離婚をするとどちらかが家を出るケースが多いですが、その際に引っ越し費用がかかります。
最近は単身者用など、ケース別に料金を設定している引っ越し業者が多いですが、一般的に単身者の引っ越しで最低3万円はかかるといわれています。距離や荷物の量、時期によってはさらに費用が加算されます。
子どもと一緒に引っ越すのであれば、倍の金額がかかると思ったほうがよいでしょう。
離婚後の生活を考えると引っ越し費用をなるべく抑えたいと考える人が多いと思います。
この記事では、引っ越し費用を元配偶者に請求できるのかどうかについて解説します。
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目次
離婚時の引っ越し費用を元配偶者に請求できるか?
離婚時の引っ越し費用は基本的に自己負担となります。元配偶者に支払い義務はありません。
引っ越し費用の負担は強制できない
離婚によって家を出る側は、元配偶者に引っ越し費用の負担を強制できません。理由は、引っ越し費用の負担を相手に求める法律上の根拠がないからです。
中には離婚が成立する前に別居をする人もいるでしょう。離婚成立までは配偶者に婚姻費用の請求ができますが、引っ越し費用は婚姻費用に含まれないと解されています。
別居のための引っ越し費用は、婚姻生活を維持するための費用と言いづらいからです。
話し合いにより引っ越し費用を負担してもらえることはある
元配偶者に対し、引っ越し費用の負担は強制できませんが、当事者同士の話し合いによって負担をしてもらえる可能性はあります。
調停や裁判で引っ越し費用を財産分与や慰謝料の一部として認めてもらうのは難しいですが、当事者同士が合意すれば問題はありません。
離婚時の引っ越し費用がない場合はどうすればいい?
離婚時の引っ越し費用が捻出できない場合の対策法について4つご紹介します。
実家に身を寄せる
離婚後、とりあえず実家に身を寄せるのも一つの方法です。
実家であれば引っ越し費用のみで家を出られ、当面の生活費の心配はしなくて済む可能性があります。
子どもがいる場合、実家に引っ越すことで転校しなければならないケースがあったり、実家の両親が同居するのに協力的でなかったり、兄弟姉妹が実家にいる場合は肩身の狭い思いをするかもしれません。
あらゆる状況を考えて何がベストな選択かを検討し、経済的に安定したら家を出るなど、期限を決めるのも大切です。
自治体の補助金・助成金制度を利用する
自治体によっては、引っ越し費用の補助金や助成金制度があります。
制度を利用するには一定の条件がありますが、次に該当する場合、制度が受けられる対象になりやすいです。
- ひとり親、高齢者、障がい者世帯
- 子育て世帯
- 新婚世帯
例えば、東京都新宿区では、区内の民間賃貸住宅に居住する義務教育修了前の子どもを扶養する世帯向けに、次世代育成転居助成を行っています。転居前後の家賃差額の助成(月額最高3万5千円)、引っ越し費用の実費が最大10万円まで助成されます。助成を受けるには次に該当する要件があります。
- 世帯要件
- 住宅要件
- 所得要件
- その他の要件
要件に該当すれば申請を検討してみましょう。募集数に限りがあるので、受付を締め切っている可能性もあります。申請前に窓口に問い合わせたほうがよいです。
東京都23区内には、新宿区だけでなく豊島区、目黒区、板橋区、北区などで子育て世帯向けの助成を行っていますし、他の自治体でも似たような制度がある可能性があります。住所地の市区町村役場に問い合わせてみましょう。
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度を利用する
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度とは、20歳未満の児童を扶養している配偶者のない女性または男性、寡婦等に貸し付けを行う制度です。
実際に申請をするのは、各市区町村の福祉相談窓口または福祉事務所となります。この記事では、東京都を例に挙げます。
貸付資金の種類は12種類あり、その中のひとつに転宅資金があります。引っ越しに必要な
敷金、前家賃、運送代にあてるための資金の貸し付けが受けられます。
貸付限度額が26万円で据置期間が貸し付けの日から6か月、償還期限は3年以内です。申請の際には転居先を明らかにする書類と運送代の見積書が必要です。
他に生活資金の中に母子家庭または父子家庭等になって7年未満の人の生活を安定・継続するために必要な生活安定貸付があります。
以下の表にまとめましたので、参考にしてください。
転宅資金 | 生活資金(生活安定貸付) | |
貸付の内容 | 転宅に必要な敷金、前家賃、運送代の資金(東京都の場合、新居住地が都内の場合となります) | 母子家庭または父子家庭等になって7年未満の人の生活の安定を図るために必要な資金 |
貸付限度額 | 26万円 | 生活安定期間中:月額10万千円
養育費取得のための裁判費用の場合:126万6千円 |
据置期間 | 貸し付けの日から6か月 | 生活安定貸付期間満了後6か月 |
償還期限 | 3年以内 | 8年以内 |
必要な書類 | ・転居先を明らかにする書類
・移転費用の見積書 |
養育費取得のための裁判費用の貸し付けの場合は、弁護士への委任状と訴訟提起に係る証明書等 |
元配偶者としばらく同居する
元配偶者としばらく同居を検討してみましょう。
引っ越しをするには、思っている以上にお金がかかります。引っ越し費用はもちろんのこと、新しく住む家の敷金・礼金、前家賃、家具や家電の購入など、一度に数十万単位のお金が必要です。
お金の心配をしながら慌てて家を出るよりも、とりあえず元配偶者と同居を続けて経済的な安定を確保してから新生活に臨むのがいいかもしれません。配偶者の同意が必要となり難しい場合もあると思いますが、同居する期限をきっちり決めて交渉しましょう。
慌てて家を出るリスクは費用面だけではありません。家を借りる場合、安定した収入が必須条件となります。婚姻中は仕事をしていなかった人は、仕事を決めてから家探しをしなければならない点も理解しておきましょう。
離婚後の同居に関しては、「離婚後の同居は可能か?世帯分離をするにあたっての注意点も解説」をご参照ください。
離婚時の引っ越しで注意すべきことは?
離婚時の引っ越しにあたり、注意すべき点がありますので解説します。
離婚成立前に同意なく別居したら同居義務違反にあたる場合がある
離婚が成立する前に相手の同意なく別居した場合、同居義務違反にあたるおそれがあります。
民法上、夫婦には同居、協力、扶助の義務があるのが理由となりますが、配偶者のDVから逃れるためや子どもを虐待から守るために別居した場合は、同居義務違反に該当しません。
独断で家電や家具は持ち出せない
婚姻中に購入した家電や家具は、相手の同意なく持ち出せません。
婚姻時に購入したものは財産分与の対象となりますので、家電と家具はどちらが引き取るか、当事者同士が話し合った上で決めなければいけません。
まとめ
離婚をして家を出る人にとって、引っ越し費用は頭の痛い問題です。数社の引っ越し業者から見積もりを取るのはもちろんのこと、自分でやれることはやって引っ越し費用を抑えるなど工夫が求められます。
今回の記事で解説したように、離婚後の引っ越し費用が請求できる法律上の根拠はありませんが、当事者同士で合意すれば引っ越し費用の請求が可能なので、冷静に話し合いを続けましょう。
どうしても引っ越し費用の捻出が難しい方は、経済的に安定するまで元配偶者と同居を続けるか実家に身を寄せる方法があります。自治体の助成や母子父子寡婦福祉資金貸付金制度について積極的に調べてみるのもよいでしょう。
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