借主に対して賃貸借契約が解除できるケースや手順について解説

貸主(オーナー)が借主(テナント事業者等)に対して、建物賃貸借契約の解除を求める場合に、どのような手順で行えばよいでしょうか?
この記事では、賃貸借契約の解除と解約の違い、借主に対して賃貸借契約が解除できるケースと手順等について解説します。

目次

賃貸借契約の解除と解約の違いは?

賃貸借契約の解除と似た言葉に解約があり、どちらも契約関係を解消する意味がありますが、効果に違いがあります。

解除は、当事者一方の意思表示によって契約の効力が最初から存在しなかったのと同じ状態にすることです。

解約は、契約の効力を将来に向かってのみ消滅させることです。
例えば賃貸借契約のような継続的な契約関係の場合、効力を最初から消滅させるのは不可能なので、将来に向かってのみ消滅させます。

今回の記事では、賃貸借契約の解除について以下で述べます。

貸主が賃貸借契約の解除を検討するケースは?

貸主が賃貸借契約の解除を検討するケースとしては、賃料の滞納、無断増改築、用法遵守義務違反等の債務不履行があった場合のほか、賃借権の無断譲渡や建物の無断転貸などの賃貸借契約特有の解除事由があった場合などが考えられます。

もっとも、これらの事情が認められる場合でも、貸主と借主の信頼関係を破壊しない程度の者である場合には、貸主による解除は制限されます。

以下、詳しく見てみましょう。

借主が賃料を滞納している場合

借主が賃料を滞納している場合、貸主は賃貸借契約を解除できるケースがあります。

どのぐらいの期間家賃を滞納すれば、信頼関係が破壊したと判断されるか明確な基準はありません。

目安としては3か月程度の家賃滞納があれば、信頼関係が破壊していると判断される可能性が高いです。

貸主に無断で賃借権を譲渡・転貸している場合

貸主に無断で賃借権を譲渡・転貸している場合、貸主は賃貸借契約を解除できるケースがあります。

賃借権の譲渡とは、借主が第三者に賃借権を譲渡すること、賃借権の転貸は、いわゆる又貸しを意味します。

民法では、これら2つを貸主の承諾を得ることなく行った場合に契約の解除ができると定めています。
そのためには、賃借権の譲受人や転借人が建物の使用・収益を開始していること②譲受人や転借人が借主から独立して使用・収益を行っていることの2点を要します。

例えば、借主が結婚をして配偶者と同居したり、親と同居をしたりしている場合は、借主自身も居住しているので、他人に使用収益させたとはいえず転貸にはなりません。

無断譲渡・転貸の場合でも、貸主と借主との間の信頼関係の破壊の有無が重要な判断基準となり、信頼関係が破壊されていないと判断された場合は、解除権が発生しません。

例えば、個人事業主だった借主が事業を法人化し、その法人が建物の使用を継続したため、実際に建物を使用・収益する主体は個人から法人に変わっているものの、事業内容に実質的に変更がなく、建物の使用状況も同一である場合は、信頼関係は破壊されていないと判断される場合があります。

借主が無断で増改築している場合

借主が無断で増改築している場合、貸主は賃貸借契約を解除できるケースがあります。

借主は貸主に対して目的物の用法を遵守して使用する義務を負っており、これに違反すると解除原因となる場合があります。

例えば、建物賃貸借契約の目的建物の増改築を無断で行ったら、同契約において建物の増改築という使用方法は通常予定されていないことから、用法遵守義務違反となることがあります。

ただし、無断増改築が行われた場合もそれだけで解除原因となるわけではなく、契約の経緯や増改築の程度、貸主に及ぼす影響等を考慮して、貸主と借主の信頼関係が破壊されたと認められる場合に解除原因となります。

借主に用法遵守義務違反がある場合

貸主に用法遵守義務違反がある場合、貸主は賃貸借契約を解除できるケースがあります。

借主は貸主に対して用法遵守義務を負うため、無断増改築以外に契約に定められた用法や目的物の性質から想定される用法を守らなかった場合も解除原因になります。

判例では、住居使用目的に限定されていた借家を借主が貸主に無断で民泊利用をしていたため、賃貸借契約の解約を認めた事例があります(平成31年 4月25日東京地裁判決)。

借主が近隣住民に対して迷惑行為をしている場合

借主が近隣住民に対して迷惑行為をしている場合、貸主は賃貸借契約を解除できるケースがあります。

貸主が再三にわたって借主に注意をしたものの、それを無視して近隣住民に迷惑行為を繰り返していた場合は、貸主は用法遵守義務違反を理由に賃貸借契約の解除ができる場合があります。

例えば、騒音による近隣住民への迷惑行為であれば、日常生活を送るにあたって受忍限度を超えるかどうかで判断され、生活する上でやむを得ない生活音であれば対象になりません。

借主に対して賃貸借契約を解除する際の手順は?

貸主が借主に対して賃貸借契約を解除する場合、どのような手順を踏めばいいか、以下で解説します。

契約内容を確認する

貸主は、借主とどのような賃貸借契約を締結しているか、契約内容を確認します。

借主が賃料滞納をしているなら、契約書の解除条項で定められている滞納期間を超える滞納が発生しているかどうか確認しましょう。賃貸借契約書の解除条項で定められている滞納期間を超える滞納が発生していない場合、他に信頼関係を破壊する事情がない限り、原則として賃料滞納を理由とする契約解除ができません。

用法遵守義務違反がある場合は、特約の有無を確認しましょう。

用法遵守義務違反は、特約がなくても、債務不履行として契約解除事由となりますが、契約書に解除事由として明記されていれば、信頼関係破壊に関する貸主側の立証が事実上緩和される場合があります。

例えば、アパートの住民の一人が他の居住者に対して騒音等の迷惑行為をしていた場合、契約書の特約で他人に迷惑を及ぼす行為をしたときは契約を解除できると定めていたら、貸主は契約解除ができると判例で定めています(昭和54年10月3日東京地裁判決)。

信頼関係破壊・背信性の有無を確認する

信頼関係破壊・背信性の有無を確認しましょう。

賃貸借契約書の解除条項で定められた滞納期間を超える滞納が発生している場合でも、滞納状況や滞納額、滞納に至った経緯などを総合的に考慮して、信頼関係が破壊されていないと考えられる事情がある場合には、賃貸借契約を解除できません。

貸主の承諾がない賃借権の譲渡・転貸のすべてが、無効な譲渡・転貸となるわけではありません。借主側が、貸主に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があることを主張・立証した場合は、解除権が発生しないことがあります。

例えば、貸主の許可を得ないで賃貸借の転貸が行われたため、貸主が賃貸借契約を解除したことで争われた裁判があります。最高裁は、転貸部分が家屋のごく一部であったことや貸主が多額の権利金を徴収していたことを理由に、借主の背信性は認められないとして賃貸借契約の解除は無効と判決を下しました(昭和36年4月28日最高裁判決)。

このように賃貸借契約の解除事由がある場合でも、信頼関係破壊・背信性の有無によっては、賃貸借契約の解除が認められないケースがあります。

借主に対し義務違反を解消するように催告する

借主の行為が賃貸借契約の義務違反に該当する場合は、義務違反を解消するように催告をしましょう。

催告とは、借主に対して、相当期間を設けて義務違反を解消するに促すことです。一般的に相当期間とは、1週間から10日、あるいは2週間程度が目安とされています。

相当期間が経っても解消されない場合に解除通知を送る

貸主が借主に対し、相当期間を設けて催告したにもかかわらず義務違反が解消されない場合、賃貸借契約を解除する意思表示をしましょう。

意思表示の方法に決まりはないので、口頭でもできますが、記録が残らないデメリットがありますので、文書で行ったほうがよいです。その場合は、配達証明付きの内容証明郵便で送りましょう。

実務上は、先に述べた催告と契約解除の通知を同時に行うのが一般的です。

以下の文書は、長期間にわたって賃料の支払いがないため、未払いの賃料を支払うように催告し、期限内に支払いがない場合は賃貸借契約を解除する旨、意思表示をした通知書の例です。参考にしてください。

契約違反や信頼関係破壊がない場合はどうすればいい?

賃貸借契約を解除したいけれど、借主に契約違反や信頼関係破壊がない場合は、合意解約する方法があります。

合意解約とは、貸主と借主が当事者間で話し合いをして合意し、賃貸借契約を将来に向けて解約することです。

合意解約は、貸主と借主が話し合って納得し合意するものであるため、比較的スムーズに事を進められます。

どのような内容で賃貸借契約の解約に合意したか、トラブルを避けるためにも書面にしてお互いが保管しておいたほうがよいでしょう。

まとめ

不動産の賃貸借契約の解除原因にはさまざまなものがあります。

その判断は、個別の事情により異なりますので、当事者同士のやり取りをする前にまずは弁護士に相談してください。

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