新型コロナウイルス感染拡大の影響で自粛が求められる中、バス会社の倒産が増加傾向にあります。
倒産の要因には観光需要の低下のほか、運転者不足や少子高齢化・地域の過疎化も影響しています。
この記事では、バス会社の倒産手続きの種類や手続き上の注意点について解説します。
倒産をお考えのバス会社の経営者様は、ぜひご参考になさってください。

バス会社が倒産に至る3つの要因
ここでは、バス会社が倒産に至る3つの要因について解説します。
コロナ禍での観光需要の低下
2020年初め、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う水際対策の強化により、旅客運送業はインバウンド需要が消失し、国内旅行の需要も激減するなど厳しい状況が続きました。
特に、団体客を扱う貸切バス業の倒産が激増し、2021年の倒産件数は、過去30年間で過去最多の14件(負債1,000万円以上)を記録しました。
2022年9月7日、水際対策が緩和され訪日外国人観光客によるインバウンド需要の回復への期待が高まっていますが、個人旅行や修学旅行などを取り扱う小規模のバス会社は環境の変化に対応できず、業績回復が見込めない状況が続いています。
運転士不足
バス会社が、慢性的な運転士不足に陥っている理由には、以下の点が挙げられます。
- 早朝から深夜までの不規則な交代勤務
- 数十人の命を預かる運転業務への不安が常にある
- 高額な大型二種免許取得費用
- 他産業に比べて給料が低い
上記のような理由からバス運転士を目指す若年層が減り、運転士の高齢化が進んでいます。高齢者層の退職を契機として、さらに人手不足が深刻化するおそれがあります。
少子高齢化・地域の過疎化
乗合バス(路線バス)は、地域住民にとって最も身近な交通機関ですが、少子高齢化や地域の過疎化、マイカーの普及により利用者が減少傾向にあります。
特に住民の高齢化が進む地域では、通勤や通学に路線バスを利用する人口が少ないことから、減便や廃線を余儀なくされるなど、乗合バスの運営環境が厳しさを増しています。
バス会社の倒産手続きの種類①|M&A型清算手続き
後継者が不在でも、事業を廃止せず第三者に承継して会社を清算する方法として、M&Aによる清算手続きがあります。
ここでは、M&A型清算手続きについて解説します。
M&A型清算手続きには、以下の4つの方法があります。
- 事業譲渡
- 会社売却(株式譲渡)
- 吸収合併
- 会社分割
事業譲渡
事業譲渡とは、会社が行っている事業の一部または全部を第三者に売却する方法です。
会社の財政状況が芳しくなくても、その会社が営む事業に価値が認められれば、会社から事業だけを切り離して売却できる可能性があります。
事業譲渡の手続きにかかる期間は、3か月~1年程度です。売却先、譲渡資産・譲渡価格が決まれば、比較的短期間で手続きできます。
会社売却(株式譲渡)
会社売却とは、会社が保有する株式を第三者に譲渡する方法で、株式譲渡とも呼ばれます。
株式を売却しても会社の所有者(株主)が変わるだけなので、事業自体は継続されます。
取引先などの関係者に与える影響を最小限に留められ、従業員の雇用も維持できます。
会社売却の手続きにかかる期間は3~6か月程度です。会社経営者が、自社の発行済株式を単独で所有している場合は、よりスムーズに手続きを進められます。
経営者以外に株主がいる場合で、売却に反対する株主がいると、全ての発行済株主を一括売却できなくなるため、売却先の選定が難しくなることがあります。
吸収合併
吸収合併とは、合併後に存続する会社が合併後に消滅する会社の資産・負債、権利関係などのすべてを承継する手続きです。
一部の株主が合併に反対したとしても、会社経営者とその賛同者が3分の2以上の議決権を有していれば、吸収合併を実行できます。
吸収合併の手続きにかかる期間は2~4か月程度です。合併先や対価などが決まれば、早期に手続きできます。
会社分割
会社分割とは、ひとつの会社を2つ以上の会社に分割する方法です。
特定の事業部門を本体から切り離して経営したり、他の会社に事業を承継・譲渡したりする方法として利用されます。残った会社は清算手続きをとります。
会社分割は、株主総会に総議決権の過半数を有する株主が出席し、かつその出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得られれば実行できます。
会社分割の手続きには、債権者保護のための官報公告が必要であるため、最低でも2か月以上の期間がかかります。
バス会社の倒産手続きの種類②|再建型の倒産手続き
ここでは、再建型の倒産手続きについて解説します。
再建型の倒産手続きには、次の3つの方法があります。
- 民事再生
- 会社更生
- 任意整理型の再建手続き
民事再生
民事再生とは、裁判所の監督と債権者の同意のもと、経営破綻のおそれがある会社の再建を図る手続きです。
民事再生は、申立後も経営者が退任することなく、引き続き経営に携われるのが特徴です。人員が削減される可能性はあるものの、一定の従業員の雇用も継続できます。
通常、民事再生の申立てから6か月程度で再生計画案の認可決定がくだされます。
再生計画に基づく返済を開始して3年が経過すると、再生手続きが終結します。
会社更生
会社更生とは、会社更生法に基づいて経営破綻のおそれがある会社の再建を図る手続きです。
会社更生では、原則、経営者が交代することになり、裁判所が選任した管財人に経営権が引き継がれます。
会社更生法は、利害関係者の多い大企業を想定して作られた法律であるため、中小企業の再生に利用されることはほぼありません。
任意整理型の再建手続き
任意整理型の再建手続きは、債権者と債務者との交渉により解決を図る再生手続きです。
法的整理とは異なり、裁判所に予納金を支払う必要がないため、費用が安く済みます。手続きが非公開で進められるため、会社の信用力の低下や風評被害による業績の悪化などのリスクを減らせます。
ただし、手続きに強制力がないため、債権者の理解と協力が得られない場合は、法的手続きに移行せざるを得ないこともあります。
債権者との協議がうまく進まない場合には、以下のような公的な再生支援機関を活用するのも一つの手段です。
- 中小企業再生支援協議会による再生支援
- 中小企業再生ファンドによる再生支援
- 企業再生支援機構による再生支援
- 事業再生ADRによる再生支援
バス会社の倒産手続きの種類③|清算型の倒産手続き
ここでは、清算型の倒産手続きについて説明します。
清算型の倒産手続きには、次の3つの方法があります。
- 通常清算
- 特別清算
- 破産
通常清算
会社に解散等の清算手続の開始原因が発生すると、当該会社は事業や業務を終了させるとともに、各種契約関係の解消、財産の換価処分を行い、債務を返済して残余財産を分配する必要があります。
通常清算は、会社の清算手続のうち、その財産をもって債務を完済できる、すなわち資産超過である会社について採られる清算手続きです。
裁判所の監督に服さない手続きであるため、コストが安く済み、他の清算手続きに比べて手続きが簡便で柔軟な処理が可能です。
特別清算
特別清算は、解散した会社が債務超過の疑いがある場合に用いられる倒産手続きの一つです。
裁判所の監督下で行う手続きですが、清算人を機関として、会社が自ら清算結了に向けた清算事務を行います。
特別清算は、破産手続きよりも費用が安く手続きが簡易ですが、債権者の合意が必要です。
債権者の合意を得られる見込みがない場合は、破産手続きを選択せざるを得ないこともあります。
特別清算については、弊所債務整理サイトの記事「特別清算とは?手続きの概要と流れ・破産との違い・メリットを解説」をご参照ください。
破産
破産手続きは、債務超過に陥った会社の全財産を換価処分して現金化し、これを債権者に公平に分配する手続きです。適正かつ公平な清算を図るために、破産手続きは裁判所に選任された破産管財人が中心となって行います。この点が他の清算手続きとは異なる特徴です。
破産手続きが終結し、その旨の登記がなされると、法人格が消滅します。
法人破産の詳細は、「法人破産の手続きの流れや必要書類・予納金・弁護士費用相場を解説」をご参照ください。
バス会社の倒産・事業承継で留意すべき点
ここでは、バス会社の倒産手続きで留意すべき点を解説します。
運転士の労働問題
バス会社の運転士は、労働時間が不規則かつ長時間になることが多いと言われています。適正な労働管理がなされていない場合、バス会社には多額の未払い残業代が存在している可能性があります。
廃業にあたり、運転士を解雇する場合には、未払残業代の存否やその額を調査する必要があります。
従業員の未払い賃金の取扱いについては、「会社が倒産・法人破産するとき従業員の給与はどうなる?未払い賃金の支払い義務は?」をご参照ください。
旅行業者との旅客運送契約
旅行客は、旅行業者を通じてバスチケットを購入することがあります。
この場合、旅行業者とバス会社との間には、旅客運送契約が成立しているものと考えられます。旅行業者は、あらかじめ旅行客から旅行代金の前払いを受け、その中からバス会社や宿泊施設等にそれぞれの対価を支払う流れになることが多いでしょう。
廃業にあたり、未払いの代金の存否を調査し、ある場合は未払金を回収する必要があります。
M&A時の許認可の承継
M&Aにあたっては、運送業に必要な許認可の承継が問題となります。
一般乗合旅客自動車運送事業や一般貸切旅客運送自動車事業を事業譲渡、合併または会社分割によって第三者に承継させる場合は、国土交通省の認可が必要です。
具体的には、運送業を行う営業所を管轄する地方運輸支局に対して、譲渡譲受認可申請を行います。
自動車税等の税金
バス会社には、自動車取得税、自動車税及び自動車重量税等の税金が課されます。
清算にあたっては、これらの税金の発生時期および支払時期等を確認して支払費用を計上しておく必要があります。
バス会社の倒産・事業承継は誰に相談すればよい?
ここでは、バス会社の倒産を誰に相談すべきかについて解説します。
自治体
地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の改正により、2020年11月から路線バスやコミュニティバスなどは、各自治体での事業承継の公募が可能となりました。
路線バス等の維持が困難と見込まれた場合、地方公共団体による公募により、新たなサービス提供者を選定し、地域における旅客運送サービスの継続を図れる可能性があります。
住民のニーズがある場合には、事業承継を自治体に相談する選択肢もあります。
顧問税理士
会社の状況により適切な相談先は異なりますが、まず会社の事情に詳しい顧問税理士に相談するとよいでしょう。
顧問税理士であれば、会社の財務状況を把握しているので、財産調査や賃借対照表等の税務書類の作成をサポートしてくれるでしょう。
弁護士
顧問弁護士がいる場合は、まずは顧問弁護士に相談しましょう。顧問弁護士がいない場合には、法人の倒産手続きに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
早い段階で弁護士に相談すれば、より多くの選択肢から最適な解決方法を検討できます。
弁護士に相談・依頼するメリットは、「倒産・破産で弁護士に依頼すべき理由|費用・相場・流れを解説」をご参照ください。
まとめ
バス会社の倒産手続きでは、以下の点に注意して手続きを検討・進行しなければなりません。
- 運転士の労働問題
- 旅行会社との旅客運輸契約
- M&A時の許認可の承継
- 自動車税等の税金
法人の倒産手続きでは、税務・労務面でも複数問題が生じるため、経営者や社内の人員だけで手続きを進めるのはリスクが高く、手間もかかります。
円滑に手続きを進めるためには、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
倒産をお考えのバス会社の経営者の方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。
法人の倒産手続きに詳しい弁護士が、現状を詳しくお伺いし、最適な解決方法をご提案します。