破産手続の申立を受任した後、債務者が財産を指摘に費消するなどして、本来債権者に配当されるべき財産が減少するといった事態に見舞われることがあります。
このような場合、破産申立代理人はどのような責任を負うのでしょうか。
今回はこのような観点から、破産申立代理人に課される財産散逸防止義務について解説します。

破産申立代理人の財産散逸防止義務とは
この章では、破産申立人の法的地位と財産散逸防止義務の法的根拠について解説します。
破産申立代理人の法的地位
破産申立代理人は、申立人と委任契約を締結しているため、当然のことながら、その委任契約に基づいて依頼者の利益を図る義務を負います。
しかし、それに加え、破産手続が、債権者その他の利害関係人の利害や、債務者と債権者との間の権利関係を図ることを目的とすることから(破産法1条参照)、破産申立代理人である弁護士は、多数の債権者や利害関係人の権利関係を適切に調整し、債務者の財産を適正に処理する役割も担い、破産目的の実現に寄与するよう行動する公的責務も負っていると考えられています。
これらの義務に基づき、破産申立代理人は、債務者が偏頗弁済や財産の不当処分等の債権者の利益・平等を損なう行為をしないよう指導し、破産財団を構成すべき財産が債務者の行為により不当に減少して債権者に損害が発生しないよう財産保全に努め、可能な限り速やかに破産手続開始の申立てをして財産を損なうことなく破産管財人に引き継ぐことが求められるとされています。
これが財産散逸防止義務と呼ばれるものです。
財産散逸防止義務の法的根拠
財産散逸防止義務の法的根拠には諸説あり、統一された見解はありません。
東京地方裁判所民事第20部(破産・再生部)は、法令上明文の規定に基づく要請ではないとしつつ、破産制度の趣旨から当然に求められると解釈しています。
財産散逸防止義務違反が問題となる場面
この章では、実際に財産散逸防止義務違反が問題となる場面について解説します。
破産申立代理人受任後に債務者の財産が費消された場合
破産申立代理人が受任した後に、債務者が預金を引き出して使いこんでしまったようなケースが該当します。
このケースはさらに、以下の二つに分かれます。
- 破産申立人代理人受任後に、破産申立代理人が債務者の通帳や印鑑等を預からず、漫然と債務者に預金管理を任せていたケース
- 債務者が破産申立代理人の注意喚起に従わずに財産を流出させるケース
判例には、いずれのケースにおいても、破産申立代理人に不法行為の成立を認めているものがあります。
しかし、債務者が破産申立代理人の注意や指示に従わないことは少なくありません。②のケースは、一般的に①のケースよりも破産申立代理人の帰責性が小さいとも考えられ、同一の責任を負わせることについては疑問を呈する見解もあります。
破産申立人が適時に適切な行動をしなかったために権利行使ができなくなった場合
具体的には、破産申立が正当な理由なく遅延したことによって、回収できるはずだった売掛金債権や貸金返還請求権が時効消滅して回収できなかったようなケースが該当します。
財産散逸防止義務違反が認められた実例
財産散逸防止義務違反が認められた判例はいくつかありますが、ここでは、リーディングケースとなった東京地裁平成21年2月13日判決の事例と判決の概要を紹介します。
このケースは、破産会社から自己破産の申立を受任した破産申立代理人が、債権者に受任通知を発送した後、印鑑や通帳類を預からないまま2年間破産申立をせず、その間代表者が私的に財産を費消したり、偏頗弁済をするに任せて破産財団を構成すべき財産を減少させたりしたとして、破産申立代理人が破産管財人から496万円の損害賠償を請求されたものです。
破産申立代理人からは、債務者に対して偏頗弁済や私的な費消はしないよう注意を与えていたとの反論がなされましたが、裁判所は、財産的危機的状況にある債務者は、偏頗弁済や私的な費消を行いがちであるから注意を与えていた程度ではこのようなおそれは解消されないとして、偏頗弁済や費消行為を2年間放置したことに重大な過失があると認め、請求額全額を認容しました。
財産散逸防止義務違反に問われないようにするために
以上で見てきたことからわかるとおり、破産申立代理人は広く財産散逸防止義務違反に問われるおそれがあります。
そこで、破産管財人から、財産散逸防止義務違反を問われないようにするためには、以下のような対応をすることが必要と考えられます。
早期に預金通帳等を預かる
破産申立代理人としては、受任後早い段階で、債務者から預金通帳等を預かり、債務者が不当に預金を引き出して費消できないようにすることが、最も重要です。
早期に財産を精査する
財産散逸防止義務違反を問われた事例の中には、債務者からの申告漏れが原因となって、財産が流出したケースも含まれています。
このようなケースで財産散逸防止義務違反を問われないようにするためには、預かった通帳や財産に関する書類を早期に精査して、散逸しそうな財産がないか積極的に調査していくことが必要です。
早期に破産申立をする
財産散逸防止義務違反に問われやすいケースとして、受任後破産申立までに時間がかかり、その間に財産が逸失するという事案があります。
破産申立代理人としては、破産申立後の裁判所からの補正・追完の指示をなるべく少なくするために申立に慎重になる側面もありますが、「申立代理人弁護士に一義的に求められるのは、債務者の財産の保全を図りつつ、可及的速やかに破産申し立てを行うこと」(東京地裁平成22年10月14日判決)を忘れず、迅速な申立を心がけることが必要でしょう。
まとめ
今回は、破産申立代理人の財産散逸防止義務について解説してきました。
財産散逸防止義務違反が認められると、破産申立代理人が負う損害賠償責任は大きいものとなります。
責任を問われないようにするためには、債務者の財産の敵鉄な管理と迅速な破産申立が求められます。