会社の経営状況が悪化し、法人破産を視野に入れたとき、経営者は何をすればいいのでしょうか。倒産する前にどのようなことを準備すべきでしょうか。
この記事では、法人の倒産準備や破産手続き前の準備について、以下のとおり解説します。
- 会社を倒産させる前に準備・検討すべきこと
- 倒産を決断してから破産手続き前に準備すべきこと
- 倒産の検討・準備中にしてはいけないこと
倒産手続きを検討中の経営者の方は、ぜひご参考になさってください。

会社を倒産させる前に準備・検討すべきこと
ここでは、会社を倒産させる前に準備・検討すべきことを解説します。
事業継続の可能性を検討する
会社の経営状況が悪化し、会社を畳むことを検討する前に、事業継続の可能性を検討します。
法人破産以外の方法で負債を整理することで、事業の継続が可能なケースもあります。
例えば、一定の売り上げを維持していて、負債が減れば経営自体は成り立つケースでは、民事再生手続きを利用できる可能性もあります。
本業以外の不採算部門が経営の足を引っ張っている場合は、不採算事業を第三者に譲渡し、その対価で負債を整理できることもあります。
弁護士・税理士に相談する
顧問税理士等の協力を得て、会社の資金繰りや財産の状況を正確に把握しましょう。
資金繰りを正確に把握し、資金がショートする前に債権者に交渉(返済期間の延長等)すれば、窮地を脱する余地があるかもしれません。
資金繰りが厳しくなる見込みがあれば、なるべく早く弁護士に相談しましょう。資金がショートしてからでは、破産手続きに必要な費用が捻出できず、手続きをスムーズに進められません。
資金に余力があれば、破産以外の再生型(事業継続型)の倒産手続きを選択できる可能性もあります。
会社の債務や債権について把握する
会社の債務がどのくらいあるのか、債権はどのくらいあるのかを把握します。
具体的には、以下のとおり、債務の全体を把握します。
- 金融機関からの借入額・利息・遅延損害金等を確認する
- 決算書や帳簿などから買掛金や未払金などを確認する
- 従業員への未払い給与を確認する
会社の財産や債権についても全体を把握します。具体的には以下の項目を確認します。
- 未回収の売掛金・貸付金の有無およびその額
- 会社所有の不動産の有無およびその時価
- 会社所有の自動車の有無およびその時価
- 会社所有の在庫・機材・什器・設備等の有無およびその時価
財産を売却したり、未回収の債権を回収したりすることで、負債を整理できることもあります。事業債権の可能性を検討する上でも、会社の債務や債権を正確に把握することが重要です。
なお、財産を売却したり、売却代金を債権者への返済にあてたりする場合は、あらかじめ弁護士に相談しましょう。
売却方法や返済方法によっては、最終的に法人破産に至った場合、以下の理由により、手続きに悪影響を及ぼすおそれがあります。
- 詐害行為(財産を不当に減少させる行為)は破産管財人の否認権行使の対象となる
- 偏頗弁済(特定の債権者への優先的な返済)は破産管財人の否認権行使の対象となる
偏頗弁済については、弊所債務整理サイトの記事「偏頗弁済(へんぱべんさい)とは?用語の意味をわかりやすく解説」をご参照ください。
会社が締結している各種契約を確認する
会社が締結している契約の内容をすべて確認します。
会社は、事業運営のために、以下のとおり様々な契約を締結しています。
- 取引先との契約
- 事業用物件の賃貸借契約
- 従業員との雇用契約
- 電気・ガス・水道・電話・インターネットなどの利用契約
- リース契約
これらの契約について、契約解除の時期を検討しなければなりません。
中でも早期に対応が必要になるのが事業用物件(事務所・工場・倉庫等)の賃貸借契約です。事業用物件が賃貸であれば、明け渡しの時期も検討する必要があります。原状回復費などの明け渡し時に負担しなければならない費用の見積もりも必要です。
ただし、準備段階においては、会社の内部・外部に破産の可能性を知られないようにしなければなりません。
破産の可能性があることを知られると、会社の信用度が下がり、契約や融資を打ち切られる可能性があります。契約解除等の検討は水面下で行いましょう。
従業員の解雇を検討する
賃貸借契約と同様早期に対応が必要になるのが従業員との雇用契約です。
従業員がいる場合は、倒産手続きに際し従業員を解雇しなければなりません。従業員を解雇する場合、どのタイミングで従業員に解雇を予告するのかの判断も重要です。
事前に解雇を予告する場合のリスクや、即日解雇とし解雇予告手当を支払う場合に必要になる金額などを検討する必要があります。
従業員にとって、勤務先である会社の破産は大変にショックなことです。今後の生活への不安もあるので、従業員に対する十分な説明が必要になります。従業員の解雇を検討する際は、弁護士に相談して慎重に判断しましょう。
倒産を決断してから破産手続き前に準備すべきこと
ここでは、倒産決断後、破産手続き前に準備すべきことを解説します。
弁護士に相談する
事業継続が困難な場合は、法人破産を検討しなければなりません。
資金がショートする前に、弁護士に相談しましょう。破産準備には、相当な時間と手間がかかります。不渡り発覚後に準備に移ると、債権者や取引先の対応に追われて、手続きがスムーズに進みません。
早期に弁護士に依頼すれば、債権者や取引先の対応を全て任せられるため、円滑かつ冷静に破産準備に移れます。
取締役会の承認・決議を経る
法人が破産するときには、取締役会決議において過半数の同意を得て可決する必要があります。
破産申立書に取締役会議事録か取締役全員の同意書を添付しなければならないからです。
取締役会がない会社では、役員の過半数による同意書が必要です。
事業および支払いを停止する
破産手続きの方針を決めたら、事業を停止する日を決定します。
事業停止日は、以下の状況を踏まえて、できるだけ早い時期に設定します。
- 資金繰りの目途が立たなくなる日
- 手形が不渡りになる日
事業停止とともに支払いも停止します。
従業員の解雇や転職のサポートを実施する
事業を停止する時点で、従業員がいる場合は、従業員を解雇します。
従業員への解雇通知は、多くのケースで、事業停止の当日に行います。事前に破産の事実を従業員に伝えると、情報が広がり混乱を招くおそれがあるからです。
従業員にも生活があるため、早急に次の就職先を探さなければなりません。会社としても、従業員の転職先として同業他社を紹介するなど、できる限りのサポートを実施しましょう。
従業員説明会や個別の面談を実施する
従業員説明会を開催し、一般の従業員に対して、経営者から直接、破産に至る経緯や未払給与の取扱いについて説明を行います。
従業員説明会のほか、破産準備に必要な人員を確保するために個別の面談を実施しなければならないケースもあります。会社の経営者や役員が、細かな経営状況を把握できていない場合は、事業停止後も一部の従業員に協力を得なければならないからです。
例えば、以下の担当者です。
- 経理担当
- 人事・総務担当
- 営業・仕入れ担当
これらの従業員に対しては、個別の面談により協力の確約を得る必要があります。
賃貸物件を明け渡す
事業停止日が到来したら、破産申立に必要な書類や資料を確保の上、事業所を閉鎖し、賃貸物件を明け渡します。
事務所や工場に保管している設備等を動かせないなどの事情がある場合は、賃貸借契約を締結したまま破産を申立てることもあります。その場合は、破産手続開始後、破産管財人が賃貸借契約を解約します。
在庫等の事業用資産を保管・管理する
在庫商品や什器・備品がある場合は、破産管財人に確実に引き継ぐために厳重に保管・管理しなければなりません。
賃貸物件を全て解約する場合は、事務所・工場・倉庫から搬出して管理します。破産申立てまでに賃貸物件を解約しない場合や、所有物件に保管する場合は、保管場所を厳重に施錠して盗まれたり棄損したりすることのないように管理します。
生鮮食品などは、申立前に売却・換価し、その代金を管財人に引き継ぎます。ただし、不当な処分と指摘されないように、複数の業者から相見積もりをとるなどして、適正な価格で売却しなければなりません。
弁護士から各債権者へ受任通知の発送や申立て時期を検討する
弁護士に破産手続きを依頼すると、弁護士は各債権者に対し、受任通知を発送します。
受任通知発送後は、弁護士が窓口となり、債権者や取引先からの問い合わせに対応しますが、送付時期によっては、かえって混乱を招くこともあります。
受任通知の発送の時期は、弁護士と相談の上、慎重に検討しましょう。
受任通知の効果については、弊所債務整理サイトの記事「受任通知の効果|デメリットと注意点も詳しく解説」をご参照ください。
申立書や必要書類を準備する
裁判所に提出する申立書類の作成や必要書類の収集を行います。
弁護士に依頼すれば、申立書類の作成を任せられますが、書類の収集等には代表者や従業員の協力が必要です。申立てまでに複数回、弁護士事務所で事情聴取や打ち合わせを行うこともあります。
破産申立てに必要な書類は、会社の規模や負債状況・財産状況により異なりますが、主に以下のとおりです。
- 決算書・帳簿類
- 賃金台帳
- 預金通帳
- 各種契約書
- 会社の財産に関する書類
- 会社の代表者印・銀行印・社判
法人破産手続きの流れについては、「法人破産・会社倒産手続きの流れ」をご参照ください。
倒産の検討・準備中にしてはいけないこと
ここでは、倒産の検討・準備中にしてはいけないことを解説します。
取引先や第三者に倒産の予定を伝えること
準備段階においては、取引先や第三者に倒産の予定を伝えてはいけません。
破産の可能性があることを知られると、会社の信用度が下がり、契約や融資を打ち切られる可能性があります。取引先や債権者が債権を回収するために、会社の財産を差し押さえるおそれもあります。
従業員に知られた場合も、混乱を招き事業の運営に支障を及ぼすおそれがあります。
倒産の検討・準備中は秘密裏に動きましょう。
特定の債権者だけに返済すること
お世話になった取引先に迷惑をかけたくない思いから、特定の債権者だけに返済してしまいがちですが、絶対にしてはいけません。
破産法では、特定の債権者に優先的に返済する行為を偏頗弁済(へんぱべんさい)として、破産管財人の否認権の対象としているからです。
破産管財人が否認権を行使して、特定の債権者への返済を否認すると、その債権者に返還を求めます。債権者が返還に応じない場合には、破産管財人が裁判を起こすこともあります。
特定の債権者に優先的に返済する行為は、かえって債権者に迷惑をかけることとなり、かつ、破産手続きを長期化させるリスクがあります。
財産を不利益な条件で処分すること
会社の財産を第三者に譲渡したり、安く売却したりする行為も破産管財人の否認権の対象となります。
適正な価格であっても、会社がその売却代金を隠すつもりで売却した場合は、破産管財人に否認される可能性があります。
まとめ
会社・法人が破産する場合は、さまざまな準備が必要です。
弁護士への相談が遅れると、債権者や取引先、従業員への対応に追われ、破産手続きをスムーズに進められない可能性があります。
会社の資金繰りが悪くなったり、経営状況が悪化したりした場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。早期対応により、事業を継続して負債を整理できる可能性もあります。
法人破産を検討中の方は、ぜひ実績・経験豊富な当事務所にご依頼ください。
相談に早すぎる時期はありません。ご不安を感じた時点でお気軽にご相談ください。
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