたら生活に困る具体的な資料を準備する
相手から養育費減額調停を申し立てられた場合、養育費の減額をされたら生活に困る具体的な資料を準備しましょう。
自身の収支が分かる預金通帳や給与明細、子どもたちの生活費・医療費・教育費を一覧にするなど、客観的に分かる資料をできるだけ多く準備しましょう。
養育費を勝手に減額されたら弁護士に相談を!
相手が養育費を勝手に減額したら、すぐに弁護士に相談をしましょう。
勝手に養育費を減額したにも関わらずあなたが無反応であれば、それに味をしめて養育費を支払わなくなるかもしれません。約束を守らない人に対しては、早めに厳しく対処したほうが賢明です。
この記事でも分かるとおり、未払いの養育費を請求して回収しようとすれば複雑な手続きが必要です。
特に離婚時に債務名義となる書類を交わしていない場合は、より一層時間と手間がかかりますので、スムーズにことを進めるためにも弁護士に依頼をしましょう。
まとめ
子どもを一人で育てている親は、日々倹約しながら生活していると思います。そのような状況下で、頼みの綱となる養育費を勝手に減額されてしまったら、たまったものではありません。最初に取り決めた養育費の金額を勝手に減らすことはしてはならないことなので、すぐに相手と話し合いをするなどの対策を講じましょう。
離婚後、相手と会いたくないと考える人も多いと思いますが、その場合は弁護士に相談・依頼をおすすめします。
ネクスパート法律事務所には、離婚案件を数多く手がけてきた弁護士が在籍しています。悩みに寄り添ったアドバイスをいたしますので、ぜひ一度ご連絡ください。