離婚した時は経済的に不安定でやむを得ず親権を諦めた人もいるでしょう。しかし何年か経ち安定した職を得たことで、なんとか親権を取り戻したいと考えたとき方法はあるのでしょうか?

この記事では、一度決定した親権を取り返す方法があるのかどうか、もし取り返せるならどのような方法をとればいいのか、手続きについて解説します。

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離婚後、親権を取り返せるのか?

離婚後でも、いったん決まった親権者を変更できることがあります。

未成年の子どもがいる夫婦が離婚をする際、父親と母親のどちらが親権者になるか決めなければいけません。しかし離婚から何年か経つと、生活環境の変化を理由に親権者を変更しなければならない事情が出てくる可能性があります。

例えば、離婚時は安定した仕事についていなかったため他方配偶者が親権者となったが、その後正社員として働き収入が安定してきたので、子どもの親権を取り戻したいと考える人がいるかもしれません。

親権者の変更を求める場合、元夫婦の話し合いのみで変更はできず、家庭裁判所に親権者変更調停または審判の申し立てをしなければいけません。

家庭裁判所は、親権者を変更することが子どもの利益のために必要があると認められるときに、親権者変更を認めます。

家庭裁判所は、以下に挙げるような事情を考慮して判断します。

  • 監護体制の優劣
  • 父母の監護意思
  • 監護の継続性
  • 子の希望
  • 子の年齢
  • 親権者の再婚
  • 申立ての動機や目的
  • 親権者についての合意と事情の変更
  • 離婚時の約束
  • 親権と監護権の分属による障害
  • 親権者の所在不明
  • 親権者変更申立権の濫用
  • 監護の放棄
  • 子の引渡訴訟の結果  など

親権者変更が子どもの利益になるのはどのような場合か?

親権者の変更は、先になされた親権者の指定後の事情の変更を必要とします。

親権者を指定した後に、特別な事情もないのに親権者の変更を認めることは、法的安定性を害し、子の利益に反すると言えるからです。

事情の変更は、当時予測したものと異なる事情が新たに生じた場合と考えられます。

以下では、親権変更が認められやすいケースや過去の裁判例で実際に親権者変更を認めた事例を紹介します。

親権者変更が認められやすいケース

離婚後、定期的に会っている子どもから、親権者に対する不満の声を聞くと心穏やかではいられないでしょう。下記に挙げたケースの場合、親権者変更が子どもの利益になると判断される可能性があります。

親権者がきちんと子育てをしていない

現在の親権者が子どもを虐待したり、放置したまま外泊したりして子育てをきちんとしていないと判断される場合は、親権者変更が認められる可能性が高いです。

子どもの家庭環境が悪化している

親権者がギャンブルばかりして働かない、親権者が恋人を家に連れてきて、その恋人が子どもに暴力をふるうなど、子どもの家庭環境が悪化していると判断される場合は親権者変更が認められる可能性が高いです。

親権者が重病、もしくは死亡した

親権者が、長期入院が必要な重い病になったり、けがで障がい者になり子育てができなくなったりした場合、または病気や事故で死亡した場合も親権変更が認められる可能性が高いです。

15歳以上の子どもが親権者の変更を望んでいる

子どもが親権者の変更を望んでいれば、家庭裁判所は子どもの意見を尊重する傾向があります。家庭裁判所は親権者変更の申し立てがされた場合、子どもが15歳以上であれば必ず意見を聞かなければならないとされており(家事事件手続法第169条第2項)、親権者変更の重要な判断材料となるからです。

実際に親権を取り戻せた事例は?

ここでは過去の裁判例から、実際に親権を取り戻せた事例について紹介します。

離婚時に親権を諦めたが、後に親権を取り戻した事例

離婚時に下記の理由で親権を諦めた母親が、のちに親権を取り戻した事例です。

  • パート勤務のために経済的に安定していない
  • 自らにがんの疑いがあり、闘病生活と育児の両立は難しいと感じた
  • 健康上の理由で、実の両親のサポートが得られる可能性が低い

しかし時間の経過とともに、下記のように母親の環境が変化しました。

  • パート社員から正社員となり経済的に安定した
  • 精密検査の結果、がんの疑いはなく、経過観察で対応できることが分かった
  • 実の両親の健康状態が回復し、さらに親戚のサポートも得られるようになった

元夫は子どもの面倒をしっかりみていたものの、子どもが母親と一緒に住みたいと強く望んでいた等の理由から、母親に親権変更が認められました(千葉家庭裁判所市川出張所審判/平成29年(家)第707号)。

協議離婚後、環境の変化により親権変更が認められた事例

協議離婚後母親が親権者となり、子どもと実家で生活をしていたところ、下記のような環境の変化がありました。

  • 母親が同居している親族と不仲になった。
  • 親族と不仲になった頃から母親が子どもの養育をしなくなり、主に母親の姉が子どもの養育をするようになった
  • 母親が実家を出て一人暮らしをする際、子どもは同行を拒否し母親の実家にとどまった
  • 母親が実家を出たあと、子どもとの交流が途絶えた。なお父親は、子どもと交流があり良好な関係を築き、かつ母親の親族との関係も良好

離婚時の状況から環境が一変し、母親の子どもに対する関わり方が変わったこと、そして子どもが母親と暮らすことを拒否したことにより、母親から父親に親権変更が認められた事例です(東京家庭裁判所平成25年(家)第6334号)。

協議離婚後、親権者が交通事故で重い後遺障害が残り、親権変更が認められた事例

協議離婚後、母親が親権者となり子どもを養育していましたが、交通事故で重い後遺障害が残り養育ができなくなりました。

母親の実兄が子どもの後見人となったものの、子どもとの折り合いが悪かったため、実の父親が後見人と話し合いをし、親権者変更の申し立てをしました。申立てに対して、実の父親が愛情を持って子どもに接していることや父親の実母(子どもの祖母)が近くに住み、助けが求められる環境であること、そして父親と同居したことで、子どもたちが落ち着いて生活を送るようになったことから、父親に親権変更が認められました(岡山家庭裁判所児島支部審判/平成3年(家)第35号、平成3年(家)第36号)。

親権を取り戻すための具体的な方法は?

親権を取り戻すためには、家庭裁判所に親権者変更調停または審判を申し立てることが必要です。以下で具体的な流れを説明します。

親権者変更調停

親権者変更調停は、相手方(現在の親権者)の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てます。ただし相手方と合意していれば別の家庭裁判所に申し立てが可能です。

申し立ての流れ

親権者変更調停は、下記の流れで行われます。

  1. 家庭裁判所に調停の申し立てをすると、家庭裁判所が第一回調停期日を指定します。冒頭で、調停委員が調停についての説明を行い、交互または同時に調停室において、話し合いを進めます。
  2. 1~2か月に1度のペースで調停期日が開催され、調停委員が中立の立場で、双方の主張や意見を聞きながら話し合いを進めます。
  3. 必要に応じて、家庭裁判所調査官が調停期日に立ち会ったり、調停期日の間に子の監護に関する問題等について調査を行ったりすることもあります。
  4. 話し合いがまとまり、親権者を変更することに当事者双方が同意したら、家庭裁判所は親権者変更を認めてよいか審査します。たいていの場合は当事者双方が同意していたら調停成立になる。なお、不成立になった場合は親権者変更審判へ自動的に移行します。
  5. 調停成立日から10日以内に市区町村役場へ親権者変更の届出をします。

申し立てに必要な書類

親権者変更調停を申し立てる際に必要な書類は下記のとおりです。

  • 申立書とその写しを1
  • 申立人の戸籍全部事項証明書
  • 相手方の戸籍全部事項証明書
  • 子どもの戸籍全部事項証明書
  • 事情説明書
  • 送達場所等の届出書
  • 進行に関する照会回答書
  • 子ども1人当たり1200円分の収入印紙
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なるので確認が必要)

親権者変更審判

調停が不成立となり審判に移行した場合

親権者変更調停が不成立となった場合、親権者変更審判へ自動的に移行し審理されます。

具体的な手続きの流れは、下記のとおりです。

  1. 審判手続きは裁判官による審理が行われ、調停のように当事者双方の合意は不要です。
  2. 家庭裁判所は当事者双方の意見・証拠、そして家庭裁判所の調査官が調査した結果などを考慮した上で、子どもの福祉を最優先し、親権者を変更すべきかどうか決定します。
  3. 裁判官の判断に納得ができない場合、審判の告知を受けた日から2週間以内に高等裁判所に対して即時抗告ができます。子どもの父母および監護者が即時抗告可能です。
  4. 即時抗告をしなければ審判は確定します。新たに親権者となった人は市区町村役場に戸籍の届け出をします。

はじめから審判を申立てる場合

現在の親権者が死亡した、行方が分からなくなった、精神障害を患ってしまったといった理由で、親権者を他方の親に変更するケースがあります。

この場合未成年者の親族が申立人となって、親権者変更調停を経ずに審判を申し立てられます。申立先は未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所です。親権者変更審判を申し立てる際に必要な書類は下記のとおりです。

  • 申立書
  • 申立人の戸籍全部事項証明書
  • 親権者の戸籍全部事項証明書(死亡している場合は死亡の記載があるもの)
  • 子どもの戸籍全部事項証明書
  • 事情説明書
  • 送達場所等の届出書
  • 進行に関する照会回答書
  • 子ども1人につき収入印紙1200
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに異なるので確認が必要)

親権者変更の届出(戸籍の届出)に必要な書類

市区町村役場への親権者変更の届出(戸籍の届出)に必要な書類は下記のとおりです。

  • 調停調書または審判書謄本
  • 確定証明書(審判の場合)
  • 子どもの戸籍謄本

市区町村の窓口で指定された親権者変更届とともに提出します。その際に新たに親権者になった者の印鑑が必要です。市区町村の役場によって必要書類が異なる場合があるので事前に問い合わせましょう。

親権を取り戻すために重要なポイントは?

一度決定した親権を取り戻すのは容易なことでありませんが、それでもどうしても親権を取り戻したいと考えたときに重要なポイントについて解説します。

親権を取り返したい具体的な理由を調停委員に述べる

親権者変更調停を申し立てると、調停委員が当事者双方と面談をしますが、その際になぜ親権を取り返したいのか具体的な理由をしっかり主張しましょう。

例えば、離婚時は経済的に不安定だったために親権を諦めたが、現在は安定した収入が得られていることを給与明細などで示すのもよいでしょう。また現在の親権者の養育環境に問題がある場合は、虐待や育児放棄をしている具体的な証拠を提示するとよいかもしれません。

家庭裁判所の調査に上手く対応する

親権者変更調停の申し立てがあった場合、たとえ当事者の間で合意がなされていても、本当に親権変更が子どものためになるのか、調査官が調査をします。

調査をするのは主に下記の内容です。

  • 親権者を変更するにあたり、子どもがどう思っているか
  • 子どもの生活環境
  • 父親と母親の経済状況や心身の状況

調査の対象となるのは、父親、母親、子どもだけでなく子どもの監護に関わっている親族、学校関係者です。調査官の調査に対応するために、事前に子どもや親族、学校関係者に事情を話して、上手く対応できるように手はずを整えておきましょう。

弁護士に手続きを依頼する

自分が親権者になるのがふさわしいといかにアピールできるか、それが親権を取り返す重要なポイントとなります。そのためこうしたアピールに長けている弁護士に手続きの依頼をするのも一つの方法です。

離婚や親権問題を多く手がけている弁護士であれば、家庭裁判所がどのような点を重視するのか、調停委員を納得させるにはどんな話をすればいいかなど、的確なアドバイスが可能です。

親権を取り返すことを考えたとき、弁護士に依頼するメリットは?

親権を取り返すことを考えたとき、弁護士に依頼するメリットについて述べたいと思います。親権者変更調停は自分自身でもできますが、スムーズに事を運ぶために、ぜひ以下のメリットに目を通してみてください。

調停・審判の申し立ての手続きを任せられる

弁護士に依頼すれば親権者変更調停・審判の申し立て手続きを任せられます。
申立書の作成は、ほとんどの人にとって馴染みのないことですし煩わしいものです。さらに準備しなければならない書類があるのも大変です。また書類の作成を間違えてしまうと、手続きがスムーズに進みません。

調停期日に同席してもらえる

弁護士に依頼すれば、代理人として調停期日に同席してもらえます。

ご自身では調停委員にうまく意向を伝えられない場合もサポートできるため、調停委員に誤った認識を生じさせるリスクを軽減できます。弁護士があなたの意見を代弁し、有利になる事情を効果的に説明してくれます。

弁護士が代理人に就いている場合でも、調停期日には原則本人の出頭が求められますが、やむを得ない事情がある場合は、代理人弁護士のみの出席で対応できることもあります。
調停期日は平日、2時間ほどかけて行われるため、仕事の都合でどうしても調整がつかない場合も、弁護士に依頼していれば安心です。

審判になった場合も安心

弁護士に依頼すれば、調停が不成立となり審判に移行した場合も安心です。

審判手続きは、話し合いを前提とする調停手続きと異なり、裁判に近い審理方式で手続きが進められます。
そのため、法律に基づく主張やその主張を裏付ける客観的な資料の提出が求められます。

相手方に弁護士が就いている場合は、法的知識や経験の差が思いもよらない結果を生むこともあり、ご自身で対応するのが困難に感じられることもあるでしょう。ご自身では有利になると思って発言した内容が、逆に裁判官の心証を悪くしてしまうこともあり得ます。

弁護士は過去の事例や経験から、どのような主張をすることで手続きを有利に進められるかといったノウハウを持っているので、説得的な主張を組み立てられます。

まとめ

離婚時に親権を諦めた人は、子どものために涙をのんで身を引いた人がほとんどだと思います。いつか必ず親権を取り返したいという思いで生活を立て直してきた人もいるでしょう。または、自分が身を引くことが子どものためだと思っていたのに、時が経つにつれて子どもの置かれている環境が悪化していると分かれば、心穏やかでいられるはずがありません。

しかし、一度決定した親権者を変更するのは簡単なことではありません。親権を取り返すというのは、それ相応の準備と覚悟が必要だということです。

ネクスパート法律事務所には、離婚や親権などの案件に携わってきた弁護士が在籍しています。あなたとお子さんが幸せな生活を送るために、精一杯サポートをいたしますので、親権を取り返したいと考えたら、ぜひ一度ご相談ください。