破産管財人が行使する否認権とは?どんな時に行使されるか弁護士が解説

破産申立準備中の行為が問題とされ、否認権が行使されるケースは少なくありません。

しかし、否認権とは何か、どういう場合に行使されるのか、よくわからないという方もいらっしゃるでしょう。

そこで、今回は、破産手続中に行使されることがある否認権について解説します。

目次

否認権とは何か

この章では、まず否認権が行使される場面である破産や否認権を有する破産管財人の業務の基本を解説し、その上で、否認権の概要について解説します。

破産の種類

否認権について解説するにあたり、まず、破産の種類について簡単に解説します。

破産には、管財事件同時廃止という2つの方法があります。

管財事件とは、破産の原則類型で、裁判所に選任された破産管財人という弁護士が財産を清算する手続です。

管財事件は、さらに通常管財少額管財に分かれますが、手続のおおよその流れに変わりはありません。

これに対し、同時廃止は、破産者に財産がないこと、債務が増えてきた経緯に大きな問題がないことが証明できた場合に認められる破産手続を指します。

後述しますが、否認権が問題となるのは、管財事件の場合となります。

破産管財人の業務

破産管財人は、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有しています。

具体的には、以下の業務を行います。

  1.  破産者が有していた財産の換価・処分・回収
  2.  破産債権の認否(破産者に対する債権の有無及び額の確定)
  3.  債権者に対する配当
  4.  裁判所・破産債権者に対する報告

否認権は、❷の業務に基づいて破産管財人に認められる権限となります。

否認権とは

否認権の定義・目的・行使の方法やその効果を説明します。

否認権の定義

否認権とは、破産手続開始決定前になされた債権者を害する行為などの効力を否定して、破産者の財産を現状に服させる権限です。

否認権の目的

一定の価値がある破産者の財産は、本来、換価されて、各債権者の債権額に応じて公平に分配されなければなりません。

そうであるにもかかわらず、破産者が、第三者に贈与してしまったり、返済してしまったりして流出した財産を回復し、各債権者に分配できるようにするのが、否認権の目的です。

否認権行使の方法

否認権は、対象となる行為の相手方に対する任意の返還請求や、否認の訴え否認の請求又は抗弁によって行使されるとされています。

実際には、任意の返還請求による場合が一般的です。

否認権行使の効果

否認権が行使されると対象となる取引はなかったものと扱われることとなり、破産手続開始決定の時点で、その財産を破産者が所有していた状況と同様に扱うことができます。

破産管財人が否認権を行使するケース

破産管財人が否認権を行使できるケースは、大きく、詐害行為偏頗行為に分けることができます。

詐害行為とは、隠匿・処分するなどして破産者の財産を絶対的に減少させる行為です。

これに対し、偏頗行為とは、一部の債権者に対する優先的な弁済行為等、債権者の平等に反する行為です。

以下では、詐害行為と偏頗行為の内容について具体的に解説します。

詐害行為に該当する行為があるケース

詐害行為に該当する行為がある場合、破産管財人の否認権行使の対象となります。

狭義の詐害行為

狭義の詐害行為に該当するためには、以下の条件を満たすことが必要です。

  •  破産者が詐害意思(債権者を害する意思)をもって破産債権者を害する行為をしたこと
  •  その行為の当時、受益者が破産債権者を害することを知っていたこと

具体的には、購入して間もない自動車を管財人が換価する前に、それを回避しようと、時価よりもかなり低い価格で友人に譲り、その際友人も、債権者が債権回収できなくなることを認識していたようなケースが該当します。

この場合には、時期を問わずに取引の効果が否認されます。

なお、支払停止(支払い不能な状態にあることを債務者が外部に明らかにすることを指します)、または破産手続開始の申立てがあった後の詐害行為については、破産者の内心は問われず、受益者が取引当時、支払停止などがあったことや破産債権者を害することを知っていれば、否認権行使の対象となります。

ただし、破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為は、支払の停止があった後になされたものであること、または支払停止の事実を知っていたことを理由として否認することはできないとされています。

詐害的債務消滅行為

詐害的債務消滅行為とは、債務を消滅するために過大な財産処分をしたようなケースを指します。

例えば、200万円の借金を消滅させるために1000万円の自動車を渡すような行為が挙げられます。

このような行為の場合には、過大な部分(先の例でいうと800万円分)が否認権行使の対象となり、取引の効力が否定されることとなります。

無償行為またはこれと同視すべき有償行為

無償行為またはこれと同視すべき有償行為とは、以下のような行為が該当します。

  • 借金が返済できないのに、お金を誰かに贈与する行為
  • 第三者にお金を貸していたのにそれを免除する行為
  • 財産的価値がある物の所有権を放棄したり不当な廉価で誰かに譲渡したりするような行為

上記のような行為は、利益を得た相手方は対価を負担していません。そのため、その行為を否定しても、相手方は受け取るべきでなかった利益を返すだけであり、損失を受けることはありません。

そのため、無償行為やこれと同視すべき有償行為を否認する場合には、受益者の内心(債権者を害することを知っていたか)は問われません。

相当な対価を得てした財産の処分行為

財産処分にあたり、相当な対価を得ていた場合であっても、以下の条件を満たす場合には、詐害行為となり、否認権行使の対象となります。

  •  不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるものであること
  •  破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと
  •  相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと

典型的な例は、時価1500万円の不動産を1500万円で売却する行為が挙げられます。正当な対価を受けているので、詐害行為に該当しないようにも思えますが、不動産が金銭に代わること自体、隠匿がしやすくなるので、一定の場合、否認の対象とされたのです。

なお、破産者が親族など一定の関係にある人に対して不動産の金銭の換価等をしたときには、相手方は、破産者が財産の隠匿等の意思があったことを知っていたと推認されます。

偏頗行為に該当する行為があるケース

偏頗行為に該当する行為がある場合も、破産管財人の否認権行使の対象となります。

偏頗行為該当の条件

偏波行為として否認の対象となるのは、以下の条件を満たすものです。

  •  特定の債権者への返済等であること
  •  支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の行為であること
  •  債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたこと

破産法においては、債務者が支払不能状態(支払い能力がないために弁済期にある債務を継続的に弁済できない状態)になった場合には、複数の債権者を平等に扱わなければならないとされています。

弁護士に自己破産の依頼をして各債権者に受任通知が発送されると支払停止に該当し、支払不能になった者と推定されます。

そのため、受任通知発送後に特定の債権者に対して支払いをすると偏頗行為として否認権行使の対象となります。

なお、日用品の購入は、同時交換取引に該当するとして、原則として否認の対象にはなりません。

支払不能になる前の行為が偏頗行為に該当するケース

支払不能になる前30日以内になされた行為でも、破産者磯の行為をする義務がない場合や、当該時期に破産者がその行為をする義務がない場合については、他の破産債権者を害すると知らなかったときを除き、偏頗行為に該当するとされています。

具体的には、支払期限が到来していない借金を返すような行為が該当します。

まとめ

今回は、破産管財人により否認権が行使されるのはどのような場合かについて解説しました。

軽い気持ちでやった行為が否認権行使の対象となり、取引がなかったこととされてしまいます。 相手方にも迷惑をかけることになるので、特に破産を依頼した弁護士が受任通知を発送した後は、財産の処分などは控えるようにしましょう。

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