未成年の子がいる夫婦が離婚する際に重要なのは、養育費についての取り決めです。
取り決めた内容どおりに養育費を支払い続けてもらうために、その内容を公正証書で保管するのが推奨されます。
この記事では、養育費公正証書を自分で作成できるかどうかについて解説します。
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目次
養育費公正証書は自分で作成できるか?
養育費の公正証書は自分で作成ができるのか、以下で解説します。
養育費公正証書の作成は自分たちだけで依頼できる
専門家に依頼しなくても、自分たちだけで公証役場へ直接行き、養育費公正証書の作成を依頼できます。
もっとも、養育費公正証書は、自分たちだけで作成はできません。
なぜなら公正証書は全国の公証役場に所属する公証人が作成する文書で、自分たちで作成した文書がそのまま公正証書になるわけではないからです。
公証人が、本人確認と公正証書にする内容の確認を慎重に行った上で公正証書を作成します。
不備なく手続きを進めるには労力がかかる
自分たちだけでも養育費公正証書の作成の依頼はできますが、不備なく手続きを進めるには労力がかかります。
例えば夫婦間で合意した内容をもとに作成の依頼をしても、公証人がチェックをして内容に問題があれば、削除されてしまいます。
公正証書を作成する際は、定められた日時に公証役場に出向き、一定の手続きをしなければなりません。当事者間での合意形成を確実にできていない場合、作成途中で一方の気が変わって中断してしまうこともあります。この場合、再度夫婦間で協議をしなければいけません。
スムーズに公正証書を作成できたとしても、書くべき条件が漏れている場合、せっかく作成した公正証書の意味がなくなってしまう可能性があります。
養育費公正証書の作成に必要な書類
養育費公正証書の作成に必要な書類は以下のとおりです。
養育費に関する合意内容が分かる文書
夫婦間で養育費に関してどのように合意したか分かる文書を準備しましょう。
特に書式に決まりはないため、どのような形式でも問題ありません。
本人確認書類
運転免許証、マイナンバーカードなど写真付の公的な本人確認書類を準備しましょう。
実印・印鑑証明書
公正証書への押印および本人確認のため、実印と印鑑証明書が必要です。
印鑑証明書は作成後3か月以内のものでなければなりません。
戸籍謄本
戸籍謄本は、夫婦の婚姻関係と子どもとの親子関係の確認に必要なので準備しましょう。
委任状
公証役場には夫婦がそろって出向かなければいけませんが、同行できない場合は委任状が必要です。
養育費公正証書の作成に必要な費用
養育費公正証書の作成にあたっては、3種類の手数料がかかります。
公正証書作成の手数料
契約やその他の法律行為に係る公正証書作成の手数料は、原則として、その目的の価額により定められています(手数料令9条)。
養育費であれば、支払う10年を上限に養育費の総額で計算します。
公正証書作成の手数料は日本公証人連合会が公表しており、全国どこの公証役場も同じ費用となります。
目的の価格に応じた手数料の額は、以下のとおりです。
目的の価額 |
手数料 |
100万円以下 |
5,000円 |
100万円を超え200万円以下 |
7,000円 |
200万円を超え500万円以下 |
11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 |
17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 |
23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 |
29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 |
43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
例えば10歳の子どもの養育費として毎月3万円を22歳まで12年間支払うと合意した場合、手数料の目的価格は以下のように計算します。
3万円×12か月×10年(上限)=360万円 |
これにより、公正証書作成手数料は、1万1,000円となります。
正本等の交付手数料
養育費公正証書の正本等の交付手数料が1枚250円かかります。
養育費公正証書の原本は公証役場で保管されますので、持ち帰れません。そのため当事者は、写しとなる正本・謄本の交付を請求します。
公正証書の枚数による手数料
養育費公正証書の枚数が4枚を越えたら、1枚につき250円の手数料がかかります。
養育費公正証書を自分で作成する場合の流れ
養育費公正証書を自分で作成する場合の流れを解説します。
夫婦間で養育費の取り決めを行う
離婚する夫婦間で、養育費の内容の詳細を話し合って取り決めを行います。
原案の作成・書類の準備をする
夫婦間で養育費について合意ができたら、養育費公正証書の原案を作成し、書類の準備をします。
公証役場に連絡をして事前相談の予約を取る
すべての準備が整ったら、公証役場に連絡をして事前相談の予約を取ります。
予約した日時に公証役場で事前相談をする
予約した日時に公証役場で事前相談をします。
事前相談では、公証人と面談し、持参した書類を確認してもらいます。
あらかじめ夫婦間で作成した書面を公証人に送付しておくとスムーズに進められます。
公証人が公正証書案を作成する
申込みをした後、公証人が当事者に提示された協議内容に基づいて、公正証書の原案を作成します。この準備には、一般的には1~2週間ほどかかります。
これをメールやファックスなどで当事者に送信します。
当事者双方が公正証書案の内容を確認して異議がない場合は、公正証書の作成日時を調整します。
公正証書の内容を確認して署名押印する
定められた日時に再び公証役場に出向き、公証人が作成した内容を確認します。双方が合意して署名押印すれば、養育費の公正証書が完成します。
公正証書を受け取る際は、手数料を現金で支払います。
養育費公正証書を自分で作成するポイントは?
養育費の公正証書について、書式例と自分で作成するポイントを解説します。
養育費の支払を含む離婚公正証書の書式例は、以下のとおりです。
離婚公正証書 ○○○○(以下「甲」という。)と△△△△(以下「乙」という。)は、甲乙間の婚姻の解消に関する件(以下「本件」という。)について、以下のとおり合意する。 第1条 甲及び乙は、本日、協議離婚すること及び乙がその届出を速やかに行うことを合意する。 第2条(親権) 甲乙間の長女□□(□年□月□日生)、長男××(×年×月×日生)の親権者・監護者を乙と定めて、乙において監護養育する。 第3条(養育費) 1 甲は乙に対し、前記子らの養育費として、〇年〇月から満20歳に達する月まで、1人につき1か月〇万円の支払い義務のあることを認め、これを毎月末日(銀行休業日の場合は、その前営業日)限り、乙が指定する口座(○○銀行○○支店・普通預金・口座番号○○・口座名義:○○)に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。 2 前記子らが大学またはこれに準ずる高等教育機関(以下「大学等」という。)に進学した場合、前項の養育費の支払は、前記子らが大学等を卒業する月まで行う。 3 当事者双方は、前記子の病気、進学等の特別の費用の負担については、別途協議する。 第4条(面会交流) 1 乙は、甲が前記子らと月1回程度、面会交流することを認める。 2 面会交流の具体的な日時、場所及び方法については、前記子らの福祉に配慮して、甲及び乙が協議して定める。 第5条(強制執行認諾文言) 甲は、第3条に定める金員の支払を怠ったときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。 |
養育費に関する取り決めを明確に記載する
以下の事項を明確に記載しましょう。
- 支払う人と受け取る人
- 支払い金額
- 支払期日
- 支払い期間
- 支払い方法
(記載例)
甲は、乙に対し、前記子らの養育費として、〇年〇月から満20歳に達する月まで、1人につき1か月〇万円の支払い義務のあることを認め、これを毎月末日(銀行休業日の場合は、その前営業日)限り、乙が指定する口座(○○銀行○○支店・普通預金・口座番号○○・口座名義:○○)に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。 |
子どもが複数人いる場合は1人につきという文言を忘れずに入れましょう。
支払方法を振込送金とする場合は、振込手数料をどちらが負担するかについても明記しておきましょう。
事情変更が生じた場合の扱いを記載する
子どもの進学や病気など事情変更が生じた場合にどのような扱いにするかを明確に記載しておきましょう。
(記載例)
…(省略)… 2 前記子らが大学またはこれに準ずる高等教育機関(以下「大学等」という。)に進学した場合、前項の養育費の支払は、前記子らが大学等を卒業する月まで行う。 3 当事者双方は、前記子の病気、進学等の特別の費用の負担については、別途協議する。 |
強制執行認諾文言を設ける
養育費の支払いが滞った場合に備え、強制執行認諾条項を明確に記載しておきましょう。
(記載例)
甲は、第〇条に定める金員の支払を怠ったときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。 |
養育費公正証書の作成を弁護士に依頼するメリット
養育費公正証書の作成を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
納得できる養育費公正証書の作成ができる
弁護士に依頼すれば、納得できる養育費公正証書の作成ができます。
養育費公正証書を作成するにあたり重要なのは、当事者双方が養育費に関する決まり事にきちんと合意することです。そうでなければ、意味のある養育費公正証書の作成ができません。
弁護士に依頼すれば法的に有効な養育費公正証書の作成ができます。話し合いが難航した場合でも、間に入って上手く調整が可能です。
養育費公正証書の作成手続きを任せられる
弁護士に依頼すれば、養育費公正証書の作成手続きを任せられます。
公証役場は平日の昼間しか受け付けていないため、仕事の都合で出向くのが難しいケースもあるでしょう。その場合、弁護士が代理人として作成手続きが可能です。
まとめ
養育費の取り決めは、当事者同士が合意して終わりではありません。
長期間にわたって支払いが続くので、万が一支払いが滞った場合に備えておく必要があります。そのために養育費公正証書は有効です。
養育費公正証書は自分で作成ができますが、不備なく行うには難しい側面があります。可能であれば弁護士に相談をしながら作成したほうがよいでしょう。
ネクスパート法律事務所には、離婚案件を多数手掛けている弁護士が在籍しています。養育費の取り決めに関するお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください。