会社の資金繰りが苦しい場合は、法人破産をするのも1つです。
法人破産を行う場合、法人が抱えていた債務・借金は代表者が責任を負わなければならないのではと不安を抱いている人も多いです。
この記事では、法人破産における代表者の扱いについて解説します。

法人破産における代表者の責任
代表者の責任について解説します。
原則:法的な責任はない
法人破産において、原則、代表者には法的な責任はありません。
法人と代表者はあくまでも法人格としては異なる存在です。代表者として法人の責任を取らなければならないと考える人も多いですが、その必要はありません。
ただし、以下に該当する場合、代表者が法人の責任を負う可能性があります。
代表者が連帯保証人・保証人の場合
代表者が法人の連帯保証人・保証人の場合、法人が抱えていた債務を返済しなければなりません。
ただし法人は破産の時点で莫大な債務を抱えていることが多く、代表者が連帯保証人・保証人の場合は、代表者も自己破産する必要があります。
代表者が法人の連帯保証人・保証人の場合に、取りうる手段を以下に表としてまとめたので参考にしてください。
手段 | 内容 | メリット | 適している人 |
---|---|---|---|
自身で返済する | 法人が抱えていた借金を代表者が返済する | 借金を返済するためその後の生活には影響がなくなる | ・法人の債務を返済できるほど資産・財産を所有している人 |
返済を待ってもらう | 老人が抱えていた借金の返済を待ってもらい、分割返済する | 自己破産や個人再生のように、所有している財産や資産を処分しなくて良い | ・法人破産後も継続的に収入がある人 ・債権者が分割での返済に同意してくれた人 |
自己破産・個人再生 | 自己破産・個人再生によって、借金を免除・減額する | ・借金を返済する必要がなくなる ・返済する借金が減額になる | ・上記以外の人 |
法人に対する損害賠償責任がある場合
代表者が法人に対して有している忠実義務・善管注意義務に違反して職務を怠り損害を与えた場合、損害賠償金を支払わなければなりません。
参考:会社法423条,一般社団法人及び一般社団法人に関する法律101条|e-Gov法令検索
代表者が義務に違反して職務を怠り損害を与える具体例は、以下のとおりです。
- 法令に違反する行為をした
- 会社の違法行為を見逃した
- 経営判断の失敗によって会社に損害を与えた
第三者に対する損害賠償責任事由がある場合
代表者が悪意又は重大な過失により、職務執行を怠り第三者が損害を被った場合、代表者は第三者に対して損害賠償金を支払わなければなりません。
参考:会社法429条,一般社団法人及び一般社団法人に関する法律117条など
なお、代表者が第三者に対して責任があると認められるための要件は以下のとおりです。
- 取締役が職務を行うについて任務懈怠(義務違反)があったこと
- 悪意又は重大な過失があったこと
- 第三者に損害が生じたこと
- 取締役の任務懈怠と第三者の損害に因果関係があること
財産散逸防止義務違反を犯している場合
財産散逸防止義務違反とは、破産財団に組み入れるべき財産を散逸させないように管理・保全しなければならない義務に違反して、法人の所有していた財産を減少させることです。
例えば、法人の代表者が破産手続きの前に、懇意にしていた取引先に対してのみ借金の返済を行い、法人の財産を減らしてしまったケースが該当します。
財産散逸防止義務違反を犯した場合、代表者は破産管財人から損害賠償請求されます。
法人から借入れ等をしている場合
代表者が法人から借金している場合、代表者は破産管財人から貸金返還請求される場合があります。
刑事責任を負う場合
代表者が法人の破産において不誠実な行為を取った場合、詐欺破産罪(破産法265条)や特定の債権者に対する担保の供与等の罪(破産法266条)に問われる可能性があります。
それぞれの具体例は以下のとおりです。
【詐欺破産罪の具体例】
- 債務者の財産を隠匿・損壊する行為
- 債務者の財産を譲渡・債務の負担を仮装する行為
- 債務者の財産の現状を改変・減じさせる行為
- 債権者の不利益になるよう債務者の財産を処分、一部の債権者のみに返済する行為
【特定の債権者に対する担保の供与等の罪にあたる行為】
- 債務者に破産手続き開始決定が下されたことを知りながら、債権者を害する目的もしくは正当な理由なく債務者の財産を取得する行為
法人破産で代表者が自己破産する場合の手続の流れ
法人破産で代表者が自己破産する場合、以下の流れで手続きが進みます。
- 破産手続き開始及び免責許可の申し立て
- 債権者への申し立て通知
- 破産審問
- 破産手続き開始決定
- 意見申述期間・官報への掲載
- 免責許可決定
- 免責許可決定確定
参考:破産手続き開始申立てにあたっての注意事項|鳥取地方裁判所破産係
代表者の所有している資産・財産にもよりますが、上記手続きはおおよそ半年から1年程度で終わります。
法人破産で代表者も破産する場合に必要な費用
法人破産で代表者も自己破産する場合、追加で必要な費用の相場と内訳は以下のとおりです。
内訳 | 相場 | |
裁判所に支払う費用 | 破産管財人に支払わなければならない予納金 | 50万円~1,000万円※所有している財産・資産の額で異なる |
弁護士に支払う費用 | ・相談料・着手金・実費・成功報酬 | 30~50万円 |
各種事務手数料 | ・収入印紙・予納郵券代・官報広告代 | 1万5,000円〜2万円前後 |
法人破産において代表者が自己破産するメリット・デメリット
法人破産において代表者が自己破産するメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
代表者が自己破産するメリット
代表者が自己破産するメリットは次の2点です。
債務を支払う必要がなくなる
法人破産において代表者が自己破産しなければならないのは、連帯保証人・保証人になっている場合です。
自己破産によって法人の抱えていた借金を返済する必要がなくなるので、迅速に生活を立て直せます。
別の会社を立ち上げる、ほかの会社の代表者にはなれる
代表者が自己破産した場合でも、別の会社を新しく立ち上げる、もしくは他の会社の代表者になることも可能です。
自己破産で抱えていた借金がなくなるため、資金繰りや返済に頭を悩ませることなく、人生の再出発ができます。
代表者が自己破産するデメリット
代表者が自己破産するデメリットは次の2点です。
自己破産の一般的なデメリット
代表者が自己破産する場合、以下のデメリットがあります。
- ブラックリストに登録されて一定期間カードの作成やローンの契約ができない
- 必要な財産以外は処分しなければならない
- 官報に名前と住所が記載される
- 手続き期間中は一定の職業と資格に制限がかかる
- 手続き期間中は自由に住所変更ができない
- 手続き期間中は郵便物が破産管財人に転送される
- 免責不許可となった場合市町村役場に通知がいく
- 連帯保証人・保証人に請求が行く
法人破産固有のデメリット
法人破産した場合、代表者は新しく事業を起こして再出発を図ることも多いです。
しかし、代表者も自己破産をした場合、ブラックリストに登録されているため融資の審査に通らず新規事業の資金繰りが難しくなります。
特に銀行などの大規模な金融機関から融資を受けられないため、新規事業立ち上げが困難になる可能性が高いです。
万が一法人破産後に代表者が新しく事業を起こしたい場合は、以下のような方法で資金繰りを工夫する必要があります。
- クラウドファンディングを利用する
- 自分で立ち上げに必要な資金を用意する
- ブラックリストに登録されていない人に融資を受けてもらう
- 信用情報をチェックしない金融機関から借り入れを行う
法人破産で代表者のよくある疑問
法人破産を検討している代表者が、弁護士事務所に寄せる疑問や質問を以下で紹介します。
滞納税金の支払い責任を負うのか?
法人破産では、滞納していた税金や社会保険料の支払い義務も消滅します。
ただし、代表者が税金の連帯保証人・保証人の場合は、滞納していた税金の支払い責任を負います。
役員報酬は受け取れるのか?
法人が支払不能・支払い停止に陥っているにもかかわらず、役員報酬を受け取ると偏波弁済とみなされる可能性があります。
場合によっては法人破産が失敗する可能性もあるため、役員報酬を受け取りたい場合は弁護士に相談して判断してください。
家族には影響があるのか?
法人破産をしても家族には影響ありません。
ただし代表者が連帯保証人・保証人であり、自己破産しなければならない場合は家族に影響が生じることもあります。
また家族が法人の連帯保証人・保証人の場合、家族も自己破産をしなければならない場合があります。
会社の財産を移してよいのか?
個人破産をする場合、安易に法人の財産を移転してはいけません。
破産手続き後、法人の財産は破産管財人によって管理・処分・債権者へ配当されます。
破産管財人の了承なしで勝手に法人の財産を移転すると、財産の隠匿とみなされて刑事責任を負う可能性があります。
破産手続きが終わるまで就職できないのか?
法人破産の手続き中でも、代表者は就職・起業できます。
ただし代表者個人も自己破産をする場合のみ、一定の資格・職業に制限がかかるため、手続き期間中の間はできない仕事もあります。
自己破産による資格・職業の制限については、弊所債務整理サイトの記事「自己破産における制限職種一覧|資格制限を受ける期間も解説」をご参照ください。
特定の取引先だけに弁済をしてもよいのか?
特定の取引先だけに弁済することを偏頗弁済といい、破産法で禁じられています。
どれだけお世話になった取引先であっても、法人が支払不能・支払停止の状態になった後は弁済しないでください。
まとめ
法人破産においては、原則代表者は責任を負いません。
しかし代表者が連帯保証人・保証人の場合、自己破産が必要なケースもあります。
法人破産が必要な状態に陥ったら、できるだけ早く手続きを進めることで、抱えていた債務を整理して新しい人生のスタートを切ることが可能です。
法人破産しても代表者の人生が終わってしまうことはないので、まずは弁護士に相談してどのように対応すればよいのかアドバイスをもらいましょう。