離婚後、養育費の支払いが滞ってしまい困っている方がいらっしゃると思います。
養育費の支払いは親の義務なので法的に請求が可能ですが、そこで気になるのが時効の問題です。
この記事では、養育費の請求に時効があるかどうか、未払いの養育費がある場合の対処法について解説します。
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養育費の請求に時効はあるか?ある場合は何年?
養育費の請求に時効はあり、取り決めた方法によって年数が異なります。
以下でそれぞれのケースについて解説します。
夫婦間の協議で決めた場合の時効は5年
離婚時、離婚協議書や公正証書など、夫婦間の協議で養育費の支払いについて取り決めた場合、養育費の請求ができることを知った日から5年で時効となります。
例えば、養育費の支払いが毎月末日で、2023年11月30日分の支払いがなかった場合、その分(1か月分)は2028年11月30日に時効が成立します。
時効が成立すれば養育費の請求はできません。
調停調書や判決で決められた場合の時効は5年または10年
調停や訴訟で養育費について取り決めをした場合は、養育費の弁済期が到来しているかどうかによって時効になる期間が異なります。
以下で2つのケースについて解説します。
過去の未払い分について確定的に取り決めた場合は10年
調停・審判・訴訟において、過去の養育費(未払い分)の支払いについて確定的に取り決めた場合は、その権利が確定した時から10年で時効となります。未払いの養育費は、すでに弁済期が到来していると解されるからです。
例えば、調停の話し合いの中で、相手方が過去の未払い分の支払いに応じた場合に、次のような調停調書が作成されたとします。
調停条項 1 相手方は、申立人に対し、当事者間の長男〇〇(平成〇〇年〇月〇日生)及び長女〇〇(令和〇年〇月〇日生)の令和5年10月までの未払い養育費として、18万円の支払義務があることを認め、令和5年11月末日限り、申立人が指定する口座に振り込む方法により支払う。
2 相手方は、申立人に対し、当事者間の長男〇〇(平成〇〇年〇月〇日生)及び長女〇〇(令和〇年〇月〇日生)の養育費として、令和5年11月から、同人らが各々満20歳に達する月まで、1人につき1か月金3万円を、毎月末日限り、申立人が指定する口座に振り込む方法により支払う。 |
この場合、1項に記載された未払い分の養育費(18万円)にかかる請求権の時効期間は、2023年(令和5年)11月1日(支払期日の翌日)から10年となります。
すなわち、時効が10年になるのは、裁判所の手続きで養育費の支払いが決定した時点で、すでに支払日を迎えていた未払い養育費分に限られます。
将来分の養育費については5年
離婚調停・離婚訴訟や養育費調停・審判の中で養育費について取り決めをした場合でも、将来支払いが発生する分の養育費の時効は5年です。
これは弁済期が到来していない将来の養育費と解されるからです。
すなわち、毎月発生する養育費の請求権については、夫婦間の協議で取り決めた場合と同様に、支払期日の翌日から5年が経過したときに時効により消滅します。
養育費を取り決めた場合の請求権は10年間行使しなければ権利が消滅する
取り決めをした場合の毎月の養育費の請求権は、10年間行使しなければ権利が消滅してしまいます。
養育費は、多くの場合、毎月一定の額を支払うものと定められます。この場合の、毎月の養育費は民法上の定期金債権に当たります。
定期金債権は、権利が行使できると知ってから10年間何もしなければ権利を失うと解されています。
例えば、2023年11月30日に支払ってもらうはずの養育費が支払われず、そのままの状態にしておいたら、2033年11月30日に権利が消滅し、未払い分だけでなく、将来の毎月5万円請求できるはずであった養育費請求権そのものもなくなります。
夫婦間で取り決めをしなかった場合、時効はない
離婚時に夫婦間で養育費の取り決めをしなかった場合は、時効はありません。
実務では、公平の観点から、請求時(権利者が請求の意思を明確にしたとき)から支払義務が認められることが多いからです。
そのため相手にいつでも養育費の請求ができますが、過去の養育費については認められない場合が多いです。あくまでも請求した月から将来に向けての養育費となりますので注意しましょう。
養育費の時効が迫っている場合の対処法は?
養育費の時効が迫っている場合、時効を更新させる方法があります。
時効の更新とは、進んでいる時効期間をゼロにして再び1日目からスタートすることです。以下、2つのケースで説明をします。
相手に養育費の支払い義務を認めてもらう
相手が、養育費の支払い義務を認めた場合は、時効が更新します。
債務の承認は、時効の更新事由の一つだからです。
相手が養育費の支払い義務を認めた時点で時効期間がゼロとなり、新たに時効がスタートします。
その際に口頭でのやり取りのみであれば、債務承認をした証拠とならない場合があります。メールやLINEでもよいので、文章で養育費を支払っていない旨を認める書面を確保しておいたほうがよいでしょう。
養育費を支払っていませんという言い方のほかに、養育費の支払いを少し待ってほしいというのも債務承認として認められます。
養育費の支払いを求める訴訟を起こす
養育費の支払いを求めて訴訟を起こせば、裁判の手続きが終了するまで時効はストップします。
裁判上の請求は、時効の完成猶予および更新が生じる事由だからです。
裁判が確定したらこれまでの時効はリセットされ、その時点で新たに時効がスタートします。
時効が間近に迫っている場合、相手に催告する方法もあります。通常は内容証明郵便で養育費の未払いが生じていることや支払いをするように相手に促します。
催告をすれば、その時から6か月が経過するまでの間、時効の完成が猶予されますので、その間に調停や裁判を起こせます。
養育費請求の時効がきても請求できる場合がある
養育費請求の時効期間が経過しても、相手が時効の援用をしなければ養育費の請求ができる場合があります。
時効の援用とは、時効の成立により利益を受ける人が時効の成立を主張することです。これをしなければ時効は成立しません。
例えば、時効期間が経過した未払いの養育費を支払ってほしいと請求した際に、相手が「今度支払うから待ってほしい」と言った場合は、時効の援用をせずに債務承認をしたとみなされます。
この時点で時効期間がリセットされて、1日目から時効がスタートします。
未払いの養育費の請求方法は?
未払いの養育費をどのように請求すればよいか、ここでは3つの方法について解説します。
相手に直接請求する
相手に直接連絡をして、養育費を請求しましょう。
まずは電話やメール、LINEで連絡をとり、養育費の未払いがあること、迅速に支払いをしてほしい旨を伝えましょう。それでも相手が支払わなかったり、電話やメール、LINEに応答せず無視したりするなら、内容証明郵便で養育費を請求しましょう。
内容証明郵便は、いつ・誰が・どんな内容の文書を送ったか日本郵便株式会社が証明してくれるものです。そのため受け取った相手はもらっていないと言い逃れができません。催告の時期が明らかになるので、時効の完成猶予をするにも有益です。
調停証書があれば履行勧告の申出をする
調停・審判・訴訟等で養育費に関する取り決めを行った場合は、家庭裁判所に履行勧告の申出をしましょう。
履行勧告とは、家庭裁判所の調停・審判・訴訟等で決まった内容を守らない場合、家庭裁判所が決められた内容を履行するように相手に勧告する手続きです。
あくまでも未払いの養育費を支払いなさいと相手に伝えるだけにとどまり、支払いの強制はできませんが、家庭裁判所から通知がくれば、相手も焦って支払いをする可能性があります。
強制執行の手続きをとる
相手が連絡を無視し支払いに応じない場合、強制執行の手続きを視野に入れましょう。
その際に債務名義が必要となりますが、次に挙げるものが手元にあれば手続きが行えます。
主な債務名義の例 |
詳細 |
執行認諾文言付公正証書 | 離婚協議書を公正証書として作成した場合、養育費の支払いが滞ったら強制執行を受けてもやむを得ないと記載しているもの
※執行文が必要 |
調停調書 | 離婚調停や養育費調停で合意した内容が記載されたもので、調停が成立したら家庭裁判所が発行するもの |
審判書 | 養育費審判で裁判所の審判の内容を記載したもの
※確定証明書が必要 |
和解調書 | 裁判所に係属中の民事事件で、原告と被告が和解した内容を書面化したもので裁判所が内容をまとめて発行するもの
※執行文が必要 |
確定判決 | 控訴や上告などの通常の不服申し立てで変更ができない状態となった判決
※執行文および確定証明書が必要 |
強制執行をすれば、相手の給与や不動産といった財産の差し押さえが可能となります。
差し押さえができれば、養育費の支払いが終わるまで差し押さえを継続できます。
まとめ
養育費の未払いは、離婚して一人で子どもを育てている人にとって頭の痛い問題です。
養育費の未払いがあっても、離婚した相手と連絡を取りたくないと考え、そのまま放置してしまう人が一定数いらっしゃるのではないでしょうか。
たとえ離婚して子どもと離れて暮らしていても、親は養育費を支払う義務があります。この基本的な考え方を無視されるのはよくありませんし、子どものためにあってはならないことです。養育費の未払いが起こったらすぐに相手に支払いを促すように行動を起こしましょう。
養育費の取り決めをしたい、養育費の未払いが数年続いているなど、お悩みを抱えていらっしゃるのであればぜひネクスパート法律事務所にご相談ください。相手と直接連絡を取りたくないと考えているなら、弁護士であれば代理人として相手と交渉ができますので、精神的負担が軽減できます。
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