破産その他の債務整理を受任した弁護士が懲戒されるのはどのようなときか?

実は、破産事件をはじめとする債務整理の事件処理を理由として、弁護士が懲戒されるケースは少なくありません。

そこで、今回は、債務整理案件における弁護士の懲戒事例について解説をしていきます。

目次

懲戒処分の種類

弁護士の懲戒処分は、懲戒請求(誰が行っても良い)又は弁護士会の裁量により開始される、所属弁護士会や日弁連が行うものです。

種類には以下のものがあります。

  1. 戒告(弁護士に反省を求め、戒める処分)
  2. 2年以内の業務停止(弁護士業務を行うことを禁止する処分)
  3. 退会命令(弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動ができなくなる処分。弁護士資格は失わない)
  4. 除名(弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動ができなくなるうえ、3年間弁護士となる資格も失う処分)

最も多いのは、受任後の事件放置

破産事件の受任に関連して、弁護士が懲戒されるケースで最も多いのは、事件放置です。
受任してから長期間破産を申立てずに放置しておくケースです。

近年懲戒された例を以下に紹介します。

<事例1>

2013年12月に自己破産を受任したにもかかわらず2018年4月に契約解除するまで委任契約書を作成せず、事件を放置していた例が報告されています。

この件は、他の件も併せて業務停止1か月の処分となりました。

<事例2>

2015年9月に破産申立事件を受任した後、同年12月から2022年1月にかけて少なくとも7回に渡り、債権者代理人から進捗状況の説明等を求めるFAXを送信されていたにもかかわらず、2018年2月に翌週中に債務者と協議すると返答したこと及び2020年5月に債権調査票の再提出を求めたこと以外に、当該債権者代理人に対して、何らの連絡・応答もしなかったという事例です。

その上、債権者の生活の本拠が他県に移ったことを知り、破産申立の準備について協力を得られず、破産申立が難しいと考えるに至っていたにもかかわらず、2022年9月に辞任するまで約7年間代理人にとどまり続けました。

この件では、対象弁護士は戒告処分とされました。

事件放置中に債務者の財産の消失が伴う場合

事件放置に加え、事件放置中に債務者の財産が消失したことが理由で懲戒された事例も報告されています。

近年懲戒された事例としては、同一の弁護士法人が、複数回事件放置中に債務者の財産を消失した例が有名です。

以下の事例以外の件も併せて戒告処分となりました。

<事例1>

2006年に有限会社と同社代表者及び取締役の破産を受任したものの、会社の財産保全義務を怠り、また速やかに破産申立をなすべき義務を懈怠した結果、破産申立時において破産財団を構成すべき約587万円の財産を消失させました。

<事例2>

2005年12月、有限会社と同社代表者の破産を受任したものの、会社の財産保全義務を懈怠し、会社の財産の管理一切を安易に代表者に任せて債権者への偏頗弁済を許し、その結果、破産申立時までに約650万円の財産を不当に消失させました。

さらに、2008年1月7日に破産申立するまでの間、合理的理由が存在しないにもかかわらず、2年以上破産申立をせず、これにより破産管財人による偏頗弁済の否認権行使が妨げられては散財さんに損害を及ぼしたとされています。 

弁護士と依頼者が面談をしない場合

弁護士が債務者との面談を事務員に任せる、親兄弟や友人知人等との面談のみで債務者本人と面談しないといった状況下で破産その他の債務整理事件を遂行する例も散見されますが、このようなケースでも懲戒がなされています。

近年の例としては、以下のものが挙げられます。

<事例1>

破産事件ではなく任意整理の事案ですが、父からの息子のクレジット利用債務の債務整理の相談を受け、これを受任するにあたり、債務者本人との面談はおろか、電話、電子メールその他一切のやり取りをしませんでした。

債務者の父親(相談者)から債務者が海外にいる旨及びその生年月日を聞いた以外、債務者に関するなんらの事情聴取もしないまま、その代理人として債権者に受任通知を送付して交渉を行いました。

債務者への直接の意思確認も行わずに債権者との間で和解契約を締結したという事例で、戒告処分となっています。

<事例2>

2009年1月21日に受任した任意整理事件について、委任契約前及び委任契約後のいずれにおいても、債務者の対応をもっぱら事務職員に行わせた弁護士法人が、他の件も併せて業務停止1年となっています。

その他

破産(ないし債務整理)における懲戒事案としては、上記に挙げた類型が多い傾向にありますが、その他にも、近年、以下の事例で、懲戒がされているので、紹介します。

委任契約書を締結しない

2018年11月に、債務者から自己破産申立事件の依頼を受けて受任するにあたり、委任契約書を締結しなかったという事例があります。

この件は、5.2の事例と同一の弁護士によるものであり、併せて戒告処分となりました。

債権者集会等に出頭しない

5.1と同一の事案で、被懲戒者は、2019年9月ころに自己破産を申立てたものの、2020年1月17日の債権者集会及び免責新人期日に出頭しませんでした。

先にも述べたとおり、5.1とともに戒告処分となりました。

依頼者から預かった金員と自己の金員を区別せずに保管

破産申立の依頼者から預かった預り金を報酬と区別せずに管理し、事務所経費や個人的な使用に充てていたという件で、破産申立の遅延と併せて業未停止1年6月となった事例があります。

非弁提携していたケース

広告代理店業等を目的とする株式会社及び労働者派遣事業等を目的とする株式会社からなるグループが、自らの活動として、弁護士に対する債務整理の依頼者を獲得し、これを弁護士らに周旋するという組織的な一連のスキームで、債務整理案件について依頼者の集客ビジネスを行って、その対価を得ていた事例です。

弁護士法第72条の規定(非弁の禁止)に違反すると疑うに足りる相当な理由のあるものであるにもかかわらず、そのことを認識しながら、3年間にわたってその利用を継続し、その間2018年6月から2020年6月までに、合計3024件の債務整理事件を弁護士法人が受任したというケースで、業務停止6か月の処分がなされました。

まとめ

破産をはじめとする債務整理事件は、きめ細かな対応が求められる一方、速やかな処理を要求されるものでありますが、弁護士にとっては、急を要する他の案件に手間をとられて、ついつい後回しにしたり、事務員に任せきりにしたりしがちな事件類型といえます。

他方、債務整理事件は途切れることがないため、集客の窓口が確保できれば、安定収入を得られるという点で、非弁提携も起こりがちです。

そのため、自己破産をはじめとする債務整理の案件では、懲戒の事例が後を絶ちません。

解説をお読みいただければわかるとおり、破産事件における職務遂行上の問題は、複数のものが含まれる傾向も見られます(例えば、事件放置と財産消失など)。

弁護士としては、破産をはじめとする債務整理事案においては、懲戒に発展しやすい要素が含まれていることを自覚し、迅速な事件処理、依頼者との直接面談実施など、当たり前のことを確実に実施していく必要があるでしょう。

依頼する側としても、本稿の解説から、自分が依頼した弁護士の処理に疑問が生じた場合には、他の弁護士にセカンドオピニオンを求める、弁護士会に相談するなどの対処が必要になると考えられます。

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