賃貸借契約に違反している借主に対して裁判で立ち退きを請求し、貸主が勝訴しても立ち退かない場合はどうすればいいでしょうか?
この記事では、立ち退きの強制執行とは何か、強制執行が行われる流れや期間、費用について解説します。

立ち退きの強制執行とは何か?
立ち退きの強制執行とは、借主が賃貸物件等から退去しない場合に、強制的に退去させる手続きです。
建物明け渡し請求訴訟で貸主が勝訴、または和解が成立したにも関わらず、借主が退去しない場合などに行われます。
強制執行を行うには、借主(債務者)に債務名義が送達されていることが必要です。債務名義とは、確定判決や和解調書など、法的に借主が退去する義務を負っていることを示す文書です。
すなわち、強制執行とは、執行官がこの債務名義に基づいて借主を物件から退去させ、建物を貸主(債権者)に引渡して目的を達する手続きです。
強制執行の流れは?
強制執行は、以下の手順で行われます。
強制執行の申立てをする
明け渡しを求める建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に、強制執行の申立てをします。
申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
- 強制執行申立書
- 執行力のある債務名義の正本
- 送達証明書
- 資格証明書(当事者が法人の場合)
所定の申立書には、当事者目録や物件目録(建物の一部などの場合は図面等)、執行場所の案内図等を綴ります。
申立書とは別に添付する目録等の通数は裁判所や債務者の数によって異なりますので、事前に確認しましょう。
申立ての際には、執行予納金の納付も必要です。
執行官と事前の打ち合わせをする
強制執行の申立てをすると、執行官との打ち合わせが行われます。
打ち合わせでは、明け渡しの催告日や断行日等の日程調整や、執行場所や借主(債務者)の状況などの聞き取りが行われます。
借主(債務者)の状況について想定される質問は、以下のとおりです。
- 借主は一人暮らしか家族と同居しているか
- 借主の健康状態はどうか
- 借主もしくは同居の家族に高齢者がいるか
- 借主が暴力的で抵抗されるおそれはあるか
執行官との打ち合わせで日程が決まったら、執行補助者は開錠技術者等にもその日程を連絡します。
執行補助者等は貸主が事前に選定するのが一般的ですが、利用する業者が決まっていない場合には、打ち合わせの際に執行官から紹介を受けられます。
執行官が借主に対し催告をする
建物の明渡し日(断行日)が決定したら、執行官は借主に対して明け渡しの催告をします。
執行官は、まず対象物件を特定して占有状況を確認します。
借主が在宅している場合、執行官は、借主に対して、断行日までに任意退却することが望ましいこと、任意退却しない場合には家財道具等を搬出して貸主に建物を引き渡すことなどを説明します。その後、公示書を強制執行の対象になっている建物に貼り、借主に対して断行日や注意事項を記載した催告書を交付します。
借主が不在の場合、執行官は合鍵または解錠措置により対象物件に立ち入り、占有状況を点検した上で公示書を掲示し、断行日や注意事項を記載した催告書を差し置きます。
催告の際には、執行補助業者に家具等がどのぐらいあるか確認してもらい、見積もりをもらうことも重要です。借主が催告に応じない場合に備えて、作業者やトラックがどの程度必要か把握しなければならないからです。
催告に応じない場合は強制執行する
借主が催告に応じず建物から出ていかない場合は、強制執行をします。
借主が在宅している場合は、執行官が強制執行実施の旨を説明・告知し、貴重品の引渡しや目的外動産の処理をした上で、借主を退去させて債権者に不動産を引渡します。
借主が不在の場合には、鍵を解錠し、執行補助者が家財道具等の残置物を搬出します。
建物に残された家具等は、貸主が用意した保管場所もしくは執行補助者が依頼した倉庫に1か月程度保管をします。その間、借主が取りに来なければ、売却もしくは廃棄します。
鍵を交換する
強制執行後、鍵を交換します。
借主が合鍵を使って建物の中に入らないようにするための措置ですので、強制執行後、速やかに行います。
立ち退きの強制執行にかかる費用は?
立ち退きの強制執行をするにはどのような費用がかかるか、以下で内訳とともに解説します。
執行予納金
裁判所に支払う予納金が必要となります。
予納金は裁判所や債務者の人数等によって異なりますが、東京地方裁判所の場合、基本額は6万5,000円です。
参考:東京地裁予納金額標準表R3.4改訂(最終版) (courts.go.jp)
執行補助者の費用
執行補助者の費用がかかります。
費用の相場は部屋の広さや家財・動産類の量によって異なります。
執行補助者の費用体系によりますが、おおむねの目安は、以下のとおりです。
- ワンルームの場合:15~20万円
- 2LDKの場合:35~45万円程度
- ファミリータイプの場合:50~60万円程度
開錠技術者の費用
鍵を開ける技術者の費用がかかります。
相場は以下のとおりです。
- 通常の鍵の場合:1~2万円程度
- ピッキング防止用の鍵の場合:2~3万円程度
- 交換する場合:3~5万円程度
残置物の処分・保管費用
建物に残置物がある場合、処分や保管のための費用がかかります。
目的外動産の保管が必要な場合や残置物の量によりますが、それぞれ数万円~10万円程度がかかります。
弁護士費用
弁護士に依頼する場合は、弁護士費用がかかります。
依頼する弁護士事務所にもよりますが、一般的な相場は以下のとおりです。
- 相談料:30分5,500円程度
- 着手金:20~35万円程度
- 報酬:40~50万円程度
- 日当・交通費:数万円程度
立ち退きの強制執行にかかる期間は?
強制執行の申立てから催告までは約2週間かかります。
断行日は引渡期限(催告があった日から1か月を経過する日)の数日前の日が指定されるのが一般的です。
目的外動産を即日売却できず、保管場所にて保管する場合は、その処理のためにさらに1か月かかります。
以上のことから、事案によっても異なりますが、申立てから断行までは、概ね4~6週間、目的外動産の保管が必要となる場合は、さらに4週間の期間が見込まれます。
立ち退きの強制執行にかかった費用を借主に請求できるか?
強制執行にかかった費用の一部は、借主に請求できます。
請求をする場合は、借主の転居先を聞いておきましょう。ただし、現実的には借主から回収するのは難しいといわれています。
なお、弁護士に依頼した場合の弁護士費用は、借主に請求できません。
まとめ
本記事では、強制執行の流れや費用、期間について解説しました。
建物明け渡し請求訴訟で貸主が勝訴したのにもかかわらず、借主が退去しない場合、強制執行の申立てを検討することになるでしょう。スムーズに手続きを進めるために、この記事が参考になれば幸いです。
ネクスパート法律事務所は、不動産案件に強い弁護士が在籍しています。不動産に特化した部隊を設け、不動産をめぐるさまざまなトラブルに対応をしています。
強制執行は時間や手間がかかりますので、最終的な手段と考えたほうがよいです。そうならないために不動産案件に強い弁護士に依頼して、アドバイスを受けながら借主と交渉を進めたほうがよいでしょう。弁護士が間に入れば、頑なに退去を拒んでいた借主にプレッシャーをかけられるのもメリットです。
初回相談は30分無料ですので、借主が退去に応じてくれないなどのお悩みがあるオーナー様は、ぜひ一度ご相談ください。