倒産状態になった医療機関は、破産などの債務整理を行う必要があります。
一般的な個人や法人の破産であれば、必要書類をそろえて破産の申立をし、破産手続開始決定後は、破産管財人に財産管理を任せることにより、概ねスムーズに破産手続が進行し、免責許可を得て終了します。
しかし、医療機関の場合には、患者という存在があるほか、法的に課される義務などがあるため、破産する場合には、一般の個人や法人とは異なる面で配慮しなければならないことがいくつかあります。
本稿では、以下で、それらの点について解説していきます。

医療機関の倒産が2年連続40件越え
2023年の医療機関(病院、診療所、歯科医院)の倒産件数は41件で、2年連続40件を超えました。
2000年以降では、2009年(52件)、2007年(48件)、2019年(45件)に続く高水準で、コロナ支援策の効果で大幅減少した2020年(27件)の後、2021年から再び増加に転じ、高い件数で推移しています。
業態別では、以下のとおりとなっています。
業態別 | 件数 | |
病院 | 医師が公衆または特定多数人のために医業を行う場所で、20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの | 3件 |
診療所 | 19人以下の患者を入院させるための施設を有するものや入院施設がないもの | 23件 |
歯科医院 | 歯科医師が公衆または特定多数人のために医業を行う場所で、20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの | 15件 |
医療機関で破産するのは誰か?
医療機関の破産とは、医療機関の経営者が破産することを指します。
すなわち、医療機関の経営者が個人の場合は、その個人が破産の手続を採ります。
医療機関の経営者が医療法人の場合には、その医療法人が破産することになります。
以下に解説する医療機関の破産の注意点は、個人の破産の場合も医療法人の破産の場合も、ほとんど変わりがありません。
医療機関の破産の注意点
医療機関の破産において特に注意すべき点は、以下のとおりです。
- 患者の受け入れ先をどうするか
- 事業停止日をいつにするか
- 従業員の取り扱いをどうするか
- 診療録の管理方法をどうするか
- 行政への届出のタイミングをいつにするか
詳しく解説します。
①患者の受け入れ先をどうするか
医療機関の破産で、最も注意しなければならないのは、患者の受け入れ先です。
医療機関は、入院患者や通院患者の生命や健康を預かっています。
そのため、医療機関の経営者や、申立代理人の弁護士が、破産を申し立てた裁判所や行政機関、地域の医師会などと協議をしながら、患者に破産の影響が及ばないように対応していかなければなりません。
具体的に検討しなければならないのは以下の2点です。
- 入院患者、通院患者の転院・転医の状況、受け入れ先が確保されているかどうか
- 転院・転医に必要な期間や費用、転院・転医までの間の診療が継続できるだけの医療体制が破産対象の医療機関に整っているか
入院患者がいるにもかかわらず、破産対象の医療機関の医療体制に不備がある場合や、患者の生命身体に危険が生じる可能性がある場合には、都道府県の環境保健部などの行政機関や所轄の保健所、地域医師会と協議する必要があります。
入院患者はいないものの継続的な治療を受けている通院患者がいる場合には、患者の状況を調査して、必要に応じて行政機関等の協力を得なければなりません。
②事業停止日をいつにするか
事業停止日をいつにするかについて、慎重な検討が必要です。
例えば、以下のような場合、適切な医療を行うことは困難です。
- 既に空きベッドが多数ある場合
- 診療報酬債権が資金繰りのために債権譲渡されている場合
- 医療機関の不動産や院内の医療機器等について滞納処分や差押がされている場合 など
医療体制に上記のような大きな不備がある状況下で診療を継続すれば、患者に被害がもたらされるリスクがあります。
そのため、上記のようなケースでは、速やかに事業を停止し、入通院患者を速やかに転院・転医させることが求められます。
③従業員の取り扱いをどうするか
通常、法人破産をする場合には、原則として、従業員は全員解雇しなければなりません。破産申立前に、解雇をしておくのが一般的です。
破産する法人の財産管理は、破産手続開始決定後、裁判所が選任した破産管財人が行うことになります。
しかし、医療機関の破産においては、業務が特殊であるため、破産管財人だけで財産管理業務を行うことは困難です。そのため、例外的に、看護師や事務担当職員の代表各1名ほどについて例外的に雇用を継続し、破産管財人の財産管理業務の補助をさせることになります。
④診療録の管理方法をどうするか
診療録の管理方法も決めておかなければなりません。
カルテは、医師法で、診療終了の日から5年間保存する義務があります。
以下の書類については、3年間の保存義務があります。
- 病院日誌
- 各科の診療日誌
- 処方箋
- 手術記録
- 看護記録
- 検査所見記録
- エックス線写真
- 患者数を明らかにする帳簿
- 入院診療計画書
医療機関は、たとえ破産したとしても、上記の診療記録等の保存義務を負います。
病院等の施設を他の医療法人や個人が買い受けて、そのまま施設を使い続ける場合には、診療記録等をそのまま引き継いでもらいます。
施設を買い受けてくれる法人や個人がいない場合には、破産財団(破産者の財産または相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの)の中から費用を出して保管する必要があります。
⑤行政への届出のタイミングをいつにするか
医療機関は、原則として事業停止後10日以内に所轄の保健所に廃止届出書を提出しなければなりません。
しかし、医療機関の病院施設について譲渡が予定されている場合には、廃止届出書ではなく、休止届出書を提出しなければなりません。理由は以下のとおりです。
通常、廃止届出書が提出されると、その医療機関のある地域の基準病床数に空枠が生じることとなり、新たに保健所に申請があった医療機関に対して、開設許可や病床数増加許可が発出されることになります。
破産医療機関の医療施設の買受人に対する開設許可や増床許可が出される前に、廃止届出書を提出してしまうと、買受人とは別の医療機関に新たな開設許可や病床数増加許可が出されてしまい、いざ回請け人が開設許可等を求めても、許可が下りず、施設の譲渡ができなくなってしまうリスクがあるのです。
廃止届出書ではなく休止届出書が提出された場合には、基準病床数の空枠は生じません。
ですので、病院施設の譲渡が予定されているときは、保健所に対して、まず休止届出書を提出して、買受人に対する施設の譲渡を完了させ、買受人に開設許可や病床数増加許可が下りた後で、廃止届出書を提出するようにしましょう。
このような段取りを踏めば、上記のようなリスクは生じません。
さいごに|医療機関の破産は弁護士の相談を!!
医療機関が破産する場合には、以下の点に留意しなければならないことがお分かりいただけたと思います。
- 患者の転院・転医の状況確認、受け入れ先の確保
- すでに医療体制が不十分になっている場合には早急に事業停止すべきこと
- 破産管財人を補助するために一部の職員の雇用を継続すべきこと
- 施設の買受人がいる場合には診療記録を引き継ぎ、そうでない場合には破産財団から費用を出して法定期間診療記録を保管すべきこと
- 施設の買受が予定されている場合には、事業廃止届出書ではなく休止届出書を保健所に提出して、スムーズに買受人が開設許可や病床数増加許可を得られるようにすべきこと
このように特殊な対応が必要な医療機関の破産は、弁護士に依頼して行うことが賢明です。
当事務所では、医療機関の破産にも対応できる弁護士が揃っております。
経営難により事業の継続に悩んでいる医療機関経営者の方は、是非当事務所にご相談ください。