民法では、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」と定められています。
つまり、貸主は賃貸借契約に基づき、借主が賃貸目的物を使用収益できるように修繕しなければならないという義務を負い、一方借主は、貸主による修繕を拒むことができないとされています。
ここでは、修繕の対象となる物的範囲やどのような場合に修繕が必要となるかなどを解説していきます。

貸主の修繕義務の物的範囲
まず、貸主は、原則として、建物の屋根、壁、柱などの躯体部分と、設備などの借主に契約で提供しているすべてのものについて、修繕義務を負っています。例えば、居住用のマンションの場合は、共用部の照明、郵便ポストなども含まれます。ただし、居住するためのすべてのものに対して適用されるわけではなく、居住スペースの照明器具やカーテン、消耗品などは対象となりません。また、使用収益に支障があるかどうかや、その金額が判断の基準になります。
借主の故意や過失が原因の場合の修繕義務はどうなる
借主の故意や過失によって目的物の修繕が必要になった場合、公平の観点から貸主は修繕義務を負わないことになります。
貸主が修繕義務を果たさない場合はどうなるか
貸主が修繕義務を果たさない場合、まず、賃料については使用収益不能部分の割合に応じて当然に減額されることになります(611条1項)。次に、借主の修繕権限についての規定が新設されました。すなわち、➀借主が貸主に対して修繕要求し、または貸主が修繕の必要性を認識した場合で相当期間貸主が修繕しないときや、②急迫の事情がある場合には、借主が他人の所有物である賃貸目的物をを修繕できることになりました(607条の2)。
他には、修繕義務を果たしてもらえなかったことを理由に、賃貸借契約を解除することも可能です。なお、解除については借主に帰責事由がある場合でもすることができます。
借主が修繕を拒否できるのか
居住用マンションなどで、ある借主の居住スペースに修繕箇所が見つかり、調査の結果、貸主が修繕することになったとき、他の借主にも同じような修繕の必要があるとされる場合があります。
貸主には修繕義務があるため修繕を行う必要がありますが、借主がその修繕を拒否した場合はどうなるのでしょうか。
本来であれば、修繕することは借主にとってもメリットになるものですが、居住スペースに立ち入って欲しくないとか、実は借主の過失で他に修繕の必要が生じてしまったといった事実を知られたくないなどの理由で、修繕の拒否をする場合があります。しかし、その修繕を放置した場合、建物の価値が減少し、貸主が損失を被る場合があります。そのため、民法では、保存行為受忍義務として、修繕など保存に必要な行為をしようとするときは、借主はこれを拒むことができないとされています(606条2項)。
借主が貸主による修繕を拒否した場合には、保存行為受忍義務違反として、契約を解除される可能性があります。
上記のとおり借主は保存行為受忍義務を負う以上、原則として貸主による修繕を拒否できないと考えるべきでしょう。
まとめ
賃貸物の修繕が必要な場合、貸主は修繕をしなければならず、借主としても貸主に対して修繕要求することができます。また、借主は、貸主が行う修繕を拒むことはできないということになります。
ただし、修繕義務の有無や範囲については個別の事情により判断することになるので、詳細については弁護士に相談することをお勧めいたします。