新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化し、道路貨物運送業の倒産が増加傾向にあります。
倒産の要因には業績不振のほか、人手不足や燃料費の高騰も影響しています。
この記事では、運送会社の倒産を検討している方が知っておきたいポイントを、以下のとおり解説します。
- 運送会社が倒産に至る3つの要因
- 運送会社の倒産を検討するタイミング
- 運送会社の倒産手続きの種類3つ
- 運送会社の倒産手続きで留意すべき点
倒産をお考えの運送会社の経営者様は、ぜひご参考になさってください。

運送会社が倒産に至る3つの要因
ここでは、運送会社が倒産に至る3つの要因について解説します。
運送会社の倒産の要因には業績不振がベースとしてあるものの、次の3つの要因が大きく影響しています。
- 燃油費高騰によるコスト増
- 人手不足による配送効率の悪化
- 後継者の不在
燃油費高騰によるコスト増
新型ウイルス感染拡大により世界経済が混乱の一途を辿り、2020年以降、燃料費が高騰し続けています。ウクライナ情勢の緊迫化によって燃料の輸入価格がさらに上昇し、日本国内でも影響が出始めています。
荷物等の輸送に燃料が欠かせない運輸業にとって、燃料費の高騰は経営に影響します。燃料費上昇分を運賃へ転嫁できず、荷物を運べば運ぶほど赤字が出る状況となり倒産に追い込まれる企業は少なくありません。
人手不足による配送効率の悪化
2017年3月12日、改正道路交通法が施行され、準中型免許が新設されました。
この改正に伴い、普通免許で運転できる車両の最大積載量と最大重量等が以下のとおり変更されました。
- 車両総重量:5トン未満
- 最大積載量:0トン未満
施行日以降に普通免許を取得した場合、普通免許で改正前の車両総重量5トン未満、最大積載量3トン未満の自動車を運転できないため、若年層ドライバーが減少したことが人手不足の一因となりました。
働き方改革に伴う労務管理の厳格化により、賃金や福利厚生の条件が良い大手業者にドライバーが流れるケースも多く見られます。
中小業者にとっては、労務管理にかかるコスト負担が経営を圧迫する要因でもあるため、人手不足を解消できず、配送効率の悪化により受注・収益が減少し倒産に至る傾向にあるようです。
後継者の不在
経営者が高齢になったり、後継者がいなかったりして、事業の継続が見込めなくなったことでやむを得ず倒産を選ぶケースも少なくありません。
運送会社の倒産を検討するタイミング
ここでは、運送会社を倒産させるかどうかを検討するポイントを解説します。
将来的に事業を継続できるかどうかという観点から、以下のポイントを見てみましょう。
- 後継者はいるか
- 人手不足を解消できる対策がとれるかどうか
- 利益計画の達成が可能か
- 資金繰りの目途が立っているか
- 経営を続ける意欲があるか
後継者はいるか
日本の中小企業が廃業を決める理由の3割近くが後継者不在によるほど、多くの会社が後継者問題を抱えています。どれほど好調な事業でも、後継者がいなければいつかは事業を終わらせなければなりません。
現経営者が高齢等で、後継者もいない場合は、事業継続が可能な期間内から、事業を終了する時期を決めて、少しずつ事業を縮小し最終的に清算する形をとります。
将来性のある事業であれば、会社合併や会社分割などによって事業を他の経営者に譲渡し、新たな経営者のもとで事業を継続させることも可能です。
人手不足を解消できる対策がとれるかどうか
運送業における人手不足の原因には、道路交通法の改正による各免許の最大積載量と最大重量等の変更のほか、長時間労働による人材の業界離れがあります。
労働環境の改善や賃金アップなどの対策により、人手不足が解消できれば倒産を回避できる可能性もあります。ただし、それらの対策にはコストもかかるため、人手不足解消に予算が割けるかどうかを見極める必要があります。
利益計画の達成が可能か
直近の決算が赤字である場合は、黒字化する具体的な策があるかどうかを判断しなければなりません。赤字決算が続けば、いずれは債務超過に陥ります。
経営を黒字化する見込みがなければ、早い段階で事業の終了を検討した方がよいケースもあります。
資金繰りの目途が立っているか
黒字でも手元の資金がなくなれば、倒産に陥る可能性があります。
燃料費の支払いから運賃の入金までのスパンが長期に及ぶ場合などには、資金繰りの目途が立っているか正確に把握しなければなりません。
金融機関が融資に対して慎重になっている様子が窺える場合は、資金がショートする可能性もあります。
資金スケジュールや金融機関の融資姿勢を把握し、いつ、いくらの資金が不足するのかを明確にできれば、廃業せざるを得ない場合でも、破産や特別清算ではなく、通常の清算による廃業が可能となる場合もあります。
経営を続ける意欲があるか
経営者が高齢になったり、後継者がいなかったりすると、経営意欲が極端に低下することもあります。
経営を続ける意欲がなければ、どのような形で事業を撤退させるか、早期に検討を開始しましょう。
倒産前の準備については、「会社の倒産前に準備すべきこと・法人破産前に準備すべきことを解説」をご参照ください。
運送会社の倒産手続きの種類①|M&Aによる廃業
後継者がいなくても、事業だけは継続させたいという場合には、M&Aによる廃業を検討すると良いでしょう。
ここでは、M&Aによる会社の廃業について解説します。
廃業のためのM&A手続きには、次の4つの種類があります。
- 事業譲渡
- 会社売却
- 吸収合併
- 会社分割
ひとつずつ説明します。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社そのものを売却するのではなく、会社が行っている事業の一部または全部を他の企業に売却する方法です。
会社自体が債務超過に陥っていても、その会社が営む事業に価値が認められれば、会社から事業だけを切り離して売却できる可能性があります。
事業譲渡の手続きにかかる期間は3か月~1年程度です。売却先や譲渡する資産およびその価格が決まれば、比較的短期間で手続きを完了できます。
会社売却
発行済株式をすべて売却する会社売却は、主に後継者が不在の場合に利用されます。
特に、会社を解散・清算して残った財産を株主に分配するよりも、株式を売却した方が多く資金が得られるような場合に有効な手段です。
会社売却の手続きにかかる期間は3~6か月程度です。売却先や譲渡価格が決まり、買い手の資金に目途が立てば、手続きは早期に完了します。
特に、自社の発行済株式のすべてを経営者一人で所有している場合は、スムーズに手続きを進められます。
吸収合併
吸収合併とは、合併後に存続する会社が合併後に消滅する会社の資産・負債、権利関係などのすべてを承継する手続きです。
吸収合併の手続きにかかる期間は2~4か月程度です。合併の相手先や対価などが決まれば、早期に手続きが完了します。
会社分割
会社分割とは、ひとつの会社を2つ以上の会社に分割することです。
特定の事業部門を本体から切り離して経営する場合や、他の会社に事業を承継・譲渡する方法として利用されます。残った会社は清算手続きをとります。
会社分割を行う場合は、以下の事項を官報に公告し、すでに判明している債権者に通知しなければなりません。
- 自社を分割する趣旨
- その分割に対して、所定の期間内(1か月)に異議を申し立てられること
そのため、会社分割の手続きには最低でも2か月程度かかります。
運送会社の倒産手続きの種類②|再建型の倒産手続き
ここでは、再建型の倒産手続きについて解説します。
再建型の倒産手続きには、次の3つの種類があります。
- 民事再生
- 会社更生
- 任意整理型の再建手続き
民事再生
民事再生とは、民事再生法に基づき、裁判所の監督のもとで経営破綻のおそれがある会社の再建を目指す手続きです。民事再生では、現在の経営陣による会社の立て直しが可能です。
民事再生の手続きは、申立てから再生計画の認可決定まで、通常6か月以上の期間がかかります。
再生計画に基づく返済を開始して3年が経過すると、再生手続きが終結します。
会社更生
会社更生とは、会社更生法に基づいて再建を目指す法的整理手続きです。
会社更生手続きでは、裁判所が選任した管財人に経営権が引き継がれます。すなわち、現在の経営陣は経営権を失います。
会社更生法は、利害関係者の多い大企業を想定して作られた法律であるため、会社更生手続きも大企業の再生に利用されるのが通常です。
任意整理型の再建手続き
任意整理型の再建手続きは、債権者と債務者の話し合いにより解決を図る再生手続きです。
任意整理型再建手続きを進めるにあたり、以下のガイドライン等を活用することで、税務上の優遇措置を受けられることもあります。
- 私的整理に関するガイドラインによる再生支援
- 中小企業再生支援協議会による再生支援
- 中小企業再生ファンドによる再生支援
- 企業再生支援機構による再生支援
- 事業再生ADRによる再生支援
運送会社の倒産手続きの種類③|清算型の倒産手続き
ここでは、清算型の倒産手続きについて説明します。
清算型の倒産手続きには、次の3つの種類があります。
- 通常清算
- 特別清算
- 破産
通常清算
解散した会社の債権債務を整理し、その結果残った財産があれば株主に分配することを清算といいます。
負債より資産が大きい状態であれば、普通清算手続きを行います。
普通清算の場合、財産の処分や債務整理がスムーズに進めば、短期間で手続きが完了します。
特別清算
特別清算は、解散した会社の資産より負債が大きい場合に用いられる倒産手続きの一つです。
特別清算手続きでは、会社は裁判所の管理下に置かれますが、自主的に財産の処分が行えます。
特別清算を利用するためには、債権者の3分の2以上の同意が必要です。財産の処分や債務整理が順調に進めば、早くて半年程度で手続きが完了します。
破産
破産手続きは、破産法に基づいて行われる倒産手続きです。
裁判所が選任した破産管財人が中心となり、債務超過に陥った会社の全財産を清算します。会社の財産はすべての債権者に公平に分配されます。
破産手続きの開始から結了までは、総債務額や事案にもよりますが、早くて3か月程度、複雑なケースでは1年以上かかることもあります。
法人破産の手続きの流れについては、「法人破産・会社倒産手続きの流れ」をご参照ください。
運送会社の倒産手続きで留意すべき点
ここでは、運送会社の倒産手続きで留意すべき点を解説します。
ドライバーの労働問題
運送業は、ドライバーの労働時間が長時間になることが多いと言われています。適正な労働管理がなされていない場合、運送会社には多額の未払い残業代が存在している可能性があります。
廃業するにあたっては、全従業員を解雇することになりますが、その場合は未払残業代の存否やその額を調査する必要があります。
従業員の未払い賃金については、「会社が倒産・法人破産するとき従業員の給与はどうなる?未払い賃金の支払い義務は?」をご参照ください。
一人親方との契約関係
下請先の事業者に一人親方がいる場合、一人親方との契約は、業務委託契約ではなく労働契約と解される可能性があります。
労働契約と解された場合、一人親方との関係でも労働関連法規が適用されるため、契約の終了にあたって解雇予告などの必要が生じます。
一人親方については労働時間を管理していないことがほとんどであるため、未払残業代の額を把握することが困難なケースが多いと考えられます。
車両等のリース契約・賃貸借契約の処理
リース契約によって車両を調達している場合は、当該リース契約の処理に問題が生じる可能性があります。
通常、トラック車両等のリース契約の期間は3年~5年と定められているため、解約時に違約金の支払いが必要になる可能性があります。
倉庫を賃借している場合も、どのくらい契約期間が残っているか、原状回復費用としてどの程度の費用が必要になるかを検討する必要があります。
M&A時の許認可の承継
M&Aにあたっては、運送業に必要な許認可の承継が問題となります。
一般貨物自動車運送事業の場合
一般貨物自動車運送事業を事業譲渡、合併または会社分割によって承継させる場合、原則として国土交通大臣の認可が必要です。
特定貨物自動車運送事業の場合
特定貨物自動車運送事業を事業譲渡、合併または会社分割によって承継した場合は、当該承継先は許可に基づく権利義務を承継しますが、当該承継の日から30日以内にその旨を国土交通大臣に届け出なければなりません。
貨物軽自動車運送事業の場合
貨物軽自動車運送事業の承継にあたっては、原則として、承継先の法人において新たに届出を行う必要があります。
貨物軽自動車運送事業者が、事業の全部を譲渡し、会社分割により事業の全部を承継させたときは、遅滞なくその旨を国土交通大臣に届け出なければなりません。
合併による消滅の場合、業務を執行していた役員が合併の日から30日以内に、国土交通大臣にその旨の届出をしなければなりません。
自動車税等の税金
運送会社には、固定資産税等の他に、自動車取得税、自動車税及び自動車重量税等の税金が課されます。
これらの税金の発生時期および支払時期等を確認し、清算にあたってそれらの税金の支払費用を計上しておかなければなりません。
運送会社の倒産は誰に相談すればよい?
ここでは、運送会社の倒産を誰に相談すべきかについて解説します。
【前提】なるべく早い段階で相談する
なるべく早い段階で専門家に相談すれば、より多くの選択肢の中から会社の将来を検討でき、倒産を回避できる確率も高まります。
経営状態の悪化の兆しがある場合は、資金に余力があるうちに専門家に相談しましょう。
顧問税理士に相談する
中小企業の場合は、まず会社の事情に詳しい顧問税理士に相談するとよいでしょう。顧問税理士であれば、会社の経営状況や財務状況を把握しているため、話しがしやすいはずです。
弁護士に相談する
自社に顧問弁護士がいる場合は、顧問弁護士に相談しましょう。顧問弁護士がいない場合には、倒産手続きに詳しい弁護士に相談すると良いでしょう。
早い段階で弁護士に相談すれば、より多くの選択肢から最適な解決方法を検討できます。倒産を検討するには少し早いかなと思うタイミングに相談することで、倒産を回避できる可能性もあります。
まとめ
運送会社の倒産手続きでは、以下の点に注意して手続きを検討・進行しなければなりません。
- ドライバーの労働問題
- 一人親方との契約関係
- 車両等のリース契約・賃貸借契約の処理
- M&A時の許認可の承継
倒産手続きでは、税務・労務面でも複数問題が生じるため、経営者や社内の人間だけで処理するのはリスクも高く、非常に困難です。無用なトラブルを避け、円滑に手続きを進めるためには弁護士のサポートが必要です。
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