「医薬品」の該当性の判断基準を示した上で、クエン酸等を主成分とする製品を高血圧等によく効くと演述、宣伝して販売した場合、当該製品が「医薬品」に該当するとされた事例(最判昭和57年9月28日)

(原審:東京高判昭和55年11月26日)
(原々審:東京地判昭和55年3月13日)

※本件と同様に、医薬品の該当性を判断するにあたり販売の際の演述が斟酌された事例

目次

事案の概要

ある販売業者が、その業務に関し、無許可で、さつま芋から抽出したクエン酸またはクエン酸ナトリウムを主成分とする白色粉末または錠剤である「つかれず」及び「つかれず粒」という製品(以下「つかれず等」といいます。)を、「高血圧が治る」、「低血圧、貧血、胃下垂が治る」などと薬効を標榜して多数回にわたって販売したことから、「医薬品」の無許可販売罪(薬事法84条5号(現薬機法84条9号)により起訴された事案です。

第一審及び原審において、販売業者側から、薬事法(現薬機法)2条1項2号の「医薬品」とは、その物の成分、本質から客観的に薬としての効能が認められるものだけであり、さつま芋から抽出したクエン酸をそのまま使用したつかれず等は「医薬品」には当たらないとの主張がされました。しかし、第一審判決及び原判決では、販売業者の主張は認められず、つかれず等が医薬品に該当するとの判断となりました。

そこで販売業者側は憲法21条等に違反することなどを理由に上告しましたが、最高裁は、販売業者側の主張を認めず、つかれず等が「医薬品」に該当すると判断した原判決が相当であることを認めました。

解説

第一審判決及び原判決

販売業者側の「その物の成分、本筆から客観的に薬としての効能が認められるものだけが「医薬品」に該当する」との主張に対し、以下の理由から、つかれず等が「医薬品」に該当するとの判断をしています。

1 薬事法(現薬機法)の立法趣旨

人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物について何らの法的規制をしないときは、医学的知識に乏しい一般の国民多数に正しい医療の機会を失わせるおそれがあり、その危険を未然に防止すること

2 判断基準

何らかの薬理作用を有する物についてはもとより、その物が薬理作用条効果のない物であっても、薬効があると標榜(演述・宣伝)する場合を含めて、客観的にそれが人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることを目的としていると認められる限り、「医薬品」にあたる

3 結論

つかれず等は、その成分自体から「医薬品」とは認められないが、その形状、薬効の標榜などを総合判断すると、「医薬品」にあたる。

本判決

本判決においては、販売業者側の憲法21条1項違反等の憲法違反の主張を退けた上で、以下のように判示して、つかれず等が「医薬品」に該当するとの判断を示しました。

1 「医薬品」に該当するかどうかの判断基準

上記の薬事法(現薬機法)の立法趣旨から、薬事法(現薬機法)2条1項2号の「医薬品」とは、その物の
①成分
②形状
③名称
④その物に表示された使用目的・効能効果・用法用量
⑤販売方法
⑥その際の演述・宣伝など
を総合して、
その物が通常人の理解において「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている」と認められる物
をいい、これが客観的に薬理作用を有するものであるか否かを問わない。

2 つかれず等が医薬品に該当するかどうかの判断

①成分
クエン酸又はクエン酸ナトリウム
②形状
白色粉末(八〇グラムずつをビニール袋に入れたもの)又は錠剤(三〇〇粒入りのビニール袋をさらに紙箱に入れたもの)
③名称
「つかれず」または「つかれず粒」

→つかれず等の名称、形状が一般の医薬品に類似している


④使用目的・効能効果、⑤販売方法、⑥その際の演述・宣伝など
高血圧、糖尿病、低血圧、貧血、リユウマチ等に良く効く旨その効能効果を演述・宣伝して販売した

以上の事実から、つかれず等が通常人の理解において「人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物」であると認められ、「医薬品」にあたる。

また、本判決では、たとえつかれず等の主成分が、一般に食品として通用しているレモン酢や梅酢のそれと同一であって、人体に対し有益無害なものであるとしても、上記の判断基準から、つかれず等が「医薬品」に該当することを認めています。

3 本判決の意義

本判決は、薬機法2条1項2号の「医薬品」の該当性について、製品自体の本質の加えて、その際の演述・宣伝などを考慮することを明らかにしたものです。また、上記の「医薬品」に該当するかどうかの判断にあたっては、その物が通常人の理解において「人または動物の疾病の診断等に使用されることが目的とされている」か否かを判断しており、客観的に薬理作用を有するかどうかは問わず、その物の主成分がたとえ一般的に食品として通用しているものと同一であり、物の人体に対し有益無害な物であるとしても「医薬品」に該当すると判断したものです。

本判決には補足意見及び反対意見が付されていますが、結論を左右したのは、つかれずの販売に際して、酢の薬効を過度に強調したと見るべきかどうか、演述・宣伝された効能効果に対する国民の判断を不当に惑わすおそれがあるかどうか、という点にあるのではないかとされています(最高裁判例解説(刑事編)昭和57年・295頁)。

演述・宣伝の内容等により、成分上は食品として流通するものであっても薬機法上の「医薬品」に該当することがありうることを示した先例として、重要な意義を有するものと思われます。

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